新・問題児と人の神が異世界から来るそうデスヨ   作:行くよ!!!!

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オープニングテーマ《青い未来》参照先アニメ《ブルードラゴン》


ワンピース、映画を見てきました。
よかった〜
ちなみに楽曲は《私は最強》が自分のお気に入りですかね!
よろしくお願いします。


エピローグ2「魔王の傷跡〝慰霊碑〞、少年の嘆き」

 

 

 ああ──────これで何度目だろう。

 

 

 中学の学生制服を首元のボタンまできちっと閉めた一人の少年が、そう嘆息をこぼす。

 その少年である亜音は今、夕日に照らされた校舎の外を歩き、グラウンドの近くにある二階建ての部室に向かっていた。

 亜音は今年で最後の中学で、時期は受験ブームとなっている。これまで部活動には参加せず勉強に専念していた、というわけではなく、自分の身に余る力ゆえに危険な存在になってしまうので入部しなかった。

 しかし社会に出る前に学んでおかねばならないことがある。それが先輩、後輩の上下関係である。理屈では分かってはいるが、雰囲気を掴んでおくのも悪くない。

 故に亜音はサッカー部に最後の一年だけ、雑用として入った。

 しかしそんな道先でトラブル、簡潔に言えば身なりの悪い生徒によるイジメだ。そんな不良四人に、被害者の生徒、加えて真面目そうな若い女性の新人の先生がもめている。さらにその場にいる女性の先生は決して不良の生徒に対してビビっているわけでなく、この後に発生する問題がちらつき不良達に強く言えずに、『イジメはダメよ』とか注意や諭すようなことしか言えていなかった。とはいえ、女性教師としては精一杯のことをしているのは間違いない、だが少年が嘆息をこぼした理由はそこにはない。

 不意にチラッと昇降口や校舎の窓を見て亜音は─────やはり、他の先生は気付かぬふりか。

 亜音は普通にその集団、四人とイジメられていた男の子、女性の先生の所へ歩み寄ると、

 

「やめなよ」

「ああん?」

「不良なら不良らしく不良に絡みなよ、その人に絡んでも意味ないから」

「あ、亜音君!?」

 

 突然の乱入者に先生が声を上げ、不良達は少しの間ポカンとしていたが、覚醒すると小さく吹き出して、

 

「こいつはいい、正義の味方の登場だぁねぇ」

「よかったな、先生?」

「だが残念、フルボッコ確定だわー」

「マジきめぇから死ねや、バーカ」

 

 と、規則やルールに恐れずに拳を何十回とふるってきた彼らだったが、

 

「おい避けてんじゃ.........ハァッハァねぇ.........っ、」

「ひょろひょろしやがって.........!」

 

 亜音は至って冷静に、後退しながら、無表情で彼らを一瞥する。

 

「君達のために避けてるんだけど............」

「な、なめてんじゃねぇぞ、ゴラァあああっ!」

 

 金属を身につけた拳を構え、鬼の形相で突っ込んでくる茶髪の少年。

 しかし亜音は突如避けるのを止めて瞠目し、頰に不良の拳がクリーンヒットした。

 鈍い打撃音が響くと共に亜音は軽く首を後方へ捻らされ、顔には鮮血が濃く滲み、先生といじめられていた生徒から、うわわぁ、と呻き声が上がる。

 だが、痛みの声音で叫んだのは亜音ではなく、

 

「ぅ、ぐっぎゃあああああぁぁ、......が......ぁっ!」

「だから言ったのに...............」

 

 亜音は顔に付着していた鮮血をクイッとハンカチで簡単に拭い、傷一つ付いていない冷めた表情をその場の全員に見せつける。その異常さにもちろん不良達は絶句していた。さらに痛がる不良の拳、付けていた指輪が砕けてコンクリートにパラパラと破片が散乱し、その上から二、三本の指が紫色に染まり、そこから血がタラタラと垂れていく、その様はまさにこの世の常のものではないと、現実をしっかりと物語っている。

「ば.........ばかな.........っ、」

 

 その光景を目の当たりにした不良達は亜音を化け物のような目で見つめ、亜音はこれ以上はいいだろうと解釈して静止を維持してい た。

「ぐっうぐぅ............ば、化け物がぁ!!」

 

