新・問題児と人の神が異世界から来るそうデスヨ   作:行くよ!!!!

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・オープニングテーマ《ALONES》参照先アニメ《BLEACH》


第九話「決戦までの戯れ、お嬢様の憤。ーーー虚実の再会」

 ──────約束を交わした日より幾百年過ぎたのか。

 そう呟きながら彼と彼女はそれぞれの居場所で、遥か遠い夢の中を泳ぎ始める。

 暗闇を通り過ぎ、星屑を眺めた先には、懐かしき日々が花火のように、そしてその輝きは散ることを知らず永続的に咲き誇り、二人は〝 知らずに〞其処へ誘われた。

 幸福な日々の〝夢〞が現実から目を背けるための脳内仕様であり、 精神のバランスを保つバランサーであると巷で囁かれていることを。 現実が幸せなら悪夢を、現実が悪夢なら幸福を。

 だからこそ二人は夢の中で──────時を越えて虚実の再会を果たす──────。

 

 

 

 約束を交わしたというよりは、半ば無理やり幼なじみの親友という関係、縁を作られたと言った方が正しいのだろう。──────はっきり言って、最初は憂鬱としか感じなかった。けれど、重ねた月日、年月は色褪せることを知らない。

 戦陣の奥で輝く金色の髪、修羅神仏がのサボる暗黒魔境さえも簡単に塗りつぶすような漆黒の刃で切り裂いていく王の貫禄。

 いつの間にか彼女の背中は一種の憧れとなっていたのかもしれな い。

 ヴォルフは子供から一人の少年になった顔で空を見つめていた。

 上の空はいつも通り、晴天に雲が気持ちよく個性を発揮させた特有の形で漂う、華やかな爽快さを放っている。──────そんなお気楽な空を見上げてヴォルフは、遠い記憶をたぐり寄せて再び辿り始める。

 ここまでくるのに途轍もない時間が掛かった──────あの約束を果たすために吸血鬼の訓練に参加することになり、毎日拷問よりひどい稽古をこなしてきた。元々はレティシア姫が師と成りてしごくつもりだったらしいのだが、レティシアのお付きのカーラ侍女頭が『貴方のようなみすぼらしい根性無し、レティシア姫殿下が直々に教えを説くことなどありえません。──────ですが、そうですねー…………五、六年、兵舎に放り込み、その中でも生き残れていたら考えましょう』などとほざき、ヴォルフは吸血鬼の兵舎の中で一人孤独の毎日を過ごした。しかしヴォルフはそれほど飲み込みは良くなく、 悪ガキだったので──────当初は『ざけんじゃねーよ、メイドのくせに』 と口にしていたが──────。

 

「サボりですか?──────ヴォルフ=レイヤ」

「そ、そんなことはございませんよ。カーラ女王様」

「ふふ、そんなに死にたいのですか?」

「カーラ侍女頭様」

「よろしい、よろしくはないけどもよろしい──────本来、メイドに様をつけることは無いのですから」

 

 という風に──────今では悪ガキも物覚えよく丸くなって、レティシア姫以外にもちゃんと敬称と敬語を使うようにまでなっていた。

 ヴォルフは見習いの服、全体的に茶色い服装に銀の鎧を関節や胸にあてがっている服装をしていて、訓練場の隅にある芝生に立っていた。

 その数メートル先の視界の影に礼儀正しい佇まいをしているカーラ侍女頭がいる。

 

「それにしてもよく音を上げなかったですね。──────それに霊格も成熟してきて、実力も中級兵にまで来ました。これでまだ未成熟なのだから末恐ろしい」

「何を言ってるんですか?カーラ侍女頭様の主人は、僕と同い年で〝 最強の吸血鬼〞ですよ?それに比べれば僕はまだ全然半人前です」

「そうですね」

「ッグ!?」

 

