新・問題児と人の神が異世界から来るそうデスヨ   作:行くよ!!!!

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遅くなりましてすいません。修行編はとりあえず4話ですが、今後も時間があれば追加していきます。
よろしくお願いします。



・オープニングテーマ《青い未来》参照先アニメ《ブルードラゴン》

・激闘・戦争イメージソング《Meteor-ミーティア-》参照先アニメ《ガンダムSEED DESTINY》


第十四話「仙神の凱旋───────明かされる霊格、破壊の権能と繋がれた星々の力」

 ───────〝仙境蓬莱〞・本拠地。

 

 ここは仙境蓬莱の天山、本拠地とは別の次元にある場所─────いわばゲーム盤である。

 平原、樹海、天を差すようにそびえる山々の大地。

 空は晴天で雲が涼しげに漂っている。その中でも際立った高さを誇る、世界の中心のような山の天辺あたりの空に、一つの人影が浮かんでいた。

 サイズが大幅にあっていない巫女服をしかし、今はきちっと着込んで盛大に靡かせている初代仙神様。白い霊気で編まれた羽衣を脇にまといて、胸の前で両手を合わせている。

 そして、溢ればかりのエネルギーを帯びて、蜃気楼を大気に迸らせると────、

 

「仙法───────〝龍源・極星創造〞───────ッ!」

 

 想像できるだろうか、人間が星を創造する様を───────まあ、普通にできないでしょうね。

 故にそんなことが出来るのは、神しかないない。

 彼女、初代仙神様は仙界からすら独立していて、かつどの仙人よりも膨大な気を扱い、何千年という年月でも埋められない溝をその霊格で作り上げている。

 

 だから彼女は作れるのだ───────新たな大地を有する星を───────!

 

 この自然だけで溢れる世界の各地より、微精霊のように塵が青く瞬きながら天山の遥か空に集っていく。

 圧倒的な質量を有そうとしているのを示しているのか、耳鳴りに近い高鳴りが永続的に鳴り響いていた。それもそのはずだ───────彼女が今していることは、星の創造。天と地では地殻変動を上回るエネルギーのやりとりが行われているのだ。

 そして今、天山を丸ごと押しつぶしてもおかしくないほどの新たな 〝星〞が、日光を塞ぐように夜を招いて出来上がる。

 

「亜音、これが最後だ……………死ぬでないぞ?」

 

 初代仙神様の右手がほんのりと白い霊気が灯り、右手は星がある天に掲げられた。

 変な静けさが通り過ぎた瞬間、初代仙神様は右手を振り下ろして告げる。

 

「───────墜ちろ、〝新星〞」

 

 星の創造神たる仙神の号令と共に落ちていく超巨大な星。

 最初は全面が地表色をしていたが、落ちていく途中で青白い光に覆われて巨躯を誇る流星と成った。

 自然溢れる広大な大地が新たな星によって光の営みを閉ざされ、辺り一面が影に染まっている。それほどの存在がそのまま大地に堕ちたら、間違いなく自然溢れる大地は壊滅、地獄絵図は必至だ。

 そんな滅ぶのが確定された大地の一点、星のちょうど落下地点の中核に一人の青少年が立っていた。

 ボロボロの私服を着たまま黒い羽衣を脇に纏っており、星の真下に仁王立ちしかつ瞠目したまま右拳を力を込めているかのように小さく震わせている。

 その少年は拳に星規模の霊格を保有させているのか、蜃気楼が吹き出して黒々しい影が糸を引くように靡いている。───────まさか、とは思うが、ていうか間違いなく少年は拳一つで〝星〞に立ち向かう気だ。いや、君そんな───────死んじゃうよ!?というオーディエンスの声が聞こえそうな光景だろう。

 少年はしかし微笑みを浮かべて、呟く。

 

「仙法、秘伝奥義───────〝龍源───────」

 

 続くはずだった呟きは二つの力の衝突のよって掻き消され、堕ちるはずだった〝新星〞はヒビを走らせて爆散し、元の塵芥となって地に還っていった。

 ちょうどその時、いつでも用事や連絡を取れるようにと現実とゲーム盤の間に築かれた次元回廊より、水色の髪を爽やかに揺らす鬼理澄舞夏が姿を現し、同時に戦慄したように目を見開く。

 

「で、デタラメだ...!...........初代仙神様の、...ノラ様の星を拳一つで.........ッ!?」

 

 箱庭の〝緊急事態〞を知らせに来た舞夏は、その光景に目を奪われて立ち尽くすのだった。

 

 

 

#####

 

 

 最終幕より二日前──────魔王ドラキュラが降誕した次の日。

 

 正午より数時間前、ノーネーム本拠を怪物の集団が襲いかかった。

 窓には毒グモが二匹這っていて、その近くに大サソリの影が見え隠れしている。確実に自分達の餌を探している。

 そんな中、リリは百人近い子供達を別館の奥、緊急避難用の部屋に避難させておき、一人で別館の廊下を歩いて怪物達の様子を伺っていた。

 時折、狐耳をへにょらせて、怯えるように肩を揺らし縮こまりながらも、ゆっくりと静かに歩みを続けていた。それでもやはり背中に這い寄る寒気と恐怖は、とてつもなくリリの心に響いて、咄嗟に呟いていた。

 

「.........ぅ......亜音さん、」

 

 現在時刻は正午に近い時間帯─────もうすぐ、もうすぐ亜音が帰ってくる。

 だが、少し間に合わないようである。

 何処かの窓が破れ、怪物達のうめき声が聞こえてくる。

 このままでは─────怪物達に逃げ場のない場所で子供達がなぶり殺されてしまう。

 誰かがやらなければならない、それを悟ったリリはその場にしゃがみ込み、肩を抱きながら涙を落とす。小さな嗚咽を漏らし、震えが更にひどく小刻みに揺れる。

 

「............ぅ.........うぅ............っ」

 

 皆の顔が思いうかぶ、そして走馬灯のように北でのことを思い出した。

 そして何かに気付いたように震えを止めて、顔をハッと上げる。

 

