新・問題児と人の神が異世界から来るそうデスヨ   作:行くよ!!!!

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第七話「戦線の修羅・魔王の休日」

  ─────〝アンダーウッド〞収穫祭本陣営。

 

 空は今、雷鳴が止むことなく響いていた。

 暗雲の隙間から垣間見える一匹の生命体は、存在するだけで天候を一変させる。

 忉利天が用意された訳がここにあるのだろう。

 そしてその眼下では、アンダーウッドの地に雨のように降り注いだ龍の鱗から顕現した魔獣と、ケルトの幻獣のあらゆる武装をした巨人族が自然の緑豊かな大地を暴虐に蹂躙していた。はっきり言おう、〝龍角を持つ鷲獅子〞連盟では対抗できない。

 だが、そんな絶望を胸に抱いていた時、

 全てを嘲笑うかのように、本陣営に巨人族が頭から突っ込んできた。(笑)

 ドガシャァァンッ!!と盛大に窓を破壊し、続いて大樹は破壊の力を受けて大きく振動し揺れ動く。

 サラは途端に絶句した。

 瓦礫と埃を頭から浴びている巨人族の戦士はただ飛んできただけではなく、何か強大な力で武具を打ち砕かれ、失神していたのだ。

 ─────何の冗談だ、これは。

 

「............何が、......は?」

 

 二度も疑問系を吐き、何が起こったのかわからないと顔に出してしまうサラ。

 隣の黒ウサギが非常に気まずそうな顔で助け舟を出した。

 

「え、えーっと.........この巨人はおそらく、我々の同士がぶん投げたものかと......」

「ぶん投げた!?........そんなバカな......っ!」

 

 思わず聞き返すサラ。しかし黒ウサギは訂正の声を上げない。

 サラは半信半疑になりながらも瓦解した壁から身を乗り出し、巨人 族と〝龍角を持つ鷲獅子〞連盟が戦っている戦場を見下ろす。

 〝アンダーウッド〞は全長500mという巨躯を誇る水樹。

 その中腹に位置する収穫祭本陣営からは、戦場の全体が一望できる。

 そこで二度目の驚愕がサラを襲った。

 本の数分前まで都市付近に追い詰められていた筈の〝龍角を持つ 鷲獅子〞の最戦線は─────外門までの退路を確保して余りあるほど、盛り返していたのだ。

 それも、たった一人の少年を先頭に据えて。神様も素直に絶句もんですよ。

 

「まさか...............あの少年が、〝巨人〞をここまで投げ飛ばしたというのか!?」

 

 ここで重要なのが、逆廻十六夜はちゃんとした親をもち、人間としてこの世に生命を持った一人の少年〝人間〞だということだ。─────彼は人間、ここ重要。

 そして、彼が証明してくれたことは─────人間いつかは巨人を投げられるようになるということである─────というのは無理に決 まっています。もう一度言っておきます─────無理です。

 幻獣の中でも優秀なサラでさえ、そんな馬鹿な!?とその場に似合わない声を荒げているのだ。普通に人間に〝巨人〞を投げることは不可能だろう。いや人間に限らず、〝彼〞と同じように〝巨人〞をぶん投げることは、はっきり言おう─────神格を持つその辺の神霊ですら難しい。なにより二百年を生きた彼女は、人間の限界というものをよく知っていた。狼狽するサラだったが、傍で控えていた伝令が黒ウサギの言葉を後押しするように付け加えた。

 

「議長。此方のウサギ殿は嘘を仰っていません。そして付け加えて申し上げるのなら、巨人族の侵攻はその少年一人で............ああ、いええ.........はっきりと申し上げるのならば 少年一人で、巨人族を殲滅せんとする勢いでございますッ!!」

「.....................な、」

 

 伝令の剣幕に半口を開いて呆れるサラ。その反応を見て、ですよねーと苦笑して黒ウサギがその反応に共感している。そんな半ば絶句していた二人が我に返ったのは、二体目の巨人が突き刺さってからの事だった。

 

 

 

 

 

########

 

 

 

 

 

 ─────〝アンダーウッド〞東南の平野

 

「はっはははははははハハハハハ!どうしたァ?!ケルトの巨人に、トカゲの眷属がまさかこの程度なわけないよな?!」

 

 十六夜は地を神速で駆け抜けながら、大サソリや巨亀の鱗や甲羅を一撃で粉砕していく。

 そして目の前を覆い尽くすほどの巨躯の巨人族の戦士には真正面から突っ込み、巨人族に装備されている防具諸共粉々に砕くと、何百メートル先までその巨体を吹き飛ばす。その影響 で他の巨人族や火蜥蜴の怪物が一緒に巻き込まれて吹き飛び、自らの炎で燃え盛る。

 

「これでも加減してんだが............これなら亜音を呼ぶ必要すらねーかもな?」

 

 一撃で彼ら怪物たちを塵芥のごとく簡単に打ち払う─────まさに馬鹿げた人間、人間なのかすら怪しいその男、逆廻十六夜は末恐ろしいことにあれで〝手加減している〞と、半ば敵に失望するように呟いていた。

