新・問題児と人の神が異世界から来るそうデスヨ   作:行くよ!!!!

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修行編『~神から人へ・人から神へ~』
プロローグ


 ───────始まりは数週間前〝ペルセウス〞との決闘の翌日の夕方だった。

 

 Calor・merus(カロル・メルス)、彼女によって亜音は自室に転送された。

 そして、女神である彼女と夢の中で別れを告げあい、彼女はひとり、亜音の前より消滅した。

 そんな夢から目が覚めた亜音はベッドに腰掛け、腰に巻くポーチや紺の上着と一緒にベッドの上に投げられていた彼女からの、一通の手紙を手に取り、少しの間、静かにその手紙を眺める。

 封を解くと、いつの間に抜き取ったのか、一枚の紙と共に亜音のギフトカードが挿入されていた。そして、そのギフトカードには二項目、亜音の知らない、新しいギフト名が記されていた。

 とりあえず、亜音はもう一方の、大きなメモ用紙に目を通した。

 すると、そのメモ用紙には──────ご丁寧に、適切なアドバイスが書かれていた。

 

####

 

 

 榊原亜音、確かに君は強い。

 だけど、今のままでは絶対に“彼ら”には勝てない。

 相手は詩人と同様に神群を築いた霊長種であり、あらゆる技術に精通した最強種。

 奇跡の視点からでは霊格密度は低いが、世界を支えている明確な視点から見れば存在を確立している。

 前者の霊格密度は低いものの、人類史にとってそれは“否定”仕切れず、時代を切り開くとして存在を望まれている。

 近代の世界を支える医学、インフラ、情報科学、その全ての根幹を成す奇跡の術。

 すなわち、あらゆる収束点に関わる彼らは無限にも近い霊格エネルギーを宿している。

 だから、君にいい修行場を用意してあげる。

 焦らず、力をつけなさい。この出会いは必ずこの先も君を助けてくれる。

 君はもっと強くなれるから、ううん、できれば捨ててきたものを拾って欲しい。

 私はただ、貴方が人のまま幸せになれることを願っています。

 

 ───────誰がなんて言っても、貴方は“榊原亜音”なのだから。

 

 From Calor・merus

 

 

 別れの挨拶が一切無いところは、彼女らしいのかもしれない。

 

(捨ててきたものか、………………俺は救世主だ。何一つ捨てたりしないし、不要なものは“最初”から無いんですよ)

 

 一人の少年はその手紙を綺麗に折りたたみ、いっときの間、額に手を添え、両目を伏せる。

 そして、微かなうわ言をこぼす。

 

「…………生まれた時からずっと。……………決まっていたんだ」

 

 

#####

 

 

 

 時は戻り、ペストと再会した、その翌日の昼間。

 亜音は自分の限界を知るために、世界の果て、トリトニスの大滝を訪れていた。

 服装は私服からジャージに着替えており、気合は充分だった。

 そして、なぜ、世界の果てに来たのか───────その訳は亜音が今いる位置を見れば分かる。

 亜音は世界の果てから宙に躍り出ており、斜め三十メートルの位置まで滞空していた。さらに世界の果ての終わり、崖先に黒い霧で作られた人型の人形がいた。説明していなかったが、〝蚩尤〞の伝承には〝ある力〞が存在するとされている。そのある力とは〝超能力〞の事だ。伝承にそう書いてはあるが、正確には違う。〝蚩尤〞は兵器や炎、黒い霧を生成する事が可能であると同時に、それらを遠隔操作できる、言わば自分の意思を分け与えている感覚に近い。その様を見て、〝超能力〞だと当時の人達は思い、伝承に記したのだろう。あながち間違ってもいないのかもしれない。

 トレーニングの際、その力を応用して対人戦をシミュレーションしたりするのだが、今回は違う。亜音は黒い霧の人型に意思を送る。

 すると───────黒い霧が水飛沫が舞うようにばら撒かれ、 全て幾千という剣や刀、槍に形成されて黒い霧の人型の周りに配備された。

 そして、次の瞬間、数多の流星と成りて宙に滞空する亜音へと注がれた。

 大雨の刃が亜音に肉薄する。

 亜音は高速で迫りくる刃を、〝輪廻眼〞で見据えながら、赤く光ら せている右手を横薙ぎに振るう。その軌跡は投影されるように赤白く燃え上がり、火炎のカーテンを作り上げる。

