新・問題児と人の神が異世界から来るそうデスヨ 作:行くよ!!!!
「〝魔王〞………やはり話が通じる相手ではない、か...............」
噴水広場を越えて半刻ほど歩いた後、〝ノーネーム〞の居住区画の門前に着き、黒ウサギが門を開けた。
途端、乾ききった風が五人と一匹を出迎える。皮膚が傷むのを感じる。簡単に風景を説明するなら、砂漠にチラチラ見える遺跡、砂漠にボ ロ小屋を立てたような風景だ。はっきり言って、もはや人が住める環 境ではない。
美しく整備されていたはずの白地の街路は砂に埋もれ、木造の建築物は軒並み腐って倒れ落ちている。要所で使われていた鉄筋や針金は錆に蝕まれ折れ曲がり、街路樹は薄白く枯れて放置されていた。
問題児の三人もそれなりの感想をこぼしていた。十六夜にしても無理に笑みを作っているように見える。しかも、この風化しきった光景は、“三年前”に作られたものらしい。
風化には時間という概念の壁がある。それを“無視”して、この場所は何百年も時間経過して滅んでいたのだ。その事実はつまり、魔王の中に〝時 間〞または〝物の寿命〞、〝風化〞の概念を操る者がいるということ。この世界はなんでもありのようだ。
そこに内なる者が答える。
『断言するぜ、魔王に話は通じねぇ..................迷うな、亜音』
「..................」
亜音は答えない。亜音は口を動かすより頭を動かし、思考を休まず動かす。そして、観察を怠らない。誰がいつ、ヒントをくれるとも限 らない。亜音はどんな結果になろうとも諦めないことをいつだって選んできたのだ。
『君という例外がいることを信じるよ............』
そう言った亜音に内なる者、〝蚩尤〞は自信満々に満足げに答える。
『ならまずは、手が出ないほど“ボコボコ”にしてやれ、それが攻略法だぜ』
『どうも。...............ソースは君でいいのかな?』
それ以降、〝蚩尤〞から声を聞くことはなかった。
亜音は悔しがる 〝蚩尤〞を想像して、微笑むのだった。
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それから、水樹の苗を貯水池に設置し、亜音は二十人前後もの子供達とじゃれあった。問題児の三人は元気百倍の子供達にあからさまに引いていた。亜音がそれを“同族嫌悪”と何気なく呟き、三人は復讐に燃えていた。
その後は、月明かりの下。部屋の窓であろう四角い窓ガラスが多く設置された、本拠となる巨大な屋敷にやってきた。
屋敷の脇には別館があり、そこには百二十人もの子供達が住んでいるとのこと。
とりあえず、黒ウサギが凄惨な大浴場を掃除している間に、四人は本拠の屋敷内から一部屋を選び終わり、来客用の貴賓室に集まった。
『お嬢...............。ワシも風呂に入らなアカンか 』
「駄目だよ。ちゃんと三毛猫もお風呂に入らないと」
「...............ふぅん 聞いてはいたけど、オマエは本当に猫の言葉が分かるんだな」
「うん」
『オイワレ!お嬢をオマエ呼ばわりとはどういうことや!調子乗るとオマエの寝床を毛玉だらけにするぞコラ!!』
「駄目だよ、そんなこと言うの」
「ぷっ」
「「「ん?」」」
亜音はつい笑ってしまった。十六夜が毛玉だらけの部屋を見て、『何じゃこりゃー!』と叫ぶところを想像してしまって。
亜音はすぐに真顔になり、窓の外に視線を移す。妄想で一人笑いとか馬鹿すぎるから誤魔化したのだ。
そこへ、三毛猫が亜音の膝の上にお座りし、ニャーニャーと鳴く。
『おいコラワレ!今笑うたろ!オイ』
「三毛猫!駄目、」
『しかし、お嬢〜』
亜音は三毛猫に視線を移し、三毛猫の顎を指でクリクリやって、
「関西弁とか、この猫、面白いね?」
『お、オマエ、ワシの言葉が .........あ!そこはぁ〜!ダメじゃぁ〜』
「え!............もしかして、分かるの?」