 即答で返ってきた返事にヴォルフは苦い顔をしながら好青年の茶色い髪を掻く。

 そして横に転がっていた剣を拾い、剣先をカーラ侍女頭様に向けるヴォルフ。その様子に瞳をギラつかせるカーラ侍女頭は、何処からともなく剣を取り出して芝生を歩む。

 

「あの時のリベンジ、ということでよろしいのでしょうか?」

「ええ、構いません。絶対に──────ぶちのめしてやりますよ、今度こそ」

「早死には避けてくださいね」

 

─────二人は同時に駆け、いやカーラ侍女頭の方が数段早く剣筋をヴォルフの首に迸らせた。ヴォルフは咄嗟に胸をそらして躱すと共に、デタラメに剣を横薙ぎに振るう。

 

「なんですか、その力の入っていない攻撃は!」

「っぬぐ?!」

 

 そんな彼らの戦いを兵舎の窓から見下ろすレティシアは重い瞼を擦りながら、日光の下で笑みを浮かべている。

 もうすぐ、約束の時が来ると待ち遠しそうな笑みを浮かべるレティシアなのだった。

 

 

 

 何十回と甲高い金属音を打ち鳴らした後、決着は付いた。

 カーラ侍女頭は少し物思いに耽って日天を見上げると─────。

 

「いいでしょう─────ヴォルフ=レイヤ、合格です」

「は?」

 

 緑の芝生の上で倒れこんで息を荒げているヴォルフを見下ろしてそう告げたカーラ。つまりは訓練をつけてくれるということだ。

 こんな落ちこぼれの一般市民以下の子供に、〝最強の吸血鬼〞 が─────。

 

「私が訓練を付けましょう」

「え、ええ?!話が違います!」

「確かに訓練を付けるとは言いましたが、誰が教えを説くかは言っていませんよ───それと敬語を、返事は?」

「ぐっ..................は、はい」

「しかしながら私の攻撃を躱しなおかつ反撃を繰り出してきた─────それだけで貴方がどれだけ頑張ってきたのか、察することが出来ます。故によく頑張りました、ヴォルフ=レイヤ」

「え?で、でも、僕はまだ中級兵ぐらいの実力しか.........」

「中級兵に私の攻撃はよけれませんよ、反撃すらさせずに勝てる自信も私にはあります」

「へっ?............はは......それは、ちょっと盛り過ぎでは?」

「私がそんな嘘を吐くとお思いで?」

 

 カーラ侍女頭より途轍もない圧力が生まれ、その重圧にヴォルフは笑みを消して戦慄し冷や汗を掻きながら必死に横に首を振る。

 その態度に許しを出したカーラは鼻でフンスカとした後、一変して呆れた空気を醸し出して─────。

 

「貴方が、兵舎で一緒に何百人という訓練生と暮らしているのにもかかわらず、皆の輪に気後れしてボッチなのは知ってはいましたが─────やはりボッチ同士でしか情報交換できないとその目は盲目となってしまうのでしょう、訓練の決闘も余りの落ちこぼれ訓練生としかやっていないみたいですしね?これをきっかけに交友を築いたらどうですか?」

「余計なお世話です、それとボッチボッチ言うなよ...............い、言わ ないでください。─────でも、確かにみんな気を使って話し掛けてくれるけど、なんというか同情の関係は............嫌なんだ、です」

「はぁー……………めんどくさい男の子ですね」

「うるさいです………」

 

 ヴォルフはフンっと拗ねてカーラに背を向ける。不器用な敬語しか使えない、まだまだ思春期に入ったばっかりの少年なのだった。

 カーラ侍女頭はその背を呆れ半分と─────優しい微笑みを半分の表情で見つめていた。やはりまだまだ子供、でもいつかはレティシア殿下に追いつくかもしれないと思いながら、不意に兵舎を見ると─────入り口には困り果てている騎士長、おそらくは姫殿下がいつも通り兵舎の中で寝こけているのだろう。間違いない。故にカーラは頭を抱えた後─────ヴォルフに伝える。

 

