新・問題児と人の神が異世界から来るそうデスヨ   作:行くよ!!!!

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第十六.五話「戦争の記憶」

 誰かに何かを伝えれたらなんて、贅沢なんだろうか。

 本当の気持ちを言えたなら、今の俺はいなかったのだろうか。

 今の自分の在り方を否定できたなら、どれだけ楽だったのだろうか。

 自分の想いを誰かに理解してもらえたなら、どれだけ幸せなのだろうか。

 

 一人の女性が、肌に食い込むほどに胸ぐらを掴み、叫んでいた。

 

《なんでもっと早く来れないのよ!!》

 

 一人の男性が喉元を掴み、叫んでいた。

 

《お前らがな!寝てる間に俺の息子は死んだんだぞ!?何か言ったらどうなんだ!!》

 

 周囲からみんなの声が聞こえて来る。

 

《謝ることしか能がないのか!?もっと早く動いてくれてたらこんなことになってねえんだよ!!》

《なんで助けてくれないの!!なんでよッ!!!》

《お願いタスケテ!!お願いよ!!!》

《あんた救世主って“自分”で言ってたじゃないか?!何も救えてねーじゃねぇか!?》

《必ず救ってみせるだって、綺麗事なら他所で言いなッ!!》

《貴方の言葉は空想論で何も響いてこないんだよ、人としてもっと考えたら?》

 

《おかぁぁあさぁああん!!おとぉおさぁん!!なんでいないのぉおお!》

 

《わたしのパパはいつくるの?》

《ボクのママはいつくるの?》

《私達の子供は助かったの?》

《私の父と母は無事に避難できたのですか?》

 

 

 ─────言わなければ。

 ─────嘘は言えない、その嘘に俺は責任を持てないから。告げないといけない。

 ─────俺はただ事実を伝えることしかできない。

 

 

「パパはもう来ることはできないんだ」

 

「ママは長い眠りについたんだよ、ごめんな」

 

「手術は…………失敗しました、申し訳ございません」

 

「…………避難できた人は…………いません」

 

《アアァガァアアアアアアアアアァアアアアアアアアアァアアアアアアアアアァアアアアアアアアアァアアアアアアアアアあああああぁぁあぁぁぁあああぁァアあああぁぁぁぁぁあああぁあぁぁああがあぁカカァァアあぁあああぁあぁアガアガァあぁぁあぁァアアアアアアアアア!!!!!!》

 

 

 ─────此処は地獄だ、死にたい!死にたい死にたい死にたい死にたいッ!!母さん!セラリアッ!“ボク”を一人にしないでよぉおおおお!!

 

 

 

 

 その時だっだ。

 深い闇の奥から、少年を呼ぶ声が響いた。

 

『おい、亜音!亜音!!』

『─────……………………………聞こえてるよ、』

 

 目をひらけば、そこは記憶のない部屋の天井だった。

 何せ部屋を明るくするための電灯の類が無い天井だ、自分の国ではあり得ない。

 そういえば異国の民家に部屋を借りていたんだったな、と思い出しながら上半身を起こす。

 

『かなり汗を掻いているようだが、大丈夫なのか?』

『…………大丈夫だ、変な夢を見ただけだ』

 

 少年は簡易ベッドから立ち上がると、数分で身支度を整え、部屋を出た。

 借りる際に勝手に出ていいと言われているため、黙って出ても問題ないだろう。お金も先に払っている。

 民家の集落は、ドアや窓は全て吹き抜けになっているほどに発達していない。売買はある程度は成り立っているようだ。野菜や肉、果物、アクセサリーなど日本で言うところのバザーみたいな感じだろうか。

 そんな集落を離れ、亜音は気を引き締めて、道なき道を進み、林を掻き分けていった。

 

 

 

###

 

 

 

 ──────とある異国の戦地。

 

 蚩尤との戦いを経て、新たな力と知恵を携えた自分は小国で起きている内乱を鎮圧して回っていた。

 本来は軍を率いての任務だが、大国の連盟同士が牽制し合っているなかではそれも難しい。

 だがそれでも榊原家の影響力は《世界保全連盟》にも届いており、特別に各国から許可を得て軍事行動をとっている。

 熱帯林の中を木の枝や身の丈ほど生えた草をかき分けて進んでいたところへ、暇そうな声が響いてきた。

 

