新・問題児と人の神が異世界から来るそうデスヨ 作:行くよ!!!!
まさか、本当に瞬間移動するとは、亜音は当初、そう感心し驚嘆していた。名前の『仙境』という部分と、これを残した女神の力から察することはできていたが、やはり飲み込むには時間がかかった。
亜音はギフトカードに目を通し、ここにくる前に呼んだギフト名を見て、驚くと同時にこのギフトの詳細を把握した。
『〝転移結晶〞────〝 〞』。つまり、これは往復切符のようなものなのだ。使った場所から指定場所、逆も然り。
整えられた階段のおかげで、二十分程で標高二千メートル近くまで 亜音はやってきた。
相変わらず亜音の周囲は湯けむりの如く白い霧が充満し、視界は少しだけだが、見通しが効かない。亜音は遥か先の霞む頂を見上げ、推定四千メートル以上はあるだろうかと、そう見定めていた。もしそうなら、境界壁の約二倍はある、箱庭にそんな山が存在するとは思えない亜音だった。とはいえ、箱庭の中心はもっと高いだろう。比べるのがバカバカしいほどに。
「一応ここまで徒歩で来てみたが、酸素はまだあるようだ.........」
そう、亜音はここまで徒歩で来たのだが、その訳は登山病に掛からないためである。いきなり標高四千メートルに飛んで行ってしまっ た場合、後の活動に異常をきたす。なにより、ここは亜音にとって未踏の地であり、ここの上にいる者達が魔王じゃなくとも戦わないかどうかは分からない。ならば、できるだけその場の環境に慣れることが大事だろう。
だが、ここに来て亜音は気が付いた。
普通標高二千メートル以上の山肌は気温と共に気圧が低く、植物や緑は育たない。なのに、亜音の周りは以前として白い霧と雲が舞い、緑の森が生い茂っている。
そして、それほど寒くもない。
巨峰の寒さに関係しているのは、空気。地球(箱庭も)のまわりは空気で覆われている。この地球のまわりにある空気を、大気と呼ぶが、この大気は上空に行けば行くほど空気の量が少なくなり、薄くなる。そして、圧力も低くなるのだ。 空気には、圧力が低くなると温度が下がるという性質があるので、 上空ほど圧力が下がり、気温も下がってしまうというわけである。つまり、何かしらの奇跡がこの山に宿っているということだ。
亜音は、この周囲に漂う白い煙が結界のような役割をしているのではないだろうかと推測を立てるが、周囲の煙に触れようとしても指の隙間から風のようにすり抜けていくだけで、干渉することを許されなかった。
「............実態がないのか」
そう呟きながら手に溢れる白い煙を振り払い、独り言を続ける。
「さて...............とりあえず、この件は置いといて」
亜音は石畳みの階段の先、霞掛かった遥か頂を見据え、小さく口角をあげる。
「さっさと事を終えて、黒ウサギの所へ行かないとな」
亜音は石畳みを壊さないよう身体全体をバネのようにしならせて、 ぴょーんと大跳躍し、数百メートルぐらいで勢いが消えかかると、亜音の身体は重力に従わずに宙を舞い始めるのだった。
#####
亜音は標高三千メートルを超えたあたりで宙に浮くのを止め、石畳みの地に足をつける。
その場所だけは綺麗に景色が広がっており、白い煙は一切なかった。さらに、その場所は山肌が開拓されて、視界には境内の囲いと和風の怪物じみた大きさを持つ門が華やかに聳え立っていた。門の奥には巨大な屋敷寺、ノーネームの本拠に負けないくらいの建物が聳え、さらにその奥には今だに頂が見えない山の影と緑が見え隠れしていた。亜音は赤いパーカーの裾を揺らしながら、整頓された石畳みの道を歩き、門をくぐる。
一瞬の影が亜音に降りると共に日向のような温かみを持つ光が、亜音を出迎えた。
「これはある意味............神秘だな」
亜音は頭上を見上げてそう感嘆し、眩しそうに手を額に置きつつ目を細める。
頭上に広がる景色は、簡単に描写すると、雲が一枚のフィルムの役割をしていて、光を直射ではなくシャワーのように華やかに舞わせ、山肌の開拓地全土に降り注がせていた。その光は、全身に力をみなぎらせるような不思議な力を感じ、その証拠を視線を周囲に移して見つけていた。その証拠とは周りの自然の営みからだった。ここまで登ってくる間に生い茂っていた自然とは比べものにならない程、綺麗かつ華やかに営まれていて、なによりーーーと ても元気がいい、人間で例えるならリア充と非リアぐらいの差があるだろう。