「......っ。......亜音さんも、こんな中で戦ってたんだ...............怖くなかったのかな」

 

 いや、聞かなくてもわかることだ、怖いに決まっている。でも彼は強い意志を持ち、それにふさわしい備えてきた力を持っているから戦ってこれたのだ。その両方とも私にはないもの。なら子供達を救うために、その片方だけでも手に入れよう。

 リリは涙を振り拭って立ち上がり、忍び足で別館の出入り口の影に 立ち、近くにある窓から様子を見て大きく息を吸うと─────次の瞬間、ドアを勢い良く開いて駆け出す。 私も彼らと同じ夢を追う同士なのだ、とそう決意しながら。─────私が守るんだ!!直後その駆け出しに、怪物達は一斉に反応を示して競争するようにガサカサバサァー!と地を這い始めた。

 

「ハァ......ッハァ......ハァ......ハァッ、」

 

 リリは息を切らして必死に走り続ける─────後ろ を見たい気持ちを必死に抑えつけて。見てしまえば立っていることさえできなくなることがリリ自身には分かっていたからだろう。

 幼い少女はその小さな背中に子供達の命を背負って走っている、その自覚から失敗は許されないこともリリ自身理解しているはずだ。 彼女はもう立派な一人の戦士だろう。しかし本拠地へ続く道の先から怪物達が現れ、リリは仕方なく森林に入っていく。それをしてしまったら自力で助かることはもう不可能なことは誰でもわかることなのに。─────怪物達にとって森林はホーム地だ。

 つまり─────彼女にはもう逃げ場はないのだ。四方八方から雄叫びが上がる

 

『GYAAAAEAEEAEAEAEAEAEAEAEAEEEEEAEEEEEEEEEE!!』

「うぐぅ............ぅぅ.........くっぅ............やだ、やだよッ!どうしてッ!」

 

「死にたくないっ!!...............これからもっと亜音さんと仲良くして十六夜さんと飛鳥さん耀さんにご飯をいっぱい作って!お母さんにお帰りって、─────きゃっあ!」

 

 リリは地に身を投げ出し、砂にまみれた。

 すこし顔をあげれば周りの林、360度に赤や青の瞳の光。─────数える必要もない、見る限りで大小関係なく百は超えているだろう。

 

「......ぅ......こ、こんなに.........ぁ」

 

 リリは絶望の前に虚ろな瞳になり、心が壊れて行くのを感じていた。死の恐怖の前ではやはりどんなに強固な覚悟をしても、リリはいち少女でしかなかった。まだ彼女には覚悟を決めても、覚悟の重荷を背負えるだけの責任、経験値が足りないのだ。勘違いしないで欲しいが、それが当然なのだ。彼女はまだ幼い、霊格もまだ成熟してはいない。

 彼女の短い人生が終わろうとしている────馳せた未来の走馬灯が流れ、絶望が生命とともに薄くなり、現実が遠ざかっていく。

 これまでお腹が減っても我慢して生活をやりくりして、食べたかった稀のご馳走も年下に譲って我慢して、死んだ土地を見て涙してもいつかの復興を信じんて無理やり苦しむ心を押し殺してきた。我が儘を言いたい時も誰にも言わずに、母の笑顔を思い出して隠れて泣いたり ─────そんな毎日をどうにかここまで乗り越えてきたのだ。そしてようやく光明が、母を見つけられる希望が見え、再び我らの旗が靡く光景を目にすることができるかもしれない、とそう思わせてくれる四人の新たな同士が現れた。

 ようやく明るい未来に向けての目処がついたのだ─────ただ闇雲に生きてきた日々を耐え凌いで、ようやくッ!なにより同じ我慢でも今と昔ではその苦しみの重さが違う。私は今、喜んで笑って、〝生きて〞我慢できる。─────そのことがとても嬉しいのだ。生きる目的があるのと無いのとでは本当に違うと断言できるだろう。

 そのようやくまで来ていた今、なのに私は一人で食い殺されようとしている。なんなのだろう ─────。

 

「─────私何か悪いことしたのかなぁ、 悪い子......だったのかなぁ、ぅ、ぅぅぐっうぅねぇ、誰かお願い!!私にどうすればよかったのか、...ぅぅ...っ...教えて......よ!もっと苦しめばよかったの!?もっと我慢すればよかったの!?」

 

 視界を涙で染め、雫は止まることを知らずに地に落ちていく。

 リリは土を握りしめて、その手にも潤いをもたらし、問う。

 なんで !?と。

 絶望の中でなお、諦めきれない様に問いかけ続けるリリ。

 そして彼女は最後の力を振り絞って、叫ぶ。

 

 

 死にたくないよぉ............っ!!

 

 

 誰にも届くことのない小さな願い、理不尽に対する健気な問いかけ、しかし答える声はない。それが当然だった。

 紡がれることのない少女の切実な想い。それを暴虐かつ本能の赴くままに貪り尽くそうと、とうとう怪物達が動きだす。毒グモやサソリが地を這い、ガサガサと恐怖を招くような不吉の音を立てる。加えて奥から宙に躍り出るように怪物達の影が湧き出てきた。もはや自分の命は刹那の命なんだと悟った時、リリは静かに瞳を閉じた─────これが私の終わりなんだと。

 

 だが次に起きた出来事は─────額に何か柔らかい感触が訪れただけだった。

 その場所から生命が溢れるように、リリの身体が熱を帯び、額から優しい温もりがしみじみと響いてくる。

 リリはその温もりの心地よさに反応して瞳を開くと─────格好はいつもと違うけどふわふわした黒髪と漂う涼しげで爽やかな匂い、それだけで誰か分かり、しかし次に理解したこと、“額に接吻されている〞ことに気がついた瞬間、頬から全身まで沸騰して急激に温度を持ち、狐耳の先まで紅くなるかもしれないほどにリリは恥ずかしさに悶えていた。しかし肩に片方の腕が回されて、優しくも力強く抱かれていたので動けなかった。