 痛がる不良が一目散に走り去ると、残っていた不良達も追従するよ うに走り去る。

 亜音はそんな彼らに興味ないように埃を払うと、二人が気付いて彼に歩み寄っていった。

 

「あ、亜音君、怪我は.........」

「た、助けてくれてありがとうございます、亜音先輩」

「べつにいいよ──────」

 

 亜音は一度、昇降口の影に集まる野次馬を見て、ただ億劫そうにグ ラウンドと部室の方へと去っていった。

 

 

 

 ──────俺がやらなきゃどうせ誰もやらなかったから、とそう言い残して。

 

 

 

 

######

 

 

 〝アンダーウッド〞、主賓室。亜音の自室。

 

 

 ふと目覚めた亜音を迎えたのは、

 

「待って、まだ起きないで。今からおはようのキスするから」

「............はぁ」

 

 亜音は四つん這いの瞳を閉じたウィラを見て嘆息をこぼしながら、 ホッとしていた。なぜなら運悪く、ウィラを投げてしまっていたかもしれないからだ。マジで色々な意味でヒヤヒヤもんである。

 フゥーと小さく息を吐いた亜音は左側、ウィラの右懐から抜けようと体を丸めるように起こすが、

 

「ダメ」

「ちょ、ウィラ!............そんなに」

 

 ウィラは亜音の首に手を回し、ぶら下がるようにドスンと抱きつく。直後にふわふわした香りが亜音の鼻腔をくすぐり、彼女の無邪気でわがままボディが踊るように弾みながら、亜音の胸元へ吸い込まれた。すると、亜音と彼女の間で衣服に擦られるマシュマロがモニュモニョ と蠢き、その影響で亜音の男の部分がビシッと目覚めた。運悪いことにウィラと亜音はとても真正面から密接しているため、ウィラ も亜音の変化に、ぁ、と声を漏らして気が付き、口元を緩めて、

 

「............嬉しい」

「...................................................................................................っ」

 

 しわくちゃになったシーツの上で亜音はウィラに迫られ──────バタン!

 

「ヤホホホホホホホホホホ、させませんヨー!!」

「見つけた!ウィラ姐、お願いだからおとなしく捕まってよね!」

 

 扉を勢いよく開いて現れたのは、鎖を振り回す幽鬼のジャックとツインテールのアーシャ。

 その予想された援軍に亜音は心の底から安心した笑みを浮かべ、 ウィラは言うと無表情で舌打ち。

 

「ちっ...............この続きはまた今度。またね、亜音」

「...............」

 

 ウィラは亜音のシカトを受けずに空間を飛び、刹那にそこから消え、ジャックとアーシャもすぐに来た道を戻り、嵐のように去っていった。

「助かった............けど、これが毎朝続くのか...............それにいつかは、」

 

 亜音は少し眉を顰めて嘆息をこぼし、寝巻きの裾を揺らしながら立ち上がると、いつもの服装へと着替え始める。緑のカーディガンとベージュの半ズボン、腰に黒衣から作られし帯を巻いて身を引き締めるが、やはり亜音の顔色は優れず。

 

「俺は分かっている。店員さんの事も、ウィラの事も、舞夏の事も............そして〝互い〞の想いが絶対に〝叶わぬ夢〞だということも...............なのに俺は.....................こんなのダメだ、甘えが出てる」

 

 日差しを雲が遮り、部屋が薄暗くなる。

 その部屋の真ん中で亜音は立ち尽くす。

 しかし──────いつかはケリを付けなければならない話ではあるが、一歩間違えれば自分以外にも影響を及ぼす。それが組織に属するということだろう。〝サウザンドアイズ〞、〝ウィル・オ・ウィ スプ〞、〝仙境蓬莱〞、どれも中層、下層の箱庭において突出したコミュニティ、そのうち二つは〝ノーネーム〞とも縁が深い。何より〝 ウィル・オ・ウィスプ〞は────── だが、だからと言って彼女達の気持ちをぞんざいにぶら下げて置くわけにはいかない。

 

 

「.....................収穫祭、か」

 

 

 亜音は少し切なそうな表情で空を見つめ息を吐くと、〝整えられた 〞自室を後にし、この後の用事のための服を買いに露店へ向かうのだった。

 

 

 

#######

 

 

 

 

 ──────東と北の境界壁、東三九九九九九九外門。平和道公園。

 

 

