新・問題児と人の神が異世界から来るそうデスヨ   作:行くよ!!!!

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第十七話「ストーカーの迎撃?!」

 〝北・東・南〞──────魔王による同時襲撃より二夜を終え、今日は三日目となる。

 現在時刻は正午を回り、もうそろそろ夕刻という時間帯。

 同時襲撃の魔王との戦争は、一日一日を終えても終わることを知らなかった。だが、それでも東は魔王を撃退することに成功し、復興作業や遭難者、行方不明者を捜索するべく動き出していた。

 南は〝龍角を持つ鷲獅子〞を中心に魔王の対策をとっている頃だろう。

 北は魔王が襲撃する前から悪鬼羅刹に溢れている。故に暇つぶしのように自由奔放な悪魔や鬼が、正コミュニティの軍勢に紛れて暴れていた。そして何より北は東に比べて、謎の魔王や境界壁を巣にした神霊級の化け物などの、主力勢がいたのにもかかわらず、東の半分以下の被害に収まっていたのは、北の悪鬼羅刹の中でも〝六桁 最強〞と謳われし一人の少女のおかげだった。

 彼女は謎の魔王を抑えながら北の下層を飛び回り、魔獣や眷属達を片っ端から蹴散らしていた。しかし逆にその余裕があったのは敵も同じことを考えていたからであり、現に東四桁の白夜叉の本拠地に神霊級の邪竜が三体、魔獣やその眷属を合わせてなんと千体もの軍勢が現れ、その後も北で増えた 眷属達を東や北の階層支配者達に謎の魔王が無尽蔵に召喚していた。

 

 

 ──────東と北の境界壁。四○○○○○外門・三九九九九外門。

 

 やけに静かになった火災現場の戦場。

 その今にも崩れ落ちそうな建物の屋根の上で、マントで全身を隠す謎の魔王と薄い影のかかった水色ツインテールの少女の二人が、適当な距離を開けて相対していた。だがやはりというべきか、少女は肩で息をし、夜通しの疲れが見え始めている。それに比べて敵には余裕の雰囲気と蒼炎を幾度と浴びた上で、なお傷一つない。

 

「そろそろ終わりにしようか.........我が花嫁よ。」

「ハァ...............ハァ............ぁ」

 

 ──────このままじゃ勝てない。

 

 少女は手製の杖を握りしめ、周囲を見渡す。

 味方の数に対して、こちらの数が圧倒的に少ない。比率でいえば百の味方に対して千体以上の敵がいる、故に十倍以上の差があるのだ。

 耳を済ませば遠くから雄々しい両者の雄叫びが、金属音が聞こえ、爆風が空を吹き抜ける。

 

(こうなったら、いちかばちか............でも)

 

 しかしその時、二つの異変が同時に観測された。

 一つは周りから〝他の気配〞が全くなくなっていたこと。

 もう一つは、目の前からフードの男が消えたこと。

 

「さあ.........私と結婚しよう......!!」

「き、キモィッ!!?」

 

 少女は全ての思考を吐き捨てて時空を飛び、火の粉が舞い散る紅い街路に転がり落ちた。

 そして、それを追尾するように少女の数メートル先に、嘲笑を上げるフードの男が時空より姿を見せる。さすがはストーカー並々ならぬキモさを放っているといえるのか、ストーカーが時空を飛ぶなんてファンタジーを超越しているだろう。一言で悪夢だ。

 少女は半分涙目になりながらも立ち上がり、手製の杖を構える。だが、不意に火炎の塊が少女のすぐ横を通り抜け、少しの熱波を少女に吹き付けて行った。

 

「...っ............ッ!」(流れ弾............!?)

 

 少女は視界を庇うように両腕を顔の前に掲げ、同時に疑問を浮かばせる。

 周囲からは敵と味方も一切気配がなく、間違いでなければ流れ弾なんて飛んでくるはずがないのだ。

 しかし少女は失敗した──────不意に少女の手首を掴む細くしなる手。

 

「私に運が回ったようだ!さあ、フィナーレだよ?我が花嫁!」

「しまっ......ィヤ──────」

 

 すでに魔王のもう片方の手には、時空の跳躍を封じる恩恵が宿った手錠型のギフトが握られ、残り数センチかで少女は魔王のものとなってしまう。

 男の荒い吐息が聞こえ、少女はどうにか時空を飛ぼうと恩恵を────しかし間に合わない。

 少女はギュッと瞳を閉じ、絶望に浸った。

 だが、そんな二人の耳に一人の少年の声が響く。

 