 最前線で戦っていたグリーは、その少年を瞠目したまま硬直していた。先程までまで討ち死にを覚悟して戦っていたというのに、今は魂が抜けたように立ち尽くしている。

 同様に悲壮な覚悟を抱いていたはずの〝龍角を持つ鷲獅子〞連盟 の同士も、今は手足を止め、固唾を呑んで最前線を見つめていた。

 最前線を埋めるのは大軍を率いて押し寄せてきた巨人族と無尽蔵 に誕生する魔獣の群れ。

 天には巨龍。地には魔獣と巨人。 清涼で壮観な水舞台を謳う〝アンダーウッド〞の景観は、今や怪物たちが自由に暴力を振るう末世へと成り果てていた。〝アンダー ウッド〞の再起を願って何年も前から計画されて、その願いを成就するために皆が働いてようやく行われた収穫祭、しかしそれは簡単に悪を謳う怪物たちに蹂躙され尽くしたのだ。

 この状況で絶望を感じないのは、箱庭広しといえど二種類しかいな い。

 それこそ神経が鋼索のように図太く鈍感な者か─────修羅神仏をも恐れぬ、天来の強者のみである。

 〝龍角を持つ鷲獅子〞連盟があっけに取られている、その間にも十六夜は巨人族を次々と蹴散らしていき、一段落つくと彼の足元には打倒された数百の巨人族と破壊されて散乱した武具の欠片、巨龍によっ て召喚された魔獣の肉片が飛び散っていて山を作っており、その上で彼はパンパンと不服そうに学ランの肩を払って周囲を一瞥しながら呟く。

 

「............ふぅ............ったく、ケルトの巨人族と聞いていたから、てっきり神群を指すものだと思っていたんだがな。これは考えを改めなきゃいけない。要するにお前達は〝巨大化した人類〞という幻獣の枠組みでしかない訳か...............しかしまぁ、俺みたいなガキ相手にこの体たらくじゃ、今頃ご先祖様がシクシク泣いていることだろうぜ?」

 

 十六夜の一挙一動が彼ら巨人族に重圧をかけ、彼の味方までもが動揺し後退していた。味方とて圧倒的な強者の前では命が惜しくなるもの、危険を感じてしまうのも無理はないのだろう。

 そして十六夜は、多種多様な視線を浴びながらも気にせずに、それ どころかその重圧すら消し飛ばすほどの不遜な光を瞳に宿らせて巨人族に吐き捨てた。

 

「一度だけ言う。今すぐ失せろ、木偶の坊。こっちは本気で収穫祭を楽しみに来たんだ。唯さえ空飛ぶトカゲも相手にしなきゃならんのに、余計な手間をかけさせるなよ」

 

 舌打ち交じりに罵倒する十六夜。

 その傲岸な物言いに、戦場の時が熱を発して再び動き出す。

 十六夜の言葉を挑発と受け取った巨人族の軍勢は鬨の声を上げ、今 一度〝アンダーウッド〞を目指して進撃を始めた。

 

「ウオオオオオオオオオォオオオオオオオオオーーーーーーー!!」

 

 勝てない相手に捨て身で迫り来る巨人族。十六夜の霊格は嫌という程、彼らに伝わっているのだ、この襲撃の覇気と武器を何も持たない態度から─────先陣の彼が捨て身なのは十六夜でなくとも察することができる。

 それを一瞥した彼はーーーーーー笑っていた。

 

「─────なるほど。誇りの方は腐ってなかったか、またまた考えを改めなきゃだな─────ハッ!」

 

 目前までもうすぐの所まで迫り来ている巨人族を前に、十六夜は嬉々の声を上げて相対する。

 そして巨人族達は再度、いや新たなに認識することになるだろう。

 ─────彼は修羅神仏の誰もが認めた人類最強最先端の問題児の一人なのだと。

 

 

 

 

 

######

 

 

 

 

 ─────〝アンダーウッド〞収穫祭本陣営。

 

 ポカン..................と、サラは半口を開けて唖然としていた。

 普段の毅然とした態度をとる彼女を知る者ならば、それが稀有どころの話ではなく、それほどの異常事態、この箱庭世界においてもなお、突拍子もないファンタジーな出来事が起きているのだと自然に察してしまうだろう。

 その証拠に、伝令にやってきた獣人も困った様子で背後に控えている。

 

「.........黒ウサギ殿」

「はいな、なんで御座いましょう」

 

 開き直ったように黒ウサギは返事を返す。

 しかしサラはそれでも回復せず、倒壊した壁から吹き抜ける風に靡かれながらも戦場を見下ろして。

 

「.........何だ、アレは」

 

 至極失礼な物言いで、十六夜を指差した。しかしそれを責める者は誰もいないだろう。本人を除いて。

 黒ウサギはあやあやと苦笑いしてうさ耳の裏を掻く。

 

「そのですね、彼に関してはまた後ほどご説明するとして─────そろそろ、審議決議が受理される時刻。黒ウサギがそれを知らせますので、 サラ様は都市内の魔獣掃討作戦に加わって指揮をとってください」

