新・問題児と人の神が異世界から来るそうデスヨ 作:行くよ!!!!
───────〝仙境蓬莱〞本拠、境内の屋敷内。
正午までおよそ一時間程度、最高でも二時間しか居れない亜音は少し焦りを感じながらもそれを表に出さず、臥遠の後ろを静かについていき、綺麗に光る木製の廊下を歩む。寺の中は意外と普通の作りで開放感に溢れていた。時折、整備された裏庭や中庭、食堂、道場が広く設備され、仏像のように狐と猫、犬が神格化されたような姿が祀られた大広間が亜音の目についた。
そういえばと、最後の後者を思い出した際一緒に、寺屋敷内に入る扉の前の石畳みの道、その道沿いの左右に、多神教の如く石像の守り神、狐、猫、犬が一定の距離を開け、犬が二回や狐と犬と猫の三連のように法則性が欠けて並んでいたのを思い出す。初代・仙神は三人いたのだろうか、そんなことを推測していた。
そして、亜音はここまで来るまでの間に大体の〝気〞についての知識説明を受けたが、大量かつ深い知識なので、一字一句忘れないために頭の中で臥遠の言葉を思い出しながらまとめ、復習しようとした。
「ここだ............」
だが、生憎その暇はない様である。何せ、この最初の修行はできる者とできない者がいて、できなければ〝気〞を扱うことは一生不可能と呼ばれる難関らしく、知識説明もそのせいであまり頭に入らなかったのだ。臥遠の太い声で亜音は思考を切り替え、臥遠が鉄製の扉を開いて入室した部屋へ亜音も入室していく。
「これは..................凄いな、まるで蛍の、いや星の神秘.........のようだ.........凄い、」
「ハッハッハハ.........某もここに入った時は同様に驚いたよ」
部屋の広さはそこまで広くない。寧ろ狭いくらいだ。年頃の学生さんの一人部屋ぐらいだろうか、左右に五十センチぐらいの段差の畳があり、その間に靴を置くためと移動するための通路が存在する。とてもシンプルな作りだった。
だが、この部屋は普通じゃない。
まずこの部屋は灯りの役割を成すロウソクなどは一切存在しないので、本当は真っ暗であるはずなのだ。しかし、部屋は──────あらゆる色に光またたく無数の粒子によって、青色にも赤色にも紫色にも緑色にも、時には七色に部屋が彩られることもある。そして真夜中のような状況で蛍のようにささやかに光るので、余計に神秘性を感じさせた。
「先ほど言ったとおり、この部屋、〝精霊室〞は本来は見えない〝気〞を視覚情報に変える特殊な部屋だ。ここで〝気〞を認識し、触れ合い、感じる基本中の基本の修行をしてもらう。」
「それで............ここで何をすればいいのでしょうか?」
「すまないが、〝気〞を扱うのに明確な方法は一切ない。もはやこれは自分なりの感覚で感じ、自分なりの方法とイメージを自分で確立するしかない。勘違いしないで欲しいが、某とてヒントはやりたい。だが、逆にそれが偏見になってしまうかもしれん、下手な事は言えん」
「そうですか。───────分かりました、ありがとうございます。」
亜音はあまりその言葉に驚かずに返事を返し、部屋を見渡す。
その様子に逆に臥遠が疑問を抱き、腕を組みながら質問を亜音に投げた。
「不安は無いのか?」
「んーないわけじゃないんですが............この部屋に入ってから何と無く自分でやるしかないのかな、とは思ってましたから」
「ほう...............」
臥遠は靴を脱いで畳の上に腰を下ろす亜音を見ながら、分からないような小さな笑みを浮かべる。それと同時に胸の前で組んでいる腕に力が入る。まるで、可能性を前に高揚しているような震えだった。
(───────既に〝気〞を身近に感じ始めたか.........そして規格外の奇跡を宿しているのは既に分かっていたが...............もしや......初代様と二代目様のお二人と同様に...............)
