いずれ至る、極晃星に   作:馬の人。

4 / 4
今話より勘違いタグを追加いたしました。
ウルカヌス・グレイ視点以外だと確実に勘違いが入るので、
是非もなし。

話が想像の3倍くらい進まない……!
でもウェヌスちゃんの描写考えるのは楽しい……!

つまり、3倍文量書けばいいんだ!

そんなわけで中編です。
本編をお楽しみくださいませ!



夢現/Somnium 中編

「英雄」とは、何でしょう。

 

 

英雄、と言われて思い浮かぶのは何でしょうか。

 

歴史上、大きな分岐点を乗り越えた人物。

奇跡のような勝利をもたらす人物。

どのような状況でも諦めず、立ち向かう勇気を持った人物。

 

恐らくはこのほかにも、各人にとり、様々な英雄像があることでしょう。

 

 

――然しながら、(わたくし)自身にそれは当てはまらない。

傑物とされる現騎士団長、建国王、統一王ですらもが、

"英雄"には、不足。

 

私にとって"英雄"とは、個人を指す言葉。

 

他の全てに見捨てられた私を、

救い上げたのは"彼"だけだったのですから。

 

 

かつては、主を恨めしく感じたこともありました。

 

ああ神よ、なぜ私ばかりをお試しになるのか、と。

 

 

しかし、いまの私は違います。

 

――主よ。数々の試練の果て、私は真実を手にいたしました。

  全ては神の導きの賜物。

  我が生の尽きぬ限り、祈りを絶やさぬと誓います。

 

 

 

そう、私の人生(過去)は全て、英雄に――

 

――ウルカヌス様に出逢う為にあったのです!!!!

 

 


 

 

私は、物心の付いたころには既に

神座教会の孤児院に預けられておりました。

 

 

私の髪色は女神フォルティナの加護を示す、淡い金。

それが様々な噂を生みました。

 

さるやんごとなきお方の庶子であるとか、

精霊の落とし子であるとか、

あるいは行きずりの娼婦が産み捨てていったのだ、ですとか。

 

 

それを本人の耳に入るように噂するのですから、

聖職者も所詮は人間、と嘆くべきでしょうか。

 

 

さて、そんな私は"巫女"となるべく、

日々を祈りと修練に充てておりました。

 

「巫女」とは10年に1度、"混沌の森"に捧げられる供物のこと。

伝承では、そこには永く生きる龍が居り、

傍仕えを王国に求めたのだと。

 

しかし、10年で代替わりするはずの巫女が

生きて帰った記録は未だかつて無く、

実際には魔物に凌辱されて野垂れ死ぬだけであるとか、

10年の役目が終わった後、龍に食べられるのだ、など、

様々な憶測が語られていました。

 

いずれにせよ、巫女の命が続くことはない。

 

 

ただ、死ぬために育てられている。

それが私の、運命でした。

 

 

もっとも、私はそのことを悲観してはおりませんでした。

巫女に求められるのは教養と美しさ、何よりも清浄さ。

私は腐りきった職員たちから隔離され、

孤児と思えぬほどに恵まれた生活を送っておりました。

 

 

外出は禁じられておりましたが、衣食は十分に与えられ、

 

幼児に向かって、手慰みに振るわれる暴力。

 

あどけない少女たちを襲う、穢れた欲望。

 

肥えた職員と対照に、子供たちが抱く飢え。

 

そのどれもが、私に降りかかることはありませんでした。

だからそう、幼心に巫女の使命は代償なのだと、

思い込もうとしていたのです。

 

 

 

――けれど、そのような事情が子どもたちに理解されるはずがありません。

なぜ一人だけ優遇されているのか、という歪んだ平等主義。

向けられる視線は次第に悪意へと変わってゆき、

悪意が直接的な暴力に変わるまで、さして時間はかかりませんでした。

初めは素手で。次第に足で、鈍器で、火で。

私を傷つけることが正義の、閉鎖世界。

 

私の顔に手を上げた子は爪を剥がされ、

芋虫のように手足を毟られ見せしめとなりました。

 

しかし職員も、教団員たちも、見える場所に跡を残さなければ、

子供たちを注意したりはしませんでした。

 