「──────火拳ッ!」

 

 神速の突風は辺りの火災を火元ごと消し飛ばし、蒼く揺らめく拳が魔王の懐へ吸い込まれるように放たれる。

 そして視界情報に遅れて大気を唸らせる程の打撃音と共に、男の呻き声が爽快に響き渡った。

 

「グッ──────ゴブォァブッ.........ァが...!?」

「え......っ......?」

 

 少女は閉じていた瞳を開き、眼前の光景に戦慄した。

 ふわふわもふもふとした黒髪、黒衣のマント、雷雲のような羽衣、紫と輪廻の瞳、自分と同じような蒼炎を纏いし拳、それらが特徴的な一人の、大人まで一歩手前ぐらいの青少年。

 青少年は蒼炎と黒炎のコントラストの尾を吹き出し、自身の背後へ靡かせているが、驚くことにツインテールの少女には何一つ影響を及ぼしてはいなかった。

 謎の男は懐で揺らめく蒼炎の霊格に何かに気付いて刮目し、 溢ればかりの怒りを見せた。

 

「き、貴様ッ!この火焔は先ほどウィラを攻撃したのと同じものかッ!!──────我が花嫁を囮にするとはいい度胸だ!............ぅグッぅ......ッ!?」

「............」

 

 魔王の横っ腹にめり込み蒼炎に揺らめく拳は、キシキシ、ギシッ!とさらにフード男の腹にめり込んで魔王は痛みに呻く。おそらくその辺の骨はもう、跡形もなく粉々になっているのは間違いない。何せ鬼神の力をさらに超えた力での不意打ちを食らったのだ、意識と防御、跳躍が間に合うはずもない。

 そして少年──────榊原亜音は告げた。

 

「終わりだ.........消え去れ──────ッ!!」

 

 少女の眼前で拳に貯められていた力が爆発する。

 拳は打撃だけにとどまらなかったのだ。鬼神のパワーに星並みの硬度まで硬化し強化された正拳、故に地殻変動にも及ぶ打撃だったが──────しかし少年はそれをトドメに選ばず、ここからが本番だった。

 亜音の拳に纏わる炎の塊が、魔王の目下で急激に弾け、閃光が迸る刹那──────その強大な破壊の力が大爆発を引き起こす。巨大なトンネルを築くように燃え広がり、魔王を丸ごと包み込むと、亜音より先の射線上、その全てを吹き飛ばした。光によって生まれた影すらも残さず掻き消すほどの破壊力は、力の膨張を止めることを知らない。轟音は衝撃となって箱庭全土の勢いで辺り一帯を激動させた。

 最後は爆風が都市全域を駆け抜け、射線状の先である爆心地より蒼く明滅する雷雲のような煙が天に立ち昇っていった。

 

 ──────少女は絶句していた。

 

 確かに力の規模にも驚いていたが、そうではない。はっきり言おう、こんな大技を地表でしかも下層で行う者は、馬鹿しかない。なぜなら守るべき対象すらも塵にしかねない、というよりデタラメに使っていたら間違いなくおびただしい数の命が消失するだろう。だから、少女ですら今まで全力が出せなかった。だが、その馬鹿に亜音は含まれることはなかった。

 

(すごい、…………誰も巻き込まれてない?)

 

 今言ってもあまり信じられないかもしれない、もしかしたら一人ぐらい巻き込まれて塵となった生命もあるかもしれないが、亜音はちゃんと力を放つ射線上に人がいないことを探知して、いやそれ以前にこの辺一帯にいた人達を避難させてから、戦場に飛び込み、計画を実行し、力を執行していた。

 しかもその避難を敵と少女に察知されずにである。デタラメすぎる。たとえ戦いの中にあったとしても不自然な周囲の動きは目立つ。そんな状況下の中で、亜音は避難させていた。

 亜音は青く揺らめく拳の腕首を軽く振り、少女に言った。

 

「そんなに心配しなくても大丈夫。避難は済ませたし、怪物ももういない」

「......避難と駆除......貴方がやったの.........?」

「うん。............って、しぶといな──────ちょっとごめん」

「え?............わっ.........!」

 