 そのカーテンは最低限の大きさ、亜音だけを守る壁と成りて、刃の雨を溶かし防ぐ。

 しかし、高速で大気を切り裂く雨の刃達、特に亜音をジャストに狙ったものは少し特殊のようで、何千度という炎の壁に当たっても溶 けず、逆にその炎を切り裂こうと均衡していた。

 亜音は苦笑いを浮かべ、呟く。

 

「我ながら厄介な力だな───────っ!」

 

 亜音はさらに火力をあげるように蒼き炎へと変色させ、星の最後の 如く火力が最大限に高まり、轟音と共に大爆発を引き起こした。その 大爆発は大気を弛緩させる程の爆風と熱波を吹き荒らす。そして、その熱波は瞬く間に熱を帯びた見えない衝撃波と化し、世界の果てに立つ黒い霧の人型を吹き飛ばし、木っ端微塵に霧散させると共に様子を見ていた───────トリトニスの水神をちょうー怒らせた。

 

『何をしておるのだ!貴様あああああああああああああ!!』

 

 水神こと、巨躯の大蛇はそう怒声を上げるが、可哀想なことに水神 様の声はたかだか人間が起こした爆風如きに掻き消されていた。だが、亜音とてバカではない。未然に待機させておいたのか、森林から 大量に溢れてくる黒い霧を使って、世界の果てをドーム状の屋根のように覆って衝撃波と熱波を遮断し、二次災害を未然に防いでいた。

 そして、世界の果てが青と赤のコントラストに染め上がる様はおそらく神秘的だろう。亜音は十六夜なら大喜びしそうだなと思い、水神様に対してテロリスト並の暴虐未遂をして置きながら、小さく微笑むのだった。

 水神様は完璧に無視するテロリストこと亜音に嘆息を零して呆れ返り、水の中へと静かに姿を消して行った。

 そんな日常を、今日を入れて二日続け、水神様に無意識にストレスを溜めさせいくのだった。

 

 

 

 

######

 

 

 二日間を無事に終え、その翌日。

 北側からジン、十六夜、飛鳥、耀、黒ウサギ、リリ、レティシア、が 〝ノーネーム〞の本拠へと帰還してきた。帰ってきてすぐ、屋敷の前で飛鳥が駆け寄ってくる。

 どうやら、飛鳥の肩に乗っている新しい仲間の事らしい。

 

「お帰り、飛鳥」

「ただいま、亜音─────それで、この子は私たちの新しい同士よ、ほら自己紹介して」

「メルン!」

「へぇー可愛いな.........俺は榊原亜音、これからよろしく頼むね?メルン」

「うん 任せろ♪」

 

 メルンは親指を立てて声を上げる。

 そんなメルンの元気な声に皆が笑い、そのままの足で農園の地に行き、十六夜と飛鳥の計画、『ハロウィンをやろう』を聞きながら亜音は土壌を復活させようと奮起するのだった。

 だが同時に、その時まで自分がここに居られるかどうか…………亜音は切なげな笑みを浮かべてその可能性をあげていく。

 ・〝蚩尤〞の事が漏洩した場合

 ・〝ノーネーム〞復活の目処が立った場合、今ようやくスタートラインってとこだ。

 ・自分の狙う魔王との争いの火種が〝ノーネーム〞にも撒かれた場合

 情報を集める、確かにそれは必要な事だろう。

 だが、それは逆に敵に自分が敵だと教えてるようなもの。もし、自分が敵に知られた場合、確実に〝ノーネーム〞は争いに巻き込まれる。それだけは避けねばならない。なぜなら、本当なら起こりうるはずかない戦いだからだ。無駄な労力と被害は、しかもようやく波に乗れてきている状況下の〝ノーネーム〞に課したくはない。そして、争いに巻き込まれれば、子供達が危険にさらされる。

 慎重に事を運ぶ必要がある事を再認識し、亜音は泥にまみれて働いた。

 

 

 

 

 

#####

 

 

 

 

 

 

 ───────〝ノーネーム〞本拠、別館前。

 