私刑は子供たちを団結させ、自分たちより下がいると思い込むことで

反逆の意志を削ります。

職員にとっては都合がよく、止める理由もありません。

 

 

私が(すが)れるものは、主だけでした。

 

幸いにして、祈りの作法は教団員たちに

教え込まれており、困ることもありません。

 

日々の自由時間が、祈りの時間に変わるのは

直ぐのことでした。

 

「主よ、哀れな子羊を導きたまえ。」

 

ああ、神の声は聞こえません。

けれどほかに縋るものがない私は、

ただ一心に祈りを捧げたのです。

 

 

結局、私が巫女となる12の歳まで、

私刑がやむことは(つい)ぞありませんでした。

 

 

見せしめがあっても、平等の為という正義があっては

加減を忘れる者も時折あらわれます。

 

私を連れた教団員が混沌の森に向かった時、

既に右眼の視力は無く、片耳も聞こえず、

味覚は辛味を除き感じられなくなっておりました。

怪我の主犯は食事を禁じられ、飢えて、

最期には蛆の餌となりました。

皮肉にも、それ程の怪我をしても

私は健康体だったのですが。

 

 

 

「ああ、主よ、哀れな子羊を導きたまえ。」

 

それでも私は祈り続けました。

神が人を救うことなどないと、気付いていても。

 

――今思えば、心はとう(・・)に罅割れていたのでしょう。

 

 

 


 

 

私を乗せた馬車を置き去りに、

教団員たちが乗った馬車が急いで走り去ります。

 

それも当然のこと、ここは魔の森、混沌の森。

人間が立ち入れば、いずれ瘴気に侵され死に至り。

その遥か前に、魔獣たちに食い散らされるであろう場所。

 

澱んだ空気のなか聞こえてきた絶叫が、

彼らの最期を伝えました。

 

 

 

 

 

外に出る。

あるいは物心ついてから、初めての外出、でしょうか。

 

 

 

他にすることもなく、主へと祈りを捧げる。

もはや習慣となった祈りの姿勢。

 

 

 

ふと気づけば、周囲から生命の気配が消えていて。

そして響く、地鳴りのような足音。

遅れて聞こえる、木々の悲鳴。

 

 

――ああ、死がやってくる。

 

「主よ。まもなく御身が身許(みもと)に向かいます。

 哀れな子羊を――」

 

 

――突如、体が宙を舞う。

受け身も取れず、無様に地を這う。

 

幸い(・・)にして、周囲の枯葉や腐葉土がクッションとなり、

骨が折れることはありませんでした。

 

 

身体が動くことを確かめた私は、顔を上げ――

 

 

見て、しまったのです。絶望の顔を。

 

 

 

 

「ひ――、」

 

「ヒ……ぃぁああああアアアアア!?」

 

 

 

 

木々の隙間から覗き込む、巨大(おお)きな瞳。

それは縦に割れた瞳孔で、獲物()を縛り付ける。

 

その下に備えた煌めく(あぎと)は鋭く、

幅が2メトルはありましょう。

身に纏う鱗は鮮やかに煌めき、されどその殺意は隠せない。

 

 

 

 ――宝石竜。

 

 存在だけはさまざまな冒険譚で謳われる、

 全身に宝石の鎧を纏った、地竜の一種。

 

 存在が希少で、かつその身からしか手に入らない鉱物も

 あり、一獲千金の獲物として名高い。

 

 

 しかし、宝石竜を狩ろうとする冒険者はいない。

 宝石竜はその希少性よりも、危険性が有名だからだ。

 

 宝石で編まれた外殻は魔力を纏った金剛石(ダイヤモンド)月長石(ムーンストーン)

 それぞれ物理と魔法に強い耐性を持つ。

 その陰から伸びる黒曜(オブシディアン)の棘は、

 鋼鉄すら飴のように切り裂く。

 体の各所に配置された宝石たちは、対応する属性を

 反射する性質を持つ。

 

 地竜であるがゆえに熱息(ブレス)は放たないものの、

 強靭な脚力を用いた突進(チャージ)は何もかもを磨り潰し、

 極大な轍を残す。

 

 その攻防揃えた強さは格上殺し(ジャイアントキリング)を赦さず、

 上級冒険者のパーティでさえ出遭えば全滅を覚悟するという。

 

 


 

 

生を諦め、死を覚悟していたはず。

たった今、助かる術はないと理解したはず。

 

だというのに、私の体は。

死にたくないと、生を求め、叫んでいる。

 

これが、恐怖。

ひび割れた心から、光が漏れる。

 

 

"死を想え(Memento mori.)"