 数多の雲が漂う晴天の空。

 そんな空から燦爛と日光が降り注ぎ、一つの公園に作られた石畳みの街路、それに沿うように生え渡る桜並木を一際淡く輝かせ、公園を花吹雪が吹き抜けていく。

 そして、石畳みに沿うように人混みが溢れ、双女神の半被を着た者たちが、警備と監視を兼ねて五メートル感覚で石畳みを沿って並び立っていた。悪ふざけをする者などいないとは思うが、万が一ということもあるのだろう、真剣な雰囲気を漂わすため、警備全員がサングラスを掛け、武装している。 そんな中心を二つの影がゆっくりと凱旋していた。

 一人は煌びやかな着物を豪奢に重ね着し、銀の髪を靡かせている女性、白夜叉。その隣には南で購入した新品の黒スーツに身を包む少年、榊原亜音。髪型も少し整えられ、右側の髪を耳後ろにまで掻き上げ、左側の前髪を少し波打たせて垂らし、見事な大人の男性を体現していた。

 そんな亜音はふと銀の輝きを帯びる白夜叉の白き頰と鋭くも穏やかな眼光を見ながら、

(──────目の前で罵倒され、かつ階層支配者たる〝自分〞ではなく別の者、しかも身内に等しい俺を求められたんだ。どれだけ羞恥を感じ、誇りを砕かれ、傷ついたことか...............だが誰が悪いわけでもない、悪いとしたら…………完璧に皆を救えていたのなら、白夜叉は...............。俺に出来ることはせめて、今は触れないこと、くらいか)

 

 数時間近くにも及ぶ慰霊会、白夜叉の謝罪と祈り、黙祷、それらをこなした後、白夜叉が感謝の意を亜音に送ることになっていたが、他の階層支配者から慰霊の貞操を損なうとの事でその話は無くなった。本当の理由は、階層支配者の威厳を守るためだろうが、亜音にとっては至極どうでもよかった。どうせ後の祭りなのだから。

 慰霊碑と公園、綺麗な白石の道、花のガーデンが作られ、散ってしまった生命達を讃えた場所より白夜叉と別れた亜音は町外れの道に入っていく。直後、退場した建物の影に立ち塞がる数十人の集団。

 しかし両者共に口を開かずに睨み合い、しばし不自然な静けさが漂う。

 そして最初にしびれを切らしたのは、意外にも亜音だった。

 

「俺に何の用ですか?.........あまり物騒な話は聞きたくないですよ」

 

 亜音のため息とともに吐かれた言語に目の前の集団の額は余さず 青筋を立たせ、怒声が街を叩く。

 

 

「〝ノーネーム〞のくせに調子に乗るんじゃねーぞッ!」

 

「どうせオマエは偉そうに後ろでふんぞりがえってただけだろうが!」

 

「お前らみたいな役立たずのクズのせいで何人犠牲になったと思ってるんだッ!」

 

「本当にお前らの態度はウザい、ならず者のくせに偉そうにしやがって!」

 

 

 名無し─────そう蔑視された者達から今回、征伐された人達が出た。

 災害時を機に、コミュニティの本拠地に侵入し、強奪や殺生の類をしていた。

 その憎しみや怒りを少年は知っている、そして場合によっては、それは犯した者達にもあることも理解している。

 この世界がギフトゲームで成り立ち、実力主義であったとしても、興行において配慮を無くせば、憎しみは繋がってしまう。

 ひとえに戦争と言っても敵は、一勢力だけではないのだ。

 

「母さんを、父さんを返せ!!」

 

「知ってるんだからあたし!あんたたち、私のコミュニティの仲間を見捨てんだ!!」

 

「命の取捨選択を“名無し”風情がやってんじゃねーよ!」

 

 

 ──────ああ、泣いていたんだよ、彼女は。

 

 

 少年の脳裏に落ちる小さな雫は、幾つも波紋を産む。

 

 

 ──────舞夏は泣いていた──────救えなかった、と。

 

 

 彼女は子供“たち”だけを助けて、その子たちの肉親は押し寄せる怪物たちの波に一瞬で飲まれたそうだ。

 子供たちに、助けて、と言われたが、助けられなかった。

 あの水色の髪の少女は歯を食いしばって泣いていた。膝をつき剣を地面に突き立てて、なんとか体を支えていたが、いつ挫折してもおかしくない精神状態だった。

 何より、戦争の途中で撤退したことも何回かある。その度にのちに通る道には、血溜まりと真新しい死体が並んでいるのだ。

 その都度、二人は問われている──────本当に救えなかったのか?全力だったのか?──────と。

 

 全力だったに決まっている──────!

