新・問題児と人の神が異世界から来るそうデスヨ 作:行くよ!!!!
あけましておめでとうございます。
いやー普通にコウリュウさんは、会えなかった!!!
申し訳ございません。
1月はがんばります!!
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─────〝アンダーウッド〞収穫祭本陣営。
一夜明け、大樹の中腹にある連盟会議場に十六夜たちは足を運んでいた。集まったコミュニティは以下の四つ。
〝一本角〞の頭首にして〝龍角を持つ鷲獅子〞連盟の代表・サラ=ドルトレイク。
〝六本傷〞の頭首代行・キャロロ=ガンダック。
〝ウィル・オ・ウィスプ〞の参謀代行・フェイス・レス。
〝ノーネーム〞のリーダー・ジン=ラッセルと逆廻十六夜、久遠飛鳥。
黒ウサギは会議の進行役として前に立ち、バサッと委任状を長机に 置いて切り出した。
「えーそれでは此れより、ギフトゲーム 〝SUN SYNCHRO NOUS ORBIT in VAMPIRE KING〞 の攻略作戦の会議を行います!他コミュニティからは今後の方針を委任状という形で受け取っておりますので、委任されたサラ様とキャロロ様は責任ある発言を心がけてくださいな」
「分かった」
「はいはーい!」
誠実な声音で応答するサラと、鉤尻尾を振って応答するキャロロ=ガンダック。
後ろに座っていた十六夜は、キャロロの特徴的な鉤尻尾を不思議そうに見つめて問う。
「アンタもしかして、二一○五三八○外門で喫茶店をやってる猫のウエイトレスか?」
「そうですよー常連さん。何時も御贔屓にありがとうございます♪」
「彼女は〝六本傷〞の頭首・ガロロ=ガンダック殿の二十四番目の娘でな。ガロロ殿に命じられて東に支店を開いているらしい」
「ふふ、ちょっとした諜報活動です。常連さんのいい噂も父にちゃんと流れてますよ?んふっ」
へぇ、と感心したように相槌を打つ十六夜と飛鳥。思い返せば彼女は出会った時から情報通だったが、まさか南側の間諜だったとは思わなかった。
十六夜と飛鳥は新しい悪戯を思いついたとばかりに顔を見合わせ、 ニヤリと笑う。
「なるほど。一店員の筈のアンタが、南の収穫祭に招待されていたのはそういう理由か。............しかしそんな秘密を聞くと、今後はあの店に入れなくなるよなぁ、お嬢様?」
「そうよねぇ。あのカフェテラスで作戦を立てていたことも、全部筒抜けだったんでしょ?怖くて今後は使えないわ」
「此処は一つ、二一○五三八○外門の〝地域支配者〞として、地域に呼びかけておこうか?『〝六本傷〞の旗本に、間諜の影あり!』とかなんとかチラシでも打ってなー」
十六夜と飛鳥は周りにも聞こえるような、ノリノリの声音で話を進める。
一方のキャロロは目を見開き、猫耳と鉤尻尾を跳ねさせて焦り始めた。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ?!そんなことされたらうちの店がやっていけなくなりますよ!」
「あら、そんなの知ったことじゃないわ。私たちには地域発展と治安改善の義務があるのだもの。表立って諜報活動をしている喫茶店なんて、放っておけるはずないわ」
「それを見逃して欲しいって言うなら.........相応の態度ってものがあるだろ?」
ニヤニヤと陰湿な笑みを浮かべて、悪魔のごとし問題児二人がキャロロを追い詰める。その図はさながら悪代官と賄賂を求められている商人のよう。
キャロロは半泣きになり、指をクルクルと回しながら瞑想するようにそっぽを向き、断腸の思いでーーー。
「こ.........こ、これからは皆さんに限り当店のメニューを格安サービス一割引きに……」
「三割だ」
「三割ね」
「うにゃああああああ!!さ、サラ様ぁ〜!」
キャロロは二人の問題児を前に儚く散り、サラの胸に泣き叫びながら飛び込む。
「よしよし。此れからは自分の役目をバラすような、頭の悪い発言はやめような」
優しく頭と猫耳を撫でながら、割とシビアに答えるサラ。
当の加害者達は被害者の苦しむ顔を見て罪悪感を抱くところか小さくハイタッチして、飛鳥は開き直ったような口調で口を開く。
「逆にこの程度で済んだことに感謝して欲しいわ。何せ、私たちの同士には─────
