新・問題児と人の神が異世界から来るそうデスヨ   作:行くよ!!!!

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だいぶ遅くなり、申し訳ございません。
自分自身やることが多く、その合間で投稿していきます。
目標は今年、完結です。

ラストエンプリオを超えた先まで構想はできてますが、中々に文字数が半端ではないため、物語のショートカットがあり、できる限り丁寧にやっていきたいとは思っています。

申し訳ございません。

感想でも応援頂いて、やる気倍増してます!
がんばります。


第五話「ディナーの後は荒らしがくる」

 

 

 東二一○五三八○外門、〝サウザンドアイズ〞支店付近。

 

「あのーンッ!でてこぉーい!!」

 

 夜の帳に響く、少女のような幼い子供の声。

 そしてそれに続くように何百もの木霊たち。

 

「「あのーん!!でてこぉーい!!!」

 

 なんとも可愛い声がその場に響き渡り、小さな蛍火が夜空に散りばめられた星屑のようにキラキラと輝いていた。

 一体何事だ!?と通行人は最初の頃は戸惑ってはいた。だが少し経つと何かのイベントだと勘違いしたのだろう、なぜか一種のデートスポットと化し、この場所、この機会を利用して男と女の仲を深めていくあらゆる種族の老若男女。

 ちなみに半日近く走り回された亜音と女性店員の二人は、そんな街の影、建物に隠れるようにある小さな屋台で、細々と食事を取っていた。

 

「はい、毎度っ!」

「あ、ありがとうございます.........」

「ありがとうございます」

 

 目の前に置かれた色とりどりな野菜やお肉などの具材が乗ったラーメンを見ながら、二人はハチマキをした屋台のお姉さんに礼を述べる。

 気のせいか、若干緊張気味な女性店員。それというのも、

 

「今日は売れ行きがいいからねぇ!...........本来なら呪詛を撒き散らしたいところだが、素直にオマケしてやるよ〝カップル〞さん!」

「え、えーと……私と亜音さんは別に.........そういう仲では」

「ああん〜!言わなくていい言わなくていい、結婚とかはまだ考えてねぇんだろ?分かってるって」

「…………??」

 

 カウンターを挟んでボソボソと話をする二人に亜音は首を傾げる。別に彼は鈍感ではないが、今は走り回ったせいか空腹すぎて限界だった。

 故に亜音は合わせた手にお箸を挟んで持ち、小さく会釈をしながら淡々と告げた。

 

「いただきます」

「お、どうぞどうぞ!!」

「わ、私もいただきます!」

「おう!」

 

 フーフー、ズルズル………………という音だけがやけに耳に残るため、女性店員は眉を顰めながら少し食い辛さを感じていた。

そうなれば必然と箸がうまく進むことはなく、亜音一人だけがどんどん食を進めていた。当然、彼女は刻々と亜音に置いていかれていく。しかしそれでも彼はきっと、自分だけ食べ終わったとしても待ってるように見せない気遣いをしながら待っていてくれるだろう。だが、できれば〝これ以上〞彼に気を遣わせたくないのが女性店員の本音である。

 だから少し礼儀や淑女としての見栄を捨て、女性店員は勢いよ───────、

 

「……っ!!!!」

「お、おい大丈夫か!?」

「ぐっ……………ぅ」

 

 女性店員は呻きを押し殺しながらもなんとか喉に詰まったものを必死に飲み干そうとするが、いかんせん今日に限ってうまく飲み込めない。少なからず焦りと緊張のせいでもあるのだろう。

 このままでは彼の前で醜態を晒してしま──────気が付くと彼女の背中には優しさを感じさせる感触があって、横を見れば亜音がとても至近距離にいた。

 こんな下品な自分を見せたくない…………しかしそうも行かぬどころか、逆に亜音は顔を背ける彼女の肩を抱き、それをきっかけに──────まるで自分の体が風船になったかのように軽くなっていた。

 その様子に眼前で見守っていたお姉さんは、絶句。はっきり言って羨ましい、という涙目を浮かべている。

 

「…………あ、あのんさん…、」

「もう大丈夫みたいだね………もう少しこのままでいようか?」

「は──────ぃで、ではなくていえもう大丈夫ですありがとうございます」

 