 亜音は少女の腰に手を回し抱えると、その場から大跳躍して離脱──────同時にその場所を吹雪が吹き付け、火災現場から極寒の地と化した。

 そして響く──────、

 

「貴様ぁあああああ!誰が私の花嫁に触っていいと言ったッ!」

 

「ひぃ............キモい......!」

「ふむ──────……………確かにキモいな」

 

 一考して亜音は神託を述べる。修羅神仏が認める最新鋭で最高峰の〝ストーカー〞だろう。彼以上のストーカーはこの秘境でも一人として存在しないと思考が数秒で結論づけていた。

 本気で怯える少女に同情しながら少し広めの広間を空から見つけた亜音は、大気を蹴ってそこへ疾駆する。

 亜音と少女がその広間に着地すると同時に、魔王の男もその広間に姿を現した。

 少女と亜音に対峙する、ボロボロに焼け落ちたマントを靡かせているフードの男に亜音は告げる。

 

「サラマンドラと鬼姫連盟は魔王を撃退、下層にのさばっていた魔獣も全部撃破し、南も俺の仲間がいるから万が一も負けることはない。──────終わりだな、魔王殿?」

「戯言を............そんなことあるわけがない」

「お前なら一瞬でわかると思うぞ?わざわざ軍備補強のために作ったんだろう境界壁の巣が消え去り、この辺一帯の魔獣達も死に絶えていることをな。それにお前が時空を飛べることを知っている俺がこんな嘘を付くとでも?──────まぁ、 お前に」

 

 亜音は少女には見えないよう黒い霧を背後に噴火させ、輪廻眼を細めた。

 

「俺とこの少女を同時に相手できる余裕があればの話しだがなぁ?白夜叉もそろそろ南に行く準備をしているんじゃないか?東はもう復興作業に入ってるし、そろそろ気づけ。お前は、──────お前らはもう詰んでるんだよ」

 

 亜音の殺意と宣告がひびく。

 少しの沈黙の後、フードの男は僅かに肩を揺らしてその場を去った。

 あらかた自分の仕事を蔑ろにし過ぎて上に咎められたくないために、また模索するべく一度引いたのだろう。

 男が去っていくのを見届けて亜音は一息を付くと、ツインテールの少女と視線を合わせるように少ししゃがみ、少女の頭を撫でる。

 

「よく頑張った............君のおかげでこの下層は救われた。ありがとう」

「............?」

 

 クリクリした瞳を持つ少女は首をコクリ?と傾げて、亜音の手と笑顔を一瞥する。

 

(…………見た目的に子供だと思って接したが、…………もしや違ったか?)

 

 とりあえず亜音は小さく微笑みながらすぐにここを離れようと 歩み始めた。本当なら少女も一緒に連れて行くべきなのだろうが、亜音は彼女が“悪魔”で相当の実力者だということをその眼で見抜いていた。故にその必要はないだろう。逆にありがた迷惑にもなりかねない。

 しかし──────うーん。

 

「...............?」

「...............?」

 

 亜音は後ろから聞こえる足音に首を傾げ、その後ろにいる少女も首を傾げる。ちらっと横目で亜音は背後を見て─────いやいや、 俺が疑問に思うところだから、と苦笑する。そう、ツインテールの少女がなぜかテクテクと後ろをついてくる。 亜音が立ち止まると、コテンっと足を同様に止めた。ん?と亜音は少し困った顔をしながら振り返る。

 

「どうしたのかな........?」

「...............名前」

「あ、ああ、うん。俺の名前は榊原亜音。よろしくね」

「あのん?………あの………のん………?………ん!─────守ってくれてありがと」

 

 ツインテールの少女は何かを閃いたように瞳を光らせ、亜音を純粋な上目遣いで見上げた。

 

「ノンノン」

 

 non………non??いやいや、違うよね。

 亜音は少女が何を言ってるのか分からず、しかし言語の並びからして──────名前、ニックネーム?と首を傾げて瞠目する。

 そんな亜音にツインテールの少女は、微塵も自分のセンスに疑いを持たれていないと思っているかのように〝何を悩んでるの?〞という意味をしたクエスチョンマークを浮かばせ、再度、提案していた。

 

「イヤ?........アノアノの方がいい??」

(ニックネーム............あだ名だよな............俺の)

 

 まさか初対面の少女にあだ名を付けられるとは思いもよらなかった亜音は、少し頭の中を難航した結果。

 