境内の中は石畳みの道が迷路のように張り巡らされて、道沿いの区画には芝生が生い茂り、境内の囲いを沿うように果実を実らせる木々が並んでいる。
亜音は食べてみたいという衝動に駆られるが、そこは我慢しーーーとそこで、亜音は歩みを止めつつ、後ろへ軽く飛び退く。
(1、2、3.........4............いや、五人か)
亜音が数メートル後ろの門を背にして着地すると、目の前に一つの影が奥の境内より飛び降りてきた。亜音は瞳を変化させて、周囲の木々に視線を移す。
右に一つの影、左に二つの影を、亜音は捉える。
「最初に言っておきますが、俺は敵ではありません」
亜音は正面に立つ、図体のいい男、修行服のような白い半袖、長ズボンの道着を着た坊主頭、百戦錬磨のような無数の切り傷をその身に、頬には三筋の切り傷が刻み込まれている長身の男は、険しい表情を亜音に向けて重そうな口を開く。
「場所が場所、本来、この地は視界にさえ映らない秘境、我ら『仙境蓬莱』の本拠地である、この場において、敵か味方か、それを決めるのは」
「我々である────っ!」
その言葉が合図のようにその男は地を蹴り、空気を切り裂くような鋭利かつ力任せなロケット加速を開始する。
景色がぶれる世界、突撃してきた男が纏うオーラの迫力は、人の何十倍もの大きさを持つ大仏を軽く凌駕するもの、亜音は軽く歯ぎしりし、武の構えを取る。
(めんどくさいが、仕方ないか 。とりあえずーーーっ!)
亜音は輪廻眼で虎のような迫力を放つ長身の男を見据え、長身の男が気合の声と共に繰り出す手刀、回し蹴り、亜音の衣服を掴みかかろうとする手を、全てパンパン!と柏手のような音を立てながら力の方向をいなし、
「少し痛いが我慢してくれっ!」
「っ!」
亜音の右足に鬼神の力が迸る。
そして、瞳は鋭利に光る。
「ハッ!」
亜音は声を強く発し、攻撃をいなしてできた隙、長身の男の溝に向けて、右足の足裏を横向きに弾丸の如く、素早く叩き込む。その衝撃を直に受けた男は足裏を地につけたまま埃を舞わせ、滑りながら二、三十メートルぐらい後退した。
鬼神の力、その半分程度の力しか行使しなかった亜音だが、並の人間では数十メートル後退程度ではなく、奥に見える屋敷寺まで軽々と吹き飛んでいただろう。それ程までの威力があの蹴りにはあった。
だが、逆にそれは亜音の顔を曇らせ、いや亜音は蹴りを入れた時から不機嫌な表情を浮かべていた。
「なるほどな.........」
「それが────〝気〞か」
「ほう.........人間にしては無知な愚者ではないようだ」
亜音は輪廻眼の瞳で世界を見据え、亜音の瞳に映る世界の色は変化する。
その瞳に映る長身の男は灰色と黒の世界で、何か霧状のような流動体を、亜音が先ほど叩き込んだ溝に集中させて漂わせていた。
そして少し経つとそれは、瞬く間に男の全身に纏わり、覆い尽くしていく。もちろん、通常の視界にはその霧状のような流動体は映ってはいない。世界を見る瞳を有しているからこそ見えていた。
だが、その代わりーーー。
「............羽衣 」
「〝気〞────それは数多の解釈と種類が存在するが、我々の解釈する〝気〞を操る者にはこうして特有の現象が起きる、言うなれば、 〝気〞の担い手の証拠だ」
亜音は通常の世界に意識と色を戻し、男の背中から脇、脇から胸、胸から背中へと漂い靡く雲のようにモクモクとした、水色に微かに色付く羽衣を輪廻眼で凝視する。同時に亜音は、自分の攻撃が長身の男に微塵も効いていないことを、長身の男の様子と先ほどの攻撃の手応えの無さから自然と悟る。
一転して亜音は両手を軽く頭上に挙げる。降参、というより戦う気がないことを示していた。
「俺は修行をしたくてここに来ました!どうか」
だが、亜音の言葉は最後まで紡がれることはなかった。
