新・問題児と人の神が異世界から来るそうデスヨ   作:行くよ!!!!

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遅くなりました!
よろしくお願いします。

・オープニングテーマ《青い未来》参照先アニメ《ブルードラゴン》

・激闘・戦争イメージソング《Meteor-ミーティア-》参照先アニメ《ガンダムSEED DESTINY》



第十八話「可能性は生まれるものではない、仲間を見ろ!」

 

 

 この場所は落ち着く。

 見慣れている場所で、ここが自分の居場所なんだと錯覚してしまいそうになる。

 しかし、いつかは出て行かねばならない。

 己の夢のために。

 そんな自分にふと金髪の少年が笑い、歩み寄ってきた。

 何もかも曖昧な世界で、でも金髪の少年は自分より純粋で強い心を持っているように思えた。

 

「───────お前は〝   〞だろ?」

 

 金髪の少年より突き出される拳。欲しかった言葉。

 自分は戸惑い、肩を震わせて動けずにいる。初めての体験だったのが、さらに拍車をかけていたようだ。

 だがそんな自分を後押ししてくれる二人の女の子。

 余計戸惑い、反発する、そんな気持ちが胸を締め付けて溢れるが、逆に反比例して心が熱くなって、涙が溢れてしまう。

 

 これをきっかけにたくさんの人達が側に寄ってくる。

 こんなつもりじゃなかった筈なのに、でも後悔は。

 

 

 

 

######

 

 

 〝サウザンドアイズ〞支店。客間の和室。

 

 たっぷりとした睡眠をとり、亜音達はそろそろ皆が本格活動する時間帯に起きた。

 多少二日間の疲れが残っているが、〝気〞による肉体活性で回復力は高まり、睡眠もそれに拍車をかけて満足のいく体調となった。

 其の後、女性店員が配膳を三つ用意し、朝食に入った。今日は昨日とは違い、少し手の込んだ朝食を口にしていた。味噌汁やご飯、アジの味噌漬け、漬物など。亜音と舞夏は満足そうに笑顔を浮かべ、白雪姫は淡々と口に運んでいく。

 調理した女性店員はそれらを一瞥して口角を上げた。

 だが、彼らが朝食を食べ終えた其の時だった。

 肉体活性は羽衣を出さずともでき、何より五感や第六感が極限まで強化される。

 故に舞夏と亜音は咄嗟に明後日の、同じ方向を見つめて雰囲気を変えた。

 既に羽衣も脇に纏いて漂わせている。

 

「「ごちそうさま」」

「え?」

「......?」

 

 そして二人はすぐに窓から飛び出て、大気を疾駆していく。

 瞬く間に消え去った二人に女性店員と白雪姫は唖然としていたが、 その時、〝サウザンドアイズ〞の使者が慌てて飛び込んできた。

 

「お食事中、すいません!」

「何事ですか?」

 

 白雪姫は泰然とした態度で正座したまま使者の言葉を待ち、女性店員が静謐な声音で問いかけた。

 そして使者は苦渋の顔で、

 

「申し上げにくいのですが、再び三頭龍の眷属が、数にしておよそ二百体!さらに異常気象も見られることから件の〝魔王〞も............!」

「とうとう来たのですね......」

「ふむ.........本命か」

 

 女性店員と白雪姫は立ち上がり、亜音達が向かった噴水広場へ疾走するのだった。

 

 

 

 

#######

 

 

 ───────噴水広場。

 阿鼻叫喚が渦巻き、大気が轟くこの場所。

 またもや襲撃を受けて壊滅しようかという矢先、二つの影が素早く疾駆する。

 其の二人はそれぞれ、黒い羽衣と白い羽衣を纏い霊格を膨張させていた。

 黒い羽衣を纏う榊原亜音は、光熱を放つ蒼炎の槍を漆黒に染め、次々と双頭龍を串刺しにし燃やし尽くす。

 白き羽衣を纏う舞夏は、アクロバティックな動きから 〝草薙剣・ 天叢雲剣〞を振り回して、双頭龍の霊格を食い漁っていた。

 分裂する暇もなく退治された双頭龍だったが、亜音と舞夏の表情は張り詰めたままである。

 

「来たな...............“マクスウェルの悪魔”」

「ほう───────私の霊格に気が付いたか」

「そこまで優秀じゃない。ストーカーに詳しい可哀想な少女から聞いただけだ。.........それで?あらかた、俺と白夜叉様の足止めにでも来たんだろうが、眷属如きじゃ相手にならないぞ」

 

 亜音は泰然とした態度で空を浮遊するフードの男へ告げた。

 其の態度にイラつきながらもキャラをブレさせず、謎の魔王は吹雪と炎熱を双掌に集め始める。

 

「確かにその通りだ。故に私も出し惜しみはしない、何より私には──────」

 

 ふと亜音の霊格が一瞬で膨張し、黒い粒子とともに蜃気楼が立ち上った。

 近くにいた舞夏は視界を庇うことはせず、薄い膜の結界を周囲に張って爆風をやり過ごす。そして不敵な笑みを浮かべた。

 

(亜音............使うのね.........アレを)

 

 亜音は肩幅以上まで足を広げ、パァンッ!と柏手を打ち合掌の構えを取る。

 そして輪廻眼の双眸でマクスウェルを捉えると、唱えた。

 

「〝仙法〞───────〝精霊結界”ッ!」

 

 突如、空に浮遊していたマクスウェルを覆い隠すように鋼鉄の光沢を持つ黒き球体が出来上がった。

 亜音の額にはすでに汗が光り、青筋を立てている。

 舞夏はその様子を見て、〝やっぱり自分がやるべきだったか〞と少し後悔した。

 