「...............ノンノンでいいよ......うん。」(折角子供がつけてくれたあだ名だしな......うん)

「分かった.........ノンノン」

 亜音は心の中で苦笑するしかなかった。

 しかしその時、突如、少女の雰囲気が変わり、いや本性が現れたというべきか。決して怒っているわけではなく、真剣な空気を漂わせていた。

 亜音もその空気に誘われて、その瞳は細くなる。

 そして少女は唐突に呟いた。

 

「──────貴方は凄い」

「...............!」

 

 突然、自分を称賛されて目を丸くする亜音。

 ガラスのように透明で、深海のように吸い込まれる、昏くも青い彼女の瞳。子供のような純粋さを感じさせる。

 しかしそんな亜音の反応を見ても、真剣な面持ちは揺らぐことを知らず、少女は静謐な声を響かせて行く。

 

「私にはできない、“味方”の誰かを“囮”にして攻撃するっていう作戦──────私にはできない」

「 ...............怒ってないの?」

 

 亜音の怪訝な問いにやっと少女は空気を砕かせて、逆に 〝なんで?〞と返した。

 少女は明後日の方向を見て少し考えていたようだが、やはり分からないと亜音に問う。

 

「怒る必要があるの?だって貴方は“100%”成功する作戦をしただけ。決まっていたなら怒る理由もない。むしろそのおかげで私や他の人達も助かった。むしろ感謝するべき」

 

 久々に亜音は見透かされた感覚に陥った。

 おそらく少女は、他人を囮にできるほどの自信を亜音から感じ、かつ自分ならそんな危ない賭けを、絶対成功するか、それしかないほど追い詰められていた場合しか行使しないと思い、そう言ったのだろうが。この少女、流石は謎の魔王を抑えていただけのことはあるのだろう。感受性が豊かな上に周囲も人もよく見えている。

 亜音は素直に目を見開いたまま感心し、ただただ呟く。

 

「............そうか」

「だから、ありがと。ノンノン」

「こちらこそ、ありがとう。君のおかげで俺は皆を救えた。君がいてくれてよかった」

「君じゃない、ウィラ」

「ウィラさん」

「ウィラ」

「ん?ウィラさん?」

 

 亜音は何が悪いのか分からず、過去を振り返る。母の指導、初対面での礼儀は最低限守っていると思うんだが、と。

 そんなすっとぼけたような亜音に少しムッと表情を浮かべ、ツインテールの少女は強めに呟いた。

 

「ウィラ.........呼び捨てにして」

「え............あ、ああ.........。でも初対面だけど大丈」

「そんなの気にしない.....................あ、いいことおもいついた。ノンノン、どこのコミュニティ?」

「ん??............ノーネームだけど」

「なら良かった──────」

 

 その瞬間、亜音は頭をトンカチで思いっきり殴られたような衝撃を受けた。

 

 

「ノンノン、私と結婚して。私のコミュニティに入って」

 

 

 タータン、タタンタンタンタン☆%¥♪!?

 あって数分からのプロポーズ。

 流石の亜音も壮大な吹奏楽団の“演奏歌”を前に思考を完全に止めた。

 さも恥ずかしそうに──────そんなわけなくノーマルな感じで少女は、亜音を見つめている。

 

「──────へ、結婚?」

「そうすればあのストーカーに悩む必要もなくなる」

 

 なるほど、とすぐに亜音は思考を回復させた。要は、力での厄介払いと結婚できないという確定事実、コミュニティの戦力上げ、なんてヤマシイ考えをするんだこの少女は。純粋な外見をしていて思考は“悪魔”だな、と亜音は口元をひくつかせる。

 

「逆に悪化しそうな気がするが............そもそも駄目だよ、そんな簡単に」

「形だけでもいい。いいでしょ?ノーネームなんだから」

 

 亜音の黒衣の裾を掴んで、逃がさない、という意思表示を見せるウィラ。

 頭を抱えながらも亜音はウィラに訴えた。

 

「そういう問題じゃない............君は好きな人いないの?」

「ノンノン...............かっこいい。好き...?」

 

 笑うしかないだろう。いや、亜音は諦めない。

 こうなったら話を無理やりもみ消すことにし、

 