 さっさっと衣服を整えながら離れ、内心で後悔してしまう女性店員。

 唇を少し噛み、お姉さんに水を二つ頼む彼の横顔をちらっと眺め、

 同時に彼女は今日一日のことを振り返る。

 はっきり言って今日は心臓に悪い日だった。だが同時に彼の評価がさらに大きくなってもいる。

 かの最強種たる鵬魔王に対しても彼は自分に対してと同じような、はっきりとした物言いをし、その大樹のように濃密で逞しい自信と溢れんばかりの恩恵で魔王を圧倒した。まさに上層において百戦錬磨の英傑と言われてもおかしくない強さだろう。しかしそれでいて彼は時折、人間のような暖かさや優しさを見せて…………………神霊としても、人間としてもできているといっても過言ではない。

 だから気になってしまう──────昔いた世界での亜音のことを。

 

「…………亜音さんはいつから恩恵を持っていたのですか?」

「ん?…………ああ、生まれた時からだよ。言ってなかったっけ?」

「はい。…………確か亜音さんの恩恵は因果律によって与えられたもので、祖先はなんでも人の身で神に上り詰めたとか、………でしょうか?」

「うん。でも、」

「でも?」

「いやなんでもない」

 

 亜音はコップの水を飲んだ後、グラスを揺らしながら首を振った。

 しかしそこで止められたら気になるのが世の常、条件反射で女性店員は、

 

「教えて下さい」

「え…………あ、うんでも、」

「お願いします」

 

 理由はわからないが、引く気配もない姿勢を前に亜音は、小さく息を吐いて、疲れと一緒に吐露した。

 

「なんでかな、と思ったんだ……なんで〝俺〞が選ばれたのか、って……ただそれだけだよ。今になってもそれは分からないし、偶然としか片付けられないのかもしれない。それに最初はすごく戸惑ったなー………死んだほうがいいのかとさえ思わされたよ」

「え、あの亜音さんが?」

 

 女性店員は声を上げた後、心底驚いたように口元を抑える。だがそれは礼儀にうるさい彼女であっても仕方のない失礼だろう。榊原亜音、独自の歴史を背負う神霊、いや箱庭に住む普通の者達から見たとしても彼は、彼の外見上は唯のよわい十八年、それだけしか功績を積み上げていない普通の高校生でしかない。お前に何ができる?と大人達に軽く一蹴されてもおかしくないほど単純に青臭いガキにしか見えない筈なのだ。にも関わらず彼は全ての概念と現実、認識を覆した。

 途方もない大地に星屑のように産み落とされた化け物達。それらは瞬く間に比喩すら超えて八百万(やおよろず)と化した。生命を、街を食らっていく天災の神獣たち。暴力装置のように彼らは単純に目に見えたものに絶望を与えていった。言うまでもないだろうが、既に魔王を退けるための防波堤である階層支配者でさえ収拾がつけられない状態だった。だが彼はその身に納めた功績だけで、この戦争に終止符を打った。女性店員と白雪姫、〝仙境蓬莱〞を引き連れ、にべもなく退けた……だけではない。

 箱庭において尚最強の種と称され、千年という時すら霞ませる霊格階位を持つ超生命体。一体だけで群体を作り上げかつ神話の大戦争をも引き起こせる彼らを、少年は人の身で、単独で、それも一体だけにとどまらず二体も圧倒したのだ……だがそんな彼が今、己の力に対して〝凄く戸惑ったことがある〞 と抜かしていた。言うなれば白夜叉が 〝なんで私こんなに強いの?〞 とこぼしたようなものだろう。

 だからいかに礼節にうるさい彼女でも、少し意外に感じてしまうのは無理もない。

 そんな彼女に対して亜音は、小さく笑い、肘をついたまま手を振る。

 

「いやいやあのね?…………俺にだって別に子供時代はあるんだから、そこは驚くところじゃないさ。それに、俺が戸惑ってしまったことは当然って言えないか?いやもしかしたらそんなのは俺だけかもしれないけど。…………でも、自分がまだ小さかった頃は触れるもの全てが簡単に壊れていったから、小学生に上がる頃合いまでは毎日が途轍もなく怖かったよ。それまでは家から出ることもあまりなかったし」

「……………先天性の宿命ですね、それは……」

 

 生まれた時に与えられた巨大な力は年齢と共に安定していく。

 亜音の霊格が落ち着いてきたのは、小学生になる頃合いだった。故に運が良かった、社会に出る前に安定したのだから。

 

「十六夜や飛鳥もさぞかし戸惑ったと思う。でもそれに対して二人は………いやなんでもない。そろそろ行こうか?」

「え、あ、はい!」

 

 亜音が離席し、垂れ幕をくぐっていった後を追うように女性店員も立ち上がる。ちなみに食事代は先払い。

 だが、垂れ幕に触れようとした時、ふと彼女は……………立ち止まった。

 先ほど彼が口にしかけていたことに予測がついたのだ。

 

(もしかして……………亜音さんは、………嫌だったのでしょうか?)