(この仙法は、維持し続けるだけでも体に負担がかかる。それも並の仙人では耐えられないほどのもの。なによりあの亜音、仙神クラスのものでさえ今にも)

 

 できればこれで決まってくれと願う舞夏は、頬に小さな汗を流した。

 一方、マクスウェルの方は真っ暗闇の中、戸惑いの声を上げて壁を叩く。

 

「なんだ?これは」

 

 完全に音もシャットダウンされているため、亜音や舞夏にマクス ウェルの声は聞こえない。

 だが、マクスウェルが戸惑っていることは間違いない───────なぜならこれは。

 

(───────〝跳べない〞だろ?マクスウェルの悪魔)

 

 そう、〝精霊結界〞とは隙間を一切作らずに精霊粒子を並べて壁を作り、その中も精霊粒子で満たす。そうすることで世界の層を少しずらし、異なる世界を作り上げて閉鎖させる、まさに〝結界・封印術〞 なのだ。

 ただ、億もの精霊を定位置に維持し続けるのは途轍もなくキツイ。鬼神の忍耐を持つ亜音でさえ疲れを隠しきれない。

 だが亜音は焦りを隠しながらも抑揚のない声で告げる。

 

「終わりだ............マクスウェル」

 

 亜音は左手を空に掲げたまま右手にトリシューラを生成ーーーーーーーー。

 その途端だった。

 

「─────んぐっ!?」

 

 亜音の左手から淡い光が霧散し、黒い鋼鉄の光球はヒビを走らせて刹那に爆散した。

 直後、爆風が周囲に吹きつけた。辺りの埃を巻き上げながら亜音も軽く後退させられ、思わず倒れそうになるが、後ろから舞夏が支えた。

 

「すまん、舞夏」

「別にいい.........で、どうするの?アイツ出て来ちゃったけど?」

 

 亜音はすぐに自分で立ち、空でマントをはたくマクスウェルを見上げた。

 マクスウェルはフードの下で小さく笑い、ふむ、と感慨深そうに呟く。

 

「なるほどな............これには私も流石に焦った。まさか〝空間跳躍 〞ができなくなるとは、鳥が空を跳べなくなったのと同じ気持ちになった気分だ。だが、〝脆い〞な。」

「............っ」

 

 もう一度は不可能だろうな、と亜音は心の中で舌打ちする。マクスウェルは結界を張ってもすぐに剥がしにかかるだろうし、自分に〝精霊結界〞を使わせもしないだろう。だから、先日もこれを使わずに、ウィラを囮にしたのだ。

 ちょうどその時、そこへ白雪姫と女性店員が駆け付けた。

 

「亜音さん、舞夏さん、ご無事ですか!」

「ふむ、彼奴が〝マクスウェルの魔王〞のようだな......」

「随分と私の正体を喋ってくれたようだな」

「俺の勝手だろ?」

 

 マクスウェルの憤怒の声音に亜音は至って冷静に返す。

 万策を穿たれた筈の亜音。

 そんな亜音の余裕の態度に、マクスウェルは青筋を立て、

 

「そうだな。だが私の正体を知られてしまった以上、貴様らは生かして返さん」

 

 邪悪な笑みを浮かべたマクスウェルは平然と告げた。

 

「面倒だ、この一帯ごと吹き飛ばしてやろう」

 

 その言葉と共に辺りに冷風が吹き荒れ、辺り一面が寒冷地となって いく。

 熱が全てマクスウェルの右手に吸い込まれ、マクスウェルの全身から蜃気楼と熱波が溢れ出ていた すぐにマクスウェルがしようとしていることを察した女性店員と白雪姫が、させるか!と動き出すが、亜音がそれを制して、

 

「白雪と店員さんは他の人たちを避難させてください」

「だが、」

「大丈夫です、あいつは俺と舞夏で必ず倒します─────行ってください」

 

 亜音の真剣な表情に、さすがの二人も逆らうことはできず、白雪姫と女性店員は小さく頷いて駆け出した。

 それを見送った亜音は舞夏に告げる。

 

「悪いが、結界の方は全面的に任せることになるが、行けるか?」

「具体的には?」

「小と大の〝二つ同時〞」

 

 舞夏は途端に目を見開いて、亜音に正気かという視線を送った。

 亜音ですら一つの結界を保つのに多量の精神力を使い、さらに脆かった。

 なのにそれを二つ同時ということは、必然的に〝仙神〞として亜音以上のことをしろということなのだ。

 

「─────作戦は以上だ、行くぞ」

 

 しかし亜音は一連の用意していた作戦を舞夏に伝えただけで、話を終えた。

 そんな亜音の背中はまるで、舞夏にならできる、そう確信していると言いたげだった。

 舞夏はふと小さく笑みを零して亜音の横に並び立ち、

 

「リョーカイ」

 

 其の返事と共に周囲の状況が激変する。

 亜音は黒い霧を燃え盛る様に背中から空へ吹き出させながら、右手と左手に蒼炎を溢れさせて行く。

 それを見た舞夏は少し驚きながら、流石は亜音、と二つの動作を同時に繰り出す技術と精神力に唸った。

 

「─────私も〝仙神〞、負けてられないわね」

 

 パァン!と柏手を打って合掌の構えを取る。

 そして白き羽衣を纏って、ほんのりと青白く体を照らしていく。

 その様子にマクスウェルも警戒し、空間跳躍を駆使して空を飛び回りランダムに出現する。全身を白熱させて発光する中、残像が残るほどの連続跳躍を繰り返しているが、身を守る術としては実に合理的。

