新・問題児と人の神が異世界から来るそうデスヨ   作:行くよ!!!!

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オープニングテーマ《青い未来》参照先アニメ《ブルードラゴン》


第十九話「巨龍VS仙神!!〝一撃必殺〞を放て」

 

 ──────榊原亜音の精神世界。

 

 

 時は遡り、亜音が仙境蓬莱のコミュニティに弟子入りしはじめて少し経った頃。

 赤い髪を肩の上で揺らし、ネコミミが特徴的な少女・ミリは、与えられた仕事である黄金の王宮内を清掃していた。

 窓拭きは内側はすでに終わっており、今は掃き掃除をしている所。

 窓の外側は“雨”が降っていて、次回に持ち越しである。

 

「ふぅー、この通路はこれで終わりっと!」

 

 僅かながらの疲労感に、汗を拭いながら一息つくミリ。

 それほどまでにこの王宮は広かった、無駄に。

 

「蚩尤様もなんでこんなに大きな建物にしちゃったんだろう?」

 

 汚れてもいいように作られた赤と白のジャージ。長袖の腕まくりを元に戻し、塵取りと箒を持つ。

 とそこに、近くで掃除していた他の子供が駆け寄ってきた。

 この子は、ミリのような獣耳などはなく、普通の人の子、まだまだ幼い男の子だった。

 

「ミリねぇちゃん!おわたよ!!どーん!」

「どーん!おつかれさま」

「おつかれさまだ!」

 

 目下に飛び込んできた男の子をうまく抱きとめ、ミリは頭を撫でていた。

 あどけない笑顔を見せて、頬を擦り寄せてくる姿はどっちが猫かわからなくなるくらい可愛らしい。

 そこで男の子は思い出したかのように、少し離れるとピシッと背を伸ばし、頭の横に手を当て敬礼した。

 

「しつれいしました!蚩尤様からでんごんです!いますぐおうしつにこい!とのこと、です!」

「あ、はい!承知しました!」

 

 時折、忘れそうになる──────蚩尤先生としての恐るべき教育方針とその技術に。こんな小さな子供たちにでさえここまで敬礼と敬語を浸透させているのだ、もはやあれは一つの技だろう。

 優秀な中小コミュニティから派遣をお願いして、幾らかの教育をミリは受けたことがあったが、蚩尤先生のレベルは全てにおいて次元が違う。

 特に圧倒的な専門知識の量だろう。

 ミリは男の子と別れ、王宮内の廊下にあった掃除用具入れに箒と塵取りをしまうと、また王室へ歩き始める。

 

(亜音さん────お兄さんが言ってた。科学も含めた錬金術師の中で一番知識に優れた人材は蚩尤先生だって、あれやっぱり本当なのかな?)

 

 そんなことを考えながら歩いていると、いつのまにか王室前の巨大な扉の前につく。

 ミリは今回呼び出された内容には、少し覚えがあった。

 何せ、新たな“機動兵器“の担い手を決めるための“ギフトゲーム“で、戦神をフルボッコにしたのが──────“わたし“。

 亜音のために頑張ったミリだったが、蚩尤も結構、いやかなりショックを受けている様子であった。大の大人が本気でやって子供に負けたとあっては戦神の名は地に落ちてもおかしくはない。

 何を言われるか心配であったが、ミリにとっても引けない理由がある。

 

(お兄さんはいつだって、誰かのために戦ってる。蚩尤様に神様としての力を使わせないようにして、一緒に掃除したり、整理整頓してるのも、私たちのため)

 

 ここに来るまでに飾られていた生け花は、“全て”亜音が手入れしているものだ。

 また子供たちが壊してしまったものを手ずから“修理”したり、嵐でダメになった屋根や建物の“修繕”も全て亜音がわざわざ業者として来て、やっている。ミリもお手伝いを申し出たが、これが亜音の管理者としての仕事らしく、断られてしまった。

 少しでもこの世界に“住んでいる皆”に、生を与えたい、救われてほしい、という思いから亜音が行っていることだ。

 

(蚩尤様がめんどくさがってギフトを使って怒られてたこともあったなぁ、)

 

 くすっ、と少し笑みを溢したミリは、扉の横にある一つのボタンを押す。

 ピンポーン!と小さくなると、ボタンの上の丸い網がかった穴より、図太い声が響いた。

 

『誰だ?』

「ミリです。入室の許可をお願いいたします」

『来たか、入れ』

「承知しました」

 

 いつもより少し低い感じの声音に、ミリは緊張を走らせる。

 扉を開くと、長めの赤いカーペットが続く先に数段の階段があり、さらにその上には一つの黒い革製のソファーが鎮座していた。

 そのソファーにはもちろん、この世界の管理者の一人、戦神の蚩尤、サングラスをかけた白いおじさんがいた。

 

「お待たせしてすいません!ただいま参りました。ミリです!」

「ああ、悪いな、楽にしろ」

「はい!」

 

 ぱちん!と指を鳴らした瞬間、ミリの後ろに黒い霧が渦巻き、鉄製の小さな椅子が出来上がった。

 ミリはお辞儀をして座る。

 

「先にワシに聞きたいことはあるか、ミリ?」

「わたしですか?……その………………最近、亜音さんこちらには来てないようですが、外でなにかあったのでしょうか?」

 

 蚩尤の手前、聞き辛そうなミリだったが、それでも心配だったのだろう、小さく声を抑えていた。

 しかしこう見えて、蚩尤は元王様であり、近代においてもその信仰は廃れていない。少し失礼だったとしても、子供相手に怒ったりはしない。

 

「亜音は今、箱庭の外に出ている。忙しいのだろう…………雨もよく降っているようだしな(・・・・・・・・・・・・・・)

「雨、ですか?」

 

 蚩尤の視線を追うように、窓の外、曇りきった空と降りしきる雨を見つめるミリ。

 

「ァ、ああ、オマエたちにはいってなかったな、…………まぁ、気にするな。コッチの話だ」

「はい!わかりました。」

「ならば、本題に入ろう」

 

 少し蚩尤の雰囲気が暗くなったのが気になったミリだが、蚩尤の言葉でそれは頭の片隅へ置いておくことになった。

 

「ワシからの話は、前回のギフトゲームをもって、オマエが担い手に選ばれたことについてだ」

「はい!」

 

 やっぱりか〜とミリは内心で冷や汗をかきながらも、次の言葉を待つ。

 蚩尤はというと、顎の白い髭をさすりながら、少し悩むそぶりを見せていた。

 

「……………見事だった」

「え、?」

 

 だが、白いもじゃもじゃのおっさんから紡がれた言葉はミリの想像を超えたものだった。

 

「アァ、悔しいが認めねばなるまい。………ワシの認めた勝利者はこれで三人目ダァ」

「え、………え、え?」

 

 嘆息と共に吐かれたその言葉は、称賛そのもの。

 てっきり、貴様如きがぁあああとかって怒られるのかと思っていたミリは、かなり動揺していた。

 蚩尤はそんなミリの様子を気にしつつも、その重い口を開く。

 

 

 

「だからこそ“再び”問わねばならん、ガルドと“殺し合い”をしたオマエに」

 

 

 

 ドクン─────!