 

 そして彼女はふと芋づるしきに思ったことがあった。

 使命も意味も知らされない先天性。その大きな力に意味を持たせるため、己が自身で自分に大きな責任を持たせる………………。

 

(……………………彼はまさか…………?)

 

 ───────神霊ではない?彼自身はまだ神霊ではないのか?

 確実なのは、〝受け継いだ恩恵〞は神霊の物で間違いない、ということだけだろう。

 しかし彼の六道には不明点が多すぎる。いや不明点すらわからない、今ある情報は既に結論付けられ完結してしまっている。だが、彼と彼の先代達が知っていることだけが〝六道〞の全て…………と言うには早すぎるだろう。

 女性店員は少し難しそうな顔をして、亜音の元へと歩み寄っていく。

 こうして二人の夜は新たな影を生み出して静かに終わりを告げた。

 

 

 

 

#####

 

 

 そして翌日の夜。───────〝アンダーウッド〞 収穫祭市場。

 

「馬鹿な…………なんであの魔王が!?」

「とにかく走って…………!!!」(こんなはずじゃなかったのに、)

 

 いつもならこの街には、水気を含んだ涼しい夜風が人肌をかすかに濡らしていくはずだった。

 だが、今宵吹き荒れた風はそんな生易しいものではない。

 全て等しく喰らうその様から、共食い魔王と呼ばれる存在。

 そう言われている嵐だが、いかんせん彼らは全てに対して平等に終わりを運ぶ。生命を食らい、光を喰らい、終末を無の形として与える存在。

 “人類の極致”であり“人の最後の欲望”と呼ばれた《永遠の秘宝》を封印する絶大なシステムと化したもの。しかしその存在を前にしても己たちにはまだやれることがあった。

 新たな奇跡を生み出し、彼の封印する力たる定義を打ち砕く───────全員が一人の少女リリの、友を救いたい願いと望みを叶えようと動き始める。

 そして人々の避難を終え、役割分担も配置も完了し、あとは時間稼ぎすれば終わるはずだったのに。

 

「なんで?!」

「ええい!遅いッ!!どれだけ待たせる気だぁ!!」

 

 伝説の幻獣、ペガサスの根源たる力、素粒子を含む輝く風が大きく渦巻き、両者の間を隔絶する。

 しかしそんな高密度な壁すらも嵐の前では紙切れ同然、それどころかますます風は吹き荒れ、白雪姫と耀を追尾してくる。

 

「このままではアンダーウッドまでも退廃に呑まれるぞッ!?」

「十六夜…………!」

 

 二人は互いの攻撃を合わせて放ち、一定の距離を取る。水流を覆う粒子の風は夜空に流れていくように差す。

 なんとかその繰り返しで魔王をはじき返しているが、どんどん間合いが詰められていく。

 

「っ…………リリ!!逃げて!」

「で、でも……!」

「狐耳の娘!我らの事は構わなくていい、疾くと退けッ!」

「は、はい!!」

 

 白雪姫の一括でリリは汗を振りまきながらもその場から駆け出していった。

 これで彼女は安全だろう…………しかし、この足止めはもう長くは続くまい。かといって…………!

 

「引いたところでアンダーウッドもろとも消失…………厄日だな、本当に」

「最悪、水神さんはここを離脱して。………私がなんとか食い止める」

「いやしかしそれは………、」

「大丈夫。試してみたいこともあるから」

 

 先の戦いでコツは掴んだ。

 後は己の感覚と知識をすり合わせ、思い描くだけ。

 

(急いで十六夜………!!)

 

 

 

 

######

 

 

 

 アンダーウッド地下都市。

 平穏な夜に響く爆砕音。

 それを機に次々と粉塵が舞い上がっては地響きが大地を揺らしていった。

 天変地異かと思われたその件は、一人の少年による者だった。

 

「クソガッ!こちとら時間がねぇってのに…………ワラワラ……とッ!」

 

 黒い影が人の形を成し、街路を埋め尽くす。

 それに対して逆廻十六夜は十連発もの拳圧を叩き出し、数にして百もの群体を掻き消していく。

 その余波として大地は抉れ、建物は軋み、振動だけで崩れていった。

 だがそんな暴虐さえも無に帰すほどにワラワラと増えていく影達。

 

