新・問題児と人の神が異世界から来るそうデスヨ   作:行くよ!!!!

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第三章・オープニングテーマ《桜》歌:FIRE DOG 69



よろしくお願いします。
試験は無事終わりました!!
合格だったので、これで心置きなく、書いていけそう!!

頑張ります!!


第六話「魔王の宴、階層支配者の存在意義」

 東と北の境界壁──────北側の都市。

 

 

 あどけなさが残る少女、対、群生を指揮する男。

 一眼見れば圧倒的な経験値の格差のある対戦カード。

 しかし意外にも、互角以上の攻防を繰り返しており、それはひとえに少女の見かけによらぬ力量によるものが大きいだろう。

 とはいえ、時折、いやほとんどのシーンで見せる少女への愛?、執着?が、この戦闘を変な方向に進ませてしまっており、膠着状態になってしまっている原因の一つだった。

 これには見ている皆も口をヒクヒクさせているしかなかった。が、突如、巻き起こった温冷の嵐に悲鳴が渦巻き、嵐の前にかき消えていく。

 極寒の吹雪が蒼炎と混ざり合い、その余波で生まれた衝撃波は街を軒並み瓦解させ、言わずも下層の人々は地に這いつくばることしかできず、知性の薄い避けようともしない巨龍の眷属達ではそれを受けてただで済むはずもなかった。

 巨亀の甲羅がヒビが走った途端、弾け飛び、剛腕な顎を備えた口からは血飛沫が舞い、大蛇は胴体の半分が衝撃波の波に持って行かれ、 噴水のように血を廃都に撒き散らす。

 三頭龍の眷属達ですら、獣の醜い悲鳴を上げて所々より出血させ、 体全体から嫌な軋む音を鳴らしている。この二人の前では、並大抵の実力では無いに等しいものだろう。

 蒼炎の担い手の少女は隠れ、時折、蒼炎の火炎放射を浴びせては逃げ隠れる、ヒット&アウェイを行使している。

 そうすることで変態は少女を探すためにその場から動けず、足止め?ができる。彼女がその場に残って機を伺っていると勘違いしているから、変態は意識せずに動けない。その間に少女は北の下層を蹂躙している三頭龍の眷属、巨龍の眷属を掃討する。

 馬鹿が相手で楽だと、そう少女は呟くと同時にため息が零れる。その表情は少し遠くを見て、遥か過去に渡る記憶を遡っているようだ。

 

「キモい............キモい」

 

 

 

 

####

 

 

 

 

 

 ──────ポロン。

 

 夜が更けてきた時間帯、耀は新しい宿舎のベッドで気持ちいい夜風を感じながら、少し肌寒くも気分良く寝ていた。

 そんな時に唐突に響いてきた、心地よい響きの音色。

 耀は穏やかな琴線の弾く音を聞いて、少し酔いしれようと耳を澄ました瞬間、五感が何かを知らせて来た──────この感じは、やばい、

 

 

 ────何か来る!?

『フギャア?!』(お嬢?!)

 

 耀は側で寝ていた三毛猫を抱えて外の様子を伺おうと窓の戸に手をかけた途端、耀の世界は白明に染まり、雷鳴が轟くと共にその場、宿舎が一筋の閃光で爆発し刹那に吹き飛んだ。

 天より降りし雷光は、宿舎を木っ端微塵にし、衝撃波の影響で粉塵を巻き上げ、宿舎を貫通して地盤を豪快にぶち抜いた。

 

 

「わ、きゃぁあああ...............ッ!」

『ギャアアアア──────!』

 

 稲妻が迸り、爆風を生み出した天来の雷光、その爆風は空中に投げ出された耀と三毛猫を容赦無く吹き飛ばし、〝アンダーウッドの断崖”絶壁にまで盛大に旅行して転がり落ちる。危うく大瀑布がある崖の闇に飲み込まれるところだった。

 すぐさま耀は身を翻して姿勢を正し、現状の把握を開始する。その上で一番重要な情報は、あの時に響いた琴線の音色だろう。

 

(敵の襲撃と昨日奪ったはずの竪琴の音色──────ま、まさか奪い返されたの!?)

 

 耀は苦い顔をして舌打ちし、睡魔が理不尽に吹き飛ばされたせいでのストレスも今はしまっておき、まずは〝ノーネーム〞のメンバーと合流しようと立ち上がる。

 だがそんな彼女を邪魔するように、〝アンダーウッド〞へ不規則に降り注ぐ一筋の雷光。それはまさに天災、カミナリと呼ばれるだけの破壊力を持ち、容赦無く大樹の根を稲妻の槍で焼き払っては、落盤を引き起こす。

 

「三毛猫、しっかり掴まっててッ!」

『ウワアアアアアア!?』

 

 耀は三毛猫を片手に抱えながら、瀑布のように降り注ぐ瓦礫と落石を巧みにステップし、縫うように避けていく。圧倒的な五感が彼女を支え、これまでの出会いは彼女をしっかりと強くしていた。この光景はまさにその証拠だろう。元がただの人間で、人間にできる範囲を超えているのは間違いないのだから。

 そんな中、耀は視界の隅に逃げ遅れている樹霊の少女が映った。

 

「きゃあ!?」

「危ない!」

 

 風を舞い上がらせて飛翔し、落盤の中から樹霊の少女の手を取る。

 燃え落ちる大樹の根を掻い潜った耀は、自分の救った相手を見てやや驚いた。

 