 なのに彼らは、憎しみと怒りを叫んでいた。

 大人達だけでなく子供までも混じって亜音に罵詈雑言をぶつけ、周りからも呼応するように侮辱の声が上がっていく。

 この事態を予測していた亜音だったが、まさか子供までもが汚い言葉を吐くとは予想の斜め下だった。改めて白夜叉の積み上げてきた痛みを知った亜音は、彼らの外見を見て、悟る。──────彼らの時は止まったままか、と。ぼろぼろで小汚い、彼らはそのことにすら気付いてないほど失ったのだろう。

 一切の関心を示さず、彼らの怒りを前にビクつこともしない亜音は同じように怒ることはせず、ただ告げた

「誰かのせいにしても、“俺”が、君たちが死人たちを守れなかったのは事実だ」

 

 ──────舞夏は全力だった、彼女はただの少女だ、この責は関係ない。

 瞳を一度閉じ、再度開いた瞬間、口調を強める亜音。

 

「悲しむなら悲しめ。だが死を他人のせいにだけはするな。なぜなら、守れなかったのは〝君達〞が弱かったからだ」

 

「なっ!?」

「てめぇ...............言わせておけば」

「子供に言っていい言葉じゃねぇぞ?! エセ守護者!!」

 

 普通なら悪寒を及ぼし、首をカラカラと震わせ、世界を敵に回したような恐怖を駆り立てる数多の怒声が容赦なく十七、八の少年の亜音に浴びせられた、だが、亜音はその全てを押しつぶす様な怒号と共に輪廻眼で子供含めて全ての者を射抜く。

 

 

「君達も弱かった、そして何より...............俺が弱かったからだッ!」

 

 

「っ!」

「ひぃっ.........!」

 

 子供が亜音の怒りに悲鳴を上げ、大人は亜音の怒りを恐怖と共にその意味を、想いを感じ取る。

 ここまで亜音が子供に容赦がないのは、決して亜音のせいではない。なぜなら、今彼が子供達に優しくしても、全くの無意味だからだ──────この世界は力が全くない者には容赦なく優しくない、 力ある者だけが、普通を得て、求められて、異常を、幸福を、自由を与えられるのだ。力がなく財力もなければ待つのは、無法の餌食でしかない。

 亜音はだから、心を殺して強く叫ぶ。

 

 

「だから、これ以上、誰かのせいにするのだけは絶対してはいけないッ!」

 

 

「所詮、みんな同類なんだ。守れなかったんだよ...............俺たちは。弱かったから──────それを受け入れてください」

 

 亜音は胸の前で拳を作り、俯きながらも言葉を紡いだ。

 そして彼はその拳を足を止めてしまった彼らに突き出し、決意を示す。

 

 

「前に進んでほしい............その為に命がある、足がある、想いがある、後悔がある、同士がいる、たとえ過去の者となってしまっても想いは引き継がれる。誰になんて言われようと──────俺は進みたいんだ」

 

 

「...............ぁ、」

「オレは............、っ」

 

 亜音の言葉に時計の針が揺らぐように、戸惑いが波紋のように浮かび上がっていく。

 迷いが見える彼らに亜音は輪廻眼を収め、最後の言葉を残した。

 

「君達はこの戦いで何を知って、何を学んだ?そしてどうすれば守れたのか、何が足りなくてどうすれば手に入るのか、それを悟ったはずだ──────何より君達は今、生きている。君達は今、何をしたいですか?何を夢見てますか?」

 

 儚く建物の影に響く亜音の問い掛け。

 もちろん彼らの心にも、

 

(そんなの......わかってんだよ.........俺は)

(..................力が、)

(守れる力が、)

(でも、オレにそんなことできるのかな............)