"生を想え(Memento vivere.)"

 

 

冷え切った魂に、火が燈る。

 

 

助けて、と。

誰か、と。

 

叫ぼうとした喉を、反射的に握る。

力を籠めすぎて呼吸が阻害されるが、

気にしてなどいられない。

 

 

――神は、人を救わない。

――人は、人を救わない。

 

 

たかが12年、されど12年。

 

手を差し伸べられることは無かった。

だからこそ、自ら手を伸ばす。

 

生を掴め。

生き汚くとも、足掻け!

 

 

"諦めないからこそ、奇跡(・・)は起こる"

 

 

咄嗟に手近な石を掴み、投げつける。

ダメージなど期待しない、意識が一瞬逸らせればいい。

 

宝石竜の瞳孔が僅かに蠢き、焦点がズレた気がした(・・・・)瞬間、

身を翻して走る。

 

未熟な体はすぐに悲鳴を上げるが、構ってなどいられない。

 

駆けっこに勝ち目はない。

なら前提(ルール)を覆せ。

 

勝利条件は生き残ること。

敗北条件は死ぬこと。

 

制限時間もなく、ルール違反もない。

 

 

――生存戦争(サバイバル)

 

 

 


 

 

 

気が付けば、空は分厚い雲に覆われ、

黒い雨が森を濡らしている。

洞窟の入り口にほど近いところで、

私は座り込んでいた。

 

逃げて、隠れて……私はまだ、生きている。

肌は切り傷だらけ、気力も体力も擦り切れて、

お仕着せの巫女服は襤褸布(ぼろぬの)のよう。

それでも、生きている。

 

そろそろ日没か、と空を見上げて、

既に方角がわからないことに気づき苦笑する。

 

 

 

 

予感がする。

もう、この洞窟は見つかっている。

 

まだ生きていられるのは、泳がされているため。

心を折り、確実に捕えるためなのだろう。

 

「……冗談じゃ、ありませんわ。」

 

 

最後の最後まで、生を諦めはしない。

 

決意を固めると同時、死の気配が近付く。

 

震える足を叱咤して、立ち上がる。

 

 

「さぁ、いらっしゃいな。」

 

眼は、逸らさない。

 

 

 

 

 

 

 

洞窟の入り口に、影が差す。

 

影は、やおらに剣を抜き(・・・・)――

 

 

「……え?」

 

 

待たせたな、と男性の声。

呟きが耳に入ったけれど、反応はできなかった。

 

 

刹那、男は剣を振るい。

直後、周囲の木々が爆炎に飲まれる。

いかなる術技か、半径10メトルほどの木々は全て伐り倒され、

それらを燃料として焔が盛る。

 

しかし、魔法の火は彼の竜に効果がない。

炎の海を踏み越え、宝石竜が姿を現す。

その体躯には煤も付かず、焔は触れた先から消えていく。

 

 

逃げて、と叫ぶ。

否、と男が返す。

 

「――この森で喪うなど、もう二度と(・・・)御免だ」

 

 

轟音が響く。

宝石竜の咆哮が洞窟を震わせる。

怒りに満ちた絶叫が、魂を揺さぶる。

 

 

「ッあっ!?」

 

振動する地面に足を取られる。

棒になった足ではバランスを取れず、

咄嗟に座り込む。

 

この調子では、逃げることさえ難しい。

他人を巻き込みたくなど、ないのに。

 

もう、彼に任せるしかない。

 

 

突如、雷が落ちる。

それはあまりにも大きく、強く、神の雷霆を思わせる。

 

しかし男は一顧だにせず。

ふと覗けた、柄に刻まれた紋章は"(イグニス)"。

その表情は幼さを残しつつも精悍。

恐らくは少年と呼べる年嵩(としかさ)でしょうが、

それを侮らせない、凛々しさと清々しさ。

 

そして(なび)く髪は――黄金。

 

被った剣を、振り下ろす。

 

 

 

 

 

 

 