「ああ.........それと。もちろん、今日から訓練始めますので─────必至の覚悟をしておいてください」

「えええええ!?」

「フフフ.........逃げたら─────千切りですよ?」

 

 

 ヴォルフはただ頷くことしかできなかった。

 せめて一言、お手柔らかにとだけでも言いたかったのに、そう心の中でボヤきながら空を仰ぐヴォルフだった。

 

 

 

 

#####

 

 

 

 

 

 ─────〝ノーネーム〞本拠地。

 

 

 十六夜とレティシアが南に向かった日より一夜明けた翌日。

 皆が本格的に活動する前の準備時間帯の少し肌寒い朝。しかしその地に降り注ぐ朝方の日光が冷え切った体に染み入り、本格的に覚醒させてくれる。

 亜音はいつも通りの訓練を終え、別館前でリリを待っていた。

 

「はぁ〜ぁ...............くぅ〜〜〜んぅん」

 

  芝生の上で胡座をかき、座ったまま手を上に挙げて柔軟に体を伸ば していく亜音。

  顔を歪めながらも気持ち良さそうな声を上げた後、立ち上がった亜音はふと後方、壁の影に隠れている別館の扉の方へ歩んで行く。

 そしてそこには別館から出てきた────いつもの割烹着を着こなす、狐耳のリリが朝陽に目を細めて可愛く柔軟運動をしていた。

 亜音はそんな可愛らしい少女の姿を見て小さく微笑むと、いつもの少し高い好青年の声で話し掛ける。

 

「おはよう、リリ」

「お、おはようございます!亜音さん!」

 

 リリはあまり亜音にはしたない所を見せたくないのか、戸惑いながらもすぐに礼儀正しい佇まいをして挨拶を返していた。────その仕草はとても可愛いのだが、しかしやっぱりやるせないと亜音は思う。

 まだ一年に満たない関係ではあるが、もう少し気軽に接して欲しい────と思ってしまうのは、年齢差やこの箱庭の世界観からしてわがままになってしまうのだろう。なぜなら彼女達、箱庭の住人にとって身内の上下関係とはこういうものだというのが〝自然〞、挨拶一つからしてちゃんとした態度で返さなければならない、 それが当然の摂理として彼女達の体に染み付いているのだ。まあ、神の世界だから敬語ひとつで問題になる、加えてその問題が一人から一コミュニティ、一コミュニティから箱庭にまで影響を及ぼすかもしれない────故に上に立つ者が上下関係に厳しくしてしまうのも無理はないのかもしれない、でも納得できないのが亜音だった。別に礼儀正しいことは悪いことではないし、敬語を使う相手を考えるというような高等技術を求めているわけでもない。つまりは、これは亜音のわがままでしかない────が、やはりその結論には異議がある。目の前の、少し緊張したように礼儀正しい佇まいをしているぎこちないリリも可愛いが、しかしそれでは朝からリリが疲れてしまう。

 ただでさえ百人を超える子供達、ジン、黒ウサギ、農作物、土地への気苦労が絶えない少女なのだ。────この際、リリが起きたら隠れようかなとも考えた亜音だったが、逆にそれはまた変な気遣いを生んでしまうきっかけになるやもしれない。

 

 亜音は礼儀正しい佇まいをしていてぎこちなく狐の二尾を揺らすリリを優しい笑顔で見守りながら、どうにかしてリリの緊張をほぐすために刹那で思考を走らせ、リリの姿を見て何かを思い付いたように顎に手を添えて口を開く。

 

「うん、やっぱり朝にリリの可愛い顔と割烹着姿を見ると、とても元気が湧き上がる。栄養剤よりも効くよ、絶対。────いつも通り、 とても似合ってる」

 

 亜音は女の子が言われて嬉しいことを言うことにし、リリに少しでも元気になってもらうことを選んだ。ほんのちょっとでもいいから────自分の元気を分けたくて、応援したかったのである、親心に近しいものだろう。

