最近、咲耶の様子がおかしい。
摩美々は、咲耶の用事の多さに不審感を抱いていた。
最近、茜の様子がおかしい。
紬は、茜の用事の多さに不審感を抱いていた。
彼女たちは隠れて何をしているのだろうかと、追いかけてみるお話

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穏やかで、賑やかなお茶会

 最近、咲耶の様子がおかしい。

 いつも通りの咲耶で何も問題はないのだが、最近やたらと用事が多い。

「どしたのまみみん、なんか難しそうな顔してるよ?」

「べつにー」

 反射的に返してしまったが、一目で分かるほど難しい顔をしていたのか。

「さくやん最近ちょーっと用事が多いよねえ」

「分かってるんじゃんかー」

 三峰はいつもこうだ。分かっていて人をおちょくる。そんなところに腹が立つが、同時にそんなところが三峰らしい。

 そんな三峰はどうでもよくて、今は咲耶のことを考えなくては。

「いーこと思いついたー」

「まみみんがいいこと思いついたっていうときは、大抵ろくなことじゃないって三峰知ってるよ」

「ふふー」

 思いついたなら即行動あるのみだ。ネタは新鮮なほどおいしい。

 

 最近、野々原さんの様子がおかしい。

 様子がおかしいと思うのは少し違うかも知れない。何年も一緒に過ごしているわけではないので、もしかするとこれが普通の野々原さんなのかもしれない。しかし、いくらなんでも用事が多すぎやしないだろうか。

「つむぎ、どうかした?」

「大神さん。いえ……」

 大神さんにどうかしたと聞かれるということは、表情に出ていたということだろう。

「今のつむぎ、なんだかつらそう」

「いえ、つらいというほどのものではないのです」

 そうだ、私の思い込みかもしれないなら、大神さんに聞いてみればいいではないか。

「大神さんは、野々原をどう思いますか。最近少し用事が多い気がするのですが」

「ん? んー。いわれてみればそんな気もしなくもないよーな?」

 大神さんを困らせてしまった。いまいちな反応を見ると、やはり私の勘違いのような気もしてくる。そうして話題を切り上げようとした時だった。

「気になるなら、付いて行ってみよーよ!」

 大神さんがそう言うやいなや、私の手を引っ張る。

「大神さん、ちょ、ちょっと待って」

 私の声が聞こえているのかいないのか、どちらにせよ大神さんがそれで止まることはなかった。

 

 

 

「おや、待たせてしまったかな」

 事前に話し合った待ち合わせ場所には、すでに茜がいた。待ち合わせ時間には、まだ早い。

「茜ちゃんも今来たとこだよー。って、リア充みたいな会話!?」

 茜は帽子にサングラス。もう暖かくなってきたにもかかわらず厚手の上着とパンツスタイルで、いつもの雰囲気とは違いまるで男装のような格好をしていた。

 茜なりの変装だろう。たしかに、今や知らない人はいないくらいの有名人だ。変装でもしなければ街はたちまち大混乱だろう。

「咲耶ちゃんはそんな格好でうろついてて平気なの?」

 茜の服装を眺めている間、茜からも見られていたようだ。

「私は茜ほど人気はないからね。もし有名だったとしても、そういうのには慣れているからね」

「そりゃあそうだろうけどさあ。アイドルなんだし多少の変装くらいはしようよ」

「ふむ、たしかに茜な言うとおりだね。でも困ったことに、私は今変装できるようなものは持ってないんだ。だから――」

 そう言いながら、茜の顔に手を伸ばす。突然の出来事に茜は目をつむるが、目標は顔ではなくそこにぶら下がっているものだ。

「これを貸してもらおうかな」

 茜からサングラスを外して自分につける。

「うわお、ただでもかっこいい咲耶ちゃんがよりダンディになっちゃった」

「ならサングラスを外した茜は、よりかわいくなったかな?」

「にゃはは、そうかにゃ~。って、かわいさで変装がばれちゃうよ!」

 茜とは最近よく会うようになった。きっかけは以前のテレビ収録だった。スタッフの手違いで765プロと同じ楽屋になってしまったときだった。私と同じようにその空間を眺める茜が気になり、私がお茶に誘ったのが始まりだ。実際にプライベートで話してみると、近い趣向を持った人だった。アイドルとしての方向性やファンからのイメージは真逆に近いはずなのだが、ついつい話に花が咲いてしまう。

「それは困ったね。それじゃあ、ばれる前に移動するとしよう」

 変装がばれるというのも半分は冗談のようなものだ。その程度でばれているのならば今頃この場所は人で溢れかえっているだろう。

 茜といると退屈しないな。そう思いながらいつもの喫茶店へと足を運ぶ。

 

 

 