 冷徹に響いた戦神の声は、ミリの体温を一瞬で奪い去り、少女はその刹那で死の過去を遡った。

 獣の雄叫び、異臭を放つ唾液、黄ばんだ鋭い牙、下卑た嗤い、子供達の泣き声、心身を貫かれる痛み、遠くなる視界、その全てを思い出した少女は椅子から転がり落ちた。

 

「……はぁ……はぁ、………ぃや………いや………だ」

 

 鼓膜を破るような動悸、揺れる視界、フラッシュバックする過去にミリは打ちのめされていく。その証拠に、彼女の服は昔の、牢に閉じ込められていた頃の白いワンピースに代わり、さらけ出された肌には切り傷が浮かび、最後にはお腹の奥より大量の血液が真紅のカーペットを塗り潰していく。

 そんな彼女を見下ろす蚩尤はそれでも慌てた様子すら見せず、腕を組んで立っている。これが外の世界なら話は別なんだろう。

 

「………………落ち着くがよい、ミリ」

「……いゃ、いや…………死にたくない……………しにたくなあいよぉおおお!!」

 

 彼女の叫びは、誰の声も掻き消すほどに力強く響き渡る。蚩尤の声も案の定、聞こえてはいなかった。

 普通はここで、何かしらミリに直接、干渉してなだめるところだろうが…………二度も負けるわけにはいかないのだろう。

 戦神は、大きく息を吸い、かつ“メガホン”を構えて、

 

 

「ピーピーうるさいワッ!!黙ってワシの問いに疾く応えんかァアアアア!!!!」

 

 

「っ、ははぃいいい!!」

 

 戦神の怒号にミリはピシッと立ち上がり、敬礼までしていた。どれだけしごかれてきたか、なんとなく垣間見えた気がするだろう。

 ミリの服装は、元のジャージ姿に戻っており、出血や傷もなくなっている。

 蚩尤はその姿を見て、よし!とうなづきながら、口を開いた。

 

「オマエはこれから“救世主”の行いに少なからず干渉することになる、………確かにガルドとの一件はオマエに消えない傷を残しただろう。だが、それがどうした?ここから先は戦神以上の敵が待ち受ける外界、………殺せるか?ただの小娘のオマエに」

「…………、」

 

 ミリは顔を伏せ、肩を震わせる。

 無理もない、まだ彼女はリリとそこまで歳は変わらないはずだ。本来なら戦いなどという野蛮なものとはまだ縁遠い年頃である。命のやりとりにはトラウマすら埋め込まれている。

 だが、一緒に戦うと決めたのは彼女で、その覚悟で蚩尤をギフトゲームで打ち負かした。戦神を超えた意味を!人の郷の中で救世主と己で謳い続ける者の横に立つことの現実を!理解しなければならない。

 故に蚩尤はみたび叫んだ。

 

「亜音の敵をオマエに殺せるのかッ!!」

「わ………わたしは……………っ、」

 

 戦神に気圧された少女。

 静まり返る王室。

 神の威光を前にして、少女はそれでも…………再び、地に膝をつくことはなかった、

 

 

 

####

 

 

 

 

 ─────七七五九一七五外門。フィル・ボルグの丘陵。

 

 殿下は外門の展望台から〝アンダーウッド〞の戦況を伺いつつ、吹き抜ける戦塵に白い衣を靡かせていた。

 周囲にはもう避難民はおらず、静かで乾いた空気が漂う。

 そんな中で殿下は背後に控えていたリン達に話しかけた。

 

「............リン。勝利条件がクリアされたみたいだな」

「うん。でも天球儀の欠片にまでたどり着いたなら、遅かれ早かれクリアしてたと思うよ」

 

 はぁ、とため息をついて展望台のベンチに腰かける殿下。

 

「............最悪だ。グー爺は負傷、死眼は割られる。おまけに手駒の魔王まで失うなんて」

「うーん、そうだね。特にあの龍は無差別に襲わせるなら最高の手駒だったのに」

 

 残念だねー、と相槌を打つリン。

 やれやれと首を振った殿下は気を取り直して立ち、城と巨龍を見上げた。

 

「まぁ、白夜が顕現したならどちらにせよ退却せざるをえなかったか。 今回は俺たちの段取り不足だったということか」

「うん。一ヶ月前にペストちゃんが勝っていたらこんなことにならなかったのになあ」

「いや、あれは仕方ないとも言える。まさか神群最強の騎士が派遣されるとは誰も予想できなかったろうし、したとして俺たちには何もできなかった」

 

 口を尖らせていたリンに、殿下は遠い目をして告げた。

 北の一件は結果と神群が派遣されことぐらしか知らないが、しかし勝率は皆無だったといえよう。

 

「まあ、原因はそこだけじゃないがな」

「え?」

「一番の原因は二体の魔王を倒したのが、同一のコミュニティであること─────そして俺たち〝ウロボロス〞でも極秘に噂されている 〝榊原亜音〞という男の霊格〝六道〞」

「確か仏門の宇宙観を模倣した〝主催者権限〞でしたっけ?それで昔、私達の組織が奪ったんだけど、すぐに行方不明になったとか」

「ああ、そしてそれを仏門から奪い、行方不明になったことを報告をしたのがあのクソ野郎────〝バラキエル〞らしい」

「うわーメチャクチャ匂いますねぇ.........、」

「だがあれは誰もクリアできず仏門ですら扱いきれなかったもの。それを上の連中が狙った理由はわからんが、単純にアイツがネコババして諦めて最後はポイッて捨てたんじゃないかな。そんならマジでざまねーわ」

 

 クックックと小さく殿下は笑い、リンもフッと鼻で笑っていた。

 そこで殿下はふと思い出し、真剣な面持ちで告げる。

 

「リン、六道については俺たちは手だし無用らしいぞ」

「え?なんで............信用がないとか?」

「違う、違わないとも言えるが、まぁ訳は単純に他の奴が内密にやるとのことだ。組織だって動けば仏門や天軍に勘付かれるだろうしな」

「それで誰が動くんですか?そいつ次第でできれば私達が」

「やめといた方がいい」

 

 有無を言わせない静謐な声音。

 あの殿下にそう言わせるほどの人物となると、

 

「またあいつ、〝バラキエル〞が」

「違う。だが上の連中は秘密裏に半星霊を製造したらしい」

「まさか、殿下と同じ............ 」

「そうではないと思うが、遊興屋が言うには奴は────」

 

 

 

「人類世界に舞い降りた〝原初の災厄〞、そのフェイクらしい」

 

 

 

 

 