耀は目を見開き、口を開いて驚く。
亜音は三毛猫を撫でまくり、答えた。
「ああ、そういえば言ってなかったな。」
「じゃあさっき笑ったのは、なんでかしら?」
飛鳥はさも興味ありげに聞いてきた。
なにせ、十六夜に向かって三毛猫は鳴いていたのだ。そして、その内容に対して亜音が笑っていたのは明白。
十六夜は獣の目で亜音を睨みつける。
「ノーカウントで、よろしく」
亜音はそう言うと、三毛猫を放す。
三毛猫は少し鼻息を荒くして、主である耀の所へと駆け寄る。
『ハァハァ、アヤツできるでぇ、フゥ』
「ムッ」
『お、お嬢!、チャイます!お嬢が一番デス〜!!』
耀がほおを膨らませたのを見て、三毛猫は弁明する。
亜音はそれを微笑みながら見つめ、飛鳥と十六夜は亜音が笑った先ほどの、三毛猫の言葉が気になるのだった。
しかし、そこへ黒ウサギがやってきた。廊下から声を発し、貴賓室に入ってくる。
「湯殿の用意ができましたぁ!お先に女性様方からどうぞ!」
「ちっ...............亜音君、後でこっそり教えてね?」
「ぬっ」
十六夜はあからさまにではなく、少し眉を潜めて機嫌を悪くする。
亜音は苦笑して、三人と一匹を見送ると、十六夜に言った。
「外に三人、頼んだよ」
「なにカッコつけて言ってやがる、亜音も来い」
「.........リョーカイ」
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その夜は十六夜の日だった、ではなく十六夜の月だった。
しかし、十六夜は『俺の時代だぁ 』のごとく大地を轟かす。
亜音はその様子を別館の壁に寄りかかりながら見つめる。
それにしてもと、亜音は思考する。自身も超絶的な身体能力を持っているが、十六夜のパワーはそれを越えていた。小石を軽く投げただ けで地響きを立てさせたのだ。自分だったら半分は力を出さないとできないなと計算する。今のままでは力で十六夜には勝てないだろう。
そこへ別館から何事かとジンが慌てて駆けつける。
「ジン君?」
「ど、どうしたんですか?!」
「侵入者っぽいぞ 。例の〝フォレス・ガロ〞の連中じゃねぇか?」
その時、空中からドサドサと黒い人影と瓦礫。
意識のある者はかろうじて立ち上がり、十六夜達を見つめる。
「くっ、…………なんというデタラメな力............... 蛇神を倒したというのは本当の話だったのか!」
「ああ............これならガルドの奴とのゲームに勝てるかもしれない」
敵の姿を三人は視覚で確認した。
侵入者の姿はそれぞれの一部が人とかけ離れたものだった。
犬の耳を持つ者、爬虫類のような瞳を持つ者。
十六夜は物色し、亜音は少しため息をつく。亜音ははっきりと分別して判断するが、この人たちの場合は、頭が悪いとしか言いようがなかった。なんで、人質の安否を確認しないのだろうと。現実世界だと録音機やカメラなどがあるので騙されてもしょうがないが、この世界ではしかも、相手がガルドなら、頭を少し動かせば、人質の安否を確認できた筈だ。命を掛けて戦う意思があったならば。そして確認するという行動、取引、作業をしていたならばガルドも人質の扱いには多少なりとも慎重を喫していたかもしれないのだ。たとえ結果的に確認できなかったとしても、確認できるまで新しい人質に手を出すべきではなかったろう。
亜音の分別とは、簡単に言えば、悪い人にも同情するということ。人を殺した者には、その原因を解決してやり、罪を償わせる。でも、今回は善悪ではなく、頭が悪いかいいかの話だった。つまり亜音は同情はしていても呆れ返っていた。同情している相手はもちろん死んでいった子供達だ。
それを十六夜も分かっているから、つまらそうに言ったのだろう。
「お前らの人質な。もうこの世にいねえから。はいこの話題終了〜」
「なっ............ 」
ジンは血相を変えて叫ぶ。