 

「.........ぁ......?ぁ.........っ......ぁの......あ、ぁのんひゃぁん!?」

 

 軽いパニックになっているリリは噛み噛みしながらも声を紡ぐ。

 おそらく怪物達のことで、健気に危険を知らせようとしているのだろう。

 でもそんなことよりも、と言っているかのようにリリを強く胸の中に抱きしめた亜音。

 その時の亜音の顔はまるで癒しの女神でも宿したかのような小さくても確かな温かみのある笑みを浮かべていて、そのままリリの耳元に囁いた。

 

「リリ、ありがとう。リリ、よく頑張った。リリ─────俺がそばに居る」

「..................亜音......さんっ......わたし.........!」

「俺じゃあ、不安かな?」

「ぅうん...ぁ......わたしより.........子供達が」

「大丈夫。─────君のおかげで子供達は無事だ」

 

 亜音は明後日の方向─────いや、屋敷の本拠地と別館がある方向を見てそう呟く。亜音の言ったとおり一匹残らず怪物たちはここに集まっていて、リリの囮作戦は上手く行ったのだ。

 呟いて探知を解除した亜音はリリの言葉を噛みしめ、自分のことよりも子供達を心配した優しき心をしっかりと感じて、言葉を紡ぐ。

 

「そっか............リリ、君は本当に誰よりも強い子だよ」

「っ............ぅ......ぅんっ......ちがぅ...ん...ですっ」

 

 リリは違うと亜音の胸に手を当て拳を作る。

 本当は自分では子供達を守れない、弱い存在なんだと。何処かで亜音や黒ウサギが助けてくれるとあまえていたのだと。そこにはいないはずの幻想に望みをかけていたのだと。

 リリの力は弱かったが、けど確かな思いが亜音に伝わっていた。それほどまでにリリは、純粋な女の子なんだろう。

 だからこそ、亜音はそれを言語化してリリの心を融解させた。

 

「悔しいんだね............リリ」

「............ぅ」

「でも今はゆっくり休んでいいんだ............君が強くなるまで俺が守ってあげるから」

 

 そんなのダメ─────嫌。けど、今はそんな声に甘えるしかなかった。それほどまでに彼の声と腕の中、火照る身体に直接響いてくる亜音さんの強くて緩やかな心臓の音は、リリの緊張を融和し、温かく包み込んでくれた。まるで冬の中、毛布で包まれたかのように、唐突な眠気がどっと緊張の疲れとともに押し寄せてきたので余計にリリは亜音の優しさに逆らえなかった。

 

「ごめんね............あとでたくさん話を聞くから」

「...............ん」

 

 帰ってきた儚い声─────リリは静かに眠りについた。

 リリの頬を伝う一筋の雫、ホッとしたようなリリの寝顔。やはりかわいいな、と亜音心の中で呟きながらリリを抱き上げて立ち上がった。

 フツフツと何かが湧き上がってくる。純粋なものを穢された故の反動だろうか、それは限界を知らずに体の奥からマグマのようにブチブチブツブツと溜まり込んでいく。

 亜音は唐突に大きく息を吸って、吸って、吸って─────途端、奥より溢れてきた何かを静かな殺意に変えて周囲に撒き散らした。

 その瞳は黒く濁りながも、輪廻を描く。

 

『GAaa.........aa.........!』

 

 怪物たちはその殺気の前に後ろへ後ずさる。────さながら自然の神が怒りの神に化けた瞬間を目の当たりしたような反応であった。

 そして亜音にはその〝行動〞しか映っておらず、怪物達の声は全く耳に聞こえてはいなかった。その原因は、亜音によって展開された見えない半球体型の結界のせいだった。だから亜音はこれまで襲われることもなく、しっかりとリリの緊張し切ってしまった精神を回復させることができたのだ。

 

「一度聞いたが、やはり貴様らの声は聞くに耐えない」

 

 亜音が見えない結界を解き、怪物たちはそれを機に地を這いずり少しずつ亜音との距離を詰めていく。やはり怪物たちは実力差を知っても引く気は無いらしい、だがまぁ亜音に最初から逃がすという選択肢はなかったが。

 

「意志がないから仕方ないと、それで済ませてやりたいんだがな。そうもいかないのが世の常、せめて一思いに殺してやる」

 

 亜音はリリを黒い霧の布団に寝かせて結界を張る。

 そして亜音は一度、リリの寝顔を見て微笑むと────その姿をを消した。

 途端、怪物達の奥でうめき声が上がり、その中の一匹が一筋の剣閃に両断され、切り口から発火せし黒炎に包まれて灰と帰した。

 

「────フゥウッ!」

 

 そのまま亜音は鬼神の如く殺意を纏い、森の中を第三宇宙速度に匹敵する神速で駆け抜ける。

 怪物達はそんな速度に戸惑う一方で、首を休む暇もなく捻って亜音をなんとか捉えようと必死であった。しかしあんなヤワな結界すら 突破できない二流の怪物に、音よりも早く駆ける亜音を捉えることは絶対に不可能だろう。という絶対の自信を持つ亜音。

 直後、亜音はまた何処かで刀を下から斜め上に振り上げて、毒グモやサソリの小さな生物を一斉に切り裂き、同じように黒い火焔で燃やした。

 

「あと七十六」

 

 亜音は〝正確〞な怪物達の数を呟き、周囲を一瞥する。

 そして狙いを巨亀に定めると、軽く上段に刀を構えた後、素早く振り下ろした。

 黒い一振りで発生した漆黒の斬撃は、加速し続けて音速に達した瞬間、容易く巨亀を一刀両断に切り裂いた。 さらに血飛沫さえも漆黒の火焔で蒸発し、死体はその地に帰ること すら許されずに灰は空へと舞い上がる。

 

「あと七十ニ」

 