「えっ、何あれ。もしかして……」

「かれしー?」

 おおう、肝心のところだけまみみんに言われてしまった。

「いやいや、まさかさくやんに限ってそんなこと」

 とは言ったものの、思い当たる節がないでもない。

 相手はさくやんよりも大分小さい子だし、いつも女の子をたぶらかせているみたいにしていても違和感がない。

「あ、移動したー」

「わざわざ待ち合わせていたってことは、そんなに遠くには行かないはず。行くよまみみん」

「えー、もういいかなあって」

「そんなこと言わないの! ほら、いくよ!」

「仕方ないなあ」

 

「あれは喫茶店、ですね」

 野々原さんが顔立ちのいい男性と二人で待ち合わせ、喫茶店へ。

 まさかこれは……。

「あかね、もしかしてデートなの?」

「そ、そんなことあるはずがっ」

 アイドルとして、あるまじき行為だ。もしバレてしまってはファンの方々の期待を裏切ってしまいかねない。非常にリスクの高い行為。

 話し声こそ聞こえなかったものの、初対面という反応ではなかった。最近用事と言っているのはこのためだろうか。

「ねえねえ、たまきたちも入ろうよ」

「ええ、え?」

 考え事をしていたせいで生返事をしてしまったが、大神さんは今、入ろうと言った。それはつまりこの喫茶店にということで、こっそり跡をつけた身としては野々原さんにバレてしまうリスクがあるわけで。

 などと考えている間にも、大神さんは私の手を引っ張り、気がつけば喫茶店の中へと足を踏み入れていた。

 

 

 

「レモンティー、アイスで」

「アイスコーヒーをお願いするよ」

「かしこまりました。アイスレモンティーと、アイスコーヒーですね。お砂糖は事前にお入れしますか?」

「ううん、いらないよ」

「私もかな」

「かしこまりました。少々お待ち下さい」

 注文を済ませ、店員が去ったのを見届けてから口を開く。

「最初に来たときも行った気がするけれど、咲耶ちゃんよくこんな落ち着いたお店なんて知っていたよね」

 店内は広々としているにも関わらず、客は多くない。二割も埋まっていないのではないだろうか。

 周りを見回しても、商談みたいなことや、おばさま方の雑談がなされている。あとはチラホラと学生がノートや教科書を広げて勉強しているくらいだろう。

「そうだね。私も知ったのはたまたまだけれどね。人も少ないし静かで落ち着く。普段は私も茜も大勢の人たちに囲まれて過ごしているからね。たまにはこういう場所で息抜きもしたくなるさ」

「うんうん、わかるよ。まあ茜ちゃんは普段から茜ちゃんが一番喋って可愛いから、咲耶ちゃんの意向に添えるかは分からないけどね」

 こちらのプロダクションで五本の指に入るうるささだろうからな。

「でもこういうところに来て落ち着くと、逆に落ち着かなくなるというか……」

「わかるよ。やっぱりあの空間は、皆がいるあの空間は楽しいんだなと再認識できるよ」

 ふふふ、と口に手を当てて微笑みながら言う。そういうことを素直に口に出せる性格もいいなあと、嫉妬めいた感情がでてくる。しかし、それは咲耶ちゃんと同じはず。誰しもが誰しもに羨ましさや妬みは抱くものだ。

「お待たせしました。レモンティーとコーヒーです」

「ありがとっ」

「ありがとう」

「は、はい。失礼します」

 女性の店員さんに向かってウインクしながら言うと、真似をするように咲夜ちゃんもウインクをする。店員さんは顔を赤らめながら店の奥へと小走りで去っていく。おお、これはダメージ高そうだな。

 咲耶ちゃんは歩いているだけで女性に囲われるような人物なのだ。そんな人物に好意を向けられればタダでは済まないだろう。タダで済まなかった例が目の前の店員さんなのだ、南無。

「でも、今日は少し騒がしくなりそうだね」

 騒がしい常連でもいるのだろうか。いるとしたら今ここにいる二人が一番騒がしい気がするが。

 そう思いつつも、周りを見回すと目立つ水色の髪とオレンジの髪が並んで座っていた。それも水色の髪、つむりんの方はしきりにこちらを気にしている。

「なるほどねえ、これは確かに」

 その隣にはテレビで見たことのある二人が並んで座っている。こちらも結華ちゃんの方はしきりにこちらをチラチラ見ている。

「尾行なんてする悪い子たちには、少しばかりいたずらを仕掛けようか」

 

 

 

「うちにねつむりん……紬ちゃんって子がいてね」

 私の話?

 もともと話に耳を傾けていたが、会話がヒートアップしてきたのだろう。声量が少し上がって聞き取りやすくなった。

 大神さんに引っ張られるがままに喫茶店に入ったのはいいが肝心の大神さんは目の前で美味しそうにオレンジジュースを飲んでいる。

「ほんとにいつも頑張り屋さんで、茜ちゃんが見てないところでもひっそり練習しててね」

 な、なんでそんなことしっとるん!

