新・問題児と人の神が異世界から来るそうデスヨ 作:行くよ!!!!
プロローグ 挿絵
ある部屋の扉の前で、一人の少年が立っていた。
優しさの中に凛と張り詰めた空気を漂わせ、不器用なもふもふの黒髪が特徴的な少年、榊原亜音。彼の前、ドア越しからはとても楽しげな三人の笑い声が響いてくる。
「...............余計な心配だった、か」
亜音は小さくホッとしたようにそう零し、静かな廊下を戻り始めた。
──────〝アンダーウッド〞 主賓室。 榊原亜音の個 室。
巨龍を倒してから一週間が経った。
東と北の下層で行われた魔王の宴は、今では一時の悪夢だったかのように薄れてきてはいたが、それでも被害を目の当たりにすればそこの住人たちも、亜音さえも目を伏せるしかなかった。
十全に新たな力を振れていた、そう亜音は自負している。しかし守れなかった者は多い。
後悔などしないほうがおかしいくらいだ。
そして今回、“敵の質”で一番酷い襲撃を受けたのは、間違い無くここ〝アンダーウッド〞だろう。〝最強の生命体・純血の龍種〞に〝神霊殺しの魔眼・魔王バロール〞、加えて総勢何万という勢力を誇ったケルトの巨人族と魔獣。そして何より、それらの後ろから指揮していた謎の暗躍者たち、黒ウサギが相手した少女に黄金の竪琴を操りしロー ブの女、耀が撃退したという黒いグリフォン............名をあげるとやはり一段とやばかったのが分かる。
おかげで収穫祭は一時中止せざるを得なくなった。
数日前までは一歩外に出れば、商店街も祭の看板も住家も...............何もかもが嵐の後のように落雷で焼け落ち、焦げ跡や足跡で台無しになっている状態だった。
亜音はこうした祭り事の設営を短期バイトで経験したことがあるから、なおさら分かる。
「悔しいな......、」
とはいえ、〝龍角を持つ鷲獅子〞連盟の同士たちとそこの住民達のおかげで、一度時間を空けてからの再開までこぎつけられていた。
さらに魔王を撃退した功績が称えられ、〝アンダーウッド〞の地下都市には数々の支援物資や救援のコミュニティが集い始めている。この調子なら半月後には再開できるだろう。と同時に、南の〝階層支 配者〞の就任式も執り行う予定だ。
ジンたち〝ノーネーム〞も収穫祭の再開を手伝うために、レティシアが回復後もこちらの方に残っていた。彼らは魔王に関する〝あらゆるトラブル〞を承ると銘打って行動している為、正式に件の連盟から依頼を受けたのだ。とはいえ、十六夜はあの性格から途中リタイア、亜音はまだ全快していなかった為に手伝えず、飛鳥と耀に押し付ける形になっていた。だが、それも今日で終わりだ。あれから七日間が経って、今日は八日目。
亜音の両手は重荷が外れたように、軽くなっている。故に亜音は明日の朝から手伝いへ向かうつもりだ。
しかしだ、飛鳥と耀の所を手伝う必要はないだろう。条件としてはこれからの生活に役立てられる経験を得られて、なお働けるか、だ。という条件で見つからなかった場合は最悪、建築現場の手伝いでもしようと思っていた亜音だったが、十六夜が早々にリタイアしたという事は邪魔になるということなのだろう。
ならどうするか、ということで亜音は散歩がてらに見つけておいたのだ。
「医者の助手をさせて貰いながら、この世界の医療、というよりは〝種 〞に対応した治療法を学ぶ。我ながらナイスアイディアだ」
これから独り立ちするなら、尚更必要になってくるだろう。
お供を付けるつもりはないが、技術を身につければ道いく先々で働けるようになる。金に困る心配もない。
そのあとは黒ウサギとジンの二人と共に一度、本拠地へ戻る。
先の一件、東と北の下層を巻き込んだ魔王襲来の件で〝ノーネーム 〞は、さり気なく箱庭の外に本拠地を構えている〝仙境蓬莱〞にとてもお世話になっていた。名無しにしては質の高過ぎる警護、何より無償という点だ。金銭を求められていない所から亜音がどれだけ信用されているかが分かる。 そしてリリからその事を聞いた黒ウサギとジンは、病床の亜音に礼 を述べた後、さらに頭を下げたのだ。〝直接、お礼を述べたい〞、と。