「う、うむ。心得た」

 

 サラは額を拳で軽く叩き意識を切り替える。

 黒ウサギは白黒に彩られたギフトカードから 〝擬似神格・金剛杵 〞を取り出した。

 箱庭から力を得た黒ウサギの髪は薄い光を放つ緋色に変わり、やがて炎のように燃え上がり始める。ヒョコヒョコとうさ耳を揺らした黒ウサギは、〝アンダーウッド〞全域に届くような声で宣言した。

 

「〝審判権限〞の発動が受理されました!只今から〝SUN SY NCHRONOUS ORBIT in VAMPIRE KING〞 は一時休戦し、審議決議を執り行います!プレイヤー側、 ホスト側は共に交戦を中止し、速やかに交渉テーブルの準備に移行してください!繰り返しお伝え」

 

 

 

「GYEEEEEEEEYAAAAAAAAAAAAAaaaaaaaaaaaaEEEEEEEEEYYAAAAAAAaaaaaaa!!」

 

 

 

 え?とウサ耳を疑う黒ウサギ。

 彼女が審議決議の宣言をしている最中、巨龍は雷雲を撒き散らして〝アンダーウッド〞へと急降下し始めた。身じろぎ一つで大気を震撼させる龍は、〝アンダーウッド〞の僅か1000m頭上を通過し突風を巻き起こす。

 

「なんだとッ!?」

 

 目下で戦い続けていた十六夜も否応無く、その足を止めて声をあげ、巨龍が巻き上げた暴風にからめ捕られる。もちろんその暴風は、 十六夜だけを狙ったわけではなく、巨龍はそんな生易しいものではない。

 〝アンダーウッド〞で闘っていた飛鳥も。ジンも、ペストも、巨人も、魔獣も、敵味方の区分なく、あらゆる者を空へと塵芥の如く巻き込んで吹き飛ばす。

 その暴威に、黒々しく渦巻く巨大かつ極太の竜巻の猛威に、サラは瞠目したまま固まっていた。

 

「都市が............戦場が.........全て空に......っ!」

「サラ様、危ないッ!?」

 

 暴風に吸い込まれそうになるサラの手を黒ウサギが握りしめる。

 ほんの数瞬だけ浮遊感を味わったサラだったが、その目の前で幾人もの同士が為す術もなく飛ばされていく惨状に血が凍った。

 これが最強種ーーーーー龍の純血かと戦慄するが、真に恐ろしいのはそんなことではない。

 この程度の台風など、巨龍にとっては術技ですらない。

 巨龍にとって今のは飛翔ーーーーただ動いただけだ。本当にそれだけだ。

 審議決議が受理された以上、敵の行動に危害を加える意志がなかったのは明白。

 空を翔けるだけで天地を揺るがし、存在するだけで天体法則を狂わすこの力こそ、神々の箱庭で〝天災〞と称されたもの。

 人智を超えた巨体は都市も戦場も、獣人も精霊も幻獣も魔獣も巨人族も人間も、全てが平等に有象無象、人間にとっての隅に蔓延る埃と何ら変わらないゴミであると嘲笑うように天空へと巻き上げたのだ。

 

「馬鹿な、こんなことが!」

 

 サラは軋む大樹の幹に縋りつき、天に還る巨龍の姿を畏れるように仰ぐ。

 視界に入るのは落下する瓦礫や残骸。悲鳴をあげて落下する仲間たちと巨人族。

 それがまるで塵芥のように。

 

「た、大変なのです! 助けに行きましょう、サラ様っ!」

「...............」

「サラ様ッ!!!」

 

 黒ウサギに力強く手を握られ、ハッと顔を上げる。

「.........っすまない。急ごう、黒ウサギ殿!」

 

 己の頬を叩いて喝を入れる。

 炎翼を放出したサラと黒ウサギは、落下する同士たちの救出へと向 かうべく、壁の穴から戦場へと飛び出すのだった。

 

 

 

 

 

 

####

 

 

 

 

 ーーーー〝アンダーウッド〞上空。吸血鬼の古城。

 

 

 

 古城中は閑散とした空気と埃の匂いに塗れていた。

 しかし長年放置されていたにも拘らず石造りの外観が風化してい ないのは、城全域に結界が張られているからだろう。 此処は休戦されたゲームの舞台袖。 城門から玉座の間へ続く長い回廊。 無人の筈だった吸血鬼のステージに、快活な少女の声が響く。

 

「殿下ー!どこ行ったのー?」

 

 くるくるくる、クルリンッパ、クルリクルリ、りんりんとステップを踏んで回りながら、回廊の階段を上っていく黒髪の少女。

 ノースリープの黒いワンピースを着込み、腰にジャケットを巻きつ けて靡かせている。一見して愛らしい少女のようだが、腰に下げている革のベルトには何本もの短刀を備えて非常に物騒だ。

 

「殿下ー!おじ様ー!ゲームが休戦になったけど、続きはどうするのー?」

 