#######

 

 

 

 ────吸血鬼の古城・最端の崖。

 

 

 十六夜と耀を置いて先に流星と成って舞い降りた亜音。

 言いたいことは山ほどあったが、今はそれどころではない。故に十六夜と耀の行動は迅速だった。共通の敵と目的を持つ以上、無駄な言葉は一切いらない。十六夜は耀の瞳を見つめ、単刀直入に頼んだ。

 

「俺が巨龍の心臓を撃つ。其処まで運べるか?」

「うん。でも、すこし待って」

 

 そう言った耀は、〝生命の目録〞を取り出し、静かに胸の前で握りしめ瞳を閉じた。

 幾千万の系譜から系統樹を組み上げ、生命が宿す奇跡の結晶を抽出する。

 それをきっかけに起動する〝生命の目録〞はやがて光を放ち、変幻すると耀の両足を包み込んで行く。

 

「出来た...............!」

 

 耀の履いていた革のロングブーツは白銀の装甲に包まれ、その先端からは優しく添えられるように燦爛とした光を放つ白い翼が生えていた。

 未だ出会っていない憧れの幻獣の一つ────ペガサスの翼を模倣したブーツへと変幻させて、耀は十六夜へと視線を移す。

 

「お待たせ。後は十六夜が............十六夜?」

 

 パチパチと無言で頷き、十六夜は失礼なほど耀の足をマジマジと興味深そうに見つめ、大きく深呼吸をしてから、瞳を輝かせて告げた。

 

「.........驚いた。何だよそれ、超カッコイイじゃねぇかッ!!」

「そ、そう?イカしてる?」

「ああ、超〝イカ〞してる!!」

 

 ピシッと親指を立て合う二人。

 しかし、耀は表情を一転させ、困ったように問う。

 

「でも、私が出来るのは運ぶだけ。後は十六夜に任せることになる。............大丈夫?」

「任せろ。春日部にこんなカッコイイものを見せられたんじゃ、俺もとっておきを出すしかないからな」

「.........そう。それじゃあ、行く?」

「当然だ、亜音にも任されたしな」

 

 と強く頷き返す十六夜。

 巨龍が進撃を始めたのは、その時だった。

 

 

 

 

######

 

 

 

 ────吸血鬼の古城・黄道の玉座。

 

 

 ────守れないものを守ると叫んで、救えないものを救うと叫ぶ。其れは道化の所業!

過去の過ちにその言語が鎧のように纏い、重くレティシアにのしかかっていた。鎧の隙間から差す日天、ふと昔を顧みれば、同士をなぶり殺した記憶や生暖かい感触が蘇る。玉座の前で道化のように革命のリーダーを殺してから差し出す同士を、 容赦無くバラバラに突き刺し、蜂の巣にし、肉塊へと還した。そんな記憶から今のレティシアが出来たのだ。

 同士の命を尊い、他を尊い、魔を許さず、礼節を重んじ、己の誇りよりも他の誇りを大切に、そして己の命は物以下だと蔑み、同士のためなら賭博のように軽々差し出せる────だが、表向きはそうだが、レティシアとて、待つ死は怖い。

 だが、それらを知って、罵倒されてなお、一人の少年は断言した。

 ────君が欲に駆られて同士を殺すような真似は、絶対にしない。

 

 

 ────君は間違っていなかった。

 

 

 ────可能性がないのなら作る。

 

 

 ────コミュニティの旗揚げとはそういう不屈を示すものだったはずだ。

 

 無謀、赤の他人に決められた価値観だろう、それは。

 ならばそれに従うのか、とそう問われ、罵倒され、レティシアの鎧を、〝勘違い〞を砕いてくれたのだ。そう、全てが勘違いだった。

 あの男が言ったことも正しい、亜音も正しい、ならば間違っていたのは誰でもない〝自分〞なのだ。

 今思い出せば、あの男には感謝し切れない恩があるのだろう。

 

 

 ────誇りよりも、今どうすべきか、よく考えろ!!

 

 

 つまりはそういうことだったのだ。自暴自棄になり、拗ねて、己の正義に慢心し、自分に酔って、自分の〝価値観〞が間違っているとは一ミリたりとも疑わなかった。己の自己犠牲こそが、世界の主観なのだと、正義なのだと、信じて疑わなかった。見てる側からしたら、さぞ滑稽で、哀れで、子供で、道化に見えたことだろう。十六夜の呆れた表情も納得がいく────とてもイラついていたに違いない。

 亜音の言葉で世界が広く見え、それだけで自分は笑えた。

 

「フッ............この年にも成って理解し、自分を改めねばならなくなるとはな.........」

 

 そんなレティシアにガロロは歩み寄って、ぶっきらぼうな声を上げる。

 

「俺もこの年に成って、色々と思い知らされることはあるぜ?だが、アンタとその周り、若い連中を見てると 〝長生き〞も悪くねーと思えてくる。────時折、見事な戦死を遂げた同期の連中を想い出しながらな」

「.........ガロロ」

「若い連中を信じるのも年長者の務め、 堂々と胸を張って待とうじゃねえか。────あの子達ならきっと、お前さんを、魔王の宿業から救ってくれるさ」

 

 ああ、そうだな、とレティシアは微笑みながら、すこし遠い目をして空を見上げる。────〝ヴォルフ=レイヤ〞。彼には酷いことをしたと、今更になって後悔するレティシア。

 それでもレティシアは、〝いつか直接会いに行こう〞、と決意を固め、胸を張る。

 

(ヴォルフ............十六夜、耀、飛鳥、亜音、黒ウサギ、私はお前達を信じる。だから、生きて帰ってこい............!)

 

 

 

#######

 

 

 

 ────〝アンダーウッド〞大樹の麓。

 

 大気を突貫していた巨龍に亜音は、黒と蒼のコントラストの火炎を描く一筋の流星となって遥か空から襲来し、巨龍の眉間に全てのエネルギーをぶつけて後方へ吹き飛ばした。

 

 ────〝神速流星・ドラゴンメテオ〞、亜音オリジナルの仙法。神速で空から飛来し、その速度で発生する法則、断熱圧縮を利用して熱エネルギーを集め、〝気〞でそのエネルギーと蒼炎の力をかき混ぜる。そしてそれらの総合エネルギーを蹴り技として放つ。実質、この技を使えるのは亜音だけである。大気を第三宇宙速度で〝走ること〞の出来る者は修羅神仏にはいないし、何より空から飛来するということは落下エネルギーも加算され、水泳のように大気を蹴って 〝何回〞でも加速出来る。人並の肉体ままで行えば即座にバラバラになり、鬼神の肉体を仙神の霊力で強化していなければ耐えられる〝熱 〞と〝衝撃〞、〝重力〞ではない。それほどの破壊力、あの巨龍をはじき返すほどの威力を発揮したのにも関わらず、亜音の基礎霊格エネルギーは少ししか使われてはいない。つまり科学の法則と精霊で織り成された技なのだ。