当初、亜音はある理由で渋っていた。その理由は〝転移結晶〞という恩恵にあった。使うたびに磨耗して、小さくなっていたのだ。仙人の力を手に入れた亜音や日常的に長い距離を行き交いしている〝仙境蓬莱〞なら、別に転移結晶は無くてもいい。しかしそれでも往復で滞在日数を含めると、 三日間はかかる。気を扱えない者、十六夜や黒ウサギの場合だと、もう少しかかる。耀はともかくジンや飛鳥達は論外に等しい。だが、それらは既に解決した。
昨日のことだ。 ギブスが外れた手で白夜叉の仕事を手伝い、半日で全てを終わらせられた、というわけがなく、女性店員さんの便宜で白夜叉と亜音は急遽、休みを貰ったのだ。
『ここまで終われば後は私の方でやれますので、............うらやま!コッホン。亜音さん......白夜叉様をお願い致します』
不器用な彼女を撫でたくなったが、そこは我慢した。つい昔の癖で、性別関係なくスキンシップを取ってしまいそうになるが、やはり配慮しなければならない。一定以上の距離を置かなければならない。そこでなぜ、亜音のスキンシップに性別が関係ないのか?............などと問う必要もないだろう。医療に性別は関係ない、戦場に性別も年齢も関係ない.........もちろん殺しにも............。
敵の中に子供がいるのは、亜音にとって少し、いや意外とショックだった。前の世界ではただ無理やり戦場に出されているだけだったようなので、愚鈍な大人さえなんとかすれば済んだのだ。何より子供が戦場にいるのは、現代の世界では異例だ。だが、この世界は違う。完全なる実力主義に近い。
故に、亜音は再認識できた。
ここはやはり、“異世界”なのだと。黒ウサギ達とは〝殺し〞に対する価値観が違うのだと。それが顕著に現れたのは、ペストの件だろう。とはいえ次もペストのように行くとは限らない、この世界では少しの迷いが命取りになる、そんなことは一番亜音が分かっている。何より亜音は〝ブリュンヒルデ・ラスターバ〞、神群である彼女がその場に居なければ間違いなく死んでいたのだから。彼はペストの建前で一切口には出さないが、あの苦しみは尋常ではなかった。加えて、亜音の代わりと言わんばかりに、死人が数人でた。だからと言って、亜音を責める者はいない。
ブリュンヒルデには大きな借りを作ってしまったようだ。
話を戻すが──────どんな立ち位置であれ、くだんの少女は戦争を起こした。
何千という人が死に、路頭に迷い、親を失った。最悪、亜音が殺さなければならないかもしれない。彼もまた少女を殺せる術を持った数少ない一人だからだ。
話が脱線しすぎたが、女性店員から頂いた半日休日を白夜叉と二人で過ごすことになり、亜音はその時にもののついでで聞いたのだ。
彼女曰く、霊格を注げばいいらしいが、............サウザンドアイズ支店の客間にて、亜音が〝転移結晶〞を握りしめても何も起きなかった...............感覚がわからない。
そんな亜音を見かねた大人verの白夜叉は、白雪のような指先を亜音の指の間に絡めながら、目を瞑って寄り添った。
ドキリ、と亜音は肩を揺らすが、白夜叉の吐息が耳に掛かって、─────少しこのままで居れ、という囁きが響く。
白夜叉の服装が煌びやかだった和装からただの、白く薄い羽織物だけになっているため、色々と身近に感じすぎて.........主に、匂いとか、体温とか、感触とか............白夜叉の手から溢れんばかりの霊格エネルギーが流れてきて、まるで寄り添われて押し流されていくように亜音の霊格エネルギーが〝転移結晶〞へ注ぎ込まれていく。という風に無事、問題は解決した。
そのあとは白夜叉の肩を揉んだり、お出かけ先で騒動にならないよう二人して、芸能人直伝の変装を........................ププ......クックク、バッハハハハハハハハハハハハああはっは!!と、二人して大爆笑しながら、ハゲたカツラを被ったサングラスの不審者の格好で街を闊歩した。後程、通報された件について女性店員さんに説教されたが、女性店員も白夜叉と亜音のギャップに満更でもなかったようで、 終始、口を手で押さえ、マスクさえし始めて説教していた。いや、笑えばいいのでは?でも白夜叉の数少ない〝性格〞理解者として、プライドが許さないのだろう。駄神としても、バリバリ仕事をこなす民思いの白夜叉様としても。尊敬し、理解し.........彼女が笑い、馬鹿をするとき、していい数少ない機会の時ぐらいは、自分がしっかりしないと.........とでも彼女は思っているのだろう。もちろん、白夜叉とて馬鹿ではあるが、阿呆ではない。