亜音に限ってそんなことはないだろう─────が、飛鳥は二つ名だけを利用しているので、亜音の事を知らないキャロロには、驚くと共に心の中に安堵をもたらしていた。
そんなキャロロを他所に、飛鳥の言葉に眉を潜めた十六夜が飛鳥に問う。
「ウチにクレーマー?だれだ─────って、おいおいまさか亜音のことかっ?」
十六夜は最初は誰か分からなかったようだが、この場にはいないという所から消去法を使って、意外そうな顔付きで一つの名を口に出していた。
それを聞いた、主に〝ノーネーム〞の同士達が過敏に反応を示す。
「そういえば十六夜君は知らなかったわね。亜音の......ぷぷ、二つ名。ぷぷ」
「飛鳥さん、そんなに笑ってしまうと......ぷぷ、亜音さんに失礼なのです......ぷぷ、よ」
飛鳥と黒ウサギが笑いを噛み漏らし、ジンはもう慣れたのか苦笑いを浮かべている。
十六夜は意外そうにへぇーと関心し、サラはハッとその存在を思い出して質問をしようとするが─────その場に、コンコンとノックの音が鳴り響く。
その場の全員がその音に怪訝になり、サラが真剣な面持ちで出入り口の扉の前に立ち、扉を挟んで伝令と小声で話を交わし始める。
「何かあったのか?」
「いえ、御客人でございます」
「今は会議中なのだがーーーー」
「お相手が、急用の事で名前を出せば分かると」
「誰だ?」
「医療専任コミュニティ〝ブレイズ・オブ・ライフ〞のリーダー、〝アイザルク・ロンヘーバルト〞様とそのお付き〝ランパン・ゼトゥクルツ〞様の御二方であります」
「.........っ.........はぁ、わかった、通せ」
「はっ!」
サラは少し顔色を悪くして了承し、伝令はそれを受けて扉から去っていく。
そんな額を押さえているサラの様子に皆が心配そうに見つめいているのだった。
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数分後、伝令の案内によってズカズカと会議室に入ってきたのはーーーーー猪の獣人と豚の獣人の二人。
猪の獣人は白衣の下に黒スーツとネクタイを着込み、気位の高さを醸しており、外見的特徴から猪と人の亜獣であると予測できる。小さな牙を生やし、猪顏と肥満な体躯だ。
そんな猪の後ろでペコペコして気味悪い笑みを浮かべている豚の獣人は、頭部に茶色の髪をミドル気味に生やし、手足はちゃんと五本に分かれていて、やはりお腹は白衣から突き出てヘソの〝X〞 が露出している。基本的に豚と人の亜獣に白衣と黒ズボンを無理矢理着せている感じだろう。少し服が軋んでいるのは愛嬌だろうか。しかしそれらを打ち消す程のものが、二人の白衣の胸に刻まれ、その刻まれている紋章は木の杖に蛇が巻きついているものであった。
そしてその紋章はこの箱庭で知らない者はいない程に実績を持ち、主に医療の面で活躍しているコミュニティの旗印のモチーフ、 ギリシャ神・アスクレピオスが持つ杖、現代の外界でも世界規模で有名で、医療の機関に用いられている〝アスクレピオスの杖〞 の紋章だった。有名も何もまさか─────こんな所で上層の旗印を飾るシンボルマークを拝むことになろうとは思いもよらなかったのだろう、 黒ウサギ、ジン、キャロロは同じように驚愕している。十六夜と飛鳥は少し関心する程度に留まっていた。だがその紋章のすぐ横に、白地に黄色い光が斜めに降り注いでいる日光と希望のようなモチーフの旗が刺繍されていたので、傘下のコミュニティなのだろう。驚いていた三人はすぐに察して落ち着いていた。
そんなサラ以外が二人の外見に呆気に取られている間にも、サラと客人の話は進み、問題を増やすように客は結論を出す。
「わしたちは帰らせてもらうぞ?応急処置はしてやったのだからな。みすみす死にたくもない。巨人族が一体だけならでかいだけの“雑草”に過ぎんが何分、圧倒的に数が多い。さらに、休戦期間が終われば今度は魔獣が再度降ってくる─────アンダーウッドは終わりだな?」
「無駄に死ぬのは勘弁ですねぇ。故に今すぐ治療費を貰ってここを去ることにしましたのデス」
サラは今の言葉に憤慨しそうになるのを拳を作って我慢する。
その理由は明確だ、自身の治めるコミュニティがみすみす無駄に全滅し、加護を約束した土地を〝龍角を持つ鷲獅子〞が見捨てるだろうと目の前で告げられたようなものなのだから、だが相手の協力は必須、故に怒れない。