 しかし逆にこの後すぐ自分が元気を、勇気を、癒しを貰い、精神を満たして貰ってしまったようである。

 亜音の言葉を聞いたリリは、二尾と狐耳を忙しなく揺らして同時に頬をほんのり染め上げながらすこし戸惑いつつも、透き通った女の子の声を小さく響かせる。

 

「っ...ぇ......と......か、可愛い.........ですか.........へへ、ありがとうございます」

 

  〝自分の言葉〞で純粋に照れてくれるリリの仕草も本当に可愛い。

 リリより可愛い子、他のコミュニティには絶対にいないと亜音は思いながら微笑む。

 この感じは幾度と体感しても飽きることを知らない程にとても────自分を笑顔にして強くしてくれる。だから、本当に本物の純粋な笑顔は温かくてとても素晴らしいものだ、と亜音は向日葵のような微笑みを満足そうに浮かべていた。まるで、太陽の光を浴びて輝く向日葵畑のように。

 そして逆にリリはそんな亜音の笑顔に見惚れていた────どっちもどっちな状況であった。

 軽く会話をしながら場所を移した亜音とリリは、一緒に朝食を味見し合いっこをしながら作った後、二人だけの空間が作られた客間にて朝食を取っていた。今日の朝食は、不思議貝の味噌汁、ベーコンエッグ、の側には縦長にカットされた人参とミニサイズのブロッコリーが彩っており、お茶碗には白いご飯がふっくらと湯気を立てている。味噌汁と合わせて暖かい白飯を食べればもはや食欲は否が応でもそそられることだろう。故に亜音は寝不足の余波の食欲不全を、味噌汁とご飯を口にかき込んで吹き飛ばす。とはいえ、リリの手前、そんなかき込むような、はしたない食い方をする訳にはいかないので、しっかりと味わいながら食べる。おかずを食べ、白飯を口に含み、しっかりと噛んだ後、味噌汁を音を立てずに少量、含む。

 そんな亜音の食べ方を見てリリはニコッとはにかむと────。

 

「亜音さん、本当に綺麗な食べ方というか、いつも思ってたんですけど、優雅というか、貫禄が感じられます────まるで、何処か高貴な 一族のご主人様のような。それでいて高貴とはまた違って、それが亜音さんというか────」

「 ............リリ?」

「あ、ぁあ!.........ぇーと、つまりですね。亜音さんは自然体なのに優雅なんです。とてもかっこいいです.........って何言ってるんだろう、わたしっ.........!」

 

 正直なところ、リリの感想は言い得ている。

 亜音は“特使”、留学生としての経験がある。各国の礼儀作法はもちろんのこと、自国の礼儀作法を見せる術も持ち合わせている。

 他国の王族からマナー教育をお願いされたほど、だ。

 

「ははは、そんな真正面からカッコいいって言ってくれたの、リリが初めてだよ。ありがとう」

「え、えーと.........ど、どういたしまして、かな.........?」

「うん♪」

 

 リリが可愛く戸惑いながら首を傾げて返してきたのを、亜音は肯定してあげるように優しく頷き返した。

 その肯定にリリはさらに照れ臭そうにモジモジして朝食を取っていく。

 亜音がそれを優しい目で見守った後────二人は終始、静かな朝食を、二人だけの時間を堪能しするのだった。

 

 

 

 

 

「フゥー............これで準備よしっと」

 

 亜音は朝食を取った後、リリと一旦別れ、自室にて箱庭で手に入れた、青のミドルリュックの荷造りをしていた。タオルや応急処置用具、 財布ぐらいか、後は────。

 そこにちょうど良く、開けっ放しの自室にリリがやって来て、もちろん手にはおにぎりと漬物が入った手作り藁の弁当を持っていた。

 

「お待たせしました!────亜音さん、お弁当です!」

「いつもありがとう」

 