そのことに気が付いた亜音と白夜叉は、もうワンセットの変装グッズを手にギャオー!と女性店員へ飛び掛かり...............その日は笑顔で幕を閉じた。
「あの時は危なかった.........白夜叉様を盾にしなかったら、せっかく買った服が台無しになるところだったからなぁ」
鬼気迫る女性店員の薙刀は音速を超えていたね。
亜音は自室でお茶をすすりながら、ほっこりそう零すのだった。
色々と陰で動いた甲斐あってヘッドフォンの件も肩が付いたようだし、〝ノーネーム〞がいい方向に向かい始めて何よりだろう。
故にコンニチの夜は、しばしの休息だ。
明日からまた、色々と詰め込まなければならないし、自分自身の〝 日常〞を取り戻す必要がある。
後は、レティシアのことだ。
彼女は早々に逃げるように本拠地へ戻ってしまった。故に話をしなければなるまい。
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──────〝アンダーウッド〞の大樹、麓付近。野外診療所。
ヤケに暖かい日光が町々を照らし、所々からシャッターのガラガラーという音が響いてくる。
そんな中、亜音はいつもとは違う服装、支給された白衣を纏い、リリの作ってくれたおにぎりを頬張りながら、街路を歩いていた。
夜もそうだが、朝もまた綺麗に反射して画期的だなぁ、と亜音は地下都市に張り巡らされた水路を見上げる。
そこでふとあることを思い出す。
全く関係のない事柄でh──────、
「あーめんどクサいわ。なんでこのわしがこんな朝早くから駆り出されなきゃならん........ッ!」
「おっしゃるとおりデスぅ.........ぶっひひ」
今すぐ地に埋めたくなるような荒れた声が響き、町の人と一緒に訝しげになる亜音。
それも目的地の方角から響いてきたことから、同じ職業柄の人物ということになる。
少し説教でもするか、と亜音が思いついた時、ふと左右の横合いからひそひそ声が聞こえてきた。
「さっきの声。......なんでも人の神と謳われるギリシャ神群、あのアスクレピオスの傘下のコミュニティらしいぞ」
「ああ、知ってる。噂じゃ、巨人族を真っ二つにしたとか、実力はもちろんのこと、医術も優れてるんだってな」
性格はともあれ、お偉いさんであることは確かなようだ。
何より、最初に話を聞けてよかった。もし説教なんてしていたら、〝サウザンドアイズ〞の時より面倒くさいことになっていただろう。
悔しいが、今は様子見だ。さして悪いことをしたわけでもないんだ。ここは同じ職場で働く同士として仲良くして行こ──────、
「誰ダァ、てめぇは?」
「ただの人間のクセにぃ!その汚い手を下げろォ!!デス」
前言撤回だ、今すぐ八つ裂きにしてやる。 とはならず、亜音は静かに指定された担当場所に移動した。
危うく大樹ごと焼き払いそうになっていたが、朝特有の冷風のおかげで、少し頭が冷えたようである。
気持ちを切り替え、担当場所の主治医と握手を交わし、早速作業へ移り始める。
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──────〝アンダーウッド〞大樹、頂上付近。
「ッハァ...............疲れたぁ、」
亜音は顔にタオルを被せ、大きな葉の上で寝そべりながら嘆息を零す。
訓練とはまた違った疲れなのだろう、精神的にくるものがあった。
種で何をポリシーにしているかとか、アレルギーだとか、食生活だとか、全てが違うために色々と気遣いが大変であった。看護師も大変だ。
それに、今日は少し暑い。ちょうどお昼頃のこともあって、日差しも強かった。
もちろん野外テントにエアコンなどあるわけもなく、水を撒くなどの焼け石に水のような対策しかなかった。
「半日だけ、とはいえ............疲れたぁ」