「大丈夫.........って、あれ ?あなたは確か、収穫祭の受付に居た子?」

「は、はい。キリノと申します。貴女はノーネームの......?」

「うん。お互いにきっちり自己紹介したいけど、それは後にしよう」

「わ、わかりました」

 

 キリノと名乗った樹霊の少女は、生花の髪飾りを揺らしながら礼儀正しく頭を下げる。

 耀はキリノを抱きしめ、もう片方に三毛猫を抱えながら残骸を避け飛翔。

 その間も雷鳴は轟々と〝アンダーウッド〞を揺らすように鳴り響いている。

 耀は少しでも情報を集めるために、己の聴覚を最大にまで高めて周囲を見回す。

 するとここから少し離れた場所に見える見張り代から気になる会話が耳に入った。

 

「た、大変だ............巨、巨人族もこっちに向かってきているぞッ!!」

「な、なんだと!?」

「ええい、こんな非常事態にわらわらと...............ッ!」

 

 その途端、巨人族の襲撃を知らせる警鐘が鳴り響いた。

 阿鼻叫喚が渦巻く中、追い打ちをかけるような凶報、耀は今日を人生最大の厄日だと心の中で呪った。友の大切な物を壊し、自分のせいでコミュニティに迷惑をかけ、唯一の希望の再召喚も猫耳ってなんだよッ!、の後にこれだ。勘弁してほしい。

 そんな心情が少し移ってしまったのか、キリノも腕の中で顔を真っ青にして息を飲んだ。

 

「襲撃を知らせ鐘の音...... そんな、巨人族まで現れるなんて........! 」

 

 絶望的な声を漏らす少女、しかしそれは本来おかしいものだろう。

 今この土地には今だ〝階層支配者にはなってはいないが、その代行者ともいえる存在、魔王から街とコミュニティを守れる〝はず〞の存在 がいるのだ。絶望するにはまだ早いはずだ。だが、それでも彼女が絶望してしまうのはそれがそうではない、〝はず〞ではないからなのは、もう明白だろう。先の襲撃は魔王達にとっては前哨戦に過ぎなかった、なのに〝アンダーウッド〞は大打撃を受けた。不安になるのも無理はない。

 しかし、耀が疑問に思ったのは別のところにあった。

 

(.........巨人族も?.........なら他にも襲撃者が)

 

 その違和感に眉を潜めて疑問を抱く。

 その直後だったーーーーー空から漆黒に染まりし羊皮紙が雨のように舞い落ちてきたのは。

 耀の眼前に瞬き舞う黒きレター、それは災厄を運びし者の召誕を意味するものであり、絶望へのカウントダウンを開始する合図ーーーそ う、それは天災の産声だったのだ。それを手にとった耀は二度、驚愕することになる。

 

「く、黒い封書の〝契約書類〞 まさか.........!」

 

 抱きかかえていたキリノと三毛猫を一度地に降ろし、耀は緊張した面持ちで封を切った。

 

 

######

 

『ギフトゲーム名〝SUN SYNCHRONOUS ORBIT in VAMPIRE KING〞

 

・プレイヤー一覧

 ・獣の帯に巻かれた全ての生命体。

 ※但し獣の帯が消失した場合、無期限でゲームを中断とする。

・プレイヤー側敗北条件

 ・なし(死亡も敗北と認めず)

・プレイヤー側禁止事項

 ・なし

・プレイヤー側ペナルティ条項 ・ゲームマスターと交戦した全てのプレイヤーは時間制限を設ける。

 ・時間制限は十日毎にリセットされ繰り返される。

 ・ペナルティは〝串刺し刑〞 〝磔刑〞 〝焚刑〞からランダム に選出。

 ・解除方法はゲームクリア及び中断された際にのみ適用。

  ※プレイヤーの死亡は解除条件に含まず、永続的にペナルティが課せられる。

・ホストマスター側 勝利条件

 ・なし

・プレイヤー側 勝利条件

 一、ゲームマスター・〝魔王ドラキュラ〞のた殺害。

 二、ゲームマスター・〝レティシア=ドラクレア〞の殺害。

 三、砕かれた星空を集め、獣の帯を導に、鎖に繋がれた革命主導 者の心臓を撃て。

宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフ トゲームを開催します。〝 〞印』

 

 

 

 

 

 

######

 

 

 

「な............なに、このゲーム.........それにレティシアって......!?」

 

 文面に記された内容はデタラメなものだった。

 箱庭で二ヶ月過ごした耀だったが、こんな内容は初めてだった。

 ゲームマスターの“勝利条件が無い”どころか、プレイヤー側の死すらゲームが終わる要因にはなり得ないのだ。

 しかし、この世界においてではそれが当然なのだろう、魔王はその“特異性”が売りなのだから普通と一緒では意味がない。

 だが、それでもだ、特にペナルティ条項に記述された凶悪なルール。今まで耀が目にしたギフトゲームとは明らかに異質な存在感と殺意が漂っている。さすがは天災の魔王なのか。感心と恐怖が喉の手前で飲み込めずに戸惑う耀、その隅でーーー。

 

「きゃああっ!」

「キリノ!?.........ッこいつは!」

 