 

 皆が拳を握りしめ、肩を震わせ、視線を落とす。

 亜音はその様子に、やはり“自分の言葉”だけでは彼らの止まってしまった針を動かせない、そう悟り、自然と彼の視線は日光が瞬く空へ向けられた。

 途端、小さな影を見た亜音は少し肩を揺らして固まり、すぐに言葉を紡ぐ。

 

「──────まぁ原点に戻るのも悪くないかもしれません、ここからはもう自分達で考えてほしい」

 

 亜音は空を指して彼らに背を向けた。

 その背中を怪訝に一瞥した彼らは一様に空を見上げ、〝それ〞を見つめた。その途端、その瞳を大きく見開いて儚く揺らした──────そして同時に遥か彼方に置いてきた〝想い〞を掘り起こし〝それ〞に重ねる。己が掲げ、切実な想いをこれまで乗せ続けて来た、皆と同様に昔と何一つ変わらず靡く信念の〝旗〞を。

 日光を背負いし不屈の、夢の、希望の、想いの形──────それが彼らの始まりの旗なのだ。

 彼らの頬を伝うのは同様に悲嘆が薫るけれど、とても純粋で透明な想いの涙だった。

 それにはあらゆる感情が混じっているのだろう。悔しいし、悲しいし、眩しいし、懐かしいし、寂しいし。

 だから彼らは、ドッと胸いっぱいに溢れて来た感情を受け入れ、泣き叫ぶ。

 そして、いつだって彼らの足を動かしてきたのは、〝想い〞、だからこれ以上の心配は要らない。

 〝始まり〞の想いを胸に秘め、再度抱いたのならもう前に進むしかないのだから。

 亜音は彼らの始まりを耳に入れながら、顔に影を指す。

 

 

「安心していい、必ず箱庭の掃除をして本当の秩序を取り戻す──────“わたし”が正すから、君達はただ純粋に前へ進んでいい。過去も、未来も、正義も〝必要〞悪も、思想も、ルールも、その全てを変えて俺だけで背負うから」

 

 

 輪廻眼が血の色に染まるように殺気に塗れ、亜音は闇の中に溶けるように姿を消した。

 何回も、全てを正す、と呟きながら。

 

 

 

######

 

 

 

 ──────〝アンダーウッド〞、地下都市。

 

 左右に数多の支店が並ぶ街路を眩しい程の夕焼けが紅白く染め、彼らの賑わいは収まることなく響いている。

 だがその半分が復興作業に奮起する声で、被害の度合いを伺えた。しかしそれでも彼らは立って、夢を抱いて、復興作業に勤しんでいる。 心配は必要ないのだろう。

 春日部耀はその様子を一瞥して小さく微笑むと、胸に抱える猫耳ヘッドフォンに視線を落としてさらに嬉々とした表情を浮かべた。

 

「なんとか見つかった.........後は十六夜に.........!」

「見つけた」

 

 目の前に突如現れた亜音に目を丸くする耀。

 一方の亜音はいつも通りの微笑みを讃えて、手を振っていた。

 

 

 

####

 

 

 

 耀の問題に亜音はずっと前から知っていた。正確に言うなら、南へ行く前、〝サウザンドアイズ〞支店に行った時から知っていた。

 十六夜の報酬が渡されたサウザンドアイズ支店で、喜びはしゃぐ黒ウサギを見つめていた飛鳥と耀の暗い空気と、小さな会話を聞いて亜音は大体は予測していた。耀が本気で勝ちに来ていたこと、飛鳥が何かしら耀の報酬に関わっていたこともだが、今回の件に亜音は首を突っ込むことはしなかった。 これは亜音が関わるべきことではないし、これぐらいのいざこざ自分達で解決するべき、そう思っていたからだ。

 だが、魔王レティシアの件が終わってから病室で黒ウサギに全てを聞かされ、相談されてしまった。十六夜との話し合いの時に、亜音に上手く立ち回って欲しいのだろう。そんな黒ウサギは中途半端で全ての事情を把握していなかった亜音に少し不思議がったが、亜音はすぐに頷いて十六夜や飛鳥の元を訪れ、先回りしていた。

 だから亜音は耀と二時間ぐらい買い食いした後、夜空の下のベンチに座って、隣の耀に軽く言った。

 

「ヘッドホンの件、正直に言えば済む話だと思うよ。ちゃんと文脈、順序を間違いさえなければ十六夜はケラケラ笑って〝どんくせぇ〞って許すよ。それに今回の件は──────いや、何でもない」

「?............飛鳥と黒ウサギから聞いたの?」

「............ああ」

 

 少しの間を開けて返事を返す亜音。

 半分当たっているが、もう半分は間違っている。そのことを説明するか迷った末の間であった。

 だが、逆に耀の雰囲気の方がぎこちない。

 