 しかしだからこそ亜音はその全てを把握していて、この作戦を立てたのだ。

 舞夏は白い粒子を蜃気楼と共に漂わせて、亜音に怒声を飛ばす。

 

「亜音、いいわよ.........っ!」

「こっちもいける.........タイミング合わせろ!」

「わかってる!!」

 

 亜音は目を見開くと同時に、蒼炎と黒い霧を解き放つ。

 右側の空と左手側の空を蒼炎が覆い尽くし、その余波で大地が熱さられていく。と同時に黒い霧が無限の棘となって亜音の視界中央と背後の空を突貫し、蜂の巣にしていった。これが亜音の真骨頂、複数の恩恵を同時に遠隔操作する類稀なる集中力の適当分散力。舞夏のように極限まで一点に集中力を高めるこ とを苦手としているが、それを埋められるほどの才覚を亜音は持っているのだ。

 そして不自然に残った中央の隙間に─────マスクウェルが現れた─────その瞬間、いやそこに現れるのを信じて舞夏は────。

 

「〝仙法〞─────〝精霊結界〞ッ!!」

 

 瞬時に白い鋼鉄の艶を放つ球状の塊にマクスウェルは閉じ込められた。

 舞夏はさらに横目で視線を後ろに移し、半ば自棄に叫ぶ。

 

「こんのッ!もう一発!!」

 

 舞夏は開いていた瞳をギュッと閉じ、顔を歪めながら汗を一雫、地に垂らした。

 亜音は蒼炎を消し去り、黒い霧をそのままにしたまま周囲を一瞥して舞夏に告げる。

 

「流石は守護を任された〝仙神〞。俺にはこの規模は絶対に無理だな」

 

 半径100mの半円球型の真っ白い結界がこの場所を覆い尽くしていた。亜音はマクスウェルが余裕の表情から絶望に変わるのが目に見えていて、少し微笑む。

 そこへ舞夏の怒声が、一切の余裕を欠いて飛んできた。

 

「早くしてッ!アイツ、中で暴れてるから早くしない─────ッぐっぅ!?しゃらくさいッ!!」

 

 バァン!ともう一度柏手をうち、白い球状の結界がさらに白い鉄塊の球状に覆われた。亜音は思わず刮目したが、すぐに我に返って黒い霧を操り始める。その様子を見ていた、内なる者が唐突に呻く。

 

(こいつは...............ワシの.........っ、)

(すまないが、パクらせてもらうよ)

 

 

「開錠──────《 循環と開拓の機動霊装(エターナル・フォートレス)》」

 

 

 亜音は黒い霧を刺々しくマスクウェルの入った白い結界の周りを林の如く埋め尽くしていく。まるで黒い絵の森林の様に。

 そして黒い枝から蒼穹の蕾が膨れ上がり始めた。そう、これは亜音と蚩尤がここではない別の世界で戦った時に使用された〝戦神の技〞。

 

「機動せよ、真実(ミライ)を照す“煉獄の王政”─────終焉宣告の碑(アポカリプス・デイ)ッ! 吹き飛べ、マクスウェル!」

 

 全てが吹き飛んだ。

 黒い枝より無数の星々の様に煌く蒼炎の蕾が連鎖爆発を引き起こし、大きな白い結界内を火焔が埋め尽くした。気炎と爆風が渦巻き、何かも残さず破壊していく。故にその中の町すら残らずに焦土となり、残ったのは二人分ほどの半円球型の黒い結界のみだった。その結界と共に大きめの白い結界もガラスのように砕けて霧散し、焦土の中不自然に、綺麗に残った石畳の上で亜音と舞夏は倒れていた。舞夏をかばう様に覆いかぶさって、間一髪亜音の結界が間に合ったようである。

「無事か............舞夏?」

「大丈夫、だけどさ............無茶苦茶しすぎ、亜音」

「悪い。でも、俺はこの後、南にも行かないといけないから......これしかなかった。......よっと」

 

 亜音は起き上がりながら舞夏に手を貸して立ち上がらせる。

 二人はフゥーと息をついて途端、舞夏の体がふらつく。

 

「おい.........舞夏?」

 

 亜音は右腕で舞夏の背を支え、もう片方の腕で舞夏の腰を支えて抱きとめた。

 心配そうに亜音が顔を覗き込み、舞夏は口を尖らせて、

 

「.........もうだめ、死ぬぅ」

「ふっ.........ははは」

「笑い事じゃない .........もうこれは亜音、貴方に埋め合わせしてもらうしかないんだからね?」

「ああいいよ」

「いいの!?」

 

 ガバッ!と、舞夏が起き上がったせいで亜音は倒れそうになるが堪える。

 そしてヤケに顔が近づいてしまい、舞夏は少し頬を染めて顔をそらした。

 急に体を動かしたせいで体調が悪くなったと思った亜音は、少し視線を落として、

 

「悪い、俺のせいでそんなに顔を赤くして............よほど疲れたんだな」

「いや、違うし.........亜音には関係ないでしょ?」

「おい、俺は医者の端くれだぞ、関係ないことはない。それにお前に何かあったら俺の責任だ」

「そ、そうなの?.........私に何かあったら、亜音の責任なんだ.........?」

「ああ、だからあんまり心配させないでくれ」

「う、うん」

 

 照れ臭そうにする舞夏に亜音は微笑ましく笑みを浮かべていた。

 だがその時だった───────二人より少し離れた空で、何かが収束して一人の人物を形作った。

 

「マクスウェル............っ、」

「どういうこと、あいつは不死身なの!?」

 

(やはり、〝トリシューラ〞を使うべきだったか?一応、槍から“漏れ出る炎”にも、破壊の恩恵は宿ってはいたんだが、権能が拡散してしまっていて効果が薄かったのか)