星鍛つ絶剣、運命を断て(ステッラ・ファトゥム・ディヴィダレント)!!」

 

 

 

 

 

 

 

かの一振り、雷ごと雲海を裂く。

宝石竜は、音もなく割断された。

 

後に残るは、美しい夕日に照らされた、残心のみ。

 

 

 


 

 

 

夕陽の明かりのもとで身なりを見て、気付く。

外套に刺繍()まれた印は、高位貴族の当主および

嫡男のみに赦される、王国統一章ではないか。

教会の資料で一度見たのみだが、

「太陽と女神に獅子」を用いた精緻な刺繍など

他に例もない。

 

 

「……あ、あの。」

 

身分の違いに、話しかけることすら気が引けてしまう。

しかし助けて頂いた礼だけは、

何としても返さなければ。

 

 

そんな思いで声を掛けた私でしたが、

少年の次の行動で頭が真っ白になりました。

 

無表情のまま歩み寄ってきた彼は、

おもむろに私の手を取ると、

目線を合わせるように跪いたのです。

 

「!?……あ、あの、お膝が汚れます!」

 

 

斯様(かよう)な上等な衣服、汚してしまってはこの身を売り払っても

弁償などできません。

焦る私に対し、彼は小動(こゆるぎ)もせず、

真摯な眼差しで私の目を捉えます。

 

 

「無事で、よかった。」

 

 

その声を聴いて、私はようやく、自らが未だ

生きていることを見つめられました。

 

張り詰めた糸が、切れる。

 

 

 

 

 

 

 

――そして私は彼の胸で泣きはらし。

  彼は困ったように顔を逸らしつつ、よく頑張った、と

  頭を撫で続けてくださいました。

 

 


 

 

落ち着いた私は彼から身を離すと、

羞恥から顔を上げることも出来ずに

謝罪の言葉を繰り返しました。

 

綺麗な上服は涙でぐっしょりと濡れてしまい、

ついた膝は泥で汚れています。

 

しかし彼はそれらを気にも留めずに、

外套を脱ぐと私に纏わせます。

 

そういえば逃走劇の結果、私の粗末な(巫女)服は襤褸布と化し、

今は半裸と言って差し支えない姿でした。

 

 

 

……先ほど彼が眼を逸らしていたのは、

古い打撲や火傷の跡が残る、

醜い肌が直視に堪えなかったのでしょう。

 

 

この時ばかりは、孤児院を恨みました。

もともと貧相な体躯(からだ)は変わりませんが、

それでも。

 

 

彼に醜いところを、見せたくは、ありませんでした。

 

 

「……見苦しいものをお見せして、申し訳ございません。」

 

 

なんなら今この場で無礼打ちされても、

文句が言えないほどの醜態でした。

 

だと、いうのに。

 

 

「君の肌は外に晒さないでくれ。

 男は俺も含めて、(けだもの)だからな。」

 

 

 

 

――なんて気障(キザ)で、罪作りなお方。

 

 


 

 

その後、自己紹介を交わし、

彼がかの四大貴族"火のイグニス"の嫡男だと知った私は、

自らの行動に卒倒しそうになりつつ、

どう御礼をすべきか考えておりました。

 

 

[ウルカヌス、か]

 

その時、頭に声が響きます。

それも、鼓膜を通した音ではありません。

 

感応話(テレパス)、でしょうか。

託宣のほか、調律に特化した魔導士が

真似事を使えると、司教様に伺ったことがありますが。

 

 

「久しぶりだな、長老。」

 

 

少年――ウルカヌス様が語り掛ける。

お知り合いなのでしょうか。

 

 

[お主が訪れなくなって、もう10年程度にはなるか?]

 

 

「せいぜいが2年だ。ついに呆けたか?」

 

 

[ふん、毎日顔を出した小童が、今はもうおらなんだ。

独り過ごす10年など、瞬きの内よ。]

 

 

「そうか。それは悪いことをしたな。」

 

 

随分と親しげに話す、謎の声とウルカヌス様。

全く話についていけない私は、つい口を挿してしまう。

 

「あの、ウルカヌス様?こちらの声は……。」

 

 

「ああ、すまない。この声は"混沌の森"の主、

 老神龍(エルダードラゴン)のものだ。」

 

 

「……はい?」

 

どらごん?一頭で国を滅ぼせる、あのドラゴン?