 亜音は自分の限界を二日間で大体把握したので、いつもの日常、夜中のトレーニングをしていた。筋トレ、瞑想、多数行使、それらを行っ て数時間が経過し、亜音は一息つき、十六夜とジンのいる書庫より本を持ってきて、月夜の下で読んでいく。

 

 今更だが、〝ノーネーム〞の書庫が亜音の家の書庫、その数倍はあ る量の本を収納している事に対して亜音は素直に、〝ノーネーム〞を称賛していた。

 

(あれだけの本を〝この世界〞で集めたのなら本当に凄い.........相当 大きなコミュニティで顔が広かったに違いない...............だが)

 

 そう、その〝ノーネーム〞はもうどこにも存在しない。

 魔王に滅ぼされ、主力は散り散り、居住区画や農園はあり得ないほど朽ちていて使い物にならない。魔王がピンからキリだということはよく理解できる。ペストはその中間位置、亜音が初めて闘った魔王『退廃の風』は確 実に上位格だ。

 そして、自分の狙う魔王は間違いなく上位格、キリに近い存在。

 亜音は少し身体を重くし、別館に背を預けて、明るくなってきた空を見上げる。

 もうすぐ太陽が目を覚ます。亜音は盛大に欠伸をして、静かに太陽が起きるのを待とうとしたのだが、亜音は怪訝な表情で別館の入り口に視線を移した。

 

(こんな時間に............誰が.........)

 

 亜音がそう見つめていると、元気良く別館から出てきたのは、毛先が焦げ茶な黄色い髪と狐耳を生やし、白いエプロンの割烹着を着た少女こと、リリだった。

 リリは元気良く二尾の狐尻尾を振り回し、亜音に走り寄る。

 

「おはようございます!亜音さん」

「あ、ああ、おはよう、リリ。でも、なんで」

 

 現在時刻、はっきりとは分からないがおそらく、朝の四時頃だろう。

 子供が起きる時間ではないのは確かだ。いや普通はまだ誰でも寝ている時間帯だろう。

 亜音はゆっくりと立ち上がり、リリに聞こうとしたのだが、

 

「さあ、もう寝てください」

「え?」

 

 突然、リリにそうハッキリ言われたので亜音は耳を疑った。 どうやら、亜音がこれまでリリに対して感じてきたことは気のせいじゃないみたいである。感じてきた事、というのは自分に対するリリの態度が厳しくなってきたような、自分がリリにお世話されてきているような、朝食代わりの弁当しかり、呪いが解けた後もしかり、リリが亜音の妹属性に 、み たいな。亜音は少し嬉しくもあったが、やはりリリには無理をさせる 訳にもいかない。

 ここはビシッと、良い子は寝ている時間、そう教育しようと亜音は 指を立てたのだが、

 

「あとで朝食を持って起こしに行きますので、ゆっくり休んでください」

 

 リリがそんな亜音の手を自分の両手で握りしめて言ってくる。

 亜音の目の前にはキリッとしながらも不安そうに揺れる深緑の瞳、上目遣い。

 これには───────誰も逆らえないだろう。

 亜音は諦めたように〝心の中〞で溜め息を零し、太陽の光を横から浴びながら輝くように微笑む。

 

「わかった.........じゃあ、お言葉に甘えるよ、リリ」

「はい♪では行きましょう」

 

 リリに笑顔で手を繋がれ、亜音は逃げの選択肢を無くされた。

 余程、リリは亜音の事を信用してないらしい。意外と用心深いだな、と亜音はリリの可愛い背中を見てそう思い、流石の彼もリリには肩なしでだった。

 

 

 

####

 

 

 

 亜音はリリの言伝を守り、朝食が運ばれてくるまではしっかりと寝ていた。

 今は自室で黒ウサギと話をしながら、リリが持ってきてくれた朝食を食べている。さらにレティシアが運んできてくれた亜音専用味のコーヒーを口に含み、身体を目覚めさせていく。

 しかし、こうもお世話を焼かれると、亜音は背中が歯がゆくて仕方なかった。何分、元の世界では生活設計から家事全般を全部一人でやってきたのだ。そわそわするのも仕方ないだろう。