 

 舞夏はすぐに立ち上がって臨戦態勢を取り、満身創痍の舞夏に亜音が少しかばう様に立った。

 フードさえも再生させて身を隠すマスクウェルは少し吐血の後を口端に見せながらも、全身が吹き飛んだとは思えないほどの邪悪な笑みを見せていた。

 そして亜音は気付いた。

 

「これが霊格ということか」

「どういうこと?」

「つまりは神霊と同じだ、あいつは箱庭の概念に守られている、だから概念を一撃で消し飛ばすか、霊格を切り拓くしかない」

「じゃあ今までのは全部無駄骨ってこと、ね」

 

「私を誰だと思っている──────ふむ、やはり倍返しにするべきか」

 

 パチン!という音ともに吹雪と炎熱の渦が辺りを埋め尽くし、空へ立ち上る。

 亜音は即座に索敵し、プラスとマイナスの境界から二十体近くが集まってきているのを感知した。

 そのうち五体は──────“北に巣を作った怪物”、双頭の邪竜に匹敵する霊格を放っていた。

 

「............っ、」

「こいつらが神霊級の眷属達.........!」

 

 亜音は息を呑み、舞夏は声をあげて狼狽する。

 神霊級もそうだが、後ろに控える残りの十五体も第二世代。舞夏は無理な力の使い方をしたせいで一時的にではあるが満身創痍、亜音一人では流石に神霊級五体と第二世代十五体を同時に相手取ることはできない。しかし、今ここで一匹でも逃がせば東は間違いなく血の海になる。

 

「さあて、終わりにしようか、君みたいな男を見てると吐き気がするんでね.........!」

「それはこっちのセリフだ、馬鹿。............お前のせいで男性に対する女性の偏見がもっと酷くなっている。頼むから男を捨てて女になるか、死んでくれないか?」

 

 亜音は両手に真紅の光を溢れさせ、その気炎から精錬された紅き霊槍が顕現し、紅蓮の上からさらに漆黒の影を迸らせて霊格を強大化させていく。

 そして神速で二つの槍を穿ち、双頭龍の二匹の口を狙うが、簡単に噛み砕かれた。

 

「っ............」

「馬鹿め、その程度の霊格(うつわ)では倒せんことぐらい分かっているだろうに。ま、私は見物を決め込ませてもらうとしよう、本来なら私の出番はまだなんでね。それに元気な姿で花嫁を迎えに行かなければならない。君の始末はこいつらに任せるよ──────いけ、三頭龍の眷属達よ!ハハハハハ!」

 

 号令と共に獣達が四方に拡散し、亜音は瞳を閉じた。

 少年の両手に蒼炎よりもさらに黒々しい煉獄が吹き出し──────、

 

「──────このおお戯けどもがっ!調子に乗るのも大概にせんかッ!!!」

 

 東の地を照らす日天。それは一瞬、霊格を膨張させて辺りを白く染め上げる。声の主に覚えのないものはこの地にはいない。マクスウェルとて例外ではないだろう。唯我独尊、駄神──────そう罵られていようとも箱庭最強の覇気は揺らぐことを知らない。

 太陽の光を放ちながら、白夜を司る最強の魔王、今ここに降臨──────バチン?!

 一度の乾いた音から止まることを知らずにバチンッ!バチンッ!バチンッバチンッ!!バチンッ!!!と辺りに響き、あらゆる方向へ進撃しようとしていた邪竜が簡単な打撃を受けて元いた場所へ呻きながら転がり込み、軽い風塵を撒き散らした。

 大層な現れ方をしたくせにやったことが(音からして)デコピン??だったので、舞夏と亜音は呆然と立ち尽くし、しかしマクスウェルはドッと冷や汗を掻き、戦慄していた。

 

「馬鹿な............早すぎる............っ、」

「マクスウェルの魔王よ、おんしが戸惑うのも無理はない。しかし些か“オマエ”はやりすぎた。私とて縁は多くある、私をここに送くるために同志達が各地方より来てくれたのだ。」

「くっ............」

 

 亜音と舞夏が小柄な体躯をした白髪の美少女に瞳を奪われていると、白夜叉が横目で亜音と舞夏を一瞥し、視線を前に戻して告げてきた。

 

「話は全て聞いた。舞夏、亜音、よくやってくれた。舞夏とやらは私の支店に戻って休むがよい」

「でも、私はまだ............」

「もう良い。ここからは私の役目なのだ、故にあまり言いたくないのだが、おんしらは邪魔だ」

 

 舞夏は少し戸惑い、仙神としての役目と己の信念を反芻していた。

 そんな舞夏の肩に亜音の優しい手が置かれる。

 

「ここは白夜叉の言う通りにしよう。舞夏は支店に戻るんだ、仙神、いや“舞夏”としての役目はもう十分だから」

「…………………………………………………わかった」

 

 少し落ち込んでいるようにも見えたが、疲れから来ているものだろう。それに彼女は本当に良くやった。一ヶ月前の彼女を知る亜音からして見れば大進歩を遂げたと断言できる。

 亜音が大気を疾駆して去っていく舞夏を見送っていると、

 

「おんしは南にいけ、ここを守るのは私の役目だ」

「──────分かりました。 ですが、あの数は」

 

 亜音はふと視線をマクスウェルと邪竜の軍勢を一瞥し、不安を顔に描く。

 しかし白夜叉は口調を砕かせて調子良く口を開いた。

 

「なあに私にも手はある、それにおんしこそいいのか?南には最強種が顕現したと聞いておるが、」

「まだ、大丈夫だと思います。あそこには我ら〝ノーネーム〞がいるのですから」

 