そんな事を考えながら臥遠は、座禅を組む亜音を横目に静かに精霊 室を後にした。
######
それから一時間近く経ち、正午を通り過ぎて皆が腹を空かせている時間帯、臥遠は軽い昼食、おにぎりが二つ、漬物が端に彩る配膳を持ちながら亜音のいる精霊室へと戻ってきた。
だが、その部屋の扉の前に立つ一人の人物に目を見開き、驚きのあまり配膳を危うく落としそうになるが、なんとかバランスをとって堪えた。
少し落ち着きを取り戻し、臥遠は目の前の人物に声を掛ける。
「これは珍しいですね、まさか引きこもりの貴方様が、加えて偶然にここにお出になるとは............」
臥遠自身が偶然という言葉を使ったが、偶然ではないことは確信している。何より精霊室がある場所は屋敷寺の中でも辺境の位置、訓練以外の用事以外では来る理由がほとんどない場所にあるのだ。その場所に引きこもりであるこのお方が来ている、ならば、その理由は自然と一つに限られる。
思考する臥遠を他所に、フッと息の音と共に小さな笑いを響かせ、その人物は精霊室の扉を開けた。
そんな人物に臥遠は相も変わらず、神々しい割にはノックをしない、礼節に欠けてどこか抜けていると頭を振るのだった。
だが、臥遠が真に驚くべき所はそこではなかった。その証拠に精霊室の扉をくぐり、亜音に視線をやった瞬間、配膳は臥遠の手から解放され、重力に従って地面に転がった。
「なっ......!........亜音.........お前.........っ!」
亜音は黒い布のように蠢く粒子の上で座禅を組み、亜音の脇と肩には黒焔のように揺らめき動く羽衣が漂っていた。そして何より驚くべき所は──────亜音が黒い布に支えられて浮いていたのだ。それらの情報が示す事はただ単純に、〝気〞を感じるを通り越して 〝気〞を自在に扱えるようになった、だけではない。しかしそれだけでも前代未聞、通常、〝気〞を感じるのには出来る事が最低条件で五時間、〝気〞を取り込む及び〝気〞を支配するのには半月は掛かると仙人には言い伝えられている程に、超難関。仙龍のように特異でない限り、ただの一存在に〝気〞を扱うのは不可能。ここだけの話、〝気 〞を感じる試験では億の者が受けても手で数えられる程度しか合格できないとされて、努力、根性だけではどうにもならない壁を有しているのが、あらゆる生命から無意識に何処にでも溢れ出ている巨大なエネルギー、星の息吹───────それこそ仙と付く者達に信仰されている〝気〞なのだ。
それなのにか──────この男、榊原亜音は小一時間で、下仙、中仙、上仙とある仙人ランクの、中仙、臥遠を筆頭にカイ、レオ、テンの三人がいる上仙のランクまで後一つと迫っていたのだ。こいつは並大抵の才覚ではない、神ですら度肝を抜く天武の才に加えて神童を遥かに越えていると、臥遠は背中に流れる冷や汗に体温を奪われるのを感じた。そう、才覚だけではない、何かがあるのだろう。
「フム.........やはり選ばれたようだな」
「某もこの光景を見る前から、選ばれる可能性を感じていましたが.........マジか、ですよ」
そんな二人の会話に別次元まで集中力を高めていた亜音はようやく気が付いたように、反射で変えていた輪廻眼の瞳をゆっくりと開き、紫色と幾重もの輪廻で二人を見据えながら静かに黒い布と羽衣を霧散させて、畳の上に着地する。
「.........フゥー............すいません、楽しずきて全然気が付きませんでした。臥遠さん.........と?」
亜音は涼しい格好、白いTシャツとスウェットズボンの姿で隅に置いてある赤のパーカーを脇に抱えて靴を履き、もう一度視線を二人に向ける。
臥遠は落ち着いた亜音を見計らって、ゴホンっと喉を鳴らす。
「このお方こそ、我ら〝仙境蓬莱〞の旗頭であり、仙人の中でも〝気〞を最も知る者、初代仙神様だ」
「───────このお方が............初代様」