彼ら、“ブレイズ・オブ・ライフ”の技術は侮れない。下層においては“恩恵”もち入らずして、右に並ぶものはいないと言われている。加えて、その技術は秘匿されており、パイプも多い。故に上層も無下にはできないほどのコミュニティだ。
(戦時の今、彼らの協力無くして、乗り切るのは厳しい。しかし、私でも彼らの立場なら即座に撤退するっ、)
何せ空には、神霊の類すらも圧倒しうる生命体が蠢き、いつでもアンダーウッドを粉砕することができる状況だ。
サラはなんとか平静を保つように細く息を吐いた。
一方の外野は─────────いらぬ問題を持ってきた、場所も場所、十六夜達はそれぞれ特有のウザそうな顔を浮かべている。
これから仲間の為に命を賭けて戦おうとしている自分たちの前で、いい度胸をしていると言えよう。
サラは少し取り乱しながらも、冷静にゆっくりと口を開く。
「……そ、それでは少し話が違います。最後まで治療をし、私と共に戦ってくれると………」
「馬鹿か。わしは別に応急処置は行うとだけ言ったはず、その通りにわしは応急処置を終えた、契約は果たされただろう?」
「ここに請求書を用意しましたデス!」
お付きの豚の獣人がサラにかしこまりながらも影を差した笑みを浮かべて、一枚の羊皮紙を手渡す。
それを受け取ったサラは思わず大事な契約書を握りつぶしそうになっていた。流石に大事な書類なので、我慢したのだろう─────まだシワが寄ったにすぎない。しかし顔は何かの間いだと、そう言ってるかのように唖然としていた。
サラは唖然としながらもこれは問わなければならないので、少し怒気を含めたような低い声を発した。
「これはっ、どういうことだ ............この額は、」
「フン─────当然だろう。自分の命すら危険な現場で、〝出張〞治療なのだからなァ?」
「デスデス」
「何が当然だ、この額は─────〝龍角を持つ鷲獅子〞、〝大連盟〞の全財産の三割に相当、いや超えてさえいるかもしれない金額だぞ!?」
は?─────それを聞いた十六夜、ジン、黒ウサギ、飛鳥、 キャロロはあからさまに口を半開きにして目を見開き、クールに沈黙を保っていたフェイス・レスも肩を咄嗟に揺らしていた。それ程までに馬鹿げた金額だとは、誰もが想像できる。なぜなら〝龍角を持つ鷲獅子〞─────〝大連盟〞のと言ったのだ。その中にはもちろん、商業コミュニティの〝六本傷〞も含まれている。その全ての財産、税のように共有しているだけの財産だけだとしても、上層コミュニティでも用意できるか難しい額なのは間違いない。故にこれは詐欺だと、誰しもが思って確信したことだろう。
そんな堂々とした詐欺、財閥の娘は許さない。不倶戴天の真逆を精神に宿す飛鳥が青筋を立てて倍返しにしようとした時─────不意に隣から紡がれるぶっきらぼうな声。
「おい、猪。─────自分のギフトカード見てみろ」
突然、放たれた意味不明な命令、豚の獣人が無礼を問いただそうと 前に出ようとするが、
「見ろ」
「ぐっ............コイツっ!」
「待て、ランパン。─────貴様、ギフトカードを見ろとはどういうことだ?」
猪の霊格が少し膨張し会議室が軋む。
しかし十六夜は飄々とした態度で、笑みさえ浮かべて挑発めくように。
「見れば分かるだろうよ。だいぶおもしれえことになってると思うぜ?」
眉を顰めて殺気に満ちた視線を十六夜に向け続けていたが、数秒間の沈黙の後、白衣の下に着込んでいたスーツの懐に手を差し込む猪の獣人。
その十六夜の意図に気付いていないのは─────現状を知らぬ、 逃亡支度をしていたものだけだろう。
だから、この中で一番に驚愕したのはもちろん、獣人の二名である。
「なっ......これは............まさかっ .........ペナルティ宣告ッ!?」
「デ、デスが私の方には─────」
十六夜は豚の獣人、ランパンと呼ばれていた者の反応をつまらなさそうに一瞥し、思考を走らせながら呟く。
「まぁ、そういうこった」
「だが、どういうことだ?ーーーなぜわしには現れてコイツにはない?」
「それはおそらく猪のおっさんは魔獣とやりあったんだろ?で、そっちの従者はやってない。そして魔獣は巨龍の一部で分身で化身、加えてゲームマスターと交戦した場合のみのペナルティ、アンダー ウッドを攻めてきた敵の中で吸血鬼のゲームの刺客は〝魔獣〞のみ、 そこから導き出せるのはゲームマスターと巨龍は同一だということ、そうとしか考えられない。つまりゲームマスターに魔獣も含まれんだろうよ─────だから逃げても無駄だぜ .........十日後には文字 通り血の肉になるだけだ。ま、それは嫌だよなァ?」