「十六夜さん!」
「隠す必要あるのかよ。お前らが明日のギフトゲームに勝ったら全部知れ渡ることだろ?」
「そ、それにしたって言い方というものがあるでしょう!」
「ハッ、気を使えってことか?冗談キツイぞ御チビ様。よく考えてみろよ。殺された人質を攫ってきたのは誰だ?他でもないコイツらだろうが」
ジンはそこで気が付く。
もしも人質を救うために新たな人質を攫ってきていたのなら、殺された人質の半数は彼らが殺したと言っても過言ではない。
「そ、それでは人質は............ 」
「............はい。ガルドは人質を攫ったその日に殺していたそうです」
「そんな............... 」
侵入者は全員、その場でうな垂れる。彼らは人質のために今日まで手を汚してきたというのに、その人質がもうこの世にいないと知った衝撃は計り知れないだろう。
おそらく、人質を攫っても生きているのだから、いつか〝フォレス・ ガロ〞を超えるコミュニティが現るのを待ち、無駄な命を散らすのを阻止したのかもしれない。いつか助かると、それまでの辛抱だと。
それが間違いだったのだ。自分が動かなければ子供達は助からない、その事実から目を背けてはいけなかったのだ。本当に責めに責めきれない事柄だと亜音は吐き捨てる。
と、亜音がそんなことを考えている間に、十六夜は元気良く宣言し ていた。
「さあ、仲間のコミュニティに言いふらせ!俺達のジン=ラッセルが全ての〝魔王〞を倒してくれると!」
「わ、わかった!明日は頑張ってくれジン坊っちゃん!」
「ま.........待っ.........!」
ジンの叫びも届かず、あっという間に走り去る侵入者一同。
腕を解かれたジンは呆然自失となって膝を折るのだった。
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亜音は、ジンによってドッタンバッタンと連れていかれる、嬉しそうな笑みを浮かべた十六夜を見送りながら、ゆっくりと歩く。
その時にちょうど、近くの扉から黒ウサギ、飛鳥、耀、の三人が姿を現した。
「あら、亜音君、どうしてここに?」
「ああ、ちょっとね」
「それより、今の足音は?」
「青春の足音、かな?」
「なにそれ、むさいわ」
飛鳥の言葉はキツイ。亜音は苦笑を浮かべてやり過ごす。
そこで、亜音は気付く。飛鳥はその年にしてはいい発育をしてい て、胸のふくらみがネグリジェの上からでもわかった。耀はスレンダーで清掃感があり、男なら一度は穢したくなる女の子。黒ウサギはグラマー玩具、といえばわかるのだろう。
「ネグリジェか、三人とも良く似合ってるね」
「そ、そう?ありが」
「どんなもんだい」
飛鳥は耀にセリフを被らされ、ムッとする。
亜音は耀のノリが面白く、声を小さくあげて笑っていた。
亜音は後ろで大人しい黒ウサギに声を掛ける。
「どうしたんだ?黒ウサギ」
「な、なんでもありません。それでは失礼します」
黒ウサギはそう言うと自室へと戻って行った。
三人は首を傾げるが、飛鳥と耀は疲れたのか、あくびをしながら部屋へと戻っていった。
亜音は少し心配になるが、それより先にジンという少年が心配だったので、黒ウサギの部屋を後にし、本拠の最上階にある大広間を目指 した。
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黒ウサギの自室。
黒ウサギはあることを思い出し、不安に駆られていた。
それは、初めて黒ウサギが四人と出会った場所、湖での出来事。
あの時、黒ウサギは茂みに隠れていたのだが、突然、亜音と目があったのだ。その時の亜音の瞳は一瞬ではあったが、それでもはっきりと鮮明に覚えている。
さらに明日、亜音は〝サウザンドアイズ〞支店で白夜叉と邂逅する。それもサウザウンドアイズ1日体験のような事をするのだ。