 そう告げた途端、巨亀のいた場所より後方でも黒い炎が発火、生命を食らうように燃え盛り、怪物達の断末魔が響き渡る。彼の斬撃が後ろにいた怪物たちにも届いていたのだろう。リリがいる手前とはいえ、加減してなお終末の獣たちを圧倒していた。なにより彼は箱庭の現状を把握している────つまり、全てを倒すことを〝前提〞に動いているのだ。目的ではないあくまで前提なのは、亜音にとって箱庭の掃除は当然の事柄、ボランティアと変わらず、通過点でしかないからだ。そんな亜音は下層に絶望を散りばめるように運んだ怪物たち、その数、百を目の前にしても余裕がある。

 

 そして最後の数匹を残したその時、信じられないことが起きる。

 

『アア────ァア!カンジルゾ!────』

『オナジッ!────オナジダァア!』

 

 亜音の“瞳”を通して、その言葉は耳に入ってきた、怪物の言語。

 彼以外には聞くに耐えない物の怪の声だろう、しかし理解できたとしても、少年の顔は歪む。

 

「同じ…………だと、?」

 

 思わず少しの戸惑いを吐いてしまった。

 それを何か勘違いしたのか、少し知能の高そうな、大蛇が月の光の下に姿を見せる。

 

『ヤハリナァ、キサマ。“ワレラ”ノ“コエ”ガ、“ソンザイ”ガ、ミエテイルナァ?』

「…………、」

 

 六道仙人の徒・輪廻眼─────それは“真実”を見抜き、悪を見定め、世界を繋ぐ力。

 そう先祖代々より“聞かされてきた”。だが、彼らの言葉を鵜呑みにすれば、そもそもの力の目的が違ってくる。

 

『ワレラノ“拝火” ────“終末ノ灯”ガミエテイルノダロウ?』

「っ、」

 

 そう言われて初めて亜音は、その事実に瞳を見開く。

 本来、魂の火は黒く染まっていようと“前の色”が微かに見え、同情の余地のようなものが“必ず”あるはずなのだ。それは生命として生まれたのなら当然の権能でもある。生きる権利というものだ。

 だが、眼前に蔓延る怪物たちからは、全くその余地はない。

 同情の余地はなく─────“悪”。しかし少年からしてみれば、何千という悪を見てきたその目からしてみれば、それでも大きなズレと違和感があった。

 亜音が見てきた世界の悪とは─────開けてみればもっと陳腐なものだ。同情の余地があるものもあれば、そんな人間だからこそ犯す罪、欲や憎しみの暴走、どれだけ規模があろうとそこに人間の力が立ち入れるのならば、開けてみればありふれていたもの、に成り下がってしまうのだ。

 だが、コイツらは違う。巧妙に人類が畏怖する化生を体現しているが、違う、コイツらは真似ているだけなのだ。

 三頭龍の大魔王、その眷属、根源は“悪”ではない─────!

 その証拠にコイツらは、己を前に死を恐怖していない。死を拒絶していない。

 少年は瞬時にその答えに辿り着いたかのように、“問いかけた”。

 

「────この目はお前らのモノか?」

『チガウ、ワレラハケモノダ、ワレラニソノメハヒツヨウナイ─────』

 

 思わない回答に少年は肩を揺らすが、すぐに刀を構える。ならば問題ない、と言っているかのように。

 しかし、少年が、腰を落とし、姿をかき消した瞬間だった。

 怪物たちは一段と声高に嬉々に叫んだ。

 

 

『ワレラノ主ガカエッテキタゾォオオオオ!!』

 

 

 己を生み出した王に聞こえるように、その絶叫は世界に木霊していった。

 そしてその絶叫を聞きながら、亜音は最後の父親の言葉を思い出していた。

 

 

 

『その目がありながら何も分かっていない────だからお前は母さんを“見失い”、“父親(オレ)”を理解できないんだよ』

 

 

#####

 

 

 

 

 亜音がその場に巣食っていた全ての怪物を仕留めるのに五分とかからなかった。

 それよりもリリを運ぶことの方に時間がかかっていたのは、言うまでもないことだろう。

 あらかた片付き、亜音は舞夏と臥遠の二人と本拠の入り口前で合流した。

 

「臥遠さん、すいません。他人の本拠地なのに............」

「いや構わん。─────それより早く行って救ってこい。これ以上の遅刻は許されないぞ?」

「はい。.........援護頼むよ。舞夏」

「はいはい。じゃあ、修業の成果見てやりましょうか」

 

 舞夏がニヘッと微笑み、亜音はそんな楽しそうな舞夏の頬を引っ張って諌めながら二人は、その地より姿を消した。

 

 

 

 

######

 

 

 ───── ○○○○○○○外門。無差別戦争の最前線

 

 白雪姫と女性店員は東区画で最前線を張りながら境界門を利用した後退をし続け、とうとう北寄りの場所から南寄りの場所にまで下がっていてしまった。何千人という連合軍を率いている二人だが、巨龍の魔獣や分裂したその数を増やした三頭龍の眷属を前にして疲れの色を見せている。─────なにより把握しきれないほどの小さな生物、毒を持ったクモやサソリがとても厄介だった。いつの間にか足元に這っていたり、 服の裾に引っ付いていたり、空から雨のように降ってきたり、顔面にゴキブリが付いた恐怖すら霞んでしまうほどに震え上がることであった。

 女性店員は歯がゆそうに、キシュウと呻いて飛び掛かるクモを薙刀で切り裂き、肩を揺らしながら隣にいる水神・白雪姫に声をかける。

 

「.........くっ、............そちらはどうですか、水神様!」

 

 白雪姫は水流で巨龍の眷属の胴体を鋭く貫き、後方へと押し流す。 そして追い打ちとして水の竜巻を作り上げて地を削らせながら解き放った。やはり白雪姫も汗を流し、ボロボロの和装を引きずり、肩で息をしながら口を開く。

 

「ダメだ。............やはり、三頭龍の眷属は強い......我の力では.........っ、」

「GGGYYA............!」

「............ゥゥウ...............!」

 