十六夜の鋭い視線が二名の獣人を容赦なく射抜く。
その覇気に豚の獣人は後ずさり、猪の後ろに後退していた。しかし猪はその威圧的な視線を物ともせずに堂々としている。その様子に十六夜は鼻で笑った後─────その瞳に猪の顔を濃く 写した。あの余裕の態度から、ただ単の脳天気と読み取ってもおかしくはないが─────先ほど出たセリフ『巨人族一体だけなら、雑草に過ぎない』、そう吐き捨てられる者は今の〝龍角を持つ鷲獅子〞には早々いない。ここだけの話、戦闘特化のコミュニティ、二翼のリーダーぐらいだろう。つまりは彼もまた相当の実力者。だから十六夜は彼がペナルティにかかっていることを予測し、この〝アンダーウッド〞において魔獣と遭遇しない確率はほぼ無いだろう、ことから確信したのだ。猪の場合、逃げるより殺った方が早いのだろうしなと。
十六夜はあらかた空気がこっちの方に落ち着いてきた所で─────締めの言葉を吐き捨てる。魔王風に嫌な笑みをはにかんで。
「それで?.........こんな逃げ場の無い状況の中、少しでも戦力を補強したい連盟から財産をぶん取って、その時まで金にまみれながら最後は血肉として共倒れするか?まぁ、いい獣肉が手に入ると考えれば それも悪くねーのかもな?」
「こ、このガキめぇ......ブゥゥ...どうします、アイザルクさまぁ?」
「............っ、」
ランパンの問いにアイザルクと呼ばれた猪は、沈黙しながらもその表情には焦りが見え隠れしている。その大きなわけは彼の視界の端で点滅している、彼の手にあるギフトカードに浮かぶペナルティ宣告の紋章。それは死へのカウントダウンが始まっているぞ、と告げているようなもの、身に這い寄る冷気は幻想なんかではないのだ。加えて獣は人間より遥かにそういうのに敏感、弱肉強食を生き残る為の生存本能が危険信号を冷気として放っているのだろう。二人の額には汗が滲んでいるーーーーこのままでは死ぬということを身を持って把握した瞬間であった。
さらに十六夜は付け加えるように─────相手の胸を借りるが如し、同じように突き放す。
「あと言っておくが、金をぶん取ってなおかつ非協力的なコミュニ ティを助ける気はサラサラねーからな? 優先順位にすら入れねぇ。さあてーーーーどうする?」
十六夜の知略にサラも呆然とその様子を見つめていることしかできず、その知略を受けたアイザルクは苦々しい顔をしながら─────、
「っ..............また〝改めて〞請求書を用意する。─────引き続き応急処置も行ってやる」
「物分りのいいことで」
「フン!しかし我らは戦うことはせんぞ.........医者が命を賭けて戦うなどありえん。医者が力を持つのはあくまで自分の身を守るためだからな」
「ハッ............本当に...優秀なんだな、医者は」
「いくぞ............」
「あ、は、はいぃっ......!」
アイザルクはドスの効いた声発して白衣を揺らし、サラから契約書をぶん取ると十六夜達に背を向け、足早に歩み出す。
その背をランパンは慌てながら追いかけていくのだった。
その様子を静かに見送った彼らの内─────飛鳥は十六夜に不 思議そうに話しかける。
「十六夜君にしては随分と穏便かつ的確に攻め落としたわね。どんな 風の吹き回しかしら?」
「最初は別に穏便に済ませるつもりは無かったが、議長殿が泣きそうになってたから、な?」
「私は別に泣いてなどないよ.........」
サラは小さく苦笑いしながらそう呟く。しかし事態は思わない方向に─────先程のお返しではなく、先程のお礼のようにキャロロがサラの所まで歩み寄り、手を掴み上げて握りしめると─────、
「サラ様.........大丈夫です、今度は私の胸を貸してあげます!!」
「い、いや、そういうことでもないんだが......な」
サラは別に本当に泣いてなどいない。本気にしているのはキャロロぐらいであり、故に逆にサラが置いていかれているのだ。
だがその時、どんな風の吹き回しなのか、今の今まで静観していたフェイス・レスが手を上げて助け舟ーーーーー?