 元気良くお弁当を差し出してきたリリに礼を述べてお弁当を受け取る。

 そして亜音はそのままお弁当を青いリュックにしまうと背にしょい込む。本当は〝今度こそ〞ギフトカードに弁当を入れようと思っていた亜音だったが、でもこのリュックの重みが好きだから辞めていた。この重みは温もりの重みで、自分の背を返して伝わってくるような気がするのだ。

 そんな時────精神の奥より声が掛かる。

 

『亜音、今いいか?』

『ああ、大丈夫だよ...............何かあったのか?』

 

 精神の奥より蚩尤が声を発し、それに対して亜音も精神に声を響かせた。そして〝蚩尤〞の声には何か不安が感じられ、亜音は怪訝にな る。

 それに対して〝蚩尤〞は、余り言いたくない、言う必要がない意味で言いたくなさそうに喉に詰まらせて────。

 

『ワシの気分が理由もなく悪い............これは久しぶりだが、しかし、この日のことはよく覚えてる。これまでで手で数えらる程の日数だけだが、それでも起きたことはワシにとって悪夢のようなことばかりだったのだ────忘れるわけもない』

『............虫の知らせみたいなものか............』

『信じてくれるのか?...............』

『信じない方がいいのか?』

 

 信じないわけないだろう────という物言いが含まれているような軽快な声で即答した亜音に、蚩尤は亜音の見えないところでやや複雑そうな表情を浮かべて、複雑そうに告げる。

 

『いや、そういうわけではないんだが、わざわざもう一つの味方、ニュンペーの女共の意見も用意していたから...............ちなみにだ、ニュンペー共も今日は厄日といっていた』

 

 箱庭でいう厄日とは間違いなく天災────魔王襲来のお知らせだろう。数か月前のニュンペーと初めて会った日も、ニュンペー達はその不思議な霊格で〝退廃の風〞の気配をいち早く感じ取っていた。戦神と女神の忠告────無視する道理はない。誰もが信じることだろう。

 しかし亜音は、南に襲来した巨人族、言わば魔王残党ならば十六夜達だけでも大丈夫だろうと見越し、魔王残党の襲来を聞いてもレティシアと十六夜の二人を見送って一人本拠に残ったのだ────そして、今もその演算は間違っているとは微塵も亜音は思っていない。

 亜音は静かな物言いでなおかつ、強い意思表示を示すように精神に声を深く響かせた。

 

『でもな────…………だからこそ俺は行かなければいけない。戦うために邪魔な〝不安と迷い〞を消し、戦うために必要な〝自信〞をつけるために…………』

 

 ふいに亜音の脳裏をよぎるのは遥か遠くもなく近くもない幼き頃の記憶。

 蒼き紅蓮の炎海が広がる大地。意識を失う寸前に見た一瞬の光景だけしか覚えてはいないが、亜音は知っている──────自分がゲーム盤ごと既存の街を焼き払おうとしてしまったことを。破壊の力を激情に任せて簡単に使ってしまった幼き自分。言うなれば、間違えて核兵器の発射スイッチを押してしまった、あるいは、たまたま喧嘩して友達の頭を殴ってそのまま友達は意識不明の重体という、自分にとってはそこまでするエネルギーを放出していないのに、結果が悪い方に伸びてしまう現象。花瓶を落としただけなのに、それは他校に返さなければならなかった物だったり────横で見ている分にはいいが、当人だったら全身蒼白を通り越して、隠蔽やなすり付けなどの罪を重ねてしまうかもしれない。

 そうならないためには────自分の軽率さを制御できるほどに努力し、強くならなければならない。

 いつまでも誰かに尻拭いをさせるのは御免だ。

 そして自分はもう守られる側ではなく、守る側に立っていたいのだ。

 

『もう二度と暴走なんかしない、俺は俺を律する。力は破壊するためのものじゃないと。そして守る為のものだと。例えその結果、要らぬ破壊を招くことになっても、守りたいものだけは────』

 

 

 

『俺が守り通さなければならないんだ』

 

 

 

『亜音...............』

 