 だがその時だった。

 突如────全ての怪物達が不自然に唸りてその足を同時に止めた。そして獣のように鋭く怪物の如く醜い視線は全て遥か空、下は荒れた戦場なのにいやに快晴な空、日光は薄い雲海に遮られることな くその地に降り注いでいるが、その空を見つめ続けている。まるで、自らの天敵と危機を察知した犬のように。そしてはっきりと何かを捉えたのか、獰猛な唸り声を喉の奥から漏らす怪物達。

 すると、家屋の屋根に乗っている怪物や獲物が近くにいない怪物た ち、そして双頭龍を筆頭にして小さな空迎撃部隊が出来上がる。もちろん、目指すは空の一点。

 

「GYAAAAAOOOOOOOOOOOO!!」

「kYAAAAAAAAAEEEEAEEAEAEAEAAAAAaaaa!!」

 

 怪物達はそれぞれ特有の雄叫びをあげて、高速で空に舞い上がって行く。

 その光景を前に、怪物達に続いて白雪姫や女性店員達も同様に迎撃する手を止めて見上げた。

そして、空に舞い上がった怪物達が全て小さな影になったその直後である。

 

「KYAAAAAGYAAAAAAAaaaaaeeeeegyoo!ooooooaaaa!?」

 

 怪物達の断末魔が空より鳴り響き、木霊する。しかし木霊したのは最初の数秒のみで、断末魔の叫びは次々と新しい断末魔によって上書きされ、鳴り止むことなく不自然に声量が上下している。

 その衝撃に思わず白雪姫達は苦虫を潰したような顔で耳を両手で塞ぐ。

 多種多様な断末魔の叫び、それはさらに雨乞いの役割を担うことになり、白雪姫や女性店員の周囲に立つ者たちが眩しそうに空を見上げて、怪訝そうにつぶやく。

 

「空から何か..................あれは火?..............」

「いや、それだけじゃない、何か......あれは刀?........」

「違う.........っ!!さっき空に飛んでいった化け物達だ!」

 

 その言葉に全員が戦慄し、その場より退避しようとしたが、白雪姫と女性店員は何かに気付き、その場を動かない。

 そして─────その何かが、今はっきりして行く。剣をもつ男のそばに落ちた火焔の塊は、地に落ちた影響で火焔を消し去っていた。そのおかげで火焔の中身がはっきりと皆の視界に映 り、その場に滞在していた散り散りの怪物達も気持ち的に小さく後ず さっていた。

 剣をもつ男は、剣先でそのブツを突ついて、

 

「...............死んでる.........でもいったいなにが、誰が?」

「もしかして援軍が─────階層支配者(フロアマスター)様が来たんだ!」

「おお!まじか!?...............って皆避けろ!!まだ沢山降ってくるぞ!」

 

 その叫び声を機に、空からは同じように火焔に肉を燃やされながら飛来する怪物や、複数の刀にくじ刺しにされている怪物、鋭利な物で切断されたようにバラバラにされている怪物、斜めに両断されている怪物、中でも一際、輝きを放っていたのが、第三世代にまで分裂した双頭龍の死体である。

 その双頭龍の死体は見事に一つの槍によって貫かれ、串刺しにされ たまま絶命してるようでピクリとも動かない。

 だが本来、その程度で死ぬ双頭龍ではない。他の者、今この場にいる者たちが同じように槍や剣を双頭龍に万が一で突き刺すことができたとしても絶命はしないどころか、ピンピンしている可能性だってあるだろう。なのに目の前の死体には他に外傷らしきものは見当たらないので、一突きで絶命しているのは間違いなく、つまり自然にこの槍、燃える炎から精錬されたような紅い槍の使い手はこの場で最上位の霊格であることは確定的である。それを知性の薄い怪物達も、それを迎撃していた多種多様の下層コミュニティの戦力も自然に悟っていた。だから、皆最初は〝階層支配者〞が援軍に来たのだと勘違いしていた。

 最終的に、双頭龍の死体は分裂さえできずに槍が爆散して発生させて紅蓮によって燃やし尽くされ、灰となりて空へ舞い上がっていった。

 少ししておびただしい数の死体の雨が止み、途端、彼女達の前に一匹の怪物が地を揺らし豪快にその姿を表す。その姿は、悪の化生そのもののように醜く汚れのない紫がかった白き肌を持つ怪物、ギョロギョロと眼を動かして、空を見つめる。まるでこの場面は自分の役目だとでも言うかのように。しかしそれはあながち間違ってはおらず、 先ほど空に舞い上がった群体の筆頭の双頭龍、その霊格の覇気よりも、この怪物の方が霊格は大きい。

 それを示すように、白雪姫と女性店員が咄嗟に叫ぶ。

 

「この霊格......っ!」

「............ぬぅぅ、ここに来て第二世代かッ!」

 

 周りも二人に続いてうわ言を呟き、戦慄し恐怖する。

 第三世代の双頭龍でさえ厄介な化け物であるのに、それ以上の化け物である第二世代はもう、視界にすら入れたくない存在なのだろうから慌てるのも致し方ない。しかし、ふと皆は希望を抱いて、日輪を見上げる。

 ─────階層支配者なら第二世代など容易い、ならば逃げる必要はないのだ。

 だから安心して、でも警戒しながら眩しそうに天を見つめ続ける。

 皆の視界に遥か上空より燦々とした太陽の日光が降り注ぐ。

 そして皆の口から「.........あ」とつぶやきが漏れたのと、ほぼ同時だった。

 その日光に黒点、一つの黒い影が生まれ、そして突如その黒点の霊格が膨張し、日輪の光さえ霞ませるほどに蒼く瞬きながら強大な力を象徴するように、遥かなる天の上で花火のように豪快に燃え上がり始める。─────その様はまさに蒼炎の太陽とも呼べるものであった。

 そして地表に途轍もない衝撃波と地震規模の振動が訪れる寸前─────聞き慣れた声が小さく、強く、その者のことを知る者にはよく響いた。

 