亜音は改めてその者を観察し、なぜここでは犬、猫、狐の三匹が神格化され祀られていたのか、すごく納得した。まず、猫の黒耳を頭上に生やし、瞳は猫の猛禽類のように鋭利に形どられ水色に濁る宝玉のように光る、背後には臥遠がウザそうにしている九本の狐の尾、習字の筆のように先っぽが黒く染まる白き尻尾が揺らめいていて、両手と両足は犬の手足のようにもふもふぷにぷに───────と。
「触りたいのか?」
急に亜音を試すような質問を投げてきたので、亜音は少し息がつまり、咄嗟に───────。
「え、あ、はい」
「しかしダメだな......フム...気が向いたら触らせてやろう」
フリフリ。
亜音を誘惑するように背後で九本の尾が草原のように靡く。絶対わざとである。臥遠はウザそうにしながらも少し気持ち良さそうに亜音には見えた。 そして、亜音は何故か自分のペースを狂わされる感覚に身を委ねるのを我慢し、それにしてもと思考を再開する。
初代様の外見だが、見事に花魁のように赤と白の巫女服が乱れに乱れていた。今にもすっ転びそうなほどに裾を廊下に引きずっており、 巫女服をふしだらかつ乱れさせているのにもかかわらず、不良のように着こなしていて、一つのファッションを確立させていた。さらに針金のように肩につくセミロングの艶やかな髪は、一本一本丁寧に根元からウェーブが波打っており、根元から毛先にかけて色が白からクリーム、クリームから黒へと濃くなっていく。瞳はちょうど前髪に隠れ、前髪から垣間見るその瞳は、全てを見抜き、全てを知っているかのようで、亜音を見て何かに納得をしているような、視線を合わせてそう感じていた。声は三十路のような大人の女性の声で、妖艶さを帯びているのに冷気を感じさせるような発声である。なにより、小さい声なのに耳に木霊するようによく響くのだ。
ハッと、そこで亜音は表情には一切出さずに、自分がまだ自己紹介していないことに気が付き、すぐにいつも通りの落ち着きを取り戻す。
「申し訳ございません、自己紹介が遅れました。榊原亜音といいます、臥遠さんにはお世話になっています」
そんな亜音にタバコを咥えかつギターを片手にするシンガーソングライターのようなクールかつダラしそうな感じから、仏頂面に変え、猫耳を掻っ穿り──────。
「フム.........君を見ているだけでも耳が痛くなる、自覚はあるんだろう?」
「ありますが、主に母のせいかと。礼儀や最低限の作法には厳しい人でしたので」
「いや、それだけではない。なというのか、お主の纏うその外殻のせいだろうか、君を見ているとパンドラの奴を............いや、これは言い過ぎか。すまん、気にしないでくれ」
そう言いながら初代様はいつの間にか両手から、もふもふとぷにぷにを取り外して臥遠の顔面に放り投げてあり、白い肌の手には白夜叉の持っていたキセルと正反対に豪奢な茶色いキセルが収まっていた。
そして、それを口に咥えて──────って。
「取り外せるのね。.........それに臥遠さんの扱いが先ほどから........ってなに言ってんだ俺は」
「お、いいツッコミだ。その調子なのだが、フム。もっと元気が欲しいな、青少年。──────いや」
「億千万の生命と星々に選ばれ、破壊と革命を背負わされし者───────若き仙神殿よ」
「........................っ!」
初代様は緩やかに前髪を揺らし、口から細く煙を吐くと──────不敵な笑みを浮かべながらそう告げる。それに対して亜音はただ戸惑いを秘めた表情で、その笑みと水色の瞳を見つめることしかできなかった。
そして、亜音は頼むからと───────。
坊主頭の臥遠さんが狐の九本の尻尾に悪戦苦闘している姿が、亜音の視界の端でチョロチョロと───────もうやめて、頼むからと、亜音は腹の奥底で笑いを堪えるのだった。
(絶対わざとだ。.........はぁー...どんだけ、臥遠さんのこと好きなんですか、この初代様、)
神は基本、駄神なのだろうか───────これは永遠に渡る論争、神の沽券、威厳に関わることなので、簡単には答えは出さないと亜音は他の神々達のためにと、小さく誓った。