 

 

「ついでに伝えておくと、君が捧げられた相手でもある。」

 

 

……ああ、なるほど。

確かに巫女とはそのような伝承でありましたね。

 

頭を抱える私を尻目に、

それからも脳に響く声とウルカヌス様は言葉を交わす。

 

 

[この娘が此度の贄か。]

[()くも容易(たやす)く同族を捧げるとは、人間は相変わらずだの。]

 

「そう思うならこんな風習、無くせばいいだろう。」

 

[なに、ちょうどいい退屈しのぎなのでな。]

 

「どうせ1年もすれば帰らせるのだろうが。」

 

[捧げられたものを他所に捨てているだけよ。]

 

「魔石や宝石、加護を持たせてか?」

 

[あれらも我には不要なもの。抱き合わせるのが当然だろう?]

 

「相変わらずなのはお前も同じだな。」

 

[たかが年月(・・)で何が変わるという。]

[我らを変えるものはただひとつ、出会いだけよ。]

 

 

随分と楽しそうにお話しされておりますが、

纏めると今までの巫女は1年ほどで解放されて、

別の国で生きている、のでしょうか。

それも、宝石や加護を与えられて。

 

 

[それにしても、伝承までよく調べたものだ。]

[森の出入りは、既にお主の網の中か。]

 

「ああ。俺はもう、この森に子供が捨てられるのを

 許容するつもりはない。どんな背景があろうとも。」

「それでも、今回は動きが遅れた。

 彼女が諦めていたなら、間に合わなかっただろう。」

 

気の昂ぶりを鎮めるためか、胸元を掻き毟るウルカヌス様。

同時に顔は険しく、何か良くないことを

思い出しているようでした。

 

 

 

 

少々経つと落ち着いたのか、

ウルカヌス様が再び話しはじめます。

 

 

「巫女殿。いや、ウェヌス・ヴェスタリア。」

「これから君を、(かどわ)かす。」

 

 

……???

 

 

「あの、」「悪いが、拒否権はない。」

 

「えぇと、」「君を()から救い出し、巫女の儀礼を終わらせる。」

 

「……。」「この暴挙を起こした連中はイグニスの総力で鏖殺(おうさつ)しよう。」

 

「」「その後は、不自由ない生活を送れるよう、尽力すると誓う。」

 

「俺に、任せてくれないか。」

 

 

……はぁ。鈍感な御方ですこと!

わざわざ(ことわり)を説かずとも、最後の一言だけで、十分ですのに。

 

「はい。私の人生(これから)、貴方にお預けします。」

 

だって、私はあの洞窟で死んでいた筈。

それを救い上げられたのだから。

返品は、効きませんとも。

 

神は人を救わない。人は人を救わない。

この考えが間違っているとは、今もまだ思わない。

 

だからこそ、私を救った彼は、そのどちらでもなく。

 

「宜しくお願いいたします、私の英雄(あなた)様。」

 

 

――それから、巫女儀礼の撤廃を老神龍に認めさせた彼は、

  精霊の力を用いて私の身体を治療し、

  そのまま王都へ凱旋。

  宝石竜についてはその素材が余りに高価であることから、

  経済への影響を加味して撃退したとの報告に留め、

  砕いた黒曜の棘と、金剛石の爪のみを国庫に納めたとか。

  

  件の孤児院と、協力していた教団員は弾劾し、

  一人残らず処分されたそうです。

  

  

  また、その後の私の処遇については、

  イグニス家の分家の養子に、との案もありましたが、

  最終的にはウルカヌス様が貴族家に縛ることを拒否。

  教会の中道派司教、フェリクス家の養子として、

  迎えられることになりました。

  

  あの出会いは、数年経つ現在でも、吟遊詩人たちの語り草です。

  「恐ろしき竜に立ち向かう英雄と、それを祈りで癒した聖女」、として。

  噂に尾ひれは付き物ですし、仕方がありませんね。

  

  私も、フェリクス家も、それ(・・)を否定する必要など無いのですから。

 

 


 

 

これが、わたくしと、ウルカヌス様の出逢いです。

その後、現在までフェリクス家とイグニス家の親交は続いており、

義父は次期、大司教への昇格がほぼ確実だとか。

 