 さらに、亜音のこれまでの気遣いになんとか応えようとしてくれているのが、ここにいる黒ウサギとレティシアからとてもよく伝わってくるせいで、亜音は余計に申し訳なくなる。

 はぁー厄介な環境を作ってくれたものだな、我が友(蚩尤)よ、と亜音は涙ながらに心の中で親指を立てた。

 朝食を済ませた所で、黒ウサギとの暇つぶし会話から本題へと移行させる。

 本題というのは、自身のこれからの予定の事も含まれるが、先に黒ウサギが自分に聞きたい事から始めた。コーヒーを口に含みつつ喉を潤して、亜音は口を開く。

 

「それで、聞きたい事があるんだろ?黒ウサギ」

「へ?........」

 

 黒ウサギはさりげなく聞き出そうしていたのだろう。まさか相手からその話題に触れてきてくれるとは思いもよらなかった、 そう思っているような唖然とした顔を黒ウサギはしていたのだ。

 

「〝天雷〞を宿した刀の事だろ、黒ウサギが聞きたいのは」

「............しかし、人に力の事を聞くのはよくないことなので」

「うーん、そうだなぁ.........一言で言うなら───────〝形見〞だな」

 

 亜音は軽快にそう言うが、黒ウサギは一転してうさ耳をへにょらせ、表情を曇らせる。それは仕方ないことだろう、形見には〝誰かの死〞が尾ひれのよう に〝絶対〞ついているものなのだから。これ以上黒ウサギは追求するつもりはないのか、沈黙し、亜音もこれ以上話す気はなかった。亜音は笑顔を浮かべて、話を変えた。

 

「で、話は変わるんだが、いいかな?」

「は、はい、なんでしょう?」

 

 突然、景気よく声を掛けられた黒ウサギは少し肩を揺らしながらも亜音の言葉に聞き耳を立てた。

 亜音は一言だけ告げた。

 

 

 

「箱庭の外へ、行ってくるよ」

 

 

 

######

 

 

 反対はされたが、すぐに戻ってくるからと、なんとか黒ウサギを説得した亜音は赤のパーカーと白Tシャツ、薄手で迷彩柄のスウェットを着て、最後に治療用具などが入ったポーチを腰に帯代わりのように巻き、ギフトカードをスウェットのポケットに入れながら支度を整え、屋敷前にやって来た。

 すると、屋敷前にはなぜか、レティシア、十六夜、飛鳥、耀、黒ウサギが集まっていた。

 亜音は状況が理解できず、黒ウサギに視線を送ったが、レティシアが代弁した。

 

「亜音は箱庭の外へ行ってしまうのだろう、だから見送りにきたのだ」

「せいせいするがな、俺は」

 

 十六夜がケラケラ笑いながらそう言う。

 飛鳥と耀は少し寂しそうに亜音へ声を掛ける。

 

「私達はいつまでも友達、仲間よ」

「亜音のこと、忘れない」

 

 それに便乗するように黒ウサギがシクシクと言う。

 

「亜音さん、いつでもいいですから帰ってきてください。黒ウサギはその時をゆっくりと待っているのですよ」

 

 黒ウサギと飛鳥、耀は瞳の端を潤わせ、亜音を切なく見つめる。

 レティシアも出来るだけ明るく振る舞うとしていた。十六夜も少しは寂しそうではあるが、これで終わりだとも思ってないらしい。そんな感動的な見送りを受けた亜音は、ハッキリと告げた。

 

 

「えーと、何を言っているのかな?君達は」

「は?????」

 

 亜音は少し溜め息をしながら、頭を掻き、ケロっと言った。

 

「今日の昼過ぎには帰ってくる予定なんだけど 」

 

 

  ...........................?!思った以上に早くね??????