『…………ワシがいうのもなんだが、“榊原家”の影響力は宗教の類だな』

「それこそ歴史の積み重ねだ、たとえ僕のように力がなくても先祖代々、世界から足先を逸らすことがなかった証拠だ』

『…………』

 

 自分の言葉を聞いてすぐ黙る。

 会話が続かない、理由もわからない。

 何せ相手は千年の歴史を誇る戦神、コミュニケーションとかジェネレーションギャップがありすぎるだろう。

 とはいえ、彼には一つ謝ろうと思っていたことがあった。この話の流れであれば不自然ではないことだ。タイミングがいい。

 

「あの時代の貴方の力になれなかったことを謝らせてください」

『……………先代の誇りを謝るべきではない』

 

 蚩尤の声には少し怒気が含まれていた。

 王としての何かに自分の謝罪は触れてしまったのだろうな、めんどくさい。

 だが、蚩尤と自分では榊原家の誇りに対しての少し認識が違うのがはっきりした。

 

「僕はいつだって、先祖の功績を、自分が達した結果を誇りに思っています。………だから謝罪しているんです」

『たとえそれが絶対に踏み入れることすらできぬ問題だとしても、結果を求めるか?』

 

「それが榊原家です」

 

 それ以上の解はない、と告げる。

 自分達はそのために生まれてきた、生きてきた、捧げてきた、積み上げてきた。

 同情や優しさ、甘さは子々孫々から介在しない。─────結果が全て。

 間違えはぜず、失敗はする、けれどそれを失敗とは認めてはならない──────間違えはぜずならば、その足を止めることは一秒たりとてしない。

 信じている、とかそういう次元ではない、間違いではないんだ、結果は別としてな。

 

『…………』

「…………」

 

 それ以降、蚩尤は口を開くことはなかった。

 無理もないか、自分で言ってても異常なのは理解できる。もしこれが榊原家ではない奴が言っていたら、どっかの宗教団体に騙されたやつにしか見えんな。

 

 

####

 

 

 ──────とある小国の前線基地。

 

 

 森林の中を抜けた先に開拓された大きな広場。

 その広場は、多くの迷彩柄のテントや軍事車両、中には戦車すら数台置かれている。

 そのなかでも通信機器等のある最奥に少年は乗り込んでいた。

 ここは昔、欧州の植民地でもあったがゆえに言語は、イギリス英語が通じている。だが、言語は通じていても、そもそもの意図を組むどころか、会話すらおぼつかない状態だった。

 

《キサマら、連盟に用はない、帰りたまえ》

《我々の神に正義がある!!我々の大義を知らしめてやる必要があるのだ!!》

 

 この前線基地の中でも一際大きなテントの下で、各隊の隊長格が左右にそれぞれ十人ずつ長テーブルを囲み立ち、その奥に小国の長である一人の男が立っていた。

 ここに来る前からわかっていたことだが、保全連盟はあまり好かれていないようだ。数分も立たず、怒号の嵐だった。

 もちろん彼らの中にも冷静な人はいたが、

 

《オイオイ、何だあの格好は。ここはビジネスの話をする場所じゃねーぞ》

《奴らは戦争から離れすぎたのさ、“話をすれば分かってくれるわ”、“平和が一番よ”、はん!糞食らえ、クソ○○チが。》

 

 聞こえるように悪態を付く始末。とはいえ確かに少年の格好は異様だった。

 何せ全身ビジネス用の黒スーツで、ネクタイはグリーン。背中には腰まであるリュックが背負われていて、右手には防水加工された黒コートを携えていた。正直、戦場に来るような格好ではない。本来、普通の人間ならばいくらか武装してくるだろうし、そもそも一人では来ない。年齢、格好、国籍、その全てがおかしいといえるのだろう。

 

《保全連盟は、なんだ人手不足かぁ?ああん?こんなガキ一人送るとは、血も涙もねぇな?》

《なんなら、オレらが捕らえた連中を送ってやろうか?》

 