加えて“サウザンドアイズ”は特殊な瞳を持つコミュニティ。もし、亜音の目のことを知られたらどうなるか、黒ウサギは考えたくもなかったが、どうしても不安が拭えない。
「はぁー............どうすれば............信じるしかないのでしょうか」
黒ウサギは、一人で自問自答を繰り返してはため息をつくをしばらく続けるのだった。
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屋敷、最上階・大広間。
「終わったー ?」
「遅えーていうかどこほつき歩いていた、コノヤロー」
十六夜にそう言われながら、亜音は頭を掻き苦笑する。
そして、視線をジンに移して、一言。
「スイッチが入ったみたいだな、さすがは優しい十六夜兄さん」
「ああん?一言余計だっつーの」
「そうか?」
「そうだ............さあて、二番風呂頂くかー」
十六夜はあくびをして身体を伸ばし、大広間より出て行った。
気が利く優しいお兄さんだな、と亜音は素直に十六夜を評価する。
しかし、照れ臭いのか、十六夜は亜音に“慰め”を押しつけたのも事実。それを思うと亜音は、笑わずにはいられなかった。
「ジン君、一つだけ言っておくよ」
「え、は、はい」
「十六夜を見返したいなら、頭を使え。これから魔王を相手にするんだったらなおさら知識は必要だ。つまり、十六夜魔王を知識と勇気で打倒せよってこと、だ」
「.........亜音さん」
「頑張ってくれよ、リーダー?」
「は、はい!」
リーダー、そう呼ばれるということは、まさにそういうことだろう。
此処からが始まりだ。
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亜音は自室へと戻り、トレーニングウェア一式をリュックの底から取り出す。
サッカーの練習着だ。白の半ズボン、黒の長袖インナーのハイネック、靴はいつも履いている黄色と白のスニーカー兼ランニングシュー ズ。その後、青黒のジャージを着て、外へと出る。
先ほど騒動が起きた“別館前”で来て、ストレッチを開始する。
「さて、やりますか」
基礎ウォーミングアップ、筋肉維持をするために、基本の腕立て伏せ、腹筋、背筋、かかと上げを各500回もこなして、いい汗を掻いたと亜音は呟き、ジャージを脱ぎながら休まず、片手逆立ちをし、腕立て伏せをする。
その後はひたすら、座禅を組み、力のイメージを何百回と繰り返す。
空想の敵や、十六夜、〝蚩尤〞、相手に剣を振り、力を振るう。勝利のイメージを幾つも作り上げていく。
イメージはとても大事なことである。それは咄嗟に良い判断をしたり、場面を見ただけでどう動けばいいか、思いつくのではなく身体が勝手に動いてくれるようになる。つまり、思考より速く身体を最適に動かせるようになるということ。例えば、鼻水が出ていた時、ティッシュを探すのはしょうがないとして、ティッシュを視界にいれた時、おそらくその時、皆はなにも考えずに手を動かし、ティッシュを取るだろう。それが入口なのだ。
ここまでで、四時間経過。
その後は、剣を生成、剣を振りひたすら舞う。本当は一人戦闘をし たい亜音だったが、子供達を起こすのは嫌なので、自粛した。 一人戦闘とは黒い霧と“蚩尤”の力で、剣を操り戦う。対多勢を想定したもの。 一人デュエルと一緒にしないように。
その後はたまたま見つけた書庫に行き、何冊か借りて、別館前で壁 に寄りかかり月明かりの下で読みふける。
「なぜか、神話って背徳な話が多いな、神は変態ばかりなのか、それとも欲に正直者?」
亜音は分厚い本と睨めっこして、日の出を迎えた。
その後、書庫に本を戻し、大浴場に汗を流しに行った。
しかし、その後、一人の少女の叫び声が大浴場より響き渡ることになった。
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二時間後。大浴場。
「きゃあああああああああああああ!!あ、ああ…っ」