 気付かれないようにと野々原さんが帰ったあとにひっそりやっていたというのに。

「それは偉いね。でも、それならうちの結華も負けてないよ。結華はいつも周りに気を使って、それも私たちに気が付かれないようにこっそりと立ち回るんだ」

 何を競っとるんよ!

 これは、嫌な予感がする。しかし、ここで取り乱しては気が付かれてしまう。なんとか、なんとか抑えて……。

「おお、結華ちゃんもなかなかやりますなあ。でもうちのつむりんの方が一枚上手かな。あの美しさは茜ちゃんとは違った方向性で宇宙一かわいいからね」

「それなら結華だって――」

「もうやめまっし!」

「ストーップ!」

 野々原さんを挟んで反対側からも同時に声が上がる。

「これはこれは。見事に息がぴったりだったね」

 見ればその人は、テレビでも見たことがある顔で、名前は確か三峰結華。

「これは引き分けかあ。残念」

 野々原さんの言う引き分けとは一体……?

 恥ずかしさに占拠されていた思考が少しだけ回復して、すぐに事態を把握する。

 不自然に大きくなった声。

 突然始まる身内自慢、それもここにいる人物だけが対象の。

 うちと三峰さんが同時に声を上げたことによって引き分けになる。

 遊ばれていたのだ。どちらが先に音を上げるか。そして、尾行していることにも気が付かれていたのだ。そうでなければこのような遊びは思いつけない。

 全てがこの二人の掌の上だったということに恥ずかしさがこみ上げてくる。どうしょうもなく、どこにぶつけるでもないこの気持ちをたった一言に込めた。

「なんなんっ!」

 

 

 

「それでー、咲耶はいつから気がついてたの?」

 私は結華と摩美々に挟まれるように、茜は紬と環に挟まれるように一つのテーブルで座ることになった。

「そうだね、教えてくれたのはここの店員さんだよ。注文を取るときにやたらと周りを気にしていたし、どの店員さんもなにかざわついていたからね。周りを見回してみたら、というわけさ」

「ようするにほぼ最初からじゃーん」

 そうとも言う。

「まみみのその髪、どうなってるの?」

 脈絡もなく質問を投げかけたのは環だ。ケーキのクリームを口につけながら言う。

「大神さん、口にクリームが」

「ん、ありがとうつむぎ!」

「ねえさくやー。私の口にもついてるからふいてー」

「摩美々のは違うだろう。それより、環の質問に答えてあげたらどうだい?」

「わたし子供にがてー」

 以前、小さい迷子の女の子にペット扱いされたことを気にしているのだろう。だからといって、その子供のまねをするのはよく分からないが。

 それはそうと、先ほどから結華がずっと黙ったままなのが気になる。

 褒めちぎり過ぎてしまっただろうかと顔を覗いてみると、にやけ顔を隠そうとして全く隠せておらず、アイドルとしては不格好な表情になっていた。

「結華ちゃん、大丈夫?」

「ひ、ひゃいっ、だいじょうぶでしゅっ」

 大丈夫ではなさそうだ。

「ほら結華、深呼吸して。すー、はー」

「すー、はー」

 何度か深呼吸した後、ため息を漏らしてから口を開く。一応落ち着いたようで何よりだ。

「765プロの大神環ちゃんと白石紬ちゃんと野々原茜ちゃん、さくやんにまみみんがお茶してる中に私なんかがいていいのだろうか。いや、よくない!」

 落ち着いていなかった。

「うーん、べつにいてもいいんじゃないかな?」

「さくやんは分かってないよ。事務所を超えたお茶会。テレビ番組とかだったら企画であってもおかしくないけれど、普段はライバル。そんな関係のアイドルがプライベートでお茶会しているところに立ち会うなんて、レア中のレア。一生に一度といっても過言ではないよ」

 ふむ、そう言われればそのような気もしてくる。

「あの、それは私たちとは敵対関係なのでお話はしたくないと……」

「と、言うことではなくてねつむりん。これは結華ちゃんなりに、もっと仲良くしたいなって言ってるんだよ」

 まさかの解釈にフォローを入れる茜。反応が早いのを見る限り、よくあることのようだ。

「そうなのですか。それでは、今後ともどうぞよろしくお願いいたします」

 紬は椅子を引き、座ったままだが丁寧にお辞儀をする。対して結華は頭を下げる紬に困惑してあたふたし始める。

「ど、どうしよまみみん!」

「あたししーらなーい」

 ズズズ、と空になった飲み物をすする。

「わ、私からもよろしくお願いしますっ。あだっ」

 盛大に机に頭をぶつける結華。

 結華が頭をぶつけたことに心配する紬。

 それを見てまたしても口にクリームをつけながら満面の笑みを浮かべる環。

 その様子を横目で見ながらふふーと笑う摩美々。

 そして、この雰囲気を満喫する私と茜。

 今日は、いつもとは違う。いつもよりも楽しいお茶会になりそうだ。


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