「どっかで見覚えがあると思ったら、あの時の奴らか………!」

 

 あの時とは、レティシアを救出すべく巨龍を撃ち抜いた時のことだ。

 間一髪で謎の救援によりレティシアを掻っ攫われずに済んだものの、横槍を入れようとしたことに対して十六夜は憤慨する。それも今回を入れれば二度目だ。

 

「ミスター。ここからは私一人で向かいます………ですから!」

「いや駄目だ。これはそういう作戦だ。二手に分かれた瞬間、お前は〝捕まる〞」

「しかし………だからと言ってこのままでは」

 

 十六夜は肩に居座る人形、コッペリアに視線を送り、前に戻す。

 少し瞳を閉じた彼は意を決したように右拳を強く握りしめ、

 

「仕方ねえか。…………この数を放っておくわけにも行かない。ならできるだけ数を減らし、道を作る」

「な、何をす…………その光はまさか!?………地上でそれを!?馬鹿な、辺り一面吹き飛ばすつもりですか!!」

「大丈夫だ、なんとかなる」

 

 フワーと十六夜の右拳に光が宿ろうとしたその瞬間。

 

「─────── "召喚"、愚者の劫火(Ignis fatuus )

 

 大地が地獄と化した。

 暗黒すらも霞ませるほどの恐怖をもたらす蒼炎。

 大地を炙りながら街路を走る炎の隆起は瞬く間に数百という黒い影を吹き飛ばした。

 十六夜達には一瞬、青白く閃光が弾けた瞬間しか見えてはいなかったが、こんなことができる人物の心当たりは一人しかいない。

 

「………………行って」

 

 フワフワと空より舞い降りし小悪魔ツインテールの少女は、静謐な声で十六夜達に告げる。

 流石に突然過ぎて十六夜でさえ唖然としていたが、我に返ったように笑い、

 

「悪いな………この貸しは亜音に付けとくから」

「貸しなんていらない。なぜならもうそんな浅い関係じゃないから」

「………フッ、そうかい。なら悪かった」

「………??」

 

 十六夜の苦笑いにコッペリアとウィラはそれぞれ別の意味で首をかしげる。

 片方は意味不明な会話に対して、もう片方は今更当然のことを蒸し返したことに対して…………十六夜はもう空を仰ぐことすらやめて駆け出す。

 今だに街路には篝火が撒き散っているが、そんなの御構い無しに踏みつけていく十六夜。

 そして同時に地面から生えてくる黒い影。

 このゴキブリ的な生命力を前に流石の十六夜も苦虫を潰したように眉を歪ませる。

 しかし誤差を感じさせないほど即座に炎陣が迸り、細い蒼炎が黒い影に突き刺さって炎上していった。

 

「ちょっと飛ばすが、振るい落とされるなよコッペリア!!」

「承知しました。構わずミスターも急いでください」

「オーケー、っ!」

 

 地面から小さな悲鳴が上がった瞬間、砲弾の如く飛び跳ねる十六夜。

 それを見送ったウィラは少し嘆息をこぼすと、怒りを瞳に宿し、淡々と影達に伝える。

 

「私と亜音の思い出になる場所を貴方達は壊した…………絶対に許さない……ッ!!」

 

 彼女はこの時が初めてだったのかもしれない。己が感情に任せて力を振るうのは。

 何せ彼女自身そこまで他人に執着したりはしない。戦うなら戦う、倒すなら倒す、シンプルだからこそそこに感情が介入することは基本ない。加えてその愛くるしい姿のせいで、逆に執着される側であるから余計だろう。

 だからこそ彼女は初めてこれほどの怒りとジェラシーを、八つ当たりのように敵にぶつけていくのだった。

 

 

(あとで亜音に褒めてもらえるかな?)

 

 

 少しの邪念を宿して。

 

 

 

######

 

 

 ───────〝フィル・ボルグ〞の丘陵。

 

 

 何百という精霊の包囲網を潜り抜け、ようやく亜音はストーカー(白夜叉)の目を盗んで此処に戻って来れた。

 まさか彼女にまで追いかけられるとは思いもよらず、しかも半ば本気であったために仙神の力を大幅に使わされてしまった。

 境界門を通り、ようやくほっと息をつこうとしたその時、不気味な風が亜音の頬をなでる。

 そして、目の前には篝火を持った集団が何かから逃げるように走ってきていた。加えて、空にはあらゆる鳥獣が飛行しており、悲鳴にも似た声をあげている。まるで天災が起きたような事態の様子に、亜音は背筋から血の気が引いていく。