 回廊の先の階段を上って踊り場に出た少女は、小さな胸いっぱいに叫んだ。

 

「......殿下ー?殿下殿下でんかでんかでんか、で・ん・かー!」

 

 幼くも風鈴のような声に反応なしーーーーー少女は拗ねたように艶やかな黒髪を揺らし、愛らしい唇を尖らせて頬を膨らませる。

 すると玉座の間からクスクスと呆れたような苦笑いが漏れた。

 

「リン。殿下なら先ほど城下町の様子を見に行ったわよ」

 

 古城の中心まで突き抜けている回廊を更に抜けた先。玉座の間で月の光を浴びていたのは、ローブのフードを深く被り、片手に〝黄金 の竪琴〞を持った女性だった。

 リンと呼ばれた少女はローブの女性に振り返ってむむっ、と、後ろ に手を組んだ。

 

「そっかー。じゃあ私とアウラさんの二人でお留守番?」

「そういうこと。............とはいえ、私たちはゲームの主催者じゃないし、休戦の誓いを守る義務もない。巨人族を率いて戦う指示も出るでしょう。今は大人しく英気を養っておくことね」

 

 ローブの女性ーーーーーアウラと呼ばれた女は、口元を上品に押さえたままクスクスと笑い続ける。リリは元気に頷いて玉座の間へと続く門を通った。

 半円球形の天井は月の光が透過する水晶で飾られており、空間の中心となる場所には玉座が設けられている。

 其処に座するのは此度のゲームの〝主催者〞ーーーーーレティシア=ドラクレアだった。

 リンはその少女を見つめた後、スタスタと玉座に駆け寄り、気を失ったまま腰掛けているレティシアの前で肘を立て、顎に手をおき、 しゃがみ込む。

 

「こんな可愛い金髪美少女が魔王だなんて、箱庭の世も末かな?ーーーー今でも信じられなーい」

 

 リンは好奇心旺盛な瞳を煌めかせてレティシアを見る。

 レティシアは連れ去られた時とは打って変わり、黒いドレスに身を包んでいた。両手両足を玉座に鎖で繋がれている様は、魔王というよりは囚人である。

 月明かりに濡れて綺羅と輝く金髪に、そーっと手を伸ばすリン。

 

「ーーーーやめとけリン。その魔王は疑似餌だ。触ると襲われるぞ」

 

 ビクン とリンの指先が止まる。

 その場に響いた制止の声は幼く、少年のものだった。

 リンは主人が帰って来たのだと気付き、猫のような反射神経で振り返る。

 

「殿下 !それにおじ様!」

『一々声を荒げるなリン。そう喚かなくとも聞こえておる』

 

 続いて回廊の木陰から聞こえてきたのは、別人と思われるしわがれた老齢の声。影に隠れているため姿はおろか男女の区別すらつかないが、かなり年輩だと思われる。

 殿下と呼ばれた少年はカツカツと靴音を城内に響かせながら玉座の間に入り、リンとアウラの前に姿を現す。

 年齢は十歳から一、二歳足した程度。殿下という愛称の通り立派な身なりはしているものの、今は折角の正装を着崩している。その着崩し方や特徴的な白髪を左右に跳ねさせている外見は、少年の子供らしさを強調しているようにも伺える。だがしかし、侮るなかれ、爛々と光る金の瞳には、年不相応な物静かさが感じられ、何か途轍もない重圧を讃えていた。

 そんな彼がこの場に来たことで、彼らの作戦予定についての話し合いが自然と始まり、名無しという不明確な存在、〝名無しの貴族〞という存在も話題に上がった。もちろんクレーマーの存在はどこ吹く風に消えていった。それよりもとアウラが、戦利品ーーー〝バロール の死眼〞を披露して士気を高める。

 そこで一時話はまとまろうとしたーーーーーーその時。

 

「やっはろ〜。ーーーー皆さん、お元気かな♪」

 

「『ーーーーッ!?』」

 

 玉座の後ろに突然〝存在した〞影は美少年のような美声で愉快に挨拶を投げた。

 しかしそれに対しての皆の反応はーーーーーー等しく冷や汗と戦慄だった。

 突然現れたかすら不明だが、突然現れたことにも驚いていたが、どうにも皆の様子がおかしい。まるで、この場にいる彼らにとってその存在は致命的な存在であるかのような反応である。

 沈黙を決め込む彼らに、影の存在は今だに愉快に声を上げて愚痴る。

 

「ここには何にも用事はないんだけどね。僕、厄介な奴に付けられるようになって、しかも東で殺されかけたんだよ。本当に〝九死 に一生を得る〞 だった♪」

 

 ーーーーーーーーーー嘘だ。

 

 影以外の彼らは心の中で、満場一致の即答を漏らす。

 アウラは〝黄金の竪琴〞を支える手が震えるのを隠すようにもう片方の手で押さえ込み、リンは憮然とした態度を示すように肘をつき、玉座に背を向けて階段に座り込んでいた。グライアは息すらも呑み込んで無音を保っている。

 唯一、この中でも別格な存在、殿下が初めて会話を返す。

 