「そう............なんだ」

 

 耀は小さく丸まって言葉を零す。

 その様子に亜音は眉を顰めて、思う。懺悔の際は誰でもそうなるのだろう。

 こうなることは耀自身も分かっていたこと。だがそれでも、やはり怖かったのだ。仲間にどう思われるのかを想像するだけで肩の震えが止まらなくなる、嫌われたくない、そうなることは至極当然だ。

 そんな彼女の横顔から視線を夜空に向けた亜音は、

 

「春日部に一つ聞きたい...............俺が羨ましいか?」

「え?」

「きっと俺の先代達も思っていたかもしれないし、〝母さん〞も俺に対して少なからず妬ましいという気持ちはあったかもしれない .............でもね?」

 

 亜音は右腕首を左手で支えながら右手を閉じたり開いたりを繰り返し、耀は〝母さん〞という部分に首を傾げたが、大体の関係性は掴んだので口を閉じたまま、亜音の横顔を見つめ続けた。

 

「力だけの関係、それは必ず壊れるもの、互いに崩れて行くものなんだよ。だけどそんな関係の種を持っているはずの俺と母さんは、心から信頼しあえる家族で、少なくとも俺は命を預けられるほど信頼してい る。つまり────── それ以外に何かの繋がりがあればそれは心の命綱となって、君達の関係をつないでくれる。だから、仲間を大事に............黒ウサギに相談することが無理なら飛鳥を信じて相談してみて...............きっと力になってくれる──────ていうか、 そんなことは耀自身が一番分かっていることだろう?」

「うん、そう......だね............」

 

 耀の歯切れの悪い返答に、亜音は少し眉を顰める。

 耀は俯き、少し沈黙して亜音の言葉を再度噛み締めた。

 きっと──────いや、100%亜音の言葉は正論で、本当に正しい、それは分かっている。分かっているけど──────皆と一緒にいるためには、一人で戦える強さが必要なのだ。

 耀は少し寂しそうな笑顔で、重い口を開く。

 

「でも............でも私はっ、............私は.........十六夜や」

 

 

 

 

「亜音みたいに〝一人〞で立ちたい」

 

 

 

 

 〝一人〞............か、耀にはそう見えるのか、と。

 亜音は少し呆気にとられるが、その身に圧倒的な経験を収めているおかげで、戸惑いを見せずにその口を開いた。

 

「ならそれが耀の、今の目標で............そうなるためには仲間と共に強くなるしかない、そうだろ?」

 

 普段より少し強めの口調の亜音。自然に亜音の拳は〝影の中〞で 強く握り締められていた。まるで何かに対して憤って、待遇に立場に嫉妬しているかのように............。

 一方の耀は反論できずに沈黙し、亜音に震える拳を“見せていた”。

 その様子に亜音は、ふと歯を軋ませたがすぐに、普段通りの冷静な口調で、

 

「…………なら、“自分で”ノーネームを出ていけばいい、その方が“楽”だろ?」

「………ッ!」

 

 かなりきつい言葉だった。

 耀の胸はその言葉に強い鈍痛を感じていた。

 ごちゃごちゃに混ざり合い、到来したその感情を処理しきれず、少女は思わず、瞳を揺らしながら言葉を紡ぐ。

 

「亜音はわたしに出ていってほしいの……………っ、?」

 

 影に隠れた少女の表情は、亜音から見ることはできなかったが、肩を震わせていることからかなり傷付けてしまったことは少年は理解している。

 それでも言わなければならない、と少年は静かに立つ。

 

「自分の居場所くらい自分で決めろ………甘えるんじゃない、………ヘッドフォンの件もそうだ、どうしたら許してくれるかな?じゃない。」

 

 亜音は耀の前に立ち姿勢を落とすと、両肩に手を置いた。

 少女は頬を薄く濡らしていた表情を少年に見せる。

 

「泣くくらいなら、自分に甘えるな、耀。その場所にいるために努力を惜しまないでくれ、それにどのような経緯であれ、物を盗んで壊してしまったんだ。だったら、どんなことをしても絶対に許してもらう覚悟で十六夜にぶつかれ、それが誠意じゃないのか?仲間じゃないのか?」

「...........あ、あのん」

 

「............僕は君たちの気持ちを本当の意味で理解することはできないのかもしれない.........結局してあげられることはないんだ.............. だけど、僕は言った」