 亜音の言葉にハッ、と白夜叉は軽く笑い、少し遠い目をして厳しい声音を響かせる。

 

「偉い信用だの。前にも言ったが亜音、おんしの言ったことが狂言だったら」

「そんなことは絶対にありません。加えて巨龍が今だに南を滅ぼしていないのなら、本格的な行動は起こしていない。おそらく黒ウサギのおかげです」

「審議決議か。なら幾日か猶予が与えられているはずだな」

「つまり最低でも二日間は大丈夫だった、と考えていいと思います。一昨日を治療に使い、昨日に戦闘準備、明後日に戦闘開始。此れが最速です」

「北と東を救って次は南か、とことん救う気なのだな」

「うん、救うよ。俺はまだ夢に足掻いている最中だから、こんなところで邪魔されるわけに行かない」

 

 亜音はそう言い残して遥か空の上まで大跳躍して姿を消した。

 白夜叉は小さく微笑み、ふと仁王立ちして固まる──────そして怒号一喝と共に霊格を解放した。

 誰よりもこの東に愛を注いできた彼女だからこそ、この怒りだった。

 

「私を怒らせおったな、小童どもがぁ──────ッ!!」

 

 東の街に白夜と日天が訪れ、やがて一つに収束し、一つの姿を示した。

 〝人類最終試練〞にして、全ての太陽神が恐れる最強の魔王。

 天動説という法則が大気を、世界を捻じ曲げ、刹那で邪竜の群勢がその姿を消し飛ばした。

 マクスウェルは白夜叉が来た時から逃げることにしていたのだろう、すでにその姿はなく、再度始まったこの戦争は光の速度で幕を閉じた。

 

 

 

 

######

 

 

 

 ──────七七五九一七五外門。フィル・ボルグの丘陵。

 

 

 吹き抜ける爽快な風は、爆炎と埃に塗れて穢れを帯び、亜音は訝しげに眉を顰める。

 外門を通って南に着いた亜音はすぐに空を舞い、戦場を見渡し、いざ大気を蹴ろうとした瞬間に足を止めた。

 

『待って、其処を動かないで!』

『此処からなら邪魔されない!』

『安心して撃てるの!だから』

 

『貴方の力で魔眼を、死の威光を貫いて............!!』

 

 

  南に着いた途端に響く声。

 しかも脳内にこまれでの戦場、アンダーウッドの状況が全て入って来た。

 

(“バロールの死眼”を撃つには、其れ相応の出力が必要になる.........、だが今日ここへ来る前に俺はマスクウェルとも戦った......加えて二日間の戦いに軋む肉体......バロールを撃てば、間違いなく巨龍は...、)

 

 仙神モードは別に自身の体力を増やすわけではない。

 自身の霊格と〝気〞を混ぜ合わせてより強大な力と成す。簡単に言えば節約が出来る様になった。そしてシヴァの権能は己のエネル ギーでしか生成できない。その上から強化することや己の集中力を高めて生成を早めることは可能になったが、やはり体力には限界がある。だから〝仙法〞があるとも言えるのだが──────迷う亜音に響く少女の声。

 

『お願い、貴方しかいないの............アンダーウッドを救って!』

 

 亜音はフゥーと息を吐いて、しかし訝しげに告げた。

 

「だがここからじゃ...............流石に.........、」

 

 何十キロも先の戦場──────流石に亜音の探知は届かない、故に射撃は難なく届いても、正確に魔眼だけを撃ち抜くのは不可能だ。最悪味方を殺してしまうかもしれない。

 

『私達が貴方の耳と目になります。』

『だから撃って そして私の、〝私たち〞の〝故郷〞をどうか.........!』

 

「そうかっ、君達は...............分かった。やろう」

 

 亜音が彼らが誰なのかを悟り、小さく笑みを浮かべて頷いていた。

 

『はい!』

 

 亜音の輪廻眼が黄色く染まり、脳内にはアンダーウッド、その戦場の全てが投影された。

 飛鳥やディーン、サラ、ペスト、ジン、そしてその奥にいるローブの女と、黒い霧の巨人──────すべてが正確に分かる。

 

「これならいける。 顕現────〝霊槍・絶対物理破壊(トリシューラ・レプリカ)〞────〝霊格階位・大海(マリン)〞さらに」

 

 

「来い、〝零・破滅の蒼穹(ピナーカ)〞ッ!」

 

 

 黒い羽衣と黒衣を靡かせ、亜音は右手に大海に染まる一筋の槍を、 左手に蒼穹の弓を召喚する。

 そして神具が生まれた余波で蜃気楼が迸り、黒い焔が無数の糸状となって渦巻いていく。大海の色をさらに漆黒の影が染め上げて霊格を強大化し、弦 に槍を矢として装填する亜音。手際良くそこまで持って行った亜音だったが、ふと距離演算を開始し、 額に汗を光らせ、瞳が少し歪んだ。

 

(...............正確に魔王バロールを撃って、かつ加減しないとアンダーウッドが焦土になる、............か)

 

 この弓の恩恵を簡単に言えば、物理を超え、距離の概念を吹き飛ばす。世界が隔たれていない限り力は衰えない。故に元の加減に失敗してもダメ、外せば土地は満遍なく壊滅するのだ。

 亜音の肩にのしかかる一矢の責任。失敗すればそこで終わり。トラウマ──────昔を思い出しそうになるが、己に対しての自信で無理矢理ねじ伏せ、亜音は微笑む。

 

「俺は強くなった............もう誰にも邪魔はさせない。たとえそれが自分自身であったとしても...........................負けはしないッ!」