 

 だが、それでも巨龍は〝無傷〞だった。

 多少、眉間から煙が立っているが晴れればなんともない様子である。

 その様子を一瞥した亜音と飛鳥は、顔色を悪くし、それぞれ呟いた。

 

「巨龍を蹴った亜音も亜音だけど...............あれを受けて無傷だなんて、」

「やはり硬いか。............さすがは最強種の外殻」(最悪の場合を想定して温存しようと思っていたが、十六夜と耀に最後は任せたんだ、潔く)

 

 亜音は黒い羽衣を靡かせ、瞳を閉じ、黒い霧を全身から吹き出させる。

 

「俺たちは足止めに徹する...............。ミリ!蚩尤!周りの鎮圧と掃討、遊撃を任せるっ!」

『承知しました!!』

『任せろッ!』

 

 巨人族ほどの大きさを誇る鎧騎士、帝王の神装《アルカディアス》より響く二人の声。と同時に迸る戦意の赤き瞳と、阿修羅の如く背中より新たな武装、四本の腕を生やした。

 

『東が五、北が三、西に六、南に十!』

『南に突っ込めッ!!』

『はいっ!』

 

 その返事と共に軽く膝を曲げ跳躍したかと思えば、風船のように動力もなく空に浮く鎧騎士。

 身に纏う鎧を除けば、魑魅魍魎の群体と霊格の一部でできているからだろう、質量はさほど見た目によらず重くないのだ。

 ちなみに蚩尤とミリは黒い騎士の中におり、その場所は暗めのワンルーム。其処には勉強机が一つ、その上に半円を描くように大きな“ゲーム用”のディスプレイが設置され、その前で一人の少女が座っている。部屋の角には四方にスピーカーが点在し、外の音をこれで流しているようだ。

 赤い髪を後ろに結んで尻尾のように揺らし、頭上にネコミミをピコピコさせる少女ことミリは、その両手にどこかで見たことあるようなゲーム機のコントローラーを握りしていた。

 さらにその背後で、ケンタッ○ーの白いおじさんもどきの蚩尤が、メガホンを片手に叫んでいた。

 

「ミリよ、お前はワシの代わりなのだ!結果を残さねば許さんぞ!!」

「は、はいい!」

 

 と同時に味方が捕虜になりかけている所に着地した鎧騎士。

 ゲームディスプレイには、五十メートルほど離れた先にいる十体の巨人族が写っていた。

 

『ガァアアアアアアアアアアアア!!!』

「正面、三体接近!行きます!!」

「ニュンペーから連絡だ!上から一体来るぞ!」

「っ!!」

 

 蚩尤は右手のスマートフォンデバイスを耳に当て、そこからの連絡をメガホンで叫ぶ。

 ミリはコントローラーのキーを素早く操作し、正面に突っ込んでいく。

 

「アルカディアス!抜刀!!」

 

 ミリは操作した内容を叫んで蚩尤に報告し、外では鎧騎士が六つの腕の先に、黒い霧から巨大な剣を作り出す。

 

「スキル発動!ぐるぐるハリケーン!!」

「オイ待て!それはワシが却下した名前のはずだッ!」

 

 カチッと、蚩尤をスルーしたミリがワンボタン押すと、ディスプレイの映像はぶれ始める。

 そして外では鎧騎士がその場で左回りに高速回転し、三体の巨人族にそのまま突っ込んだ。

 

『グァ?ャアアアアアアアァアアアアアアアアア!!!』

 

 思った以上に加速して突っ込んできた鎧騎士に巨人三体は、勢いよく後方へ吹き飛んでいき、上から襲ってきた巨人は鎧騎士の背中側に着地していた。

 鎧騎士は三体を倒した後、数秒で回転をやめ、すぐにミリのディスプレイはクリアになった。

 

「スキル発動!モードチェンジ!フライト・バレット!!」

「オイ!それもワシが付けた名前じゃないッ!!」

 

 またもやスルーしたミリはワンボタン押し、鎧騎士は空気の抵抗の少ない三角形のような飛行体に代わると、目にも止まらぬ速さで空へ踊った。

 その加速力と風圧に思わず、背後にいた巨人も攻撃の姿勢を崩される。

 

『グッアアア!?』

「「うぉおおおおお!!?」」

 

 周りにいた〝龍角を持つ鷲獅子〞の同士や他のコミュニティの面々が、その目まぐるしい展開に歓声をあげる。

 正体不明の機動兵器に目を輝かせる者や、不安を抱く者も少なからず見受けられる。明らかに近代の技術を超えた機動力と破壊力、そして肝である重量操作は少し頭のいい人材であれば、味方ではあるものの新たな脅威であることにも気づくだろう。どこの神話体系が背後にいるか探ろうとする者も出てきている。

 だが、当の二人はそんなことどうでもよかった、────ただ、榊原亜音が一緒に戦ってくれと言ってくれた、その言葉だけで蚩尤もミリも迷いなどなかった。

 

「ニュンペーから予測だ!東から三、西から六、敵の援軍が来るぞ!」

「はい!────お兄さんの敵はわたしが必ず倒します!!」

 

 明確な殺意を持って、ミリはコントローラーを操作する。

 空に向かって急上昇し、巨人の視界から消え去る機動兵器。

 その数分後、地表の敵は数を増やして、集結していた。

 

「スキル!サウザウンド・バニッシュ………………発動!」

 

 と同時に機動兵器は空中で鎧騎士に戻る。

 その箱庭で見かけることのない機動性に巨人族が目を奪われていると、数秒後、少し地面が揺れ始めた。

 その変化にすぐさま、何かを仕掛けられたことを悟ったのか、巨人たちが離れようと足に力を込めたが、

 

『ガぁ?!────ァアアアアアアアアアァアアアアアアアアア!?………ぁ』

 

 正直、凄惨な光景だった。

 空の動きに注意を逸らされ、足元がお留守になったところに、地表下より針のように細く鋭い巨大な棘が、幾千と生え伸び、巨人を容赦なくまとめて貫いていたのだ。周りの味方も流石に視線を其処から逸らしていた。

 その容赦ない惨劇に他の巨人族は、手に持っていた武器を捨て、逃亡し始める。

 

「…………追いたいところだが、」

「わたしは追う必要を感じませんでした、すいません」

「いや、謝罪の意は必要ない。…………オマエの覚悟は見せてもらったゾ」

「………はい」

 

 鎧騎士が地表に着地すると同時に巨人達の死体は、黒い霧に吸い込まれていく。いつまでも穴だらけにしてしまった死体を無造作にしておくのは、敵だとしても良くないこと、それぐらいは少女にも分かっているようだ。

 周りの戦況が落ち着いたのを感じ取ると、ミリはコントローラーのスティックを動かす。

 