 なにを呑気に戦場で立ち止まっていたのか、しまったと後悔するが時すでに遅い。キリノは何処からともなく伸びてきた気味の悪い触手に絡め取られて連れ去られていた。

 いつの間にか耀達の眼前に立ちはだかっていたのは二つの岩塊、見れば岩塊は十本の巨大な触手だけでなく四本の足を生やしてその巨躯を移動させ始めた。さらにもう一つの岩塊はその全身から激しい熱を噴き出し、岩塊を甲羅代わりにしたように四歩の手足とトカゲの顔を岩から突き出した。そして火蜥蜴は周囲に灼熱の吐息を撒き散らしては家屋を焼き払い、蹴散らしていく。

 

「............火蜥蜴と......触手の化け物.........!?」

 

 二体の怪物は体格こそ巨人族に劣っているが、その存在感は巨人族に匹敵するものがある。耀一人では手に余るかもしれない。

 そう判断した耀は、助勢を求めようと周囲を見回すがやはり仲間は誰もいない。この場にいるのはキリノと同じように逃げ遅れている者達だけだった。

 そんな彼らを一瞥した耀は、意を決した面持ちで三毛猫に言う。

 

「............三毛猫。私があの二匹を引きつけるから飛鳥達を探してきて」

『そ、そやけど、あんな化け物を二匹も相手するなんて.........、』

「大丈夫。無理はしない。キリノを助けたら私もすぐに合流する。ーーー行って!」

 

 

 歯を食いしばりながらも、背中を向けて走り出す三毛猫。

 夜空に輝く青白い稲光が〝アンダーウッド〞を包んだのは、その直後だった。

 

 

 

 

 

######

 

 

ーーーーー〝アンダーウッド〞収穫祭本陣営。

 

 

 

 飛鳥、ジン、ペスト、フェイス・レスの集団と春日部が巨龍の眷属達を相手取っている最中、〝龍角を持つ鷲獅子〞連盟は大混乱に陥っていた。

 伝令役は入り乱れ、指揮が下部にまで正しく伝わらないほど錯乱し、もはやコミュニティ間の連携など無いに等しい有様。

 混乱が伝染している最中ではあるが、議長であるサラ=ドルトレイ クは今さっき伝えられた事柄について思考を働かせながら、普段から帯刀している剣と愛用している金属製のギフトを腕手首と両足首につけて確認する。これらは彼女の炎を高める為のギフトでもあるのだ。

 

(南の“階層支配者”が討たれ、その後継を潰すように魔王が現れた。加えて、北の階層支配者の元にも魔王が現れ、東の白夜叉様も魔王の襲撃を受けている──────これが全て偶然だと?それこそ暴言だ、これは間違いなく組織的なものが裏で働いている、戦争を仕組まれている)

 

 しかしその考えが真実ならば、まさに晴天の霹靂とも言えるだろう。

 通常、魔王と言うのは唯我独尊を売りにした修羅神仏で、馴れ合うといえのは愚の骨頂と豪語する存在だ。

 例外として〝拝火教〞の魔王や〝幻想魔道書群〞のように一から創造・召喚した場合か、〝斉天大聖〞のように傘下をまとめて一つの旗印に集った場合だけだ。故に一個体一個体が強く、その代わりに馴れ合うことはしないのだ。その“天災”が示し合わせたように顕現するなど、これ以上の悪夢は無いだろう。

 

(初代様、星海龍王の龍角が無い今、私の力は少し血の濃い高位生命体といったところ。手持ちのギフトで何処までやれるかっ、)

 

 緊迫した表情をして戦いの準備を整えるサラ。

 しかし緊迫した空気を蹴り破るように、窓からピョンッと黒ウサギ が飛び込んできた。

 そんな黒ウサギに目を白黒させて驚きかつ、避難を勧めるサラに、 黒ウサギははっきりと伝える。

 

「それには及びません!もう間も無く、このギフトゲームは審議決議によって仲裁されます 〝主催者〞からの反応はありませんが、最低でも一週間の猶予は得られるかと思われます!!」

「そうか! 〝審判権限〞があればゲームを一時休戦することができる!」

「YES!なのでまずは〝アンダーウッド〞に居る魔獣の掃討をお願いするのですよ!」

 

 シュピン!とウサ耳を立てて答える黒ウサギ。

 反撃の糸口を掴んだサラはしかし、一転して不安そうな声を漏らす。

 

「それは構わないが、巨人族がもうすぐそこまで来ている。それはどうするのだ?」

 

 問題児筆頭、もしくは〝無法の貴族〞がいたらそれは間抜けな質問だろうと突っ込んでいたかもしれない、『それを考えるのが貴方の仕 事でしょう 』と。仮にもこの大連盟の最高責任者なのだ。そんなことでは下に示しがつかない。

 だが、この場にいるのは黒ウサギで、黒ウサギはそんなこと一ミリも抱いていなかったように口をーー。

 

「それについてはーーー」

「ぎ、ぎ、議長!緊急事態ですッ!!」

 

 その内容を後で聞いた黒ウサギが、あちゃーと額に手を当て嬉しそ うに困るのは決定事項だった。頼もしいんだけど、説明がね?...........。

 

 

 

 

######

 

 

 

 

 ーーーーアンダーウッドの大樹、その頂上。

 

 黒ウサギを見送った十六夜は、空を泳ぐ最強種をしばらくその場で静かに見つめていた。

 そして冷静に分析する。あれを相手できるのが何人いるか──────その答えは、二人だ。だが、呆れ果てることに、十六夜でさえため息を吐いてしまうほどにタイミングが悪い。