「それで何しに来たんだ?ーーー貴方の仕事はスパイと諜報、暗殺だろ?」

「だから言ったじゃないか、僕は別に君たちに特別用があって来たわけじゃないってーーーーーそれとも」

「じゃあ帰れよーーーこの際言うがな、はっきりいってアンタのキャラウザいんだよ、ただでさえあのめんどくさいストーカーを飼ってんだから、それとも貴方があのストーカーを引き受けてくれるのか?」

「NOーーーーーーー嫌だよ。それにあんなのと一緒にしないでくれないか?僕は別にストーカーはしないし〝全て〞の女性が大好きな美少年なだけだよ?」

 

 即答してきた上に、いらん返答まで返してきた影に殿下は頭を抱えてウザそうな態度を示す。そうすることで、震える拳をポケットに隠しているようで、表情にも少し無理が見え始めていた。

 そんな殿下を他所に、影は口を開き続ける。

 

「ここに来たのは、仕事の出来具合を見に来た、という名目の隠れんぼ。だから此処にきたのは誰にも内緒でお願い。口止めはーーーーーする必要はないだろう?」

 

 途端、生まれる重圧に殿下は身構えそうになるが堪える。ここで弱味を見せるのは得策ではない。こいつ相手ならなおさらだと、殿下はポケットの中で拳をさらに握りしめる。

 殿下以外はもはや身動ぎ、一つ取れる状態ではなく、逆に不安が表に出ることは無かった。

 

「口止めはもちろんのことーーーーあのストーカーにもしっかり仕事をしろって言っておいてよ?当然、僕の名前は出さずにだけど、上がうるさいとでもいっておけば大丈夫でしょ。それぐらいかなーうん!......ほんじゃ............バイビー?」

 

 耳元に囁かれたかのように聞こえた吐息の、別れの挨拶にリンやアウラは身震いし、グライアは小さく呻く。

 殿下は瞳を閉じて集中し、気配を探り、先ほどまで存在していた影がいなかったことに安堵するとーーーー思わず天を仰いでぼやいた。

 

「地獄に落ちてくれないかな、あの糞悪魔」

「皆で星に祈っちゃう?ーーーー地獄に堕ちろって」

「フフフ、なんて物騒な願い」

 

 強がりにしか見えないのかもしれないが、やはり今は冗談を言うべ きなのだろう。

 でなければ、今にも彼らは戦えなくなるのは明白だっ た。

 ーーーーーーーそれほどまでにあの影の存在はこの箱庭においても、幾百年という時を経て異質なものに変わっていた。

 幻獣や最強種そういうカテゴリーの枠組みを超えた何かなのは確かで、元の影を知る者は、影の今を知れば間違いなく驚天動地になることは確実であった。

 

 

 

 

 

####

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーー〝アンダーウッドの地下都市〞緊急治療所

 

 

 急遽用意された治療所には、怪我人が所狭しと並べられていた。

 家屋の六割が焼き払われてしまったため、負傷者の殆どが雑魚寝の状態だ。

 鎮火作業が手早く済んだのは幸いだった。巨大な水樹と川辺の街ということでその作業だけは粛々と進めることができたのだ。

 何より一番の救いだったのは、巨龍の分身である魔獣たちが消え去ったことだろう。

 巨龍が巻き起こした暴風は巨躯の魔獣たちを残らず巻き上げ、本体へと舞い戻したのだ。ゲームが審議決議に移行したため、分身を回収する必要があったのだろう。

 そしてこの場には議長のサラもいた。そのサラが相手しているのは、偶然収穫祭に参加していた医療コ ミュニティであった。

 医療コミュニティの肥満な二人、猪の獣人と豚の獣人は何処ぞの不良のような態度、クレーマーのような態度でサラと話していた。とは言っても豚の獣人は、上司の猪の後ろに控えているだけだが。

 猪の獣人は、顎の両端にある牙を光らせて、威圧的に口を開く。

 

「タダではやらん。治療を依頼するのであれば報奨は出るのであろうな?ーーーでないのであればわしらは帰らせてもらうぞ」

「っ............もちろんです。護衛も無償で付けますので、どうかお願いします」

「ふむ......ハハ......なら分かった。それと見積もりは後ほどな。払えぬ額になったら、まぁ分割で許してやる」

「ーーーありがどうございます」

 

 そんな医療コミュニティの獣人達は、嫌な笑みを浮かべて立ち去っていった。

 サラはその背を見送りながら思わず嘆息を零し、そのまま次のコミュニティのところへ向かっていくのだった。

 そんなやり取りの隅で、〝ノーネーム〞一同に悪い方の知らせが届く。

 

「あの城に春日部さん一人で乗り込んでいったというの?!」

 

  飛鳥の驚愕の声に、ジンとボロボロになった三毛猫を抱えている黒ウサギが肯定するように補足する。

 

「目撃者によると、耀さんは、魔獣に襲われた子供を助けようとして、.........」

「魔獣と共に回収された子供を追いかけ、空に上っていったということです」 

 