「─────顕現、〝霊槍・絶対物理破壊(トリシューラ・レプリカ)〞─────〝霊格階位・深紅(クリムゾン)〞」

 

 その者の知人にとっては頼もしい声と共に、その場にいる皆を一瞬で戦慄させる恩恵の名がその場に響く。

 ─────何せその名は遥か昔に破壊神が使っていた破壊の力の一端であり、神格武具の中でも有名なものである。

 その破壊の名こそ、〝絶対破壊の霊槍〞かつてブラフ マー、梵天と同じ位にいた破壊の神が三つの都市をそれぞれ一撃で焼き払った。

 その際に使われた神格武具の名が〝絶対破壊〞である。

 赤黒い光沢を放つ三叉の槍がヒュンッ!と、地を破壊しない程度に手加減された速度で空を切り裂き、高速で飛来する。そして手加減されているのにもかかわらず、飛来した紅蓮の槍は双頭龍の片方の首を容赦無く地に釘付けるように縛りつけた。

 

「GYAAAee!?───── GYAAAAAAAEEEAAAAA!!?」

 

 それと同時に紅い槍から煉獄の如く火焔が迸り、双頭龍は気持ち悪い悲鳴をあげて悶え苦しむ。しかし地に縛りつけられているために苦しむことすらままならず、地に這いつくばるように奇声を上げてもがいている。

 そこへ立て続けにトドメを刺す────強き声が響く。

 

「〝神速流星〞─────〝ドラゴンランス〞─────ッ!」

 

 第三宇宙速度を超えていたかもしれない。それほどまでの破壊速度で空から飛来するその者は、大気に鋭く一筋の蒼き閃光を記し刻んでいく。

 そして一瞬皆の、下層の中でも実力者達の視覚に捉えられたその者は─────大気に描かれた加速の余波たる波紋を、さらなる轟音を伴う急加速で掻き消し、双頭の邪竜目掛けて槍の如く手刀を構えた。その手は蒼と黒のコントラストの火炎を纏いて大気を貫いていく。

 それに対して周りでは、馬鹿な、と皆が最初は刹那に思っていた。ただの人間の手でしかもあの速度の中で双頭龍に叩きつければ、例え鬼神の力をその身に宿していても槍のように砕けるか、潰れてひしゃげてしまうか、あるいは皮膚が全損するかもしれないのだ。だが、そんな心配を続けている暇はコンマとしてなく途端、自然災害クラスの暴風が辺り一面に吹きつけて足元に散らばっていた残骸や埃を綺麗かつ豪快に消し飛ばし、飛来した一点で一回だけ雷鳴を上書きするような途方もない轟音が地表から大気へ響いた。

 まさに─────流星の一撃といえるものだった。

 

「くっ...............!?」

「っ...............!!」

 

「ヤバイ、皆伏せろっ!!」

 

 誰かがそう叫んだ瞬間、大規模な破壊と暴風に遅れて第二波の、圧倒的なやり場のないエネルギーが大地を駆け抜けた。

 白雪姫と女性店員、他の住民たちは暴風から身を守るために、髪を押さえるより視界を遮るように腕で顔を隠していて、乱れた服や髪を意識に入れることすらなく、暴風にさらされながらも視線はその場所から離さなかった。

 パラパラと砂埃が舞い散る。周囲は砂塵が漂い、変な静けさが支配 している。

 そして視界が明確になると、変な静けさは周囲からの咳き込む声や 心配するような声で消え去り、震源の地面が軽く巨人族が殴ったように大きく凹んでいた。さらにそこから蒼き光が空へ登るように揺ら めき、第三宇宙速度以上─────かもしない破壊速度の影響と破壊 を招いた者から発現した炎熱による極度な温度差で、クレーターとその周囲にも圧倒的な破壊の力を象徴するように世界の境界を歪めて、 大気がねじ曲がる現象、巨大な蜃気楼を作っていた。

 ただ不思議なのは、人間の質量とただのヤワな人間の手刀でこれ程 の破壊が行われたこともさることながら、周りの味方がいる場所に無 駄な破壊が生まれなかったことである。多少暴風が吹き荒れたが、大 した被害は出ていない。普通、第三宇宙速度で動けば普通の人間では すぐに燃え尽きるか、耐えられないが、そもそもその速度に達するこ とすら不可能なのだが、通常それに近い速度で物体が燃えながら落下 すれば街一つ吹き飛ぶ威力があるはずなのだ。 おそらく飛来した者の実力のおかげだろうことは皆すぐに察して いたが、やはり流石にただの人間が流星の如き速度で落下したら─────皆は暗黙のルールのように沈黙を保ち、状況の変化を待つ─────白雪姫と女性店員だけはクレーターの崖まで近づいた。

 だが、それらの心配とある意味侮辱な思考はすぐに杞憂に終わった。

 白雪姫と女性店員の視界に映ったのは─────後始末のように 青い炎がボォーと瀕死状態の双頭龍の体を瞬く間に覆っていき、跡形もなく灰となって地に帰ることなく空へ舞い上がる様と、それを確認する素振りすら見せずに悠々と王の凱旋のように歩いてくる、いつもと異なる服装、マントを羽織り優雅にその裾を靡かせる一人の青少年、やはり榊原亜音だった。 紅い裏地のフードが付いた─────背中の下裾辺りに緑の自然が燃え盛るように描かれ、その上を一筋の水色の風が吹いている─────黒き中袖の羽織物マントを身体を隠すように羽織って前をボタンで軽く閉じている。そして、その背には〝仙神〞と赤い文字で描かれていた。時折、羽織の裾が舞い上がり、銀色よりすこし暗い色の ダボダボとしながらも薄手の、道着の長ズボンが垣間見える。脇にはもちろん、〝仙神〞の証である黒き羽衣を漂わせていた。

 亜音は輪廻眼と羽衣を消して、二人の元に歩み寄る。

 