 そのもう一人はここにはいない。

 なにが自分が本拠地に残るだ、めんどくさくて来なかっただけじゃねーだろうな?と十六夜は再度、そういう思いを込めた嘆息を零す。

 まぁ、そう言うことだからトカゲを相手できるのは、

 十六夜は拳を作り、胸の前でパシッと両手を合わせる。そうすることで思考を切り替えたのだ。

 今は下の状況をどうにかしなければ、敵と戦う前に守るべき対象が滅んでしまう。巨人族と魔獣、それらを相手取るのはグリフォンなどの中位の幻獣、やはり霊格の差が激しいのか完全に押されている。グリフォンはもともと中位の幻獣では無い、ただグリフォンにあった神性が種の繁栄と共に分散してしまい、薄れてしまったのだ。だから、しょうがない──────では無い。

 ──────問題児筆頭はそんなことでは済ませない。

 何せ彼ら誇り高き鷲獅子が掲げているのは、〝勇気〞の旗だ。

 

「──────ハッ、仕方ねぇなオイ!俺がその情けねぇケツを蹴って、叩き起こしてやる!」

 

 十六夜は人間である。

 しかし迷いもなく十六夜は天を差すように生えている大樹の頂点から、飛び降りた。

 

「アハハハハハハハハハハハハハハ!ヤハハハハハハハ ハ──────!!」

 

 十六夜は下から吹き荒れる暴風を物ともせず加速して行き、戦場を見下ろす。 そして笑いを止め、不遜をなくした表情、鋭い眼光で一匹の巨人、避難に遅れた親子を襲おうとしている巨人を見定めると拳を構えて告げた。

 

 

 

「──────この落とし前、倍の利子で付けさせてもらうぞ、木偶の坊ッ!」

 

 

 

 途端──────巨人の戦士は背中に圧倒的な物量を受けて、地盤にうつ伏せで埋め込まれる。

 その影響で周囲は轟き、皆がその揺れに動きを封じられ、彼の一動作だけでその場の時が止まった。まさに天来の一撃であり、こんな状況の中でも笑っていられる強者、人類最高峰の奇跡を宿した者。

 

「ガァァァァッァガッ............ぁ、」

「おいおいどうしたァ!デカブツ様ァ!?まさかもうノックアウトかよ!ヤハハハハハハハハ!!」

 

 それを見ていた──────結果的に助けられた親子だったが、十六夜の修羅っぷりに恐れ慄き叫びながら逃げて行ってしまった。

 その背を静かに見送った十六夜は笑いを引っ込めて、自重した。流石に子供に泣かれると問題児様も困ってしまうようである。

 頭をポリポリ描き、地面にめり込んでいる巨人の戦士の上に仁王立ちする十六夜。その態度に周囲にいた巨人族は明確に怒気をはらみ始めて、ドスン!ドスン!と土地を打ち鳴らして歩み、十六夜を五、六人で囲んで見下ろした。人間がアリを見下ろすように。

 だが、そんな重圧ものともせず、十六夜は威嚇の視線で巨人族を一瞥する。

 

「...............へぇー次はお前らが相手してくれんのか?」

 

 十六夜は不敵な笑みを浮かべて、怒り狂う巨人族と相対する。

 彼の前では巨人族すら塵芥に過ぎないーーーそれが証明されるまで刹那とかからなかった。

 

 

 

 

 

 

#######

 

 

 

 

 

 北下層の辺境・臨時避難地。

 洋式の建物が並び、その中の細道をくぐり抜けた先にある隠れ広場に、白い簡易テントが乱雑に並んでおり、コミュニティ関係なくその場の防衛ラインを築いている。

 その場所は一見して安全のように見えるが、逆に他の集団、避難している集団と孤立し、怪我人などもいて動けずにいたのだ。

 それを理解したある中年の男、西洋の騎士服をボロボロにして着ている男性が、広場のテントの裏で他の大人達にむけて決断を、とうとう口から出した。

 

 

「見捨てるしか無い────っ!」

 

 

 その言葉は正しいのかもしれないが、正気では下せない考えだ。もちろん、反論の声がすぐに上がった。その声をあげたのは少し若々しい女性、背には火縄銃のようなものを背負っている。

 

「そんなのダメに決まってるでしょ!?あの中には私の家族もいるのよ!?ーーできるわけない!!」

「だが、このままだと全員死ぬんだぞ!?」

「うるさい!男なら戦いなさいよ!!この弱小コミュニティ!」

「なっ──────お前.........ッぇ!」

「おい、やめろ!喧嘩している場合か!!」

 

 途中から喧嘩越しになった両者を、肌が黒くて逞しい坊主頭が諌めに入る。はっきり言って絶望的な状況下なのは確かであり、確かなのは絶望的なこと“だけ”であるので、余計空気が悪くなっていく。士気どうこうの話ではないのだ。どんなに考えても、みんなが助かる方法が見つからず、それとごろか、囮にして見捨てるという考えしか思いつかないのだから、なおさら士気はどん底である。ーーー非情になるしかないのだろうか。

 そんな中、テント内にいる一人の少年が、自分よりも幼い女の子、おそらく年齢的に妹だろう少女が横たわる布団の横で肩を震わせていた。

 そしてその瞳の色は──────ある儚い声によって劇的に変わった。

 

「──────ぉ、おに、……ぃちゃ、ん...............逃げ.........て.........」

 