 その説明に飛鳥は蒼白し、十六夜は息を飲みかつ、焦りを隠せずに痛烈な舌打ちした。

 なぜなら如何に彼が強大なギフトを所有していてもーーーーー空を飛ぶことだけはできないのだ。

 

「............黒ウサギ。その話が本当なら巻き込まれて行方不明になったのは春日部だけじゃないんだろ?他のコミュニティはどう動くつもりなんだ?」

「それについては後程、〝龍角を持つ鷲獅子〞連盟を中心に会合を設ける予定です。聞いたところによると〝龍角を持つ鷲獅子〞連盟の要人も行方不明になったとうさ耳に挟みました。早ければ明日にも救援隊を組むかと思われます」

「............ふぅん。組織の要人が、ね」

 

 それなら動きも早いか、と呟いて下がる。

 春日部耀とレティシア。空を翔ける二人の同士を失った〝ノー ネーム〞一同は、もう一人の存在の不在を歯がゆく思いながら、空の古城を睨むのだった。

 

 

 

 

 

####

 

 

 

 

 

 

ーーーーアンダーウッド〞上空。吸血鬼の古城・城下町。

 

 

 

 絶体絶命だった。 春日部耀は魔獣に捕らわれていた、十人近い負傷者と子供を背に一人で戦っていた。

 耀以外は建物の影に隠れ、耀は血塊と苔の集合体のような赤黒い怪物と相対し、次々と沈黙させていった。

 形は人型で動きは速いが身体は脆く、一体一体はさして脅威ではない。

 しかしそれが何百体も集まってくれば話は別だ。バイオハザードである。

 

「フゥ..................全員無事?」

 

 ようやく静かになり、城の外郭のそばにある廃墟に身を潜めた一同。

 耀は呼吸を整えて、背後にいる〝アンダーウッド〞の住人たちに視線を向けると言葉を投げていた。

 それに代表で返したのはーーーーーキリノと、もう一人の年輩の獣人。

 

「う、うん」

「ああ。お嬢ちゃんのおかげで全員無事だ」

 

 そんな彼らはキリノと同じように魔獣に捕まり、そのまま巨龍に回収されて古城、この城下町に放り出されたのだ。命を失ってもおかしくなかったが、審議決議が受理されたことで主催者から参加者への干渉が禁じられ、無傷のまま降ろされたのだろう。

 合流できた人数は耀を覗いて七人。そのうち六人が耀より幼い子供である。つまり彼らは今、城下町を徘徊する敵に追い詰めらそうになっているのだ。

 

(............困った。キリノ一人だけだったら、飛んで逃げられるけど、 この人数はちょっと)

 

 人数オーバーなのは真なる問題じゃない。それより問題なのが、城 下町の敵だ。 彼ら怪物は、耀達を襲ってきたーーーーー停戦されているのにもかかわらず。

 

(つまりあの敵は“主催者側”の勢力じゃない。.........なら、ゲームとは無関係に住んでいる怪物?ーーーううん、それはおかしい。前提としてまず、この城は吸血鬼の本拠か何かだったはず。あんな奇怪なものが城下町を徘徊しているはずがない)

 

 ましてや此処は地上から何千mも離れた場所。元々群生していたものならばともかく、廃都となってから増殖したとは考えにくい。

 あれやこれやと敵について思考を奔らせる。

 その後ろで年輩の獣人ーーーーーー乱れた毛並みの猫耳を持つ老人が呟いた。

 

「あの植物.........多分、寄生種だぜ」

「知ってるの?」

「ああ。間違いない。苔に見える部分は胞子で、生き物やその屍骸を苗床に繁殖する菌糸類だ」

「冬虫夏草みたいなもの?」

「おお、それだ。性質が似ていることから、冬獣夏草とも呼ばれている種でな。昔は〝アンダーウッド〞でも見かけられた怪植物さ」

「胞子がとんで、鳥経由............筋は通る、かな。ありがとう、お爺さん」

「なぁに、この程度じゃ助けてもらった礼にもならねぇよ。あとジジイと呼ぶのはやめてくれ。俺にゃ 〝六本傷〞のガロロ=ガンダックって名があるんだ」

 

 乱れた毛並みの猫耳を震わせて笑うガロロ=ガンダック。

 隣に控えていたキリノはその名前を聞いて瞳を瞬かせた。

 

「〝六本傷〞のガロロ............ま、まさか、〝六本傷〞頭首・ガロロ大老ですか!?」

「.........知人?」

「いえ知人どころの話ではありません 〝怪猫のガロロ〞と言えば〝龍角を持つ鷲獅子〞連盟の創設者の御一人!かつてはドラコ=グライフと共に、南側の秩序の為に戦った御方です!」

「おいおい、いつの話だそりゃ。今は連盟のしがない金庫番だぜ?」

 

 謙遜する素振りを見せながらも豪快に笑うガロロ大老。

 サラの話では〝六本傷〞のコミュニティは連盟でも商業を中心と した組織だと聞いている。金庫番とな乗ったのはそういうことなのだろう。

 