「では、そろそろお兄さんの元に戻ります!」

「あぁ、問題ないダロウ」

 

 鎧騎士はまた重さを捨てたかのように、空を浮遊し始める。

 その進む先にはもちろん、一人の少年が待っているのだから。

 

 

 

 

#####

 

 

 

 

 鎧騎士と別れてすぐの頃。

 二人の声を聞き届けた亜音は目を見開き、気合を迸らせながら津波のように黒い霧をアンダーウッドの大地に溢れさせる。暗雲の空の上から黒い霧が染めていき、飛鳥が一瞬、夜になったのかと錯覚するほどの量が、濁流のように天に湧いていた。巨龍の真下の大地からは、大樹が急激に成長してくるように、黒い霧の濁流が生え噴き出し、巨龍になだれ込んでいく。

 そして亜音は片手を前に出して、意識の中では幾つもの画面が並ぶように意識を分散させて、黒い霧を遠隔操作していた。

 

「量も質も────〝気〞を覚える前とは桁外れだ、これなら行ける、か?」

 

 亜音は最大放出で黒い霧を生み出しては、巨龍にぶつけて流し集める。

 ギシギシと多少は動きを阻害しているがやはり止まる気配はない。少しずつ速度を上げながら移動している。

 亜音は負けじと黒い霧を大地から生える〝二つの巨大な手〞と成し、黒い霧の手はぐっぅぅと巨龍の長い胴体を握りしめてその座標に固定させようとその場に踏ん張り、根元の大地を捲れさせた。

 

「うぐっ...............ぅぐ......っああ...ぐ......っ 」

 

 亜音の口からは苦悶の声が、額からは汗が滲み出て、顔は苦渋の色に染まって行く。

 この表情からは先ほどまでの、余裕たっぷりだった青少年とは到底思えないだろう。どれだけ力を込めて、どれだけ必死かがひしひしと伝わってくる、後ろで控える飛鳥もディーンですらその空気に呑まれて固唾を飲みかつ、我を忘れたように口を開けて言葉を閉ざしていた。しかし、世界の頂点はそう甘くはない。

 甘くないのだと────巨龍は圧倒的な強者の威光を持って、 大気を弛緩させるほどの雄叫びをアンダーウッド全域に爆裂させ、最強種の存在感を広大な大地と星の数もの生命に知らしめた。

 

「GYEAAAAAAAAAAAAAAaaaaaaaaaaaaaaGAAAAAAAAaaaaaeeee!!」

「ぐっ............っ 」

「きゃ、あああああ.........ぁっ!」

「DEEeeeeeN!」

 

 咆哮と共に吹き抜ける突風。

 サラを抱える飛鳥を庇うようにディーンが片手を防壁にするように飛鳥の前に添え、亜音はそんな突風を見えない柔らかな結界幕で後方へ否す。

 そして黒い霧は今だに巨龍を縛ってはいるもののそんなの関係なしにアンダーウッドの大樹に向かって加速し続ける巨龍。

 

(ダメ、か。なら────)

 

 亜音は少し強張っていた表情を緩め、斜め後ろに控えるディーンと飛鳥に振り返った。

 

「飛鳥!一瞬だ、一瞬だけ奴を止めるからその後は任せる、が────いいかな?」

「────分かったわ。任せて」

 

 横目で不敵な笑みを浮かべる飛鳥からの返事を受け取った亜音は、 よし!と頷いて巨龍の眼前に身構える。同時に黒い霧に意識を強く込め、巨龍の勢いを出来るだけ殺す。

 そして亜音はふと、右拳を腰に添え、態勢を低くして構える。

 

 ────彼ら〝仙境蓬莱〞に伝わる秘伝技の中で、唯一使用を許可されている必殺奥義。空はもう暗雲の空に戻っていたが、亜音の座標を中心に渦巻き始め、世界から不思議なエネルギーが集まるように透き通った風が小さな葉を運びながら吹き付け、静かに亜音の周りを竜巻く。

 いつの間にか、亜音の拳は黒いもふもふとした霊気に包まれ、蜃気楼を迸らせていた。

 

「来いよ。────その無駄にデカイツラ、盛大に凹ませてやるからさ♪」

 

 亜音の素敵な笑みと挑発。

 直後だった。巨龍に纏わり付いていた黒い霧の鎖が爆散し、巨大な獅子が解放された。

 言われなくとも────と、そう言っているかのような雄叫びとともに巨龍は暴風を鎧と成して、最大の加速を開始する。

 

「GYAAAAAAAAAAEEEEEEEEEEEEEEAAAAAAaaaaaaaaaaaaaaaaaaAaaaaa!!」

 

 と同時に亜音も大気を踏みしめ、空を突貫する。

 互いの覇気が両者を先行してぶつかり合い、ブラズマのような火花を散らした。

 だが、その直後、巨龍の口から咆哮がはなたれると、その突風に乗って、千の鱗が舞い散り、それらは数多の怪物に姿を変えた。

 

「ちっ!!」

 

 空で一旦、バックステップし、後方へ避難。

 だが数秒の時間稼ぎにしかならず、目の前には視界を埋め尽くすほどの怪物達が弾丸の如く飛んできた。さらにその後方には巨龍が突撃してきている。これ以上下がれば、飛鳥のところまで戻ってしまう、ここで迎え撃つしかない────その時だった。

 

『モードチェンジ!!機動兵器OS・七十八式・超動爆撃砲(ウルトラ・バイオレンス)ッ!ファイヤァアアアア!』

 

 地表より響いた可愛らしい少女の声だったが、内容はとてつもなく物騒なもので、案の定────青い光を揺らめかせる弾丸の雨が、音速以上で地表から放たれた。

 その砲撃は瞬く間に亜音の眼前に迫っていた、全ての害獣を数秒で焼き払る。

 亜音は少しポカン、としていたが、少し口角を上げると、心の中で呟いた。

 

『ありがとう、助かった。ミリ、蚩尤。………あとは任せてくれ』

 

 地表より巨大な砲台が黒い霧に消えると同時に、内側から二人の声が響いてきた。

 

『はい!わかりました!!』

『さっさとその蛇を殴り飛ばせ!』

 

 木霊する二人の声が小さくなると、亜音は再び、宙を蹴って加速する。

 そして今、亜音と巨龍の距離が────ゼロとなる。

 

「仙法────〝 龍源(りゅうげん)────拳貫(けんがん)〞ッ!」

 

 雷鳴レベルではない。

 一瞬何かもが音を失い、嵐が止んだ。途轍もなく大きな音は、普通の生き物には逆に聞き取れないのだろう。

 この瞬間を見ているものは、喉を鳴らし、口を押さえて見上げている。もはや見ていることしかできなかったのだ。

 そして今、アンダーウッドの大樹を揺らすほどの衝撃波と共に、大地を捲れさせるほどの轟音が世界に駆け抜ける。

 途端、それをいの一番に察した〝龍角を持つ鷲獅子〞連盟の主力か ら怒声が放たれた。

 