長身の男が右手を上げ、合図するかのように手を軽く振った、と同時に周囲の木影から三つの存在がロケット加速して突っ込んでくる。亜音は輪廻眼でそれら三つの突撃をいつもより余計に〝大きく〞避け、宙に踊る。だが、それが彼らの狙いだったのか、先ほどまで相対していた長身の男が、宙を〝走って〞、突っ込んでくる。
亜音の顔に衝撃が走ったかのように、表情は一瞬で険しくなる。その訳は、亜音の飛翔速度にあった。いつだったか、亜音の弱点として、地を走るより空を飛ぶ方が遅いことを挙げたことを覚えているだろうか、まさにそれが今現在、亜音を悩ませ、隙と化していた。飛翔のトップスピードなら避けれたかもしれないが、加速し始めている今の亜音の飛翔速度は、長身の男にとって格好の獲物だった。タイミングを合わせるだけだ。
亜音の目前に長身の男が右拳を腰の後ろに構えて肉薄する。
「仙術────
圧倒的な速度で叩き出された拳は、大気の壁を打ち破り、自然と力を帯びる。
そして、亜音の瞳に映るその拳は、目の錯覚か、大きく脈打ち、力が溢れかえるように肥大化していく。表面化では分からない圧倒的な、鬼神に届きうるほどの脅威を亜音は感じーーーーーーーー刹那、力は白い閃光と共に爆発した。
####
少し経ち、三人の修行服を着た、坊主頭の成人男性から不意に疑問の声が上がった。
「どういことだ.........!」
「なんで、師匠まで!」
「タイミングはバッチリだったはずだ、奴の“飛翔速度”も把握していた通りだった......なのに」
三人がそう言うのも無理はなかった。なぜなら、攻撃は仕掛けたのは此方。だが、事を終えたあとに広がっていた景色は、亜音と長身の男が両者ともに芝生の上に小さなクレーターを作って、埃を漂わせながらうつ伏せで倒れている様だった。
そんな三人に不意に歩み寄る者がいた。その者は今まで、長身の男の後ろに隠れていて、姿を見せなかった者である。その者は、この場で唯一の異性、外見からして女の子と呼ばれる年頃、童顔で可愛らしく中学生ぐらいの女の子、透き通るような水色の髪は頬が隠れるぐらいの長さで生えており、ぶしょったくなく、かつ、 可愛らしい。なにより見た目の割には少し発育がいいのか、水色のキャミソールの胸部あたりがほんのり膨らんでいた。
服装は水色のキャミソールの上に薄手の青いパーカーを袖を通さずに羽織り、白いフリルの膝丈ぐらいのミニスカ、動く事を考慮してか、風が吹き抜ける度に垣間見える白いスパッツが装着されていた。靴も動きやすい軽そうな水色の靴を履いている。瞳はそんな可愛らしさを弾き飛ばすような深紅に染まっていて、活発な女の子特有の大きな瞳でありながら、年齢にそぐわない程、鋭利になっている。
そして、白いフリルのミニスカの上、腰に巻かれている茶色いベルトに、二刀のサーベルとカットラスのような剣が鞘に収まって差されていた。
その少女は長身の男とはまた別の色の、純潔かつ影を生まない、霊気を帯びたような清白の羽衣を長身の男と同じように纏わせていた。他の三人もそれぞれ水色、黄緑、水色の羽衣を纏っている。
少女は、小さな桜色の唇を動かし、口を開き始める。
「今回の来訪者は、少しはできるみたいね......」
三人はその声に反応し、声を大きく上げる。
「姐御!」
「姐さん!」
「二代目・仙神様!」
「あ............うん............」
そう呼ばれた少女はつい溜息を吐いてしまい、腰に両手を置いて、 ガキ大将のようにむすっと頬を膨らませる。
「呼び方は統一して欲しいなぁーもう」
少女は気乗りしないように注意する。気乗りしない理由は、すぐに分かった。
「分かりました、姐御!」
「分かりました、姐さん!」
「分かりました、二代目・仙神様!」
何が分かったのだろうか、そう思わずにはいられない少女は、いつもの事なのか、少し空を仰ぐと共に口を閉じて諦めていた。
当の三人は、少女の呼び方で激しい口論を開始し、無駄な体力と時間を浪費している。誰が見ても愚かしすぎる、羞恥を知らない戦いであった。
亜音は寝たふり倒れたままその様子を察し、少し自分と少女を重ねる。
(問題児って、どこにでもいるんだなー)
話した事もない相手につい同情をしてしまう亜音だった。