「怪猫で金庫番.........招き猫?」

「ちょ、」

「ガアッハッハッハッハ!面白いなお嬢ちゃん!こんなむさ苦しいジジ猫に誑かされて千客万来ってなら、それこそ儲けもんって奴さ!」

 

 焦るキリノと、膝を叩いて笑い転けるガロロ。

 しかし笑いすぎたのか、すぐに傷を抑えてイテテと前屈みになる。

 

「............そういや、お嬢ちゃん達の名前を聞いてなかったな」

「わ、わたしは〝アンダーウッド〞のキリノです」

「春日部耀。よろしく、ガロロさん」

 

 キリノと耀は目礼して名乗る。

 二人が自己紹介すると一変、ガロロの瞳が激しく揺らいだ。

 

「っーーーー春日部だと?」

「うん。............どうかした?」

「い、いや、何でもねぇ。それよりこの状況をどう凌ぐ?残念だが俺は足に傷持ちだ。悔しいけど、猫騙しぐらいしかできねぇぜ?」

「うーん.........それは本当に残念」

「そもそも植物に猫騙しは、あまり意味がないんじゃないかなあ......」

 

 茶化し合う二人と、困りながらツッコミを入れるキリノ。

 しかし、現状はそれに反比例して、それほど楽観できる状況ではない。こうおどろけているのは子供達への配慮なのだろう。子供達の不安はパニックを引き起こしてしまう引き金になるかもしれないからだ。逃げる足も止まってしまうかもしれない。

 そんな中で再度作戦を練ろうと思考を奔らせた瞬間。

 絶えず響いていた気持ちの悪い水気を帯びた足音が、一斉に〝何か 〞を見つけたように止まった。

 耀だけが異常を察知し、その何かが自分たちであることに気付いた時には既に遅かった。

 蒼白して耀は呟く。

 

「.........まずい」

「え?」

 

 そしてその場の緊張が爆発するように、耀は叫んだ。

 

「囲まれたッ!逃げる準備をーーーー」

 

 ーーーーーガシャァアン!と窓を突き破ってこちら側に飛んできた物体。見れば赤黒い人型の冬獣夏草が、此方に向かってゆっくりと鎌首を上げていた。

 耀は怯むことなく敵の胴体を蹴り飛ばし、その勢いで廃墟の瓦礫を吹き飛ばしつつ背後に向かって叫ぶ。

 

「走って!」

「は、はい!」

 

 耀が五感をフル活動させて先導し、子供達は城の外角沿いを走り抜 ける。

 キリノはガロロに肩を貸して立ち上がった。

 

「悪いな、キリノお嬢ちゃん......」

「これぐらいへっちゃらです。すぐ合流してーーー」

「PURUUUUUGYAOOOOOaaaaaa!!」

 

 ハッと怪物の奇声に振り返るキリノとガロロ。

 手負いの二人に目を付けた何体かの怪物が一斉に襲いかかる。

 そこへ耀が滑り込むように二人の前に立ち、カーテンのように烈風を巻き起こして怪物たちの突撃を凌ぐ。

 

「よ、耀さんっ......!」

「こんの、しつこいっ!」

 

 烈風に更に力を込めて怪物を壁に叩きつける。動きが止まったところで菌核を踏み潰し、怪物は形を失って消えた。

 しかしそこへ背を見せたのを好機として複数の怪物が襲いかかる。合計三体の怪物がアクションを起こし、一体は後ろで瓦礫を持ち上げ、一体は突進、もう一体は赤い触手を数本伸ばしてくる。

 それに対して耀はまず一体目の突進を横によけてすり抜け、次に近い怪物から伸びてくる赤い触手、それを旋風の手刀で横にいなした。更に耀はその勢いを維持したまま奇妙な怪物に耀は肉薄する。

 

「ッ!............はぁあああ、せいやぁ!」

 

 そして確実に弱点だろう頭部に、気合を迸らせたと同時に像の力と旋風の鎧で底上げされた蹴りを横薙ぎにぶち込んで、右から左に弾き飛ばす。その場に気持ち悪い、水気を帯びたパァン!という音が響き、続け様に耀は胴体にある菌核を殴り砕いて植物は絶命した。

 そのあとも圧巻の一言、後ろから触手に片手を捕らわれるものの、 もう一体の投石を見計らって飛んできた瓦礫に上手く当てるように強引に手を引き寄せ、触手ごと怪物を引っ張り上げて、瓦礫と共に怪物は粉砕した。粉塵が軽く巻き上がってる間に耀は、瓦礫を投げた怪物の胴体を横薙ぎに蹴り飛ばし、菌核を粉々に粉砕する。

 その圧巻の戦闘ーーー攻防とは程遠いオンリーワンで豪快な戦いぶりに、ガロロは顔をひくつかせ、同時に敵地にいることを忘れて、 耀を賞賛した。

 

「と、とんでもねぇなお嬢ちゃんっ!?冬獣夏草の菌核は〝鉄塊〞みたいに硬化してるんたぜ。それをよくもまあ簡単に砕けるもんだ!.....本当に人間か?」

「うん。DNA的には人間」(あまり皮膚に直接触れないようにしないとーーーーー匂いからしてヤバイもん)