 

 亜音は万感の覚悟で弦を引き絞り、深呼吸を適度な感覚で数回行う。

 大海の槍には黒炎が炎上し、力を溜め込んでいくよう渦巻き、収束していく。

 黒と金の瞳、幾多の輪廻が回転しているかの様に開かれ、最大まで熱量が増す。

 突風が亜音の側を吹き抜けていき、より一層力の波動が高まった。

 そして、その時が来た。

 

『──────今よ、撃ってッ!』

 

 同時に亜音の瞳が鋭利に細まり、微かな震えさえも凍ったように止まる。

 そして精霊からの号令に一秒足らずで亜音は応えた。

 

 

 

「撃て──────〝零・破滅の蒼穹”ッァ!!」

 

 

 

 流星の矛。

 途端に吹き荒れる嵐に外門近くでは悲鳴が渦巻く。

 放たれた槍は一筋の光となってアンダーウッドの大地へ消え去っていった。

 亜音は蒼穹の弓を霧散させて、その結果を確認する前に口を開く。

 

「〝アンダーウッド〞の大精霊、アンダーウッドの同志の皆さん…………ありがとうございました」

 

 結局、亜音は最後まで結果を見ずに、古城に向かって駆け、流星となって空を貫いて行くのだった。

 ここまでお膳たてされて置いて亜音が外すわけがないのだろう。

 

 

 

 

######

 

 

 ──────吸血鬼の古城・黄道の玉座。

 

 ──────レティシアの自分勝手な判断に耀は憤慨し、十六夜は呆れ果てていた。

 救われることを望まない囚われの姫。

 だが、それでも耀は納得できなかった、拳を握りしめて立ち上がった。

 耀と十六夜はそれぞれの決意をレティシアに叩きつける。

 

『大天幕が開くまでに巨龍を撃つ──────此処からは全て自己責任』

『覚悟しろ、レティシア。俺たちはお前を倒して──────完膚なきまでに救ってやるからな』

 

 二人の決意を前に呆然とするレティシア。この場の空気が沈黙に支配され、十六夜と耀はレティシアから踵を返そうとした。だがそこに、玉座の間に現れたのは人影──────仙神の名をマントに刻み、背に靡かせる一人の少年だった。

 

「あ、亜音、なんでお前がここに............」

「このタイミングで、か」

「亜音......?」

 

 レティシア、十六夜、耀という順に亜音を見て声を上げて驚き、ガロロは突然の乱入者にハテナマークを浮かばせていた。

 亜音は軽くガロロに頭を下げて前を通り、玉座の前にいる十六夜と耀、レティシアの元に歩み寄る。

 

「よう!耀、十六夜。間に合ったみたいでよかっ」

「間に合ってねぇよ、張り倒すぞ、コラ」

「大遅刻、クビ」

 

  ──────少し空気を和まそうとしたが、返ってきた相槌は切り捨て御免だけだった。

 亜音はもふもふとした黒髪を掻いて苦笑し、

 

「あははは、ごめん?」

「なんで疑問形なんだよ............それにその服装はなんだ?恥ずかしくねーのか?」

 

 十六夜は亜音の服装、背後に書かれた〝仙神〞の文字を見て苦い顔をする。よほど痛い子に見えるのだろう。

 亜音も自覚があったのか、少し気まずそうに汗を掻き、苦笑を続けた。

 

「いやだってさ、人手を提供する代わりにこの服を着て宣伝しろって言うもんだから............ジャンケンに負けさえ......くっ」

「“お前”の偉大さをか?」

「だろうね.........、やっぱりそうだよね。ゴリ押しされたから断れなかった」

 途端に亜音は肩をすかして両手を上げ、視線を落とした。

 そんな亜音を見て耀はこくり?と首を傾げて、冷静に亜音を射抜く。

 

「別に脱げばいいのに」

「まあ、そうなん「満更でもないんだろ、それと変に律儀だからなこいつは」

 

 耀と十六夜の酷い態度に亜音は苦笑しっぱなしだったのだが、突如亜音は斜め下に視線を落として真剣な声音で皆に告げる。

 

「まぁ、色々と言いたこともあるんだろうけど、ごめん。もうそれどころじゃないみたいだ」

「何?」

「どういうこと?」

「ちょっと待って......................うん、マズイな、巨龍が動き始めた」

「外の様子がわかるのか 」

「ああ、それが〝仙神〞の力だ」

 

 十六夜と耀はその言葉を受けて関心を示し、亜音はさらに言葉を続 ける。

「このままだと〝アンダーウッド〞に降下する──────ということで俺がいっとき止めるから、後は頼むね、十六夜、耀。」

「へぇー亜音、巨龍を足止めできるのか 」

「けど、そんなに持たないと思う。じゃあ行こ「待て、亜音。まさかお前まで巨龍に挑むつもりかッ!!」

 

 レティシアの怒号がこの部屋一帯に響き渡り、乾いた木霊が鳴り止むのを待って亜音は微笑んだ。

 

「うん、そうだよ。この拳一つで、バコーンッて♪」

「なっ............!」

 

 レティシアが唖然とする。加えて他の者達も目を丸くした。この男は今、生身で巨龍と戦うと言ったか?!と。

 ガロロはこの中で一人、亜音とは初対面だが、それでも亜音の姿、黒い羽衣と言語から亜音の霊格を探り始め、鋭い観察眼を少年に向けていた。

 

(羽衣か............仙神、仙人.....?........なら、仙界に通ずる恩恵か、それとも中華系の独立した仙人達の一人か............いやそれはない、どう見ても二十年も生きてはいないただの人間だ。ならいったい .........?)