『全員、伏せろおおおおおおおおおおおおおおおおお!!』

「ディーンッ!』

「DEEEEEeeeeeNッ!!」

 

  飛鳥は、で、デタラメだぁー!!と心の中で叫びながらディーンの名を呼び、即座に衝撃に備える。それを待っていてくれたかのように、遅れて半円ドーム型の衝撃波と耳の鼓膜をぶち破るような爆音が駆け抜け、悲鳴の渦が音とならずに消滅した。もちろん、これは大樹の天辺にも被害はおよび、ペストと黒ウサギ は大樹の葉にうつ伏せでしがみつき、ブンブンと嵐に振り回されている。

 

「「巨龍を殴ったああああああぁぁぁぁあああああ!?」」

 

 どうやらどうにか無事なようである。

 そして衝撃波は大気を押し退けてなお止まることを知らずに、何千mも上空の空中都市も地震のように大きく揺らし、レティシア達は小さな悲鳴をあげていた。そんな目下では、それらの被害を起こした当人達が相撲のように押し合い、最初は均衡していたが数秒後には亜音が押され始めていた。圧倒的な波動、巨龍に山より大きな壁にぶつかったような反面衝撃を与えた亜音だったが、しかしそれは巨龍の突進を相殺したに過ぎず、其処からの押し合いでは勝負にもならない。

 

「グッ............んの.........くそったれ......がっ!」

「GYAAAaaaaa.........aaa!!」

 

 低く唸る巨龍は勝利を確信したのだろうか、小さく笑ったようにも見えた。

 亜音は龍の鼻先に右拳をぶつけ、苦渋に歪みながらも最後まで力を入れていたが、

 

「.........フハッ............やっぱ一発じゃダメか」

 

 諦めたように笑った亜音は大気を踏みしめて踏ん張り、しかし後ろへ押されながらも、右拳を鼻先に触れさせたまま手の平に広げ、左手を拳に、右手で狙いを定めた。

 

「しょうがない......この秘伝は一撃必殺がウリだが────もう一発くれてやる」

 

  直後、亜音の左拳に黒い霊気が暴発して溢れかえり、左肩まで霊気で染め上げていく。

 亜音はふと自分の右拳を一瞥し、さっきの衝突で黒衣の袖が吹き飛んだのだろう、右腕から右肩までが肌を露出しており、その全ての肌に無数もの変な擦り傷や赤紫色の痣が目立ち、プルプルと小刻みに震えていた────そしてこれが秘伝技のデメリットで、基本一日に一回しか打つことは許されていない理由である。なぜならこれは完璧なるカウンター技であり、己のあらゆる力量《内側からの鋼鉄強化、 肉体活性による霊格膨張、既存の腕力、外からの外殻強化、星の規模の霊格圧縮》を全て圧縮して星の壁、絶対壁の波動として、かつバネと地面の関係を利用して撃ち放つ奥義。故に使う相手、使用者の霊格によって己に返ってくる衝撃が決まる。今回に限っていえば、使用者が亜音でなければそもそも巨龍を殴れるまでの威力は出ることなく、 “初代仙神“や二代目である舞夏が同じように巨龍に奥義を使っていたら、余波で片腕が爆散し、最悪死に至っていたことだろう。そして亜音の右手が今だに超絶なる痛みがある中で巨龍を押さえていられるのは、痛みを消す恩恵のおかげだ。本来なら激痛が秘伝の邪魔をするはずだっだ。しかしそれでも右手は震えている。つまり〝痛み〞によるものではない、ということであり、生体の緊急信号さえも通り越している。しかし亜音は躊躇なく左拳を構える。左肩と腕にググっと筋肉が締まり、天来を遥かに上回る星の力を溜め込んでいく。

 黒々しく輝く左腕と拳、そして黒い透明な膜の蜃気楼が左腕に纏まり、最大まで世界から、星から、生命から無限に溢れる精霊の力を吸い込んだ。

 途端、巨龍に押されて浮遊感を味わう亜音だったが、周りからの重力を物ともせず、拳を振るった。

 

「龍源.........っ、拳貫ッ!!」

 

 カウンター技ではあるが、それでも〝亜音〞が放てば威力は天来を超え、物理的に星を砕く破壊の一撃となる。

 故に個人差はあるが、既存、一般的は使えば山を丸ごと吹き飛ばす威力を持つ。ただしシヴァの炎は併用できない。黒い霧は手足のように多少は無意識に動かせるが、炎は出し続けるにも少しでも意識を傾けなくてはならなず、世界から〝気〞を集められなくなり、逆に持ってかれる危険性もある。なによりこの技は力を貯めるのに時間がかかる。故に隙が必然的にできる。なのでこういう真正面からのぶつかり合い以外を抜いてだと、集中力を分散して維持出来る者以外に教えてもあまり意味はない。そしてこの秘伝には、拡散型と一点型が存在し、それは気の扱いで微調整できる。イメージと感覚によって。拡散型は大気を伝わって 破壊するので味方を巻き込む可能性は高い。しかし多勢には効果的であり、一点型はこういう場面で力を発揮する。

 大気に万華鏡のような波紋となって衝撃波が描かれ、再度大地を切り刻むと同時に巨龍の進撃が、ピタリと止まる。直後、亜音は有りっ丈の力を振り絞って叫ぶ。

 

「今だ、飛鳥ぁあッ!」

「行くわよ!ディーンッ!!」

「DEEEEEEEEEEEEeeeeeeeeeeeeeeeeeEEEEEEEEEEEN!!」

 

 飛鳥の号令で雄叫びを上げて大地を進撃する紅き巨人・ディーン。

 サラより与えらし龍角の霊格、気炎が熱波と成って噴き出し、伽藍洞の肉体にはち切れんばかりの闘志が灯る。

 しかし亜音が巨龍を押さえているので、ディーンは横に回り込まなければならない。その間にも巨龍は再度の進撃を開始し、亜音は両腕の袖が吹き飛んだ黒衣に精霊の星屑を纏って霊格を強化し、もはや一週間、いやそれ以上の期間絶対安静状態の両腕で巨龍の鼻先を押し込む。たった一秒が亜音にはとても長く感じられていた。加えて巨龍の鼻先にはやはり傷跡はない。

 そして悪あがきする人間にしびれを切らしたのだろう。巨龍は眉間の鱗より六匹の魔獣を作り出し、亜音へ突撃させた。だが、それでも亜音は魔獣を一瞬たりとも見ずに巨龍を押さえ続けた、一秒でも長く、と。

 亜音の頭上より気色の悪い雄叫びを上げてリザードの魔獣が降り注ぎ、亜音に絡み付く。

 

「ぐっ..................ぅ!」

「あ、亜音!」

 

飛鳥は一瞬戸惑うが、命令を変える前に亜音の不屈な瞳を見て、

 

「抑え込みなさい、ディーンッ!!」

「DEEEEEEEEEEEEEEEeeeeeeeeeeeeeEEEEEEEEEEEEEEN!」

 

 それでいい、と呟いて亜音はリザードの群れに埋れながら空から西の樹海へ向けて墜落していく。その時の亜音の顔は笑っていた。この後、自分は無防備な状態で魔獣に襲われるにも関わらず。故に亜音はそんなことはもうどうでもよかったのだろう。勝利はもう決まったのだから────ディーンに殴られて打ち上った巨龍、 〝アンダーウッド〞を絶えず取り巻いていた暗雲が、大天幕の解放とともに太陽の日差しを受けて霧散する。

 陽射しの中に溶けて消えゆく巨龍に迫る白銀の流星────其処までを見届けて意識を閉ざ、

 

 ──── KYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!