 その言葉に少年は一瞬、我を忘れたが己の精神に何かが湧き上がっ てくるのを感じた。

 怒りでもない、悔しいわけでもない、ただこの熱く噴火するようにこみ上げてくる思いは──────ただの、純粋な怒りだ。

 このままでは引き下がれない、こんな理不尽にただ黙って泣いているだけなんて、少年は、ありえない、と首を振り、

 

「絶対に守ってやる」

 

 その言葉と共に少年は立ち上がった。

 そして向かう先は、ここの指揮をとっている大人達の元だ。

 

「すいません、皆さんにお願いしたいことがあります」

「こんな時に!子供は邪魔」

「いいから聞けよッ!!この根性無しが!」

「っ!?」

 

 少年の放つ命をもかけた覇気が大人達を黙らせる。

 そして、畳み掛けるように言葉を紡ぐが、しかし口調は静かだった。

 

「僕が囮になります。その間に皆さんは怪我人を連れてできるだけ遠くに逃げてください」

「な、なんだと、お前が囮!?」

「これでも足は早い方です、チーターの霊格を有しているので。時間はあまりありません。僕に構わず」

「はっ、信用できるか!馬鹿が、おめぇ俺たちを囮にして一人で逃げる気だろ?ガキの考えることなんざなぁ!」

 

 西洋の男は、堂々と子供を貶める。

 その時、少年は地に頭をつけて懇願した。

 

「僕の妹をお願いしますっ!い、妹だけは死なせたくないんですッ!だから、どうか僕を信じてくださいっ!!」

 

 突然の懇願と土下座に大人達は戸惑うが、西洋の男は開き直ったよ うに鼻で笑い、さらにその汚い口を開こうとする。

 

「ハハ...はっ!.........だから、どうしたてんだ!てめぇはだまって」

 

 そう口を開こうとした西洋の男は、黒人の男性に殴られ、地に転がり吹き飛ぶ。

 

「子供が命を掛けるって言っている、それを目の前にしてその物言いーーー恥をしれッ!」

「やりやがったなッ!............くそがっ!!なら、どうしろって言うんだ、ああ?!こんな状況下を子供一人で打開できるとでも」

「俺も行こう、他にも志願してくれる奴は居るだろう。──────貴様みたいに守るものがない奴には一生分からんだろうが」

 

 そう言って、黒人は子供を連れてその場を去ろうとする。

 だが、そんな背中に響いてきたのは、くしくも暴言ではなく、男の乾いた嗤い声だった。

 

 

「ハハハハははははははは!!ぁあ、わかんねぇな、わかりゃしねぇよ、........あいつらは、あいつは..........もうぐしゃぐしゃに食われちまったんだからなっ!!」

「ッ............!?」

 

 その地獄を嗤うかのような男の叫びに、静まりかえる避難地。流石に言い過ぎたと思った黒人男性と、自分の家族のことしか考えてなかった女性は余計に居心地が悪そうだった。

 しかしそこで場を動かしたのは、意外にも地に倒れていた男だった。

 

「は............いいだろう.........こうなったらヤケクソだ、どうせ死ぬんなら俺も行ってやる。弔い合戦、派手にぶちかましてくれるわ!」

 

 その言葉に誰もが耳を疑う、あれほど嫌がっていたのにも関わらず、と。

 しかしそこで少年がーーー。

 

「皆さんはいいです...............死ぬのはもう、僕一人で充分で、覚悟はあり」

「うっさいわ、クソガキ!現実を見ろ。足が速いって言っても数も多けりゃ、足もあっちの方が早い。あの有名な最古参の魔王の眷属はそんなに甘くねーぞ」

「で、でも妹が」

「お前が連れていけばいいだろう?それに怪我人を遠くに一番早く運べるのはお前だ、なら避難に使った方が作戦は成功しやすい」

 

 ????。

 あれ、元々こんなはなしだったっけ、と周りの大人たちは顔を見合わせる。

 それになんか、空気が変わり始めている。主にこの荒れ狂った物言いだったはずの男の纏う空気が。少年は分からなかったが、大人達はその様子に気付き、つい訪ねた。

 

「し、失礼ですが、貴方どこのコミュニティの人ですか?」

「ああん?今更何聞いてやがる。─────ただの下層に居を構える落ちこぼれコミュニティだ。まあ元は鬼姫連盟で軍隊長を勤めていた。その程度だ」

「軍隊長 、しかも階層支配者のコミュニティの!?」

「す、すげー、!!」

「あ?そうか??軍隊長といっても百人ぐらいいたんだが、なんか照れるなーーっておい、話変わってるぞ?!」

 

 元とはいえ、魔王を相手取ることのできる階層支配者、その組織に身を置きながら、一団を率いていた経験がある。

 それは中層の戦力の一人だったということだ。そこから独立したコミュニティ、それが彼なのだろう。

 ざわつく周囲をよそに黒人の男は、頭を下げ始める。

 

「都合のいい話で、殴っておいてあれなんですけど私達の指揮をとってくれませんか?」

「......ぃ.........いや、俺が指揮をしても生存率は限りなくゼロに近い、無理だろ、」

「お願いします!指揮を、なんでもします!!死地へ行けと言うのであれば全力で向かいますッ!守りたいんです!!だから、どうかお願いしますッ!」

 

「お、お願いしますっ!」

「お願いします!」

「おねがいですっ!!」

「どうか私たちを助けてくださいっ!」

 