 蚩尤は根負けしたようにそれっきり口を開くことはなく、精神は静かになった。

 そして一方の亜音は、このきっかけを利用してさらに自分を律するための言語を脳内に浮かべていく。

いつまでも誰かに頼っていては────自分は自分に勝てない。

 もっと厳しく、もっと過酷に追い込み、そこから這い上がってみせる。

 亜音は閉じていた瞳を静かに開き、少し息を吐くと、リリにゆっくりと視線を向けて優しく囁いた。

 

「皆を頼むね、リリ」

「は、はい!」

「────じゃあ、行ってくる」

 

 亜音はリリに背を向けた後、自室の窓から華麗に飛び降り、同時にギフトカードを混沌に輝かせ始めると、浮遊力を得たように混沌の中でゆっくりと失速した。そして一層激しく輝かせ────。

 リリがその発光に誘われて窓を見下ろす────と同時に光と共に亜音はその姿を消し、リリの瞳にその光景が映ることは無かった。

 何一つ変わらない景色を見て、風に乗せるように呟く。

 

「いってらっしゃい。亜音さん」

 

 そして残念な事にこの数分後に南からの使者がやって来てしまったのだった。

 

 

 

######

 

 

 

 ────吸血鬼の古城・城下町。

 ヒュゥ、と湿った風が廃都を吹き抜けて、微かな悪寒をもたらしている。城の周囲を雷雲に包まれているからだろう。

 ガロロから吸血鬼達の歴史を聞いた耀は、彼の話を噛み砕くように何度も頷きながら思案に勤しんでいた。話を終えたガロロは膝を叩いて耀に問う。

 

「どうだい、耀お嬢ちゃん。俺の話は役に立ったか?」

「.........うん。ありがとう、ガロロさん」

 

 耀が礼を述べると、二カッと笑って返すガロロ。

 しかし共に話を聞いていたアーシャは、〝契約書類〞の文面を眺めながら小首を傾げている。

 

「私には分かんないなー。今の話のどの部分が謎を解く鍵になってるの?やっぱり〝革命主導者〞ってのがキーワードなんじゃ?.........」

「ううん、それは全く関係ない............というより、今の話の全てが、 謎解きとは完全に無関係の話だもの」

 

 はぁ?!と声を上げるアーシャ。

 耀は〝契約書類〞を全員に見えるように広げ、

 

「さっきも言ったけど 〝革命〞という言葉は当時の参加者を騙すためのミスリードであって、別の意味や解釈があるんだと思う。私が確認したかった歴史は、さらにその前の話。この空飛ぶ城が、〝異世界 で製造されたものである〞 という確認だけなんだ」

 

 首を傾げる耀以外の彼らに、耀は〝契約書類〞のタイトルを指差してなぞり、示す。

 

「このゲームのタイトル──── 〝SUN SYNCHRONOUS ORBIT〞 を直訳すると、太陽同期軌道、つまり太陽と特定の角度を保って飛ぶ、人工衛星の軌道を指す言葉になるんだ」

「じ、人工衛星っ!............ですか」

 

 突如として声を荒げるジャック。それに対して耀は意外そうな顔をしていた。

 ジャックからしてみればというよりは、人工衛星を知っている立場からしたら当然の反応だろう。まさか吸血鬼の話題から人工衛星の単語が出てくるなど、予想だにしなかったはずなのだから。

 耀はジャックに視線を移して、不思議そうに尋ねた。

 

「............人工衛星を知ってるの?」

「え、ええ。私が箱庭に来たのは一九六○年代のことですから............い、いえそんなことよりも春日部嬢。人工衛星というのはまさか、この城が............?」

 

 人工衛星というものがどういうものか知っていたら、有り得ないと連呼することだろう。人類の科学者もヅラをずらして驚愕するに違いない。

 ジャックの問いに耀は静かに肯定して答える。

 

「うん。────でも箱庭だと、〝神造衛星〞っていうのが正しいのかな?もしこのゲームタイトルが太陽同期軌道を意味するなら..........このゲーム全体が 〝太陽〞 や 〝軌道〞 に関係することを示唆しているんだと思う」