 

 冗談が通じなかったガロロを他所に耀は思考を別なことに奔らせて切り替えた。

 

(............確かにおかしいなあ。ここの敵も決して弱くないと思うんだけど)

 

 耀は怪物たちの末路を一瞥して小首をかしげる。この敵も一体一体は決して弱くはない。

 今まで戦った敵で近しいと言えば〝フォレス・ガロ〞のワータイ ガー・鬼化したガルドと同等ぐらいだろう。

 それを無傷で十三体も破壊した。好調の一言で済ませていいものではない。

 しかしいくら考えても答えはでない。

 そんな時、離れた場所から子供達の悲鳴が響く。

 

「きゃああっ!」

「っ.........二人とも歯を食いしばって!」

 

 耀は間髪入れずに二人に叫び、首を傾げる二人に構わず両手から発生させた旋風で絡めとって持ち上げた。

 

「きゃ、わわ!」

「うおおおぉ!よ、耀お嬢ちゃん!こいつはグリフォンのギフトじゃねぇか?!どうしてお嬢ちゃんが、」

「舌噛むから黙ってて!」

 

 珍しく叫ぶ耀。それだけ余裕が無いのだ。最悪の事態がすぐ目の前まで来ている。

 耀は素早く浮上し旋回して、外郭沿いを空気を踏みしめて疾走する。悲鳴が聞こえたということはーーーーーーーそのあとは考えたくもないが、そうもいかないはず。

 最悪の事態が脳裏を掠め、背筋に悪寒が靡き、冷や汗を掻いていた耀だったがーーーーー途端、聞いたことのある道化の声が鼓膜を揺さぶり、

 

「ーーーーーーYAッFUUUUFUFUUUUUuuuuuuu!」

 

 刹那、紅蓮の風が吹き抜け、熱が辺りに迸る。

 

「今の声.........この炎.........まさか......っ!」

 

 耀が外郭と廃都の交差路を左折すると、熱風が頬を撫で、視界が紅く瞬く。

 其処で暴れていたのはカボチャの幽鬼ーーージャック・オー・ラン タンだった。

 瞬時に炭となった敵を巨大な両手で叩き潰すジャックは、高らかに笑い声を上げて子供達を誘導する。

 

「ヤホホホ!呼ばれていないのにジャッジャジャーン!大丈夫ですか、お子様達?」

「は、はい」

「それは重畳!こやつらは私が引き受けますから、其処の建物にお逃げなさい」

 

 ヤホホホ !と陽気に笑いながら両手に下げたランタンを振り回し、業火を撒き散らすジャック。巻き込まれそうになった子供達は我先にと廃屋になだれ込む。ジャックのどでかぼちゃの頭に乗っていたアーシャはそれを確認し、ぼそりと呟いた。

 

「全員隠れたよ、ジャックさん!」

「.........わかりました」

 

 途端、声に重さが増し、空洞の瞳には普段の穏やかな灯火はない。

 今にも焼き尽くさんばかりの怒りが、炎の形を作り、頭蓋の中で燃え上がる。

 

「ーーーー〝ウィル・オ・ウィスプ〞の御旗を前にして、幼子を食い殺そうとするとはいい度胸だ。その無知な知性を己自身で呪い、その身 を持って我らの大義の重さを.........」

「............ジャック?」

 

 耀は遠くから呟くが、その声は彼に届いてはいない。明らかに普段の様子とはかけ離れている。全身から陽炎を立ち昇らせているジャックはギョロリと、敵を睨み、

 

「ーーーーーー知らぬなら、知ろうとさえしないのならば、我が業火の中で学んでいきなさい。我らが蒼き炎の導を描きし旗印は、決して幼子を見捨てはしないのだとッ!」

「おうさ!やっちまおうぜジャックさん!!」

 

 パチン とアーシャが指を鳴らすと、頭上に七つのゲヘナが宿るランタンが顕現する。蓋を開くと同時に、荒ぶる炎がこぼれ落ちて膨れ上がった。

 耀の隣に浮いていたガロロは蒼白になって戦慄し叫ぶ。

 

「おいマジかよっ!地獄の炎をそのまま召喚するなんぞ、そんじょそこらの悪魔に出来る芸当じゃないぞ?!城下町ごと焼き尽くす気か!」

「......... 、 此処危険?」

「超危険!逃げろ、耀お嬢ちゃん!!」

 

 その後のことはあまり覚えてはいない、というより視界が炎に染まったとしか言いようが無かった。はっきり言って耀は死ぬかと思っていた。味方の攻撃で死ぬとか冗談ではない。

 しかしそんな出来事すら、ギフトカードに現れた紋章によって霞んでしまった。

 ーーーーーーそれはペナルティ条件を満たしたことを知らせる“ペナルティ宣告”。

 ゲームをクリアしなければ自分たちは、この土地の血肉になる。

 つまり脱出を模索していた彼らに、もはやどこにも逃げ場は無かった。

 

 

 

 

 

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