「そろそろ、いい加減に話を進めていただけますか?」
普通に怒られただけだった。
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─────〝アンダーウッド〞上空。吸血鬼の古城・城下町。
一夜明けて、城下町に連れ去られた者達も一息つくことにした。上空ということでやや風が強く肌寒いが、夜風を凌げる程度には廃屋も使える。最初は水と食料に不安がある耀だったが、その問題は早々に解決した。
ガロロとジャックがギフトカードに水樹の幹と乾燥食材を常備していたからだ。
二人曰く、〝対魔王を謳うなら持久戦の備えは必須”〝水を確保 できるギフトは命綱〞らしい。それらを当然のように持ち合わせることを可能にしたのが─────かの有名な〝サウザンドアイズ〞の 大幹部、〝ラプラスの悪魔〞が対魔王用に作り上げた逸品、〝ラプラスの紙片”である。これを所持しているか、いないかでは両者の生存率に大きく差が出る程に重要なギフトなのだ。
そんなこんなで話は次のステップ、これからどうするか?という話になり、耀が珍しく意見を出した。
「私は............全員で此処に残って、ゲームの謎解きに挑むべきだと、思う。」
これにはガロロも難色を示した。なぜなら耀の意見はつまり、子供達と一緒にこの街を探る、ということだったからだ。子供達を戦わせるのは危険すぎるだろう。だが今は審議決議中で安全である上に、子供達の強い決意が空気を後押して全員が戦う覚悟を決めた。
其処から話は、ゲームの謎を解くために必要な歴史─────吸血鬼の歴史へと変わる。
箱庭の吸血鬼は外来種であり、遥か昔の文献には故郷に居られない理由が出来たことで一族ごと箱庭に逃げ延びたらしい。加えて彼ら吸血鬼が〝箱庭の騎士〞と呼び称されるようになったのは、太陽の恩恵を受けることができる箱庭の都市を守るためだという。故郷では決して浴びることのできなかった太陽の光を享受できる箱庭の環境は、吸血鬼にとって夢のような場所だったに違いない。
しかしここで疑問が浮上する─────箱庭を守る役目は〝階層支配者〞のものであり、なのに〝箱庭の騎士〞として二つ名を有していたその理由、吸血鬼の一族は一時、〝階層支配者〞だったのではないか?─────だが、これには簡単に解答が用意されていた。
そもそも箱庭の開闢の時には〝階層支配者〞制度がなく、当時は〝 外門の支配者〞っていう門番がいたらしい。故に当時はどこもかしこも魔境地獄、独裁が当然の世界だったのだ。そんな末世だった下層に秩序を取り戻そうと旗を上げたのが〝箱庭の騎士〞ーーーーつまりは吸血鬼の一族である。彼らはその持ち前の力と知恵、勇気を持って次々と魔王を蹴散らし、箱庭は安定期を迎えることに成功した。そのあとは〝箱庭の騎士〞を中心に全外門で共通の規定を定め、法整備をし、〝階層支配者〞と〝地域支配者〞 制度を設け、東西南北の下層を見守る〝全権支配者〞として広く認められることとなった─────だがしかし、そこで悪夢が訪れ、吸血鬼の一族達は自軍の王によって虐殺されることになる。
─────それを行ったのが、〝串刺しの魔王〞─────僅か十二歳という幼さで〝龍の騎士〞まで上り詰めた〝最強の吸血姫〞、レティシア=ドラクレアだった。
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フェイス・レスに怒られて─────コホン、と咳き込んで黒ウサギは進行を開始する。だがその前に─────ここにはいない、ある人物の話に触れることとなった。その人物がアンダーウッドに来れば間違いなく勝利を呼び込める、それ程の希望をノーネームの皆に抱かせていたのだが、黒ウサギは暗い表情で告げた。
「昨夜、サラ様に無理にお願いしてまで使者を〝ノーネーム〞の本拠地へ送って貰ったのですが、非常に残念な事に─────使者を送ってもらう前から少しそんな予感はしてはいたんですが、やはり最悪なことに亜音さんはもう箱庭の外に出てしまってたらしく、連絡が取れなかったようなのですよ............」