「ヤホホ...............ではもしかしたら彼ら、吸血鬼の一族というのは 遥か未来から来たのかもしれませんねえ」

「うん。それは私も思った」

 

 箱庭はあらゆる時代に通じている。吸血鬼の伝承が異なっている点も頷ける。

 それに環境の変化によって太陽の光が脅威になった一族や、それに伴う世界の放棄。これらのファクターから考えても、箱庭の吸血鬼の一族は近未来よりの存在に思えた。

 衛星について知識のないガロロだったが、耀の最後の言葉にピクリと反応を示した。

 

「耀お嬢ちゃんはもしやーーーーー〝獣の帯〞を〝 獣帯 〞(ゾディアック)として読み解いているのかい?」

 

 アーシャとキリノが首を傾げ、ジャックが補足説明する。

 その補足の内容、つまり〝 獣帯 〞とは────〝黄道帯〞や〝黄 道の十二宮〞を指す別称であり、一般的にも星座占いとして有名な十二星座のことである。そしてそれらは太陽の軌道線上を三十度ずつズラし、星空の領域を分ける天球分割法で────。

 其処までの説明をしてジャックが口を閉じ、息を飲んだ。

 耀はその反応を見て少し笑みを浮かべる。

 

「そう────第三の勝利条件 〝砕かれた星空を集め、獣の帯を玉座に捧げよ〞が示す意味は、〝 獣帯によって分割された十二の星座を集め、玉座に捧げろ〞という意味なんじゃない.........かな?」

 

 最後は少し自信なさそうにトーンを下げる耀。彼女自身がまだ確信に至っていない推論なのだろう。

 だが其処からはガロロの膝叩き音頭と共に、皆の顔に高揚が見え隠れし始める。絶望の中の希望とは、一層激しく彼ら目に輝いて見えるもの。士気が上がるのも当然だ。

 古城に囚われた彼らはゾディアック────十二星座に関連する 痕跡を探すため、城下町の探索へと乗り出すのだった。

 

 

 

######

 

 

 

 ────〝アンダーウッド〞地下大空洞、大樹の地下水門。

 

 〝ノーネーム〞一同はその後、前哨戦の活躍と今後の戦果を期待され、〝アンダーウッド〞が誇る地下水門の主賓室へと案内されていた。

 大樹の中を削るように掘り進められた道は、大樹の中心を螺旋階段のように下っていく。

 主賓室という割りには移動が面倒臭いなーと思った飛鳥だったが、 先ほどの会議での話がシリアス成分濃すぎて、その内容ばかりが脳内を駆け巡っていた。

 北の二つの階層支配者、東の階層支配者である白夜叉の元に、ここ南とほぼ同時に魔王が襲来したこと、黄金の竪琴と共に〝バロールの死眼〞が奪われたこと、複数の魔王を束ねる存在のこと、階層支配者が全滅した際に発生する暫定四桁の地位と太陽の主権を一つ授けられる上位権限“全権階層支配者”だがそれらよりも驚き〝許せなかった〞のが────北の一 件、魔王を手引きしたのが階層支配者の〝サラマンドラ〞自身だったということだ。

 馬鹿らしい!ーーーーーーと、一言の罵倒で済ませたかったのだが、ここにはいない亜音のことを考えてしまうと、とてもやり切れない気持ちになる飛鳥だった。今すぐにでも〝サラマンドラ〞の連中を引きづり出して謝らせたい。

 だが今そう憤っても〝サラ〞だけを困らせるだけで何にも得るものはない。

 故に飛鳥は悶々としながらも最後までその怒りはしまって、今にまで至っている。

 そんなこんなで主賓室前まで着くと、案内役のキャロロが嬉々に盛 り上がり始めた。

 