 

 その時だった。

 ガロロの視線と亜音の視線が一瞬、交錯した。

 輪廻と紫色の瞳に不敵な笑み、ガロロは背筋に嫌な汗を掻いて考えるのをやめた。まるで見透かされたような気分を味わったガロロは気まずそうに頭を掻くのだった。そんな中でも亜音は言葉を紡ぎ続ける。

 

「──────レティシア、おそらく俺も君の立場だったら、俺たちを止めるだろう。けどね、レティシアがもし俺達の立場だったら、〝 絶対〞に見捨てることはしない思う。」

「そ、それは............買いかぶり過ぎた。私は.........」

「まあ、もしもの話をしても仕方ないか。でもね、レティシアの立場は根本的な所で間違ってしまってる──────救えるか、救えないかじゃない。可能性が1%でもある限り救うために戦い続けるんだ」

「可能性なんかない、ないんだ………亜音」

 

 そこで亜音はフッと笑い、拳をレティシアに向けて突き出し、

 

「可能性は元からあるものでも生まれるものでもない、作るものだ。時間がないならどんな手を使ってでも俺はつくる」

「?!」

「力が足らないなら地を這ってでも強くなるし、人が足りなければ足が血まみれになってでも各地をめぐり、頭を下げる。この命が燃え尽きるその最後まで──────コミュニティの旗揚げはそういう不屈を示すものだったはずだ」

 

 レティシアだけじゃない、ガロロや回廊で待機している子供達にもその言葉が響き、喉を鳴らした。

 異世界から来たただの人間が、紡げる言葉ではないからだ。

 

「亜音............お前............!」

「だから信じろ。今まで信じられなかったのは仕方ない。圧倒的な存在を前に信頼がぐらつくのも無理はない。だが、それを立て直すのも強くするのも、また信頼だ──────第一」

 

 

「俺たちが巨龍を貫けない、その前提が間違ってる──────仲間(オレたち)を見るんだ、レティシアッ!」

「っ、」

 

 亜音は片目を閉じて十六夜と耀に笑いかける。二人も小さくても和やかな笑みを返していた。

 そして亜音はもう一度、レティシアと視線を合わせ、静謐な声音で告げる。

 

「だから安心しろ、何がなんでも救ってやる──────失敗したらまぁ、呪ってくれ、十六夜を」

「そこでボケられる所が肝っ玉の大きさを示してるよな、オマエは」

「遅れて来たくせに............それに若干滑ってるし」

「お前ら言いたい放題だな.........。これでも急いで来たんだよ──────で、十六夜、耀。巨龍を撃てるかね?」

 

「「撃てる」」

 

 耀と十六夜は傷を負いながらも呼吸を合わせたように親指を立てて、断言した。

 亜音はそれを見て微笑むと、手を広げて閉じてを繰り返す。

 

「なら、任せる。俺にはもう巨龍を足止めするぐらしか体力は残ってない」

「偉く簡単に譲るんだな、亜音?本当にいいのか?」

 

 十六夜は亜音に鋭い眼光を光らせて、問いかけた。

 若干しつこい十六夜に耀は首を傾げ、亜音は苦笑いを浮かべて言う。

 

「だから自分には無理なんだって、それに十六夜と耀が撃てると言ったんだ。それ以上の理由はいらないでしょ?」

「くせぇ胡散くせえ.........が、今はいいか。それに亜音にそこまで言わせたならやるしかないわな」

「よし、行こっ!亜音、十六夜。私も頑張る」

「二人は上から様子を見て、臨機応変に頼む。俺は飛鳥と合流して巨龍を迎え撃つ」

 

 亜音が十六夜と耀にそう告げると、二人は先に肩を貸しあって歩き始める。

 それを見送りながら亜音はもう一度、悲しそうな表情を浮かべているレティシアに振り返り、歩み寄るとレティシアの耳元で囁いた。

 

「安心しろ、今は俺が守ってやる............ったく、こんな湿気た顔をして」

「............なにをするんだ、亜音」

 

 亜音はレティシアの頬を引っ張るフリをして、レティシアは訝しげに問いかけた。

 その問いを華麗にスルーした亜音は、変顔なレティシアを想像して一人ぷぷ、と微笑み、

 

「拗ねた姫もかわいいが.........ブサイクな顔をした〝レティシア〞も可愛いかもだね」

「なっ...............それは酷くないか、亜音?」

 

 ブサイクな顔と言われて拗ねるレティシアに再度、微笑む亜音。

 こんな状況下で何をいっているんだという意味も含めた糾弾をしたのだが、ふむ、なんかもうどうでも良くなってきた。というよりはなんで自分はこんなにも意固地になってたんだろうと、自分を疑い始めていた。一方の亜音は相変わらず、ヘラヘラと微笑んで想像笑いしている。

 そんな亜音にむすっとしていたレティシアだったが、だんだんと可笑しくなったのか、小さく笑っていた。

 

「ふふふふ.........はは。あのん.........お前は本当に凄い男だ」

「そいつはどうも。で、聞かせてくれないか?」

 

  亜音はレティシアの両手に自分の両手を重ね合わせて、レティシアの耳に囁いた。

 

「君は今、何を望む?」

 

 くすぐるような声にレティシアは一瞬、両手にほんのりとした体温を感じたような気がし、頬を少し染めあげる。

 それを羞恥に言いあぐねていると思った亜音は少し待ったが、そんなに待てないので、核心を付くような言葉を囁いた。

 