 

 亜音は耀の肩に手を置き、耀と視線を交わして〝微笑む〞。

 

「君達が僕の隣、いや“僕たちを”いつか追い越す存在になると確信している」

「そんなことできるわけ...............、」

「人間の真の強さは個ではない..................コスモロジー、精神的な強さで決まる。誰かを味方につけ、誰かを頼れる事も立派な剣だ。十六夜だって白夜叉のツテを使ってるんだから。そしてそれはいずれ“心を持たない神”、“可能性を秘めない神々”さえも動かせる可能性を持つ。それほどに、儚くても強くて真剣な人間は、みんなの目を引くんだ............そうであってほしいんだ」

「ぁ............っ、」

 

 とても強い言葉を受けた耀は、口を半開きにして茫然とし、何回も亜音の言葉を心の中に響かせていた。

 亜音はさらにそんな彼女の背中を後押しする。

 

「だから君が本当の意味で強くなることを僕は望む............だから頑張れ、耀」

 

 

 ──────“自分”に負けるな。

 

 

 亜音が一番、今の耀に言いたかった言葉は口にする必要はなかったようである。亜音は開いていたはずの口を咄嗟に閉じ、その言葉は耀の耳に入ることはなかった。

 それ以前の強い言葉は耀の心に火をつけたようで真剣な表情と小さな笑みに、亜音はその胸に高揚という名の期待を抱き──────ふと儚く早いリズムで刻まれてくる足音を察知してベンチから立ち上がって、その場から影に隠れるように歩み始める。耀はそんな亜音の事よりも息を切らして走ってくる彼女に驚愕して、スクッと立ち上がっていた。

 そして少ししてその場に紅いドレスを揺らしてやって来た飛鳥。駆けつけた飛鳥に小さく不器用な微笑みを見せる耀。そんな耀に飛鳥は腕を組んでプンスカしていた。おそらく、夕飯のために探し回っていたのにもう 、ということだろう。

 亜音はそんな二人のツーショットを一瞬だけ見つめて、二人の──────いや、十六夜や黒ウサギ、ジン、ペスト、ノーネームのメンバー全員の素敵な未来予想図を思い描きつつ、そこに自分は居ないだろうことを──────、

 

「少し肌寒い............か」

 

 夜風がヤケにふきぬけるのか、亜音は片方の肩を摩りながら静かに 夜の道を進んでいく。

 二人に気付かれないように、知らぬ存ぜぬを通し、振り返ることもせずにただまっすぐに...............。

 

 

 少年は強くなった。

 そしていつも通り他人のために、心にもないことを、嘘を、世界の理屈を平気で吐いていく。

 その場面で言わなければならない正義を、嘘でも見栄でも吐く。それが正しいから、みんなの為だから。

 嫌われることを恐れていない、絆を求めていない、見返りなんて無いものと考えている。

 少年はそんな中でも不敵な笑みを浮かべるほど強く、孤独であった。

 なぜなら彼の背には、榊原家の使命、想い、期待さえも乗せられていて、ただ前へ、前へ、前へ─────孤独という痛みを“知らないか”のように。

 

 

 

(ふはは...............悪いな、耀。俺はもう誰にも負けない、その強さを手に入れたんだ。誰にも止めさせない)

 

 

 

 

 ──────世界が間違っているのなら、俺が正になるから。

 

 

 

 ──────皆が間違っても俺が正を、〝絶対〞に貫いてあげるから。 

 

 

 

 ──────誰に何を言われようとも。

 

 

 






エンディングテーマ《inside you》歌:milet

最後まで読んでいただきありがとうございます。

ご感想、アドバイスお待ちしております。
執筆加速中です。
高評価もお待ちしております。

ここから先は、ワンピースの映画について
ネタバレ注意













ウタは生きていてほしい。
過去を振り払い、みんなの願いによって暴走してしまったとしても、今はゆっくり休んでまたいつか目を覚まして欲しいと思ってます。

なので、ウタは死んでいないと思ってます。
眠ったまま、とかそんな感じなのかなーと思ってます。

あと個人的に自分が見た映画アニメは基本、歌姫キャラ自身の未来がないことにすごく悲しんでいます。
歌姫の扱い、少し酷くないか?と。


いつかの後日談で、彼女がフーシャ村の隅で、静かに歌っている姿を見れたら、いいなぁー





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