狐耳の少女は大浴場を駆け足で出て、黒ウサギの自室へと向かう。
途中で黒ウサギと遭遇し、事の顛末を話すと。黒ウサギは猛ダッシュで廊下を走り抜ける。
騒ぎはどんどん広がり、大浴場には黒ウサギ、問題児三人、ジン、狐耳の少女の六人が集結する。
湯けむりは大浴場の扉が開いているおかげで、自然と消え、晴れていた。
「事件の匂いがするわ」
「事件ね」
「自殺したか、」
「ちょ、御三方!あまり怖い事言わないでくださいっ...........しかし」
大浴場の風呂に一人の逞しい青少年が、風呂から上半身を投げ出し、腕は脱力していた。
さっきから、近くで声を発してもウンともスンともいわない。
そこに冷静なジンが、亜音の背中や腕などにある傷跡、切り傷を見 て声を掛ける。
「リリの言っていた傷は、少なくとも死因ではないですね、それに」
ジンは投げ出されている亜音の右手の脈をはかる。
「亜音さんは生きています..................おそらく」
「寝てるだけだな」
「「「はぁ〜」」」
リリ以外の女性陣全員からため息が零れる。まさか、あの亜音が寝こけているだけだなんて思いもよらなかったのだろう。
十六夜は軽薄な笑みを浮かべて、口を開いたが目が笑っていない。
飛鳥と耀も機嫌が悪い。無理もない。朝、騒ぎに叩き起こされ心配して来てみれば、ただ風呂場で寝こけてるだけだったのだから。
「それにしても、亜音君って一体どんな世界から来たのかしら?」
「すごい数の傷、それに獣より筋肉質、クマも一目見たら逃げ出す」
「百戦錬磨って奴だな」
「と、とにかく運びましょう、いざよ」
「イヤだね............めんどくせぇ! 俺が一発景気よく起こしてやる」
けらけら笑って言うが、十六夜の目は継続して笑っていない。というより、リリとジンと黒ウサギ以外、十六夜に賛成だった。
リリは皆の怖い顔に怯えてい る。
ジンは困惑していたが、止められない。
「亜音、悪いな!」
十六夜は背中めがけて手を振るう。おそらく決まれば、一生、手形が残ってしまうかもしれないほどの痛みを受けて、亜音は飛び上がるだろう。
しかし、振るった瞬間、十六夜は浮遊感と共に、お風呂の湯へとダイブしていた。
その時、亜音は目覚めた。
「あ、はぁあ〜...............っんっと!............ん?どうした?」
皆、十六夜が片手で宙へ放られたのを見て、某然とするのだった。
ザパーンと起き上がる十六夜からは湯気が怒りを表すように立ち上る。
「亜音、テメェー起きてたのか?」
「今、起きたとこだが」
「嘘つけゴラ、それとも覚えてないとでも言うつもりか??」
十六夜は全身から水を滴らせ、ビショビショな服を体に張り付かせていた。
「覚えてない」
「よし、決めた。てめーはここで、ゲームオーバーだ!ごらぁああ!」
「冗談だよ、起きてはなかったけど、殺気と音には敏感でね、反射で防衛するんだ」
「........................お前、軍人か?」
その言葉に問題児二人も口を飲む。それと同時に納得もしていた。 あれほどの肉体と傷跡は、意味合いは違うが、軍人という職業病みたいなものだと。
リリは首を傾げて、黒ウサギに聞いた。
「ぐんじん、ってなんですか 」
「........................“戦争”に行く人の事です」
「っ、...............戦争」
それで、軍人というものを少なからず知ったリリは少し強張った顔で、亜音を見る。
戦争はギフトゲームとはわけが違う。最初から賭け合うものは決まっているのだ、命と。奪い合うことが日常となった世界のことだ。
亜音は風呂に浸かったまま、微笑んでいる。それが逆に怖かったのだろう。リリは一歩後ずさる。飛鳥と耀も軍人というものがどういう事か、わかっている。そして疑問として出てくるのが、今までにいったい何人を殺してきた─────?