このゲームの製作者に何か言われた(・・・・・・・・・・・・・・・・)?」

「え...............亜音、なんで、」

「半分はなんとなくだけど、この羊皮紙を見たとき、俺が最初に連想させたのは〝ペストのゲーム内容〞だった..................それにレティシアが意識があるのにゲームがクリアされていないのは、ゲーム制作を他人に任せた以外ない。けど、大前提としてこれは〝レティシアの 〞主催者権限だ。つまり、本来ならレティシアの合意なしでは発動は不可能。そしてレティシアに面識があるもの、会話を交わした何某の中に〝絶対的な復讐〞の機会を与え、レティシアに余計なことを言った奴がいるということだ。」

「つまりそれは.........奴がまだ生きている.........のか?!」

「さあ............でも、そいつに何か言われたのは本当なんだな?レティシア」

「.....................」

 

 苦渋の顔で瞠目するレティシア。

 そんな彼女を見て亜音は少し口元を結んだが、すぐに微笑むと、

 

「レティシアが何を言われたか、それはわからないけど、でも確かなことがある」

「...............?」

 

 亜音の瞳が真っ直ぐレティシアの瞳に入り込み、レティシアは亜音にスゥーと吸い込まれていく。

 真剣な雰囲気で指を立て、順に折り曲げて亜音は言った。

 

「一つは、相も変わらずレティシアちゃんは可愛い」

「ブッ..................ちゃんを付けるな、亜音。こ、この年にもなって恥ずかしいぞ」

 

 軽く吹き出してレティシアが羞恥に訴えてきたが、亜音は華麗に無視して、はっきりと断言した。

 まるでこれが本題であると強調しているかのように。

 

「二つ目─────過去のレティシアは絶対に間違っていなかった」

「っ...............亜音、貴方がなぜそんなこと............を」

 

 目を見開いて驚くレティシア。

 いやまさか、箱庭に生きる人々でも知ることのない真実を、過去の事を箱庭に来て数ヶ月足らずの亜音に暴かれるとは思いもよらなかったのだろう、驚くのも無理はないが、逆に亜音に言わせれば至極簡単なことだった。

 

「このゲームはそもそもゲームルールからして絶対に〝革命〞の主導者を殺すようにできている。で、ただ単純に問うただけだよ。欲に駆られて同志を殺したのはどちらなのか?と。」

 

 ここでの革命が示す意味は、簡単に言えば内乱、身内の中での戦争だ。

 旧と新の争い。故に亜音はそこから問うた。

 

「...............」

「即答だった。──────レティシアがそんなこと、するわけがない」

「............亜音.........っ?」

 

 途轍もない真剣な声音で断言する亜音にレティシアは戦慄し、息を飲んだ。

 彼は本当になんでもお見通しで、偉大で、怒りや苦しみを理解してくれる、なんて大きな存在なのだろう。こんな男性とは一度も会ったことがない、とレティシアは瞳を揺らす。

 そして亜音は三つ目の指を折って微笑み、和やかに声を響かせた。

 

「三つ目、君のそばには新たな同志と、俺がいる。違うか?」

「ううん、違わない、な............ぅ」

 

 レティシアは瞳から一雫、涙を落とし、亜音の言葉を否定で肯定した。ふと、亜音の手と重なる自分の手を見つめ、胸を高揚と熱くさせる。

 そしてほんのりとだが、感じる。本当に私は一人じゃないんだ、と感慨深くなる。

 最後に亜音は、大切なレティシアの意思を汲み取ることにし、問いかけた。

 

「レティシア、君の望みを、しっかりと教えてくれないか?」

「わ、私は..................」 

 

 本当ならば言ってはいけないのだろう。

 どんな理由があろうと、私は魔王に堕ち、かつての同志たちを皆殺しにし死体すらなぶり遊んだのだから。

 でも、それを知ってもなお、彼は言った、言ってくれたのだ。〝君は間違ってはいなかった〞 と。

 レティシアにとってその言葉がどれだけ心の中へ響いたことか。死を目前にしてなお安堵できる温もりを感じ、彼をとても近くに感じた。でも、今はそれだけじゃあ、物足りない。こんな空洞な身体では満足いかないのだ。

 もっと近くに、もっとそばに、もっと彼の温かさを知りたい。

 そのためには勇気を持って、今の自分を捨てて、万が一の罪を背負う覚悟をして、口を開かねば、

 

「た、助けて.........くれ、私をここから、出して.........お願い、だ………ぁ」

 

 揺れる紅い瞳。レティシアの懇願を真正面から受け止めた亜音は一切の照れを見せずに頷く。

 

「わかった、わかったよ、レティシア。君の望み、必ず叶えて見せる。君はモノじゃない、君は大切な同志だからな」

 

 亜音はふと立ち上がって、ゆっくりと十mぐらい歩み寄り、割れた窓を見上げる。

 そして、少し身を屈んだ──────その時、ふと小さな囁きが、

 

「我が─────よ、どうか無事に」

「.........?」

 

 亜音はレティシアが何か言ったような気がして振り返ったが、ただレティシアはガロロと笑みを交わして何かを話していた。

 そんな彼女の様子を一瞥し、亜音は小さく嘆息をこぼしながらよかったと呟く。そして大層な黒衣と羽衣を揺らして、窓の外に向かって跳躍し、その姿を消す。

 彼を見送ったレティシアは心の中で、もう一度祈る──────重なっていた両手を一瞥して。

 

(我が王よ、我の元に無事に帰って来てくれ.........いつまでも待ってるから)

 

 レティシアの頬がほんのりと紅潮し、彼女は待ち人を思い出して胸を焦がすように小さな笑みを浮かべ、晴天を、日天を、夢を見させてくれる水晶を微笑ましく見上げるのだった。

 

 






・エンディングテーマ《Blizzard》歌:三浦大知

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