「白雪姫と店員さん.........二人とも無事みたいでよかった」

「フン、来るのが遅すぎるわ。それに貴様に心配され─────」

「はい、大丈夫です。本当にありがとうございます、亜音さん」

 

 女性店員が嬉々かつ礼儀正しく礼を述べ、白雪姫は歯がゆそうな表 情を浮かべていた。

 亜音はそんな二人の様子を一瞥して小さく微笑んだ後、一応周囲を探りはじめる。亜音の意識内で薄い膜が風船のように膨れ上がっていき、広範囲を、この外門区画全土を覆い尽くした。

 

「ここにはもう一匹もいない─────次の外門まで後退したか。フゥ.........とりあえずは安全だな」

 

亜音は独り言のようにブツブツ呟き、目の前の二人は怪訝になる。突然目の前で棒立ちしたまま、少し察することはできるが、文脈が意味不明な呟きをぼやかれては、訝しげにもなってしまう。

 白雪姫は眉を顰めて亜音に問いかけた。

 

「......おい.........どういうことだ?......... 気配が分かるのか?」

「─────正確には俺の感覚、視覚範囲を力を通して広げ、それぞれの場所を視覚情報として把握する。ただ瞬時に途轍もない量の情報が頭に入ってくるから、結構精神的に来るんだけど.........だからやろうと思えば家の中のゴキブリや蟻、その全ての数と場所を把握できるよ」

 

 白雪姫は眉をピクッと動かし、女性店員は目を見開きながら静かに呻いた。

 

「それが亜音さんの力..................、」(いつもと雰囲気も違う............亜音さんまた強くなったんだ)

 

 女性店員は少し亜音の横顔に見惚れていていたが 〝相手は年下よ 〞 、〝でもこの箱庭じゃ年はあまり関係ないし〞とボヤボヤザワザワとしていたら、亜音が心配そうに─────ボロボロになっていた着物の裾をめくって言った。

 

「何処かに怪我でもしたのか、それとも精神的な疲れから ─────「ぁ、きゃあああああああ「よっ─────体に不具合もない、発声も充分だな」

「亜音さん!なんで避けるんですかっ!」

 

 普通そこは、何をするんですか!?だと思うんたが、思考に多少の障害あり?。それとも問答無用ということだろうか─────酷いなぁ、と呟く亜音。とここで、予備知識。こういうセクハラ行為は亜音の診断方法の常套手段である。気を遣って症状を隠す子も少なくなかったためだ。故に良い子は真似してはいけません。亜音はヒョイっと女性店員の足蹴りと薙刀の振り下ろしを躱し、小さく後退したままドヤ顔で─────親指を立てる。

 

「ふむ─────ナイスパープルパンツと、健康状態に異常なしです」

「ぐっぅ、この馬鹿亜音さん.........ぅぅ」

 

 女性店員は少し涙目になった後、ハッとなって腹を抑えてうずくまる。

 亜音はその様子に、まさか、と冷や汗を掻いて─────不用意に近づいてしまった。

 

「亜音さん............天誅!」

「なっ、まさか仮病─────!?」

 

 亜音は盛大に後頭部を殴られ、悲鳴を上げる前に地面に顔を埋められた。

 女性店員は手をパンパンっと払って、頬をほんのり染めながらブスッと明後日の方向に首を振る。

 

「フン..................亜音さんってば、また少し大人ぽくなったと思ったら、これだもの」

 

 そんな二人に置いていかれている白雪姫は、やれやれと大体の人間関係を悟りながら頭を振って嘆息を零し、目下にいる亜音に問い掛けた。

 

「で、どうするのだ、亜音。─────これから」

「ああ、ちょっと待て。もうすぐ来ると思うから─────、」

 

 

「「??」」

 

 

######

 

 

 ─────東○○○○○○○外門。居住区画。

 

 

 ─────亜音と同じ外門、最前線の奥へと歩を進めていた一人の少女。

 その者は十六夜達と同じ年頃の女の子で、透き通るような水色の毛先は頬を静かに撫でている。

 服装は水色のキャミソールの上に薄手の青いパーカーを袖を通さずに羽織り、白いフリルの膝丈ぐらいのミニスカ、動く事を考慮してか、風が吹き抜ける度に垣間見える白いスパッツが装着されていた。

 靴も動きやすい軽そうな水色の靴を履いている。瞳はそんな可愛らしさを弾き飛ばすような深紅に染まっていて、活発な女の子特有の大きな瞳でありながら、年齢にそぐわない程、鋭利になっている。

 そして、白いフリルのミニスカの上、腰に巻かれている茶色いベルトに、二刀のサーベルとカットラスのような剣が鞘に収まって差されていた。

 彼女の名は─────鬼理澄舞夏。亜音と同じ〝仙神〞の器として選ばれし存在である。 舞夏は立体的に大気を蹴っては飛び建物の屋根を蹴っては飛びを繰り返しながら双剣のカットラスを構えて疾駆し、空を飛ぶ双剣龍の首元を二刃斬りつけるが、途端にパキンパキンっと甲高い破壊音。

 舞香は片手のバク転と跳躍で軽く後退し、双頭龍と共に街中に降り立って、視線を手元に落とす。双剣のカットラスは無残に刃の根元から折れていて、二度と使えないガラクタになっていた。

 舌打ちしながら舞香はそれらを路上に捨て、ギフトカードを取り出すが─────やめた。

 

「やっぱめんどい.........すぐに終わらせて次に行かないとだし、〝ア レ〞使うか」

 

 舞香は瞳を一瞬だけ猛禽類に変化させて背中より一匹の蛇を生やす。

 濃い緑の鱗を持ち、小さくシャァっと呻きながら人の腕三本分ほどの太さを誇る体躯を蠢かせて舞香の肩に付き従うように這い寄った蛇。

 途端、舞夏は告げる。

 

「来い────〝草薙剣(くさなぎけん)天 叢 雲(あめのむらくま) 〞」

 