 

 

「えーと、俺は帰って来ないほうがいいのか?」

 

 その問いに答える者は誰もいなかった。

 だがその代わり、少しの沈黙が支配した後、皆の視線が自然と黒ウサギへ集った。

 赤く光る眼光は黒ウサギに大量の冷や汗を掻かせる。蛇に睨まれた蛙状態である。

 黒ウサギは手を胸の前でかざし、激しく言い訳と弁明をした。

 

「え、ええ?亜音さんはいつかコミュニティを出ていくと仰ってましたし、この前も亜音さんには気を使わせ過ぎたことを知って、〝ノーネーム〞に愛想が尽きたのかと、黒ウサギは」

 

 しかし、どんな言い訳も問題児三人は通用しなかった。

 黒ウサギの両手を飛鳥と耀が押さえ、十六夜がこれまでに見せたこともない邪悪な笑みを浮かべる。

 

「今日は退屈しなくて済みそうだなー…………?」

「そうね、私もそう思うわ」

「楽しみ?」

「メイドの私も混ぜて貰おうか?」

 

 四人は同様の笑みを浮かべ、レティシアも三人に加わるように黒ウサギへ歩み寄った。

 そんな黒ウサギは今だに誤魔化そうとするかのように、無理な笑みを作ってはしゃぐ。

 

「四面楚歌!ワーイなのですよーさあ今日も一日」

「へぇー嬉しそうだな、なら手加減は必要ねぇーな?」

 

 十六夜の一点の曇りもない笑みもない表情に黒ウサギは、身体を硬化させ固まる。

 そして、黒ウサギは────。

「悪霊退散ー!四面楚歌ハンターイ!なのですよぉオオオオオオ!!」

 

 黒ウサギは高速で飛鳥と耀の拘束を抜け出し、本拠を飛び回る。

 その後を追うように耀が旋風を纏い、飛鳥が屋敷前で叫ぶ。

 

「来なさい────ディーン!」

「 DEEEEEEEEEEeeeEEEEEEEEEEEEEN!」

 

 赤い巨兵が屋敷前に顕現され、突風が巻き起こり、飛鳥はすぐにディーンの手に乗り、肩へと乗り込む。

 そして、耀と飛鳥は、一匹のウサギを捕縛するために発進して行くのだった。

 それを見送った亜音、レティシア、十六夜の三人は苦笑いを浮かべて肩を竦め合うのだった。

 

 

 

 冗談はその辺して、十六夜は軽薄な笑みを浮かべつつ、静かに亜音を射抜く。

 

「箱庭の外............そこに何があるんだ?」

「ん?............気になるのか?」

 

 

 十六夜の視線を軽くかわしながら、小さく口角を上げる亜音。

 二人は敵対しているわけではなく、敷いて言うならお互いを試し合っている、と言ったところだろうか。レティシアも静かにその状況を見守っていた。

 亜音は真面目な顔付きでーーーーー。

 

「うんまぁ俺も知らないんだけど」

「アホ」

「亜音の馬鹿」

 

「ひ、酷くないか?、」

 

 十六夜とレティシアの侮辱の突っ込みに亜音は苦笑し、そう呟く。

 そんな亜音を見て、馬鹿馬鹿しくなったのか、二人はそさくさと黒ウサギが逃げた方向へ歩いていった。

 亜音は一人屋敷前に残され、空を仰ぎながら嘆く。

 

「この扱いに慣れてる俺って...............マジ卑屈だなー」

 

 その後すぐ、黒ウサギの叫び声が響き、少し経つと雷鳴という合図が黒ウサギの逆ギレが始まったことを告げていたのだった。

 亜音は黄色く発光した場所を一瞥し、楽しそうに微笑むと身を翻し、ギフトカードを取り出す。

 そして、新たなギフト名を呼ぶ。

 

「〝転移結晶〞────『仙境蓬莱』」

 

 その名が呼ばれた途端、亜音の眼前に、混沌と光るカードのようなものが顕現し、亜音の視界をカオスに染め上げていく。 そして、亜音は世界が変わるのを感じると共に渦巻く時空へ誘われ、そこから姿を消すのだった。

 

 

 姿を消した亜音が次に目を開けた時、その視界に映ったのは咳き込むほどに撒かれている白い煙、頂上が見えない巨峰、先の見えない階段だった。

 つまり────途轍もなく大きな山が亜音の目の立ちはだかっていたのだ。

 亜音は遥か何千メートル先を見上げて、呟く。

 

「数時間で帰えるのは一苦労だな、」

 

 亜音は、黒ウサギに申し訳なく思いながら連続している赤い三つの鳥居をくぐり抜け、石畳の階段を登り始めるのだった。

 

 

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