 いつの間にか集まっていた人々が、少年を筆頭にして各々の角度で頭を下げていった。

 その様子を一瞥した男は静かに口を開く。

 

「はぁー。...........今すぐ、男連中をありったけ集めろ──────全員を生存させる確率のひぃぃいくい!作戦を伝えるからよ、」

 

 その言葉に皆は喜びながらも、その足を素早く動かして事に当たった。

 舞い降りてきた希望──────その希望に皆が高揚していた。

 中年の男はそれを見て、そして少年が妹を見つめる背中を見て決心を抱く。

 その時の顔はまさに戦士、頑固たる思いをその胸に宿していた。今度こそ守ってみせる、と。

 

「助かるぞ、ハルカ。お兄ちゃんが守ってやるからな、だから安心して」

 

 

 

 

 

 

 だがそんな甘い雰囲気は突如、空より舞い降りた二つ首の怪物によって儚く壊された。

 その二つ首が放つオーラは、外見が怪物のそれにもかかわらず静謐さを漂わせ、冒してはならない領域の霊格を放っていた。

 その強さを中年の男はしっかりと経験していた。だから、“笑っていた”。

 やっぱり、無駄だったな──────アイリ、ヤエ、すまない。

 西洋の男は戦う意思すら見せず、ただ一番近くにいたので瞬く間に、ゴクリと双頭龍に丸ごと飲まれた。

 しかし、味はまずかったのか──────バラバラになった肉片が消化液とともに吐き出され、辺りは一瞬で悲鳴の渦となる。

 

 だがどんなに喚こうが叫ぼうが、仮令逃げる暇があったとしても結果は一目瞭然だろう。

 

 

 

 ──────時間にして数分だった。

 

 

 

 避難地は紅い油絵のように染まっている。

 そしてパンくずのように、噛みちぎられた肉片が零れたふりかけの如く散りばめられ、まさに絶望の絵図が描かれていた。

 生命はもうその怪物作の、“絶望の絵画”を前に存在することは許されてはいなかった。

 ただ、一つの救いは──────“二つの手”が、一人の少年と少女の手が消化液の“粘着”のおかげもあって、しっかりと握りしめあっていた事だろうか。だがそれも、腕より先が無ければあまり意味がないだろう。

 階層支配者──────彼らでは箱庭を“救えない”。秩序を守るはずの階層支配者は無力である、そう語られていると断言していい結末だろう。

 こんな絶望が、北と東のあらゆる地域で起こっているのが、今の現状。

 現代社会のように、一つ一つの現場で起きる凶悪事件に対して、対処できる組織力を今の箱庭には存在しないのだ。

 だが、階層支配者という制度が悪だというのでは無い、そんな単純であればこんなことにはなっていない。

 ──────今こそ箱庭は変わらなければならない時、ということだ。

 

 

 ──────そんな地獄絵図の場所に、銀の閃光が迸る。

 

 

 その閃光は早すぎて常人では〝先端〞を見つけることすら不可能、 残像が幾重にも煌き、一筋の閃光を描いている。

 大きな広場を埋め尽くすように怪物達の懐へ駆け抜けていく光は、瞬く間に天高くまで弾けた。

 そしてその先端から、二つの存在の絶叫が、大気を揺るがす。

 

「GYAAAAAAAAAAAAEEEEEAAEAAEAAAA!!」

「uWhooooooOOOOOOOOOOOOOOOONッ!」

 

 力の衝突によって発生した暴風が天より地に吹き付け、鮮血で汚れた土地が波打ち、ざわめく。

 残酷な絵図は今だに乾くことを知らず、時折舞い散った石粒が血溜まりに落ち、感情のない水音を立てる。

 そこへ汚れた土地を塗りつぶすように、先ほど現れた神霊級の双頭龍と分裂したサソリの怪物などが落下し、死体の山を作り上げていった。

 それに遅れて軽い足音を立て、一人の男が死体の近くへ着地した。

 男の外見は酒臭そうな感じで、細身。ぶしょったい青いヒゲを生やしており、黒い脛まであるブーツ、茶色い手袋、黒いサングラス、ダボダボのクリーム色のズボン、で上には作業服のような裾の長い長年に渡って色あせたような緑色のコートを着ている。一言で、だらしなくてワイルドな男、こげ茶のボサボサ頭で、何処かの狩猟家みたいな男である。

 

「ふぅー………………ったくブサイクのくせに生意気なことしてくれたもんだ」

 

 男はカツカツと地獄絵図になってしまった土地を歩み、生存者がいないか見回りをし始めた。

 そして一周し終わった後、広場の入り口に立ち、咥えていた手作り感あふれる煙草をプッと捨てて、重そうに手を合わせた。

 

「すまんなぁ、今は線香とか持ち合わせてねぇからよ、一服で勘弁してくれや」

 

 数秒だけそうした後、男はもう一度周囲を一瞥しながら全滅を確認した。

 

「──────こんなことに“レティシア”を巻き込みやがって……………、」

 男は当初使う気のなかった力を、そして本当は“使ってはいけない力”を解放して、圧倒的な霊力を吹き出させると─────手の平に焔を優雅にゆらめかす。

 そして、男は悲しみを秘めた瞳で────、

 

「火葬で我慢してくれ、俺は行かなきゃならないんだ」

 

 途端、焔は巨大化して天を差すほどの竜巻を引き起こし、広場を埋め尽くした。黄色と赤のコントラストの輝きは北を明るく照らし出し、その力の波動は“特定の人物達”だけに“使われた場所”、使われた力の“詳細”をコンマで伝えていった。