亜音は十六夜の問いに普通に答えた。
「違うよ、俺はただの高校生だ」
亜音ははっきりとそう言った。そして、側に置いてあったタオルを湯の中で腰に巻き、亜音は立ち上がる。
そして、ゆっくりとみんなの横を通り、風呂を後にした。
全員がそんな亜音を見送ることしかできなかった。
亜音の肉体から迸るオーラが、なにも聞くなと言っているようだった。
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─────フォレス・ガロ本拠地。
無駄に豪奢な執務室でガルドは一人、物に当たり散らしていた。
「くそ、くそ、クソガァあああ!!」
散乱する彼の私物。その上に崩れ落ちながら肩を震わせていた。
つい先ほど、従者から報告を受け、ノーネーム相手に人質作戦が失敗した事を知ったのだ。
加えて相手は超強力なギフトを有する。すでに始まる前から勝負が見えていた。
「後ろ盾も使えん、…………今までの苦労が全て台無しだァ!」
なぜこうなってしまったのか、何回この問答をしたのかわからない。
元々、彼は大森林、自然界の誇り高き獣。その爪と牙で箱庭への道を切り開き、理性と人の霊格を得た。
しかし悪魔、魔王の傘下になってから─────どうもおかしくなった。
ガルドは、部屋の隅に置かれた紫色の水晶を見つめる。
「くっそ、…………私の……“妻と子供”を返してもらうまでは負けるわけにはいかんのだ………ッ!」
水晶の隣に飾られた写真立てには三人の家族写真があった。
暗くて見えないが、ガルドには“見えていた”。目を瞑れば、思い出が溢れてくる。
もう四年近く会えていない、声すらも聞けていない。
そんな時だった。
『やっはろ〜、ガールードくぅーん、起きてますか食べてますかおしっこしてますか、喋れぇーこのバカ虎くぅーん?』
現在の殺伐とした空気の中に響いたのは、声は高くも少年のような声だった。
ガルドを小馬鹿にしたようなセリフだったが、彼は水晶に縋り付き叫ぶ。
「ま、待ってたんですよッ!! どうして半月近くも音沙汰がなかったんですかー!!」
『あはははこれは参ったな!僕結構、好かれてたんだねー?ごめごめーん!でも大丈夫。君の奥さんと娘さんは元気にしてるぞ〜?』
「……え、私の子供は確か、男の子ですよね?前そう“言ってた”じゃないですか〜、」
ガルドは目の端に浮かんだ“嬉し涙”を拭きながら、そう言った。
彼の子供は生まれる前、妻のお腹に宿したまま“上層”へと召し上げられた。
そのかわりもう一つの後ろ盾を得ることに成功し、もう一つの後ろ盾のこともあるから表立っては難しいがこうして助言を受けれているのだ。
しかし、彼の言葉に水晶に移る黒い影の少年?は、
『おぇ?そうだったっけ?…………』
「え、……?」
少年?の素の声で響いた疑念。
その様子にガルドは一抹の不安がよぎる。何せ、彼の“助言”のおかげでコミュニティを幾つも傘下に加えさせることができたのだ。同じ思考、思想、生き方を真似ればこの先の未来など疑うこともなかった。だからこそ不安になるのだ。
まさか、先ほど言っていた家族の無事については……………、
『あ〜…………そうだっだそうだった!君の子供は男の子だったね、部下に聞いたらそうだよって怒られちった!』
「そうですよー!!脅かさないでください!」
『脅かす?…………………………………なにそれ?』
途端、空気がピリつき始める。
少年?の声音が少し厳しいものになったからだろう。
ガルドの心臓が一気に跳ね上がる。