 

 神鳥のような高貴な鳴き声。

 亜音はすぐに目を見開き、空からこぼれ落ちる小さな光、レティシ アを見上げた。

 

 

 

 

######

 

 

 

十六夜を運び終えた耀は再度、空を旋回しレティシアの回収へと向かおうとする。しかしその時、レティシアに大地から接近する黒い影。少し遠くて はっきりは見えないが、それでもレティシアを狙っていて、〝敵〞だということはその気味の悪さから確かだ。気配が魔王の放つ邪悪な妖気にそっくり、何より耀の中で警鐘が鳴っている。おそらくは第六感に近しいものが、本能がアレは敵だと、レティシアを先に回収しろと訴えているのだろう。

 

「まっ............間に合わない.........ッ!」

 

大地、西の森から吹き出す黒い影の集団、数もそうだが、進行速度 も並みのものではない。 耀はそれでも目の前までこぎつけた〝皆の勝利〞のために歯を食 いしばって、空を突貫する。

 だが残り数秒、間に合わない。このままでは意味不明の襲撃に全てが台無しにされてしまう。

 

(お願い、間に合っ)

 

 

 ──── KYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!

 

 

 え!?と耀は閉じていた瞳を見開いて、少し首を振って────その光景を捉えた。

 蠢く黒い影の柱、しかしそれらは一条の燃え盛る紅き飛翔によって元の森まで弾き返された。

 耀は呆然としていたが、すぐにレティシアを抱きとめて回収し、ホッと胸を撫で下ろす。

 

「よかった..................けど、今のはいったい.........?」

 

 耀は一瞬だけ捉えた────紅蓮に燃える翼と鴉のような漆黒の翼────その四翼を生やした何某の正体に心当たりがなく、首を傾げるのだった。

 

 

######

 

 

 

 何かのおかげで無事、耀にレティシアは回収され、それを見届けながら亜音は森の中を魔獣達と共に転がり落ちていく。パキパキ、ガシャァーンと木々の林をクッションにして地面に転んだ亜音とリザード。すでに亜音の脇には黒い羽衣はなく、今の落ち方で全身に衣服の上から擦り傷を作り、両腕は力なく垂れていた。それを好機と見て、リザード達は分散して林を疾駆し、四方八方から亜音に襲いかかる。

 

「GYAAAAAKYYAAAAAAABAaaaaaaa!!」

「ちっ...............!」

 

 亜音は背後の木から飛びかかってきたリザードの爪を腰を曲げて いなし、すぐさま軽く跳躍して回し蹴りをリザードの背中に叩き込んだ。

 例え満身創痍で両腕が使えずとも亜音の肉体は鬼神、パワーは健在である。

 背中を蹴られたリザードは数十mも吹き飛び、林にその身を投げた。

 だが、リザードは他にもいる。近くの茂み、背後と前から飛んでくる二匹のリザード、さらにちゃんと相打ちしないよう時間差をつけての突撃であった。しかし亜音は慌てず冷静にバク転の要領で前から来たリザードの顎をかち上げながら、そのまま後方から飛びかかってきたリザードの頭上へ足の甲をぶち込み、地面に叩きつけた。

 流石は亜音というべきか体術でさえ熟練者の匂いを漂わせ、見る者の目を奪う。

 だが、相手は格下であっても最強種の眷属達、亜音の満身創痍な蹴りだけでは死にはしないだろう。

 不意に亜音は巨龍の眷属とは違った謎の生物の気配を探知し、同時に辺りに銀色の風が吹き抜け、それを浴びた巨龍の眷属達が動かなくなった。

 

「おっと、銀色の風は吸わないでくれよ? 猛毒だから」

「猛毒 ...............誰、ですか?」

「独り身の風来坊だな」

 

 手製の煙草を吸いながら現れた茶髪の男。

 亜音はその男の様子から敵でないことを悟ると周りに視線を送り、 囲っていたリザード達は銀色のマネキンと化した。

 

「大丈夫なのか?」

「大丈夫?..................ああ、これは細菌類というよりかは素粒子だから俺の意思で操れる、大丈夫だよ。ただ君みたいなイレギュラー、 動く生物には一応は警告しねーとな。で、これは猛毒ではあるが、空気中に散布されて数十秒程度で酸化し死滅するから、〝アンダーウッド〞には影響は及ばないぜ」

 

 その証拠に、と男はマネキンのリザードに近づき、指でつついた。

 するとリザード達は、瞬く間に脆く砂粒のように崩れ去り、地に 還っていった。

 

「この素粒子は体内に入ると細胞と融合して硬化する、やがて酸素と結合して酸化し崩れ去る。便利な猛毒だろ?」

 

 ノーネームが敵対するには、途轍もない強敵だ。正直、亜音ですら敵には回したくないと心から思っていた。

 ────細菌ではないと言っていたが、もし素粒子の操作、そのギフトだとしたら、医療と化学、錬金術、その最新技術に等しいもの。それに加えて、さっきの────、

 

「そう、ですか。...............それと“先ほど”はレティシアを助けてくれてありがとうございます」

「へ?ばれてた?」

 

 貴方以外に心当たりはない、それだけです、と亜音はふと笑みをこぼす。清々しいほどに隠す気はないらしい。

 ヴォルフは少し髪を掻き、ふと眼光を鋭く光らせて、直後その茂みから黒い影の怪物達が飛び出して来た。

 

「こいつらはさっきの...............!」

「やれやれ、しぶといシステムちゃん達だーこと............よっと!」

 

 男の右手が軽く膨張して鋭利な鍵爪と銀色の風を纏い、斜め五閃に鋭く銀の斬撃が迸った。

 飛び出して来た黒い化け物達はその斬撃を受けて爆散し、跡形もなく煙となって霧散していく。

 フゥー、と息を付く男と霧散する怪物達を一瞥した亜音は、男に問いかけた。

 

「システムってどういうことですか .........今のは悪魔や精霊の類に見えましたが、貴方は何か知っているのですか?」

「その前に俺は貴方、じゃない。ヴォルフ=レイヤだ。それにこの世界でシステムといったらすぐにわかると思うぞ?」

 