 そして、男は焔の竜巻を掻き消してその場を後にし、その男の胸の中に響く声は──────あの時の儚い少女の声と自分の後悔の念だった。

 まだ自分が弱かった頃の、未熟で汚い少年だった頃。

 そんな自分に彼女は言った──────、

 

『十三番目の太陽を打って、私を殺してくれッ!』

『お前に殺されるのなら私は幸せだ、だから.........まだ、私のことを“幼馴染”で、“親友”と想っていてくれているのなら』

 

 

 

『同族殺しの私を............その手で裁いてくれ、』

 

 

 

 

#######

 

 

 

 ──────紛争地域、教会と屋敷の立つ森林。とある倉庫。

 

「やばい、そろそろ食料が底を尽きる…………っ、」

「すまないねぇ、子供達の人数も多いから…………」

 

 シスターおばさんからの謝罪に、いえ、と軽く返事をしながら、唸る。

 何せまだここに来て、いち二週間も経っていない、にもかかわらず、1ヶ月分の食料が吹っ飛んだ。

 あとは元々自分が来る前に貯蓄に回されていた加工系食品や保存の良いものだけ。

 あまりの速さに、よほど俺を追い出しいたいのか、と心の中でぼやいていた。

 食糧庫の扉を閉め、シスターおばさんと話しながら、教会の方へ歩いていく。

 

「そちらの方で援助の伝手は?」

「うーん、………むずかしいだろうねぇ。なにせここまで来るには中々に骨が折れる、」

 

 顎をさすりながら、子供達を一瞥するおばさん。

 その目は本当に子供達を思っている優しい目だった。

 どうにかしてあげたい、と考えをまとめた、その時。

 俺の視界が真っ暗になると同時に、顔面に走った衝撃で軽くのけぞった。

 

「…………………、」

「おやおや、物騒な流れ弾だねぇ、」

 

 何を呑気な、と。

 これほど穏やかな殺意をいだいたことがあっただろうか。

 顔面にへばり付く泥が、口の中に入ってくる。

 俺は無言で、唾液と一緒に砂を吐き捨てた。

 静かな怒りを纏って、犯人を気配で探すが、あらやだ、あちらから来てくださったようだ。

 

「バァあああアカ!!アハハハ、ウケる〜ウケる〜ッ!」

「セラリアちゃん、あんまりはしたない笑い方しないの」

 

 おいおい、シスターおばさん、開口一番怒るところ其処ですかー。

 と、突っ込みながら自分のハンカチで顔の泥を拭っていく。

 拭おうとするたびに口に入る泥はとりあえず無視し、顔の泥を拭い終えたら、唾と一緒に吐き捨てる。

 

「ぺっ、ぺっ、ぺっ!ったく、セラリア姫?このような物騒な流れ弾もございます、早々に屋敷の中へひっこんで、じゃなくて、引きこもっていただけますか?」

「ああ?何いちゃってんの?あなたと違って私は強いの!わかる?それに私には絶対に当たらないわ?なぜか知りたい?知りたい?」

 

 うふふふ、と笑いながらドヤ顔のセラリア。

 聞かないと話が進まなそうだ。

 

「ワタクシ、シリタイデース」

「そう知りたいんだぁ!なら教えてあげる!──────私が投げる側で、あなたが当たる側だからよ!!」

 

 頭の悪い貴族のクソガキ娘のような模範的な回答。

 ブチっと、頭の血管が切れそうだった。

 手にナイフがあったら、顔面に躊躇なく刺していたところだ。

 

「あぁ神よ、なんでこんな子に育ってしまったの、か」

 

 シスターおばさん、あんたもグルか?ああん??!

 とりあえず、これ以上この件を引っ張っても俺だけが面白く無いので、話を戻そうとするが、

 

「とりあえず、シスター。食糧の件に関しては──────」

「あらちょうどよかったわぁ〜二人の“相性”と“仲の良さ”と“足”があれば、買い出しもへっちゃらねぇ〜!」

「カイダシ??なにそれ!新しいアニメ?!」

 

 おっかしいなぁ、シスターおばさんの言っていた条件、二つも最悪なのに。

 事実を捻じ曲げられている、冤罪ってこんな感覚なのだろうか。一種の諦めという奴だろう。

 ちなみに急速に進化?悪化している?セラリアの性格と口調だが、俺が持ってきた娯楽、アニメ映像によるものだった。

 なら、俺が悪いと最初は少し思ったが、勇者とヒロインの影響を受けた他の子供達を見ているとアレおかしいなぁ、俺がわるいのかなーっておもってしまうのだ。

 好き嫌いはしない、行儀良く食べる、いじめはしない、とかねー。

 なのに、なのに!!あのクソガキは日に日に馬鹿になっている、唯我独尊。問題児まっしぐらだ!シスターおばさんも呑気に、げんきにそだってくれてるわねーとか頭の中、お花畑か!!