 一際、口の悪い二人が左右から少年を挟み込むように近づいてきた。二人の手には、刃物と拳銃が握られている。

 流石に状況が悪化しすぎたのか、今の今まで静かだった蚩尤から内側から声がかかる。もちろんだが、周りには聞こえてはいない。

 

『オイ、だから言ったとおりになっただろうが。ワシでも使者にガキを送ってきたら、舐めてんのかと思うぞ』

『…………………問題ない、ハナから“俺”は此処に話し合いで来たわけじゃないからな』

『っ………まさか、オマエ、』

 

 その瞬間だった。

 テントの中から声が消え、全員が少年の瞳に視線を吸い込まれていた。

 白かった眼球は紫に染まり、黒い輪廻が幾重にも波紋を立てるように中央の黒点を囲む。共に放たれた殺意は、全員の口を結び、静謐な空気が辺りを包み込んでいた。

 そして、少年は冷淡に告げた。

 

《世界保全連盟の名の下に告げる。私は“六道仙人”。貴様らを“選別”し、貴様らの“神”を破壊する─────》

 

 背中のリュックとコートを無造作に地面へ落とすと、その右手に紅蓮の槍が顕現する。

 立ちすくむ彼ら隊長たちの周りを熱波が吹き荒れるが、誰一人として反応を示さず、いや絶望しているのは誰が見ても見てとれた。

 ある者は顔を真っ青に手が震え、諦めたように憂色を浮かべる者さえもいた。だが、内なる蚩尤もその反応には理解を示していた─────神殺しとは言い得ている、普通の人間ですら対峙すれば化け物だとわかるだろう、と。何せ、“殺意”だけでここまでできる存在はこの世界にいないからだ。

 少年は見せしめのように、両側で固まっていた二人の男の首を神速の一振りで、“同時”に切り落とした。その勢いで周りの人の顔に鮮血が熱風に運ばれて飛び散っていく。

 それでもなお、彼らは仁王立ちから動けずにいた─────目の前の少年に魅入られたように。

 

 

《─────祈れ、目の前にいるのが本物の“神”の力だ》

 

 

 

#####

 

 

 

《後は任せますが、よろしいですか?》

《はい。……………ありがとう、ございます》

 

 件のテントを出て、一人の六十歳程度の男が少年に頭を下げていた。

 そう、今回の依頼主であり、密告者でもあるのが彼だった。

 

《調査結果を告げる前に行動を起こしてしまい、申し訳ございませんでしたが、これで“テロリズムの宗教”と癒着していた者はいない筈です。》

《いえ、最小限の被害で抑えるのならばこうするしかないでしょう。これで内乱も彼らの首を持って平和協定に進めることができます》

 

 金、テロリズム、エセ宗教、麻薬、奴隷、戦争を利用したビジネスが今、小国の経済を利用して行われていた。

 それを断絶するために高校生になってからの榊原亜音は世界を渡り歩き始めていた。

 しかし世界保全の許可を得て動いているとはいえ、少なからずこの件にも大国やその企業が関わっているのは明白だ。この行為自体は断絶というよりも牽制にしかならないことは、少年も理解している。

 少年は前線基地の広場を離れ、森林を掻き分けながら進み、蚩尤と話す。

 

『オマエはそれでいいのか?利用されてるだけかもしれんぞ?』

『わかっているさ、それでも結局やるしかないならやるだけなんだよ。どんなにこの手を血で汚そうとも、ね』

 

 ─────とっくに手遅れだしな、と。

 

 小さく優しい声音で少年は告げた。

 先ほどまでの─────多くの人の首を落とした人間と同じには見えなかった。

 少年は空を見上げ、蚩尤に伝える。

 

 

『世界は本当に大きいよなぁ、……………ほんと』

 

 

 亜音にしては珍しく小さく笑って弱音を吐いたように見えた蚩尤。

 きっと彼にしか見えてない“世界”が見えているのだろう。その弱音の意味を理解するのはまだまだ難しそうだが、

 

『まぁ、オマエにはワシがいる。戦の神だ、どんと頼るがよいわ!』

『ふはっ、なんだよいきなり。……………でも、ありがとう』

 

 先とは違って嬉しそうに口角を上げた少年は、勢いよくリュックを再度背負い込むと、次の戦場へと走り始めるのだった。

 

 

 

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