ウルカヌス様は、その後も混沌の森に通い、

老神龍の無聊を慰めると共に()て子を保護していたようです。

 

 

 

出会いから半年ほどが経過した時期に私は彼に呼び出され、

[服を脱がされ、全身を愛撫]されました。

 

――治療のために。

 

彼はあの時手に入れた宝石竜の血をエーテル化し、

治療薬を作るべく奔走していたそうで。

 

混沌の森で調達した材料に、ウルカヌス様の魔力を込め、

老神龍の加護を受けた治療薬(それ)はもはや神薬(エリクサー)

化しており、病・怪我、そのほぼ全てに有効であるとか。

 

そのような貴重なものを、私の後遺症などのために

使おうというのです。

当然、畏れ多すぎて抵抗いたしましたが、

「君のために作った」とまで申されては、固辞することの方が

失礼となってしまいます。

 

なにより、憧れのお方にそのような事を言われて、

嬉しくないわけがありません。

 

せめてもの反抗として、医者と言えど肌を無用に晒したくはない、

と強く主張し、彼自身の手で塗ってもらうことに。

 

かつての孤児院の飢えずとも質素な食事に対し、

贅沢ではなくともバランスの良い、フェリクス家の食事。

それを半年とはいえ頂いた私の身体は、かつての痩躯から

僅かに成長し、女体らしさを多少は取り戻しています。

わずかでも意識してもらえれば、と思いましたが、

意外に効果は深かったようで。

 

手の届かぬ背を塗って頂いている最中、

私がくすぐったさに身を(よじ)るたび、

彼はその手をすぐさま浮かせ、(しばら)くして恐る恐る、

壊れものを撫でるように触れるのです。

 

大切に扱われている、その事実だけで、はしたなくも私は

彼に全てを奪われたくなってしまいます。

純潔(はじめて)も、(さいご)も、全てを。

 

 

目と耳の治療の際には、頬に触れた手に頭を擦り付けると

固まってしまって、私が右目を開くまで

微動だにされません。

 

そうして右眼の視力、右耳の聴力を与えられた(取り戻した)私は、

片目を閉じ、片耳を塞ぐ動作が癖になっております。

 

――そうすれば、(まぶた)の裏、脳裏に焼き付いたあの方の姿が、

  声が、いつでもはっきりと現れるのですから!!!

 

(くだん)の治療薬は、「体を正常に戻す作用」が強いようです。

すなわち、私にとってはその影こそが正常、ということ。

ああ、なんて素晴らしい異状(せいじょう)でしょうか。

 

 

これも主が課された試練の結果。

そう考えれば、今の立場で日課とされた祈りも苦になりません。

 

 

おお、神を讃えよ(ハレルヤ)!!

 

 




はい、というわけで中編です。
後編は別視点からのネタバラシがメインになります。
まさかウェヌス視点だけで1万字近くなるとはこの海のリハク(ry
もう一個イベント入れようと思ったんですがそれも5000字程度の見込み、
分割するしかありませんでした……。

ウェヌスちゃんは内外共通して、文字通りの聖女です。
既に、一般人とは違ってウルカヌスという絶対の物差しがあり、
彼女の中では神も人もが測られる側に過ぎません。

内心病み病みでもウルカヌスに悟られないよう
絶対に表に出さないため、ほかヒロインに対しても寛容に見えます。
見えるだけともいう。
なお本人は病んでいる自覚なく、自分の信念を貫いているだけの模様。
これはメインヒロインの風格(白目)。

前話に比べ、回想では多少幼い感じが出ていますが、
12歳の過去編と14歳の現在を想定しているのでこんな感じかな?と。


そんな彼女が光に焼かれていないのは、偏に「英雄」を
人外のモノと定義しているため。
人である自分が目指せるものではなく、
憧れることも烏滸がましい。
けれど英雄の感情を向けられ、聖女(自ら)を捧げることに
至上の幸福を覚える、かなりサイコな価値観をお持ち。

自分は巫女として死に、英雄の所有物として
生まれ変わった、といった認識を時間経過とともに固めていきます。
混乱から覚めた1年後の彼女は英雄に褒められると照れますが、
全裸を見