 前なんか、いじめっ子の真似をして、俺の部屋の扉を開かないようにして、仕方なく扉を壊して出れば、タイミングを狙ったようにチクリ、シスターおばさんや子供達から説教を受ける羽目になった。

 もうアイツがなにを考えてるか、俺にはわかりません。最初のドキッを返して欲しい。

 

「おーい!なにブツブツ言ってるの!病気?」

「病気じゃねぇわ!!少し待ってろ!………………本当に二人で行かないと行けないんですか?」

 

 少し本気で怒鳴り、セラリアを待たせる。

 シスターおばさんに問いかけながら、横目でセラリアを見れば、頬を膨らませながら石を蹴っていた。

 

「……………」

「この辺の土地は、人攫いや殺人、薬と治安が悪い。俺一人ならまだしも、」

 

 先進国は平和だ。

 其処へいく、というのであればここまで否定的ではない。

 だが、紛争地域は憎しみ、怒り、焼けた肉の匂い、鉄の匂いが漂い、対話が成立しない世界だ。

 隙を見せれば、一つの街が戦場になり、巻き込まれてしまう。

 特にセラリアは、内面はともかく、外見は美麗だ。──────金になる、捌け口にもなる。

 ピラニアの池の中に血だらけで突っ込むようなものだ。

 たが、それでもと、シスターおばさんは伏せていた目を、空に向ける。

 

「“セラリア”はまだ何も“知らない”、見れていないの…………“私”とは違って」

「………それは、どういう」

「セラリアちゃんは“記憶”がほとんどないわ、何処で生まれたのか、何者なのか、“何年”生きていたのか──────彼女の世界は此処だけ」

「記憶が、…………ない?」

 

 以前、月の兎にまつわる者かもしれない、とは聞いていた。

 そしてそれをみんなに隠していることも。

 ──────本当に無いのか、それとも、そういうことにしているのか。

 ちらっと、横目でセラリアを見る。

 

 ──────地面にある砂をかき集めて、何やら丸めている。

 

 いや、あれは本当に無いな。あったら、マジで親を呼べ。

 奴は危険すぎる。

 

「だったら、尚更一緒になんて、」

「──────なんで、彼女だけあんなにも違う方向に影響を受けているのか、分かりますか?」

 

 確信しているかのようにおばさんは、俺に問いかけてきた。

 いやわからんよ?なんで顔に泥を掛けられてるか分かる??わからなーいよね?

 

「ワカリマセン」

「フフははははは」

 

 俺の無表情な即答に、シスターおばさんはなぜかツボったように笑っていた。

 そして笑いながら優しい目で、セラリアをみつめると、

 

「まぁ、貴方からしてみれば最悪ないたずらっ子に映るでしょう。でも、私には──────“自由奔放”な子供にみえるのですよ」

「自由奔放、ねぇ」

 

 確かに彼女は何処か、縛られることをいつも嫌がっていた。好き嫌いもよくする、食べ物も人もねー!

 決まりも約束も嫌がった…………よくないね!

 納得のいかない表情の俺に、にこやかな笑顔を見せながら、お金の封筒と買い出し先の位置のメモを手渡してきた。

 

「どうか、彼女を、セラリアちゃんをお願いします……………っ」

「……………、」

 

 シスターおばさんの真剣な表情と言葉が重い。

 どうしようか、とそれでも悩むそぶりを見せれば、シスターおばさんはウィンクもつけてきた。

 これ以上、正直このウィンクは見たくはない。

 

「……………はぁ、分かりました。」

 

 とりあえず、封筒とメモをポケットに入れる。

 うんうん、とシスターおばさんは満遍の笑みで軽快にうなづいていた。

 これは色々と練らんとなぁ、と頭を掻く。

 そんな俺をその場に置いて、セラリアの元へと歩くシスターおばさんがふと空を飛ぶ鳥達を見て、足を止めた。

 

「きっと必死に抗い、色々なもの見て、ぶつかって、…………自由に生きることで、記憶のない鳥籠の世界から抜け出そうとしているのかもしれないわね」

「……………え、」

 

 どういうことだってばよ、と。

 シスターおばさんを追いかけようとした、その隙を狙ったかのように、俺の視界に迸る衝撃と泥のねちょねちょ。

 俺はのけぞることすら忘れ、非常口のマークのような姿勢のまま固まるのだった。

 

「あんま効いてないっぽいわね〜、ねぇおばさん!鉛とか余ってなーい?!」

「あら、セラリアちゃん、もう鉛に興味持ったの〜!すごいわね〜!」

 

 最近、俺の性格が変わってきたとすごい思う。

 何せ心の中で、本当にこいつらの頭の中、ネギでも刺さってんじゃねぇか、て暴言をほぼ毎日吐いている。

 そんな気がする、いや間違いなく毎日だな。

 少しデートの予感とか思っていた、俺の未熟さを呪いたい。

 

「戦争がしたいのかアンタたちはッ!!」

 

 こうして明日から三日間にかけて、俺たちのデート・オア・アライブが始まる。

 さあ、俺たちの戦争《激戦?デート?更生?》を始めよう!!

 とはいえ、本来の目的は生命線の確保、食糧の調達である。

 いかんいかん、我を忘れるところだった、とセラリアの頭を瞬足で掴み、握り潰しながら安堵の息をこぼす。

 

「あいててててていだだだだぁあああああ!ァアアアアアアアアアッ!」

 

 あー気持ちいい、とセラリアの頭を掴む腕の力を強めながら、口角を思わずあげてしまう。

 とりあえず家に帰ったら、精神科行こうかなぁ、と空を爽やかに仰ぐのだった。

 

 




第三章・エンディングテーマ《Reason》参照先アニメ《ガンダムSEED DESTINY》

今月中に、コウリュウさんに会いに行きたい!!
どうか応援、評価、感想よろしくお願いします。

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