Oh...............とあからさまに嘆息するノーネーム一同。
流石の十六夜も苦虫を潰したような表情を浮かべる。
飛鳥はこめかみを優雅に片手で押さえ、思わず呟いた。
「こんな肝心な時に.........流石は〝貴族〞なのかしら?」
「ハァ............やれやれ、あいつもつくづくタイミングが悪い」
「...............本当なのですよ」
「はは............ははは.........はぁー」
ジンは自分以外の反応に苦笑をした後、やはり皆と同様に嘆息を零 していた。
しかしそこで、何か途轍もない重圧が沈黙の女騎士より放たれてい ることを悟った黒ウサギは慌てて気を取り直すようにウサ耳をピン!と伸ばし、姿勢を正すのだった。
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箱庭・東2105380外門、噴水広場。
「白夜叉様が仕事を放棄するなんて............何かあったのでしょうか?」
「何処かで遊んでいるだけではないのか? 何かあったとしてもあの御方なら解決するのは容易いだろうしな」
月夜の下、噴水の前で優雅な白と水色の着物を羽織る白雪姫とサウザンドアイズ支店の割烹着を着た女性店員がそう会話をしていた。
この東の地には〝神殿建設〞の計画予定を建てるために二人はやって来ており、その指導者である肝心の白夜叉を待っているのだが、昨日の夜に上層へ行ったきり連絡が取れず、今日まで来てしまっていた。
そして二人はまた仕方なくサウザンドアイズ支店で朝を迎え、次の日となったのだが─────朝になってサウザンドアイズの警備も兼ねている使者が噴水広場を訪れていた二人の元にやって来てーーーーーー。
「ま、魔王が現れました!!」
その声に周りの人達も怪訝な表情を浮かべ、三人の様子を伺っていた。
だが周りを気にしている暇は無い事は─────使者の様子を見れば分かる。故にこの場を動くことは三人はしない。
女性店員が視線で白雪姫を制して、使者の前に出ると─────。
「とりあえず落ち着いて下さい、私が話を聞きますから。何処でどういう状況かしっかり説明してください」
そこからはまるで、台本のような出来事の話だった。
北、東の階層支配者の元に魔王が同時襲来。南の収穫祭には“最強種”が顕現、巨人族の来襲。まさか白夜叉に連絡が取れなかった理由が、 魔王襲来とは悪い予想が的中してしまった。いや今はそれ以上のことがこの箱庭で起きている。とてつもなく大きな歯車を動かしてい る〝巨大な力〞が事件の裏で脈動し渦巻いているのを─────二人は同様に感じていた。
使者は簡単に起きている事を言った後、さらに付け加える。
「昨夜から始まった襲撃らしいですが、パニックを防ぐために情報を遮断していたようで、今になって開示されたのは、もう〝ここまで〞被害が及び始めているからとのことですっ!」
「ちょ、ちょっと待ってください─────今、ここまでと言いましたか!?」
「はい。昨日の夜、東と北の境界壁に現れた魔獣の軍勢が下層を侵食するように─────」
白雪姫はトーンを抑えて話していた使者に〝先にそれを言え〞と言いたかったが、周りにこれが伝わればいらぬパニックが起きるのは明白、故に白雪姫は辺りの気配を探るべく瞳を閉じて集中力を高め始める─────その途端だった。
─────空から何かが飛来して噴水を豪快に粉砕し、遠くの方で数多の雄叫びが木霊してきた。
『KYAAAAAAGYAAAAAAEEEEEEEEEaaaaaaaaeeeeeeeeeeeAAAAAAAAaaaaaaaaa!!』
「ぐっ...............水神様、これはっ?!」
「この霊格............まさか、あの最古参の眷属かっ!」
粉塵の奥に光る鋭利な眼光─────視界が晴れればその醜い双頭のトカゲが姿を現し、奇怪な産声を上げた。同時に周囲から爆発するように悲鳴が上がり、一気にパニックになって行く。
白雪姫と女性店員は流石と言うべきか、使者と共にすぐに後退しながらも敵を見続けていた。そして使者はというと、『そんな馬鹿なまだ二つ外門を挟んだところまでしか...... 』と走りながら呻いている。