 亜音はヴォルフの言葉を聞いて少し瞠目し、

 

「システム...............ギフトゲームに付随したシステム。いわゆる、当て馬やゲームを盛り上げるために用意された登場人物、悪霊の類ということですか?」

「ビンゴ、きみ結構頭回るなぁ────そう、〝本来〞のこいつら自体はとある箱庭全土を舞台にしたギフトゲームの無限に湧いてくるシステム、意思のない雑魚悪魔なんだが...............今日おかしなことが起きた」

 

 ヴォルフはふと空を一瞥し、亜音も同じように空を見上げて呟く。

 

「────ゲームに全く関係ないはずの〝レティシア〞が襲われた」

「ああ。つまりそのシステムが何者かに意図的に乗っ取られたことはレティシアを狙った時点で明白だ。」

「ウロボロス............ですか?」

 

 途端、ヴォルフは目を見開き、咥えていた煙草を落としそうになっていた。

 

「君........何者なの?さっきも巨龍を蹴って、殴って、殴って、押さえて、君人間?」

 

 亜音は少し嘆息を零し、動かない両腕をちらっと見た後、視線を上にあげて微笑む。

 

「俺も君、じゃありません。自己紹介が遅れました。彼女と同────いえ、ただの〝ノーネーム〞の榊原亜音〞です。」

 

 あのん?だと、と呟いてヴォルフは眉を顰め、顎を掻きながらジロジロと亜音の全身を観察し始めた。

 亜音は少し首を傾げて、ヴォルフの様子を見る。

 するとヴォルフは、なるほどなーとニヤニヤしながら、

 

「あの姫様が次に選んだ王子は、君か」

「何の話ですか?」

「いや、何。空でレティシアを助けた時、レティシアが寝言のようにあ、「呼び捨てで大丈夫です」 悪いなそりゃあ助かる。で、寝言のように亜音のことを呼んでたぜ?」

「............ヴォルフさんはレティシアと面識があるのですか?」

 

 亜音はヴォルフの言葉をスルーして、別の疑問を投げかけた。

 

「............まぁ、そこまでの関係じゃないさ。同期、という言葉が近しいか。ていうか話がそれた。話を戻すが、今回のレティシアを利用した襲撃と巨人族の襲来は〝ウロボロス〞で間違いない。だが、今のは違う」

 

 亜音は断言するヴォルフに疑念を抱き、口を開こうとするが、ヴォルフが続けて先回りをした。

 

「こいつらを乗っ取る、こいつらと戦えるのはあるゲームの〝関係者〞、つまり参加者に選ばれた者のみだ。そして〝ウロボロス〞に選ばれた者は絶対にいない」

「あるゲーム、選ばれた参加者、......... ウロボロスにはいない、となぜ断言できるのですか?」

「俺もその参加者の一人だからだ。それと、羊皮紙に参加者の名は記されていない。これだけで亜音なら大体は察せるだろう?」

「............言い方からして参加者は、その主催者権限から何かしらのヒント、何か条件を満たすことで参加者が誰か分かるシステムが盛り込まれている、ということですか?」

 

 ヴォルフはふと頷いて肯定し、亜音は〝ゲーム〞についてそれ以上追求するのをやめた。おそらくあまり話していいことではないのだろう。どこに敵がいるのか、分かったものではないのだから。

 

「でだ、〝ウロボロス〞じゃないとすると俺が思いつく敵。こんな回りくどいことをするからには〝組織〞だっての連中だ、その全容は把握できてはないが、だが最近ちらほらと〝邪神教〞という名が飛び交い、噂ではそれを信仰している団体と耳にした。────まぁ今回、レティシアの主催者権限を復活させた奴らとはまた別なのは確かだ────っと、俺は少し姿を隠さんといけないからま時が来たら会いにくると、レティシアに伝えといてくれ」

「あ、ああ」

 

 ぶっきらぼうに告げて去ろうとするヴォルフに亜音は呆気になりながらも返事を返していたが、不意にヴォルフは立ち止まって、何か忘れていたことを思い出すように視線を上に泳がせる。

 

「あと、そうだな............情報の信憑性は五分五分だが、邪神教は箱庭の外の情報収集を行っているらしい............詰まる所、本格活動はまだ先だ。白夜王やお前さんらと戦うにはそれなりの準備が必要なんだろう。だから今はもう一つの敵さんに気を配る方が賢明だ、今回の件で本格的に活動し始めるだろうからな」

「〝邪神教〞............〝ウロボロス〞............」(シルバレンが確か.........ウロボロスとは、別の)

 

 ────と、亜音が思考の海から帰ってくる頃にはもうヴォルフの姿はなかった。

 そしてちょうどその時、金髪の少年、逆廻十六夜が林から飛び出て 亜音の前に姿を現した。

 肩で息をしていることから余程急いで走ってきたのだろう、亜音は可笑しかったのか、十六夜にわからない程度で小さく笑った。

「無事か!?亜音.........って、その両腕............!」

「ああ、これは自分のせいだから気にしなく」

「そういう問題じゃねぇだろ!」

 

 十六夜が有無を言わせずに亜音を背負うほどに、亜音の両腕は酷く痣だらけで、全身にも衣服の穴から擦り傷が無数に目立っている。

 それでも亜音はそんな心配する十六夜が可笑しかったのか、笑っていた。

 

「笑ってないで、大人しくしてろ、馬鹿タレ!」

「ふ............はは」

「だから────」

 

 十六夜に怒られながらも終始、亜音は笑い、二人は仲睦まじく〝アンダーウッド〞の大樹に向かって駆けていくのだった。

 

「十六夜は優しくて...ちゃんと.........可愛いところもあるんだな」

「き、気持ち悪いこと抜かしてんじゃねぇッ!」

「十六夜の親代わりの人もきっと涙してるよ」

「亜音、お前全快したら覚えてろよ.........このクソッタレッ、」

 

 こうして亜音が十六夜をオモチャにし、東、北、南の箱庭を巻き込 んでの〝魔王祭〞は完全に幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

######

 

 

 

 

 

 

 樹海を疾駆するヴォルフはふと、ポケットから二つの小瓶を取り出し、手の平に並べる。

「さて、三つの内、二つの回収は済んだ............だが、これはまだ純正には遠い、残り一つも回収しないとな」

 

 ヴォルフはそう呟いて、少量の赤い液体が入った小瓶を仕舞い、〝 アンダーウッド〞からその姿を消すのだった────〝また来るよ、レティシア〞と言い残して。

 

 







エンディングテーマ《inside you》歌:milet

駆け足ですいません。
特にミリとの描写が書き切れていないのが、申し訳ない。

とりあえずこれにて、この戦争は終結となります。
よろしくお願いします。

ご感想、アドバイスお待ちしてます。
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