 

「まさか、…………」

 

 そこで唖然としている亜音が我に返ったと同時に、高齢の獣人から声がかかる。

 

「おい、そこの野郎さん!てめえも早く逃げろ!変に足止めたら巻き込まれるぞっ!」

「す、すいません!今この土地に来たばかりで、………いったい何が」

「詳しいことは分からんが、避難勧告だ!魔王がまた来たらしい!急げ!!」

「…………っ、」

 

 魔王。

 その言葉を一瞬で何回も咀嚼する亜音。

 こうも立て続けに天災に見舞われている状況に流石の亜音も緊張感と同時に、戦いの疲れもどっと押し寄せてきていた。そのため、魔王の襲撃の事実を受け入れるのに少し狼狽える。

 加えて、本来ならば精神世界の誰かしらから声が掛かっているはずなのだが、誰一人として声が響いてこない。

 戦神の悪態も、ニュンペーの予知も、子供達の声も亜音の耳には入ってこない。

 誰も助けてはくれない、いや助けを求めるつもりなど毛頭ない、求めるくらいならば救世主などと名乗りはしない。だが、それでも改めて自分が今一人だということを強く認識させられる亜音。ここからの全ての判断にこの土地の文明、生命、己の人生全てが懸かっている。どこに向かい、何を成すか、それ次第で未来が決まってしまう。いや今この瞬間の判断、決断するための数秒すら誰かの命が関わることになる、誰が生き、誰が死ぬか。それほどまでに今の少年には力があり、責任があるのだ。

 己が心に吹き抜ける風を感じながらも、手を握り締め拳を作ると獣人に向き直る。

 

「ありがとうございます。ですが…………私がこの世界を守らなければなりません」

 

 それを聞いた獣人は、一瞬口を開けるが、すぐに声を上げた。

 

「はぁ!?てめえは他所もんだろうがぁ!とっとと逃げろ!」

「………………いえ」

 

 少年は心配そうに見つめる獣人に笑顔で首を振った。

 自暴自棄なのか、出世、名誉のためなのか、その判別が付かずにいる獣人は、亜音の襟首を掴む。

 

「馬鹿が!何にもできねえんだからとっとと来いっ!」

「………っ、」

 

 強めに掴まれ、無理やり引っ張られる亜音。

 あまりにその感覚が久しぶりすぎて、少年は意外にも口角を上げていた。

 

「んあぁあ?!テメェー何笑ってやがる!フザケてんのか?!」

「…………いえ、すいません。そうではないんです」

 

 亜音はそういうと相手の襟首を掴んでいる手を優しく両手で、包み込む。

 

「なんか少し元気が出ました、えへ」

「ぁ、ああアア?!き、気持ち悪りぃなテメェ!?」

 

 生々しい少年の手に、思わずのけぞりながら手を振り解く男。

 だがその瞬間、亜音はギフトカードからある外套を出し、それを背に羽織る。

 少年が羽織りながら身を翻したその時、男が何かを言おうとした目の前を二つの文字が踊った。

 

「っぁ、……………オマエ……っ!」

「……………行ってきます」

 

 その二文字は少年から何かを説明する必要をなくさせた。

 それはこの箱庭において、修羅神仏の名前、階層支配者、地域支配者などの実績と知名度がなければできないことである。

 すなわち、彼の背に宿るその2つ文字はそれらに匹敵する存在格であるということだ。

 瞬く間に夜空の星々に溶け込むように消えた少年を見送った男は、喜びよりまだ幼さが少し見えた少年への心配と応援を込めた握り拳を空に向けた。

 

「っ、なんだよ、仙神サマかよぉ…………………」

 

 今の下層で仙神を知らないものはいない。最強の階層支配者である白夜叉と出た慰霊会は特殊なギフトであらゆる地域に中継放送され、少年の顔は一気に広かった。加えて少なからずの反発があったとはいえ、それよりも圧倒的に亜音に救われた者の方が多い。まだ少年でありながら英雄になった彼にこの世界の希望をみてもおかしくはないだろう。

 だから悪態を吐きながらも、彼の表情は笑顔だった。

 

「生きて帰ってこいよ」

 

 

 






次回予告は特になしっ!!

榊原亜音の生き方、この物語からからみんなに伝えられることを伝えていけたらいいなと思っています。
物語の中でも、感想でも偽善と呼ばれた彼はこれからどうなるのでしょうか?

そして彼から受ける影響で変わっていく同士たちはどんな答えを出すのでしょうか?
次回をお楽しみに!!
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