「疑問系じゃないか......あ、ちなみにだがこの後はどうす」

「私、諦めない.......ほしい.....諦めない、ノンノン。こんな逸材いないもん、私のないと」

 

 黒衣に添えられていたウィラの手に力がこもり、亜音は柔らかくも張りのある背後の重圧に戦慄した。悪魔の囁きが耳をくすぐり、足を止めてしまう青少年。おそらく本当に諦めないだろう──────、一瞬あのストーカーが脳裏をよぎったのは気のせいではない。

 諦めさせるのを諦めた亜音は、次なる作戦を執行する。いわゆる失望させるというバックれ。

 

「...............わかった、じゃあこうしよう、お試し期間のお付き合いをしよう」

「お試し期間?」

「つまり自分にふさわしいか、性格が悪いところがないか、などを見極めるそうい──────」

 

 そう言いながら亜音は“逃げる毎日”と“自分を段々と忘れて行く少女”をイメージし、不敵に笑っていたが、

 

「うんわかった」

「はやっ!意味分かってるのかなあ?」

「うん。…………今からノンノン、私の恋人?」

 

 ──────分かってないね。ん?分かってるのか?いや絶対分かってないだろう。

 人差し指を顎に添えて首を傾げるウィラ。なるほど悪魔の誘惑とはこういうことか、亜音は至極納得した。人の理想(タイプ)さえも捻じ曲げ、欲を駆り立てる容姿と仕草。正真正銘、男性、オスにとって、世界から与えられし〝悪魔〞の力だった。

 

「わかってる???相手の悪い所をたくさん見つけるんだよ??!」

「悪い所も好きになればいいの............?」

 

 分かってないッ!!いや、分かっているというのか!?俺が間違っているのか??。馬鹿な、この俺が正論で、しかも何気に名言で妥当されただとッ!?だとしたら間違いなく彼女の純粋さは、閃きの宝庫だ。今後の役に立つかもしれない。しかしこの縁をいま!切らねば、この少女と結婚──────いや、悪くないのかな?と目下の少女を見て思う。

 

「......今度.........でーと、行く?」

 

 ウィラは無垢な瞳でそう問いかけてくる。悪魔だ、悪魔だ。

 亜音はフゥーと息を吐いて落ち着き、今にも襲いたくなる衝動を抑え込む。まさに己の精神力は鬼神の強さだった、と自分で自覚し、自画自賛してしまった。

 そしてそろそろ時間帯を気にし、亜音は少女に手を振って、強引にオサラバする。“逃げたな”、“最低”という声が聞こえた気がした。

 

「あうん今は忙しいからまた今度話そう!〝さよなら〞ウィラ!」

「〝またね〞.........ノンノン」

 

 亜音は少女の言葉を受けて最後まで苦笑しながら跳躍し、一人空を逃げ惑うのだった。

 

 

######

 

 

 ──────北と東の境界壁・四○○○○○○外門、三九九九九九九外門。

 

 夕方を終えたばかりの夜。

 女性店員、白雪姫、亜音、舞夏の四人は再度、凱旋門前のアーチ橋で合流し、今日の戦いは現在を持って無事終了した。

 亜音がウィラの元へ行く前、一度女性店員と合流し、〝サラマンドラ〞と〝鬼姫連盟〞、白夜叉が無事魔王を討伐したとの旨を聞いており、今は痛む体に鞭を売ってみんなが後始末に駆り出されている頃だろう。

 亜音も少し手伝いたいとは思うのだが、体が所々軋み、立っているのが辛い。

 

「..................もう、やだぁ.........腰が、足裏が......脛が.........いづぃ」

「舞夏さんが死んでますね.........」

「無理もないさ。昨日今日、一日中戦い続けたんだからな」

「本当に良くやってくれたと我も思うぞ」

 

 亜音と女性店員、白雪姫は橋の隅で壁に背もたれして座り込む舞夏を見て苦笑しながら、称賛した。

 そして亜音は白雪姫や女性店員の二人以上に感謝をしていた。なぜなら舞夏は“箱庭の大都市”その住人ではない。何より〝仙境蓬莱〞のコミュニティの基本は隠密、隠蔽である。力のあるコミュニ ティが目立てばそれだけで、敵を増やすことになりかねない。ただ強いというわけではなく、彼らの扱う力は最強種すら上回る規模であり、初代仙神は不老不死とも関わりを持っている。狙う輩、邪魔だと思う者がいてもおかしくはないだろう。