『どういうことだ?…………君は色々と教えやった僕の事を疑っているのか?』
「そ、そんなわけないじゃないですか!ただちょっと四年近くも会えてないので、病気とか心配で…………!すみません!!」
水晶に向かって土下座するガルド。
しばし、凍りついたような沈黙が流れるが、
『ぷ、くくくははははは!!ごっめんじょーくじょーく、上層ではこれがとれんでぃーらしいから!』
「あ、あははは………そうなんですね、!」
『可愛い可愛いガルド君だもん!可愛い子はイジメたくなるもんさ!だからさ、今回手を出してきたノーネームは潰したいよねー!』
空気が軽くなった途端、ガルドはホッと息を吐きながら快活な笑みを浮かべる。
あちらから本題を切り出してくれたことに、運が回ってきた事を悟ってたのだろう。
釣り餌に魚が飛びつくが如く、ガルドは嬉々に喋り始める。
「そ、そうなんですよ!生意気にも我々に手を出してきたんで、これから少し懲らしめようかと………!ただ、私の力では少々相性が悪いようでして………」
言葉を選んで発言するガルド。
上層の実力者は基本、傘下に対しては興味本位で力を貸すことが多い。失言でもしようものならすぐに廃棄されることになるだろう。
それも関係があったことすら白紙にするかのように、跡形もなく、徹底的に。
『へーそうなんだぁー………じゃあ僕の力を貸そうか? だけどその前に相手の子が気になるな〜?』
「あ、はい! 一人はその精神に訴えるようなギフトでして、相手を服従させるような力、といえばわかりやすいでしょうか?あともう一人は、少女のような外見をしていますが、凄い怪力を“持っていました”。」
『ふーん……………なんかあんまりパッとしないかな〜、みんなにウケ悪そうだし』
「??………えーと、どういうことでしょうか?」
『あーこっちの話こっちの話。………でもまぁ勝てなくはないよね?』
少年?はうんうんといいながら、水晶の中でガルドを指差す。
だが、真剣に考えているようにみえて、これはあまり手を出さない時の感じだと悟るとガルドは焦るように口を開く。
「でですが、私の部下、傘下のコミュニティの奴らでは足手まといにしかならず、私一人で戦うには部が悪過」
『あー!決めつけは良くないぞーガルド君ならできる!できる子だと信じてるよ?それに頑張らないと上にも行けないし、家族にも会えないよ〜?』
ぐっ、とガルドは握り拳を作る。
こう言う時はもうダメな時だとガルドは分かっていた。いつだってこの場合は自分でなんとかしてきたのだ。たとえこの手を赤く染めようとも気にせず、次第に気になることもなくなった。
加えて弱肉強食、ガルドはかの少年?に意見するほどの強さを持ち合わせてなどいない。
故にもうただなんとしてもやるしかない。家族のためにも、この屋敷を守るためにも。
「ご心配には及びません…………見事、貴方から授かった知恵と誇り、恩義に報いて勝利を得てみせましょう」
『そうこなくっちゃ!あ、そろそろ僕は行くよ!そっちにお客様も来たみたいだし!!じゃ─────………バイビー』
一方的に喋り倒してすぐに去る少年?。
水晶は紫色を失い、黒く暗くなる。
ガルドは結論、協力は得られなかった、だがそこに落胆している場合ではない。
窓の外に視線を移せば─────1人の金髪の美少女が立っていた。
紅き瞳、黒き翼、妖艶な舌。
窓を開けて入ってきた少女は、スカートを少したくし上げ、告げた。
「こんばんは、ガルド・ガスパー殿。……………困っているのではと思ってきてみたよ」