何度ため息を吐いたか、二回目以降からは数えてはいない
朝の出来事など、もはやどうでも良くなっていた。いや、それではよくない。
だが、今は本当に、心底どうでもいいのだ。
「とりあえず、............寝るか............」
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──────紛争地域、教会と屋敷の前広場。
屋敷と教会の前にはハゲた芝生が広がっており、時折砂埃が舞い上 がっている。
半円状に大きく広がっていて、訓練にはもってこいだった。現在は七月中旬から三日後。建物の修復などやるべき事は終えたので、今はヘトヘトになるまで朝早くから訓練をしていた。
うでたて、腹筋、背筋、パトロールを兼ねた数十キロマラソン、剣術、空手などを淡々とこなしていく。
時折、休憩を入れ、川辺まで行って水を飲む。これまでとは段違いまで追い込めるので、清々しい。
「今日はこの辺にしておくか............ふぅ」
朝食まではまだ時間がある。
それに少し眠いので、いつも通りに仮眠を取ることにした亜音は、子供たちのために軽く整備した森林の道を歩き始めて──────ふと目の前からトンカチが飛んできた
「ていっ!」
小さなトンカチを軽く殴って砕いた亜音は、ため息と共に適当な場所へ向けて口を開いた。
「セラリア、いるんだろう?出て来いよ」
「フン、よくわかったわね?」
赤いなが髪と伊達ではないウサ耳が特徴的な、グラマースタイルの少女が視界を横切る。
そんな謎の美少女、謎でもなんでもない彼女、華麗に林から飛び出してきた〝セラリア・アストラーリ〞は、なぜかできるキャラみたいな顔をして仁王立ちしていた。逆にそれが、彼女のアホっぽさを強調しているとも知らずに。
「トンカチを平気で投げる奴なんて限られてるとは思うが.........まぁいいや。で、その格好は何?」
「何って、じゃーじ?じゃなーい」
逆に、なんでそんなことを聞くの と不思議そうに首を傾げるセ ラリア。
黒いジャージの胸元からは白いTシャツが顔を出し、腕を捲って着こなすその姿は、運動系女子部長のような貫禄がある──────悪くない、なんかファイおー!とか言ってそう。いや、そんなことはどうでもよかったんだ。
「うん、ジャージだね。............俺のだけどな」
そう、あれは自分の予備に持ってきておいたジャージで、自分の部屋に置いておいたものだ。
え、なに?自分の部屋ってそんなに侵入されやすいの?!おそらくはセラリアが単純にプライバシーという概念に疎いだけなのだろうな──────すでに亜音は諦めるということで、気持ちを沈めた。怒りたいけど、結果オー ライ的な?
「しょうがないから、訓練の相手して上げてもいい.........よ?」
ツンデレがオプション付きだとぉおおおおおお?!そう、はるか古代に二次元の奥底へ生き埋めされてはや十数年。もはや幻の設定だと思われていた。何よりセラリア当人がそれに拍車を掛けていた。なにせ、デレ100%カットみたいな人物だったのでね。絶望したものです。夢が星くずになって、土埃と共に舞い散っ ていったのだから。
しかし、それが今はどうだ、彼女は完全にデレて──────
「ちょ、...ギブッ、...........ぅッ!.....................」チーン
「よっしゃぁああああああ!落としたぁ!!」
つんでれ?なにそれ、首を絞めてくる女の子のことかしら?亜音は泡を吹いて仰向けに倒れたまま白目になる。
介抱もせずにルンルンとスキップ帰宅する彼女の背を揺れる景色の中、ぼんやりと眺めていた。
彼は心底思ったことがあるらしい。
地獄はちゃんと設営されているのだろうか、と。
「いづが、ぎごくに.........おどぢでぇやぁるぅ............ッ!」
言語化不可能な憎悪を囁いて、亜音は逝った。
エンディングテーマ《名前のない怪物》歌:EGOIST
最後までありがとうございます!
最近、評価を二つもいただけました!!
本当にありがとうございます!
さあ、いよいよこの章より本番です。(2回目笑
この章まで長かった〜本当に。
ついて来てくれてる人は何人いるかなぁ、