 そんな時だった。

 アストラルゲートが起動し、そこから三人、己の所属するコミュニティの旗が描かれた半被を羽織りし者たちがスッと亜音達の前に現れた。

 右から青の半被《双女神の紋》、紫色の半被《鬼姫連盟の紋》、赤色の半被《火龍の印》。つまりはそれぞれ、〝サウザンドアイズ〞、〝鬼姫連盟〞、〝サラ マンドラ〞、階層支配者達からの伝令者である。

 亜音にとっては一人で十分なところだが、最低限の礼儀なのだろう。亜音はそこは突っ込まずに、女性店員と〝サウザンドアイズ〞の伝令が会釈したのを一瞥すると、丁寧な口調で話しかける。

 

「榊原亜音です。不躾ですみませんが、皆さんのところはどうなっているのでしょうか?」

「亜音殿。貴方様はもう階層支配者達と同様の功績を持っています。故に私達に気を使う必要はございません」

「我らも同じく。主達もご存知のことです」

 

 主達とはつまり──────サンドラ、白夜叉、鬼姫連盟の長達のことだ。

 亜音の功績から当然と言えば当然なのだろうが、しかしこうして並べてみるとやはり壮観だった。女性店員と白雪姫は戦慄して口を閉ざしていた。

 それに対して亜音は逆に緊張した様子は見受けられず、初対面の相手に戸惑いつつも肯定を返す。

 

「そう、ですか」

「はい。それと先ほどの問いですが............」

 

 〝サウザンドアイズ〞の使者である、女性店員よりも少し年上の静謐そうな女性が、視線を左に移して二人の伝令に、説明をという経緯を促した。

 最初に前に出たのは、〝鬼姫連盟〞の使者。鬼の角を小さく生やす若手の女性。

 そんな彼女は凛とした態度を崩すことなく、口を開く。

 

「鬼姫連盟の元には、〝平天大聖〞様が援軍に来てくださり、ほぼ無傷です」

「〝サラマンドラ〞も魔王をこちらで撃退し無事です」

「私は貴方様の命令を聞くようにと白夜叉様から派遣されたものです。その前に北の階層支配者の元へ派遣され、北からの使者を貴方様の元へ寄越すよう言われていました」

 

 亜音は少し顔を歪めた。自分一人にそこまで人手を割くなど白夜叉も気の大きいことである、故に亜音は少し申し訳ない罪悪感に襲われた。

 それでも亜音は待たせずに口を開く。

 

「白夜叉様は?」

「はい、少々手こずった様ですが魔王を撃退した後、被害にあった東区画の怪我人など、後始末をしています」

「南には来れないか.........」

「どうしますか?」

 

 その問いに亜音は少し瞠目し、ちらっと女性店員と白雪姫を見た。

 今すぐにでも南に行くべきなのだろうが、この状態では行っても出来ることは大してない。何より、北と東より南の方が重要な戦線、戦場であることは最強種の存在で何となく察せるだろう。加えて最強種の前には魔王の残党、 巨人の襲撃が〝二度〞も行われた─────まるで、敵を分析するかの如く。つまりは最強種や魔王残党以外にも策謀を働かせている何某達がいるのかもしれない。しかしそんな南から今だ連絡は来ないが、それは黒ウサギの審議決議が正常に発動している証拠だろう。幾日か余裕があるはず。さらに南の戦線を、敵が階層支配者の軍勢から維持することを考えていたのなら、こちらの戦争はまだ────────終わっていない。

 

「俺は明日に南に行く。白夜叉様からの自分への任務は解きます」

「分かりました、亜音殿」

 

 三人の使者は再度、アストラルゲートを通り、一瞬でその姿を消した。

 それを見送った亜音は舞夏に歩み寄り抱きかかえると、女性店員と白雪姫にすんっごく疲れた顔で告げる。

 

「というわけで、一時サウンドアイズに帰ろう。またぶっ倒れそうなんだ、.........舞夏も昨日の疲れが残ってて死んでる──────それに」

「「??」」

 

 ──────もしかしたら明日はもっと荒れるかもしれない。

 亜音の瞼に描かれるのは、謎の魔王。

 自由になった白夜叉と階層支配者達を彼が放っておくわけはない。

 気を引き締めなければと亜音は、皆と同じ空を見上げるのだった。

 

 

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