 蛇の口より飛び出す刀の柄。

 普通の刀と外装は対して変わらない一刀を蛇の口から抜き放つ舞香。

 そして宙に踊り大気を蹴って真っ直ぐ急加速────電光石火で双頭龍の首を一つ斬り落とす。

 だが、一つしか首がなくなった双頭龍の顔に焦りは見えない。なぜなら、傷を負っても味方を増やせるからだろう。多種多様な猛毒種が───。

 

「Ga.........Aa?」

 

 だがそこで双頭龍は膝を崩してぐらつき、地に落ちる鮮血に動く気配がないことを悟ったように呻いた。

 舞香は真紅の瞳を細め、血飛沫に汚れた顔に影を指して告げる。

 

「〝草薙の剣〞は〝八岐大蛇〞が体内でありとあらゆる霊格から精錬して生成した武具。そこで問題よ、八岐大蛇がなんで八本の首を持つ亜種になったか知ってる?────って喋れないか、なら仕方ない。............それはね?ある土地に祀われし龍に二つの特性があったからなのよ。生命の霊格を食い漁って〝体内に貯め込む〞習性と、土地の水神様としての役割、穢しを運ぶ異邦人や生命バランスを崩すような進化を遂げた生物からその土地を守る使命の二つ。八本もの首を持つ異形種に進化してしまったのも、凶暴性を備えて暴食になってしまったのも、そのせいらしいよ」

 

 そこで舞香はふと思った。八岐大蛇は元は半星霊で、〝土地を守護する〞使命と〝多種多様な神格を創造する〞使命、その両方を駆使したサイクルを託され、効率を重視された結果が〝八岐大蛇〞だったのではないか、と────いわゆる、実験体だったのかもしれない。

 ────元を辿ってみれば、私と同じ被害者が出てくるとはね。

 生まれる過程で運命を細工され堕ちた半星霊と強力な神となるために身体をいじられ堕ちた私。

 両者共に捨て駒の道具として扱われた。

 私の方がまだマシかも────〝八岐大蛇〞は、“与えられた凶暴性”という名目で殺されたのだから────。

 でもそんなのもう私には関係ない。私は自分の意思で、自分の道を行く。

 ────使命なんて糞食らえ!!過去の異物の思い通りになんて絶対させない────この力はもう神の物じゃない!全部、私の物だ!ザマぁみろ!!

 

「つまりね、草薙の剣は己の為にその過程で相手の霊格を食らうの。────故に不死不滅の刀であり、封印の剣。無限の宇宙観を持つ星霊ですら封印できる力を持つ。分かった?貴方達じゃあ、エサ程度の存在でしかないの?そして、これが」

 

 舞夏の左手に白い精霊が嵐のように素早く収束されていき、仙人の証である羽衣を────仙神の証である〝白き〞羽衣を脇に纏いて霊格を膨張させていく。

 

「GYAAAAEEEEEEEEEEEEAaaaaaaaaa! 」

 

 途端に雄叫びをあげて、低空飛翔しながら突貫する双頭龍。噛み殺す気なのか、大きく顎を開いて醜く涎を垂らしていた。

 しかし舞夏は焦らず、左手に集中する。この仙法は────正真正銘、舞夏の技。亜音ですら彼女にしかできないと断言した極限までの一点型集中技。

 大気に霊格を宿らせ精霊となし、己の霊格をほんのり混ぜてある自然エネルギーと混ぜ合わせて極限まで圧縮させいく。ここで予備知識、前に亜音が〝天山〞を登る時、気をつけていたことを覚えているだろうか。高いところは気圧が低くなり、空気が薄く気温が低いと。故に亜音は慣れるまで徒歩を選んだ。ここから導かれるのは空気が拡散して少ないほど気温が下がる、ということ。では逆に問うぞ?気圧が極限まで高まり、空気の密度が多くなるとどうなるか────?

 ────これに似た現象、というよりほぼそうかもしれない現象の名は〝断熱圧縮〞と呼ばれている。

 舞夏の左手に握り拳程度の手頃な白い光球が出来上がり、 その光球の周りを衛星のように白い粒子が高速で周っている。と同時に舞夏の目前に迫った双頭龍。

 だが刹那に目を見開き、舞夏は右回転のステップで双頭龍をいなしながら、その勢いで左手を懐に構えた。

 

「仙法─────」

 

 双頭龍はゆっくりとした時の中、冷や汗をダラダラと流しながら視界を白い光で眩く染め上げていく。おそらく感じ取っているのだろう、己の命がこれまでなのだと。

 そしてその時がやって来た─────舞夏は左手の光球を押し出すように双頭龍の横っ面に叩きつける。

 

「─────〝二連・光天大砲〞(デュアル・こうてんたいほう)ッ!」

 

 まさに一瞬だった。

 双頭龍の上半身が何千度という高熱を帯びた白き大砲で消し飛び、 しかしそこで終わるわけではない。さらにその名の通り第二波、高密度なまでに圧縮されていた大気が膨張して爆発し、蜃気楼の極太大砲を放って双頭龍の残った部分の全てを一瞬でマイクロ単位まで分解し、瞬間移動と見間違えてしまう程に消し飛ばした。

 音で表現するなら、バァンバァァン!という感じだろうか。虫食いを早送りしたと言った方がわかりやすいだろうか、とにかく舞夏は刹那に二回もの大砲を打ち放ったのだ。そうなってしまったのは、最初と第二波に時間という差がありすぎるせいと、第二波がただの余波という末端の力でしかないからだ。光と音、それぐらいの差があるといっても過言ではない。故に知覚では、二回に渡って消えた、としかわからないのだ。 舞香は舞い上がった風塵の中で左手を振るって、恐ろしいことを告げるのだった。

 

「この分だと─────あと、百発は打てるわね」

 

 末恐ろしい、魔王達にはご愁傷様と言っておくべきだろう。




・エンディングテーマ《Blizzard》歌:三浦大知


さあここから加速していきます。
亜音の家族の現在、霊格の真実、新たな力、そしてその瞳の真実。

救世主としての彼が見えてくるでしょう!!!


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