女性店員は走りながら薙刀を取り出し、期待の視線を水神の白雪姫に送るが、白雪姫の顔色は相当悪い。つまりはっきり言って神格を持つ水神でも、この状況を打破することはできないのだ。むしろ逃げ惑う下層の住人、彼らと同じ扱いを怪物達にされてもおかしくはない。加えて続々と双頭龍の後ろに魔獣の軍勢が這ってきている。さらにこちらは撃退しようにも誰しもが勝手に動き、統率は取れていない。
そして突然の襲撃故に十六夜達の知る所ではなく、援軍は呼べない。南にもこちら以上の生命体が来ている。援軍所ではないだろう。何より今から襲撃のことを伝えることもできない。外門を起動する前に魔獣を駆逐しなければたちまち追いかけられて殺されるだけなのだからーーー携帯って便利なんだなーと心底、身震いする程に思える状況だろう。
「とりあえずだ、本命の敵がその気になる前に作戦を立てる─────異論はあるか!?」
「無いですね。ですがその前にまずは─────目の前の雑魚を蹴散らして道を作りましょう!」
目の前には多種多様な系統樹を示した魔獣が回り込んでいた。
それに対して白雪姫は手の平に水流の塊を召喚し、女性店員はその間に疾駆し魔獣の足や腕などを華麗に切り落としていく。そしてそこへ白雪姫が濁流並みの規模を有する水流を流し込み、後方へと吹き飛ばした。さらに水流を柱の如く渦巻かせて、竜巻を起こし街ごと魔獣を蹴散らしていった。その光景に流石は神格保持者と─────そう思っていた女性店員だったが、竜巻は唐突の火炎放射によって掻き消され、辺りは白い煙に包まれた。その奥にはもちろんあの最古参の眷属、怪物達の中でも途轍もない霊格を有する存在、白き双頭龍が鎮座するが如く這っていた。
「化け物め............悪の化生は伊達ではない、ということか......ッ!」
「─────水神様、やはり此処は破棄し援軍が来るまでの時間をできるだけ稼ぎながら他の眷属たちを集中狙い、三頭龍の分身体は無視するしかないと思うのですが、」
「うむ、相手は強いとはいえ、奴らは獣。我らほど頭が回るわけではないからな。しかし.........援軍か」
「水神様が思ってる通り、白夜叉様は援軍に来ようと思えば一瞬で来られるはず。ですが来ないということは来れない状況にいるということでしょう」
「となると─────三頭龍の神霊級が複数いる可能性が高いか?............であれば手こずるのは間違いない。なにせ目の前に居るので二世代目だからな」
そこから白雪姫と女性店員、使者の三人は魔獣達の軍勢から五、六百メートル近くまで後退し、その場所の建物の影に隠れて、肩で息をしながらも話を続ける。
「唯一の頼みの綱は残念なことに下層の中では〝ノーネーム〞だけです。しかし今は南にいるのでしょうから─────やはり援軍はむ」
女性店員が自らの提案を引き下げようとしたその時─────白雪姫が真剣な表情で。
「いや、ひとり、本拠に残っている。それも相当の実力者がな」
「もしかして.........亜音さんですか!?」
女性店員のテンションの上がり具合に少し違和感を覚えた白雪姫だったが、今はそれどころでは無いので、話は進んでいく。
「─────少し気に入らんが、そうだ。しかし............聞いたところによると、午前はいつも箱庭の外に出ているらしい」
喜々とした女性店員の顔がどん底に暗く下がる。だが、それでも一つの目安ができた。
現在時刻は十時近く、残り数時間持ちこたえれば─────亜音がやって来る。
女性店員は建物に背を預けながらも、薙刀を持つ両手に力を込め、
「だとしたら─────やることは決まっています」
「そうだな。三頭龍の眷属はともかく、少なくとも─────他の眷属たちは我らで始末する!使者のお主は近くにいる戦力を集めろ、 戦う必要はない」
「わ、わかりました!」
そうして三人は建物の影より飛び出し、戦争へと足を踏み入れていくのだった
・エンディングテーマ《Blizzard》歌:三浦大知
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