「はいさ、それではお立ち会い!此方が大河を跨ぐ巨躯の水樹〝ア ンダーウッド〞が誇る大水門!!二千体もの樹霊と水精達を鑑賞できる、最高主賓室でございます!」

 

 開かれた扉から吹き抜ける風、それは川辺に薫る匂いと共に極小の精霊群を招き入れた。

 実態を捉えられないほど小さな彼らだが、僅かに光る灯火がその存在を主張している。さながら蛍の光のように川辺で揺らめき飛び交う彼らは、大河を跨ぐ水樹の景観より一層に彩っているようにも見えた。

 そんな彼らは景観を堪能した後、それぞれの席に座って本題に入った。

 

「さて、現実問題として俺たちには城へ向かうための足がない。此れに関しては〝龍角を持つ鷲獅子〞連盟に協力してもらうしか無いんだが............おチビは他に何か案はあるか?」

「案、というほどではありませんけど、此処はグリーさんに頼むのが良いかと思います。彼は耀さんを友人として扱っていますし、いざという時は手を貸してくれるはず」

「へぇ ってことはあのグリフォン、〝サウザンドアイズ〞支店で会った奴か?」

「YES!とっても友好的で理知的な方なのですよ!」

 

 ふむ、と腕を組んで考える十六夜。鷲獅子が足となってくれるなら文句のつけようはない。あるとしたら亜音に対してだけだ。この件は解決したと考えていいだろう。

 

「よし。そっちは黒ウサギに任せる。後は待機組と攻略組の編成だな。巨人との戦いが予想される待機組は、おチビとペストを中心にして、攻略組は俺が────」

「────私も行くわ」

 

 続きを遮るように言葉を挟み、強い視線を十六夜に向ける飛鳥。

 十六夜は思わず顔を上げて驚いたが、飛鳥は無視して話を続ける。

 

「黒ウサギはゲームに参加できない。だから巨人族の対処に残ってもらう。ジン君とペストは対巨人の力を持ってる。残る私と十六夜君は、攻略のために空へ。────采配としては此れがベストでしょう?」

 

 より一層真剣に十六夜を見つめる飛鳥。十六夜は表情を消して様子を伺う。

 彼が切り出す前に、飛鳥は更に言葉を続けた。

 

「十六夜君。貴方が大一番のゲームで、私を危険から遠ざけるよう采配をしてきたことは────私なりに気が付いているつもりよ」

「…………、」

 

 十六夜は否定することなく、瞳を細めることで返す。

 飛鳥の言っていたことは半分以上が事実で、自分の実力不足が悪いのだから仕方ないと割り切れてこれた。

 だが今回は譲れなかった。ヘッドフォンの一件もあるために、飛鳥は耀の一番近くに居たかったのだ。

 さらに飛鳥はその思いを包み隠しながら、うまく十六夜を説得できるような言語を並べていく。多少の無茶をしなければならない、だから私も連れていって欲しいと。プライドの高い飛鳥らしからぬ物言いは、彼女が本気である証なのだろう。

 無謀な物申しだが、彼女の覚悟を無下にすることはできない。

 十六夜はしばらく沈黙した後、告げた。

 

「連れて行くには条件がある」

「条件?」

「ああ────おチビとペスト、その二人と模擬戦を行い、一本でも勝てたら連れて行ってやる」

 

 突然の申し出だったために、飛鳥は瞠目し十六夜の意図を探りながら思考を働かせる。

 それに対して十六夜は挑発的な笑みを浮かべて飛鳥を見返していた。

 飛鳥はその態度に奮起し望むところだとばかりに腰に手を当てて、 ビシッと指をさしながら言い返した。

 

「いいわ。────私が間違っていないことを思い知らせてあげる」

「まぁ、精々頑張ってくれ」

 

 ────勝てるものならな、と呟く十六夜。

 一方のジンだが、本人そっちのけで日程を刹那に決められていく流れに唖然としつつも、小さく握り拳を作って気合を入れるのだった。

 

 

 




・エンディングテーマ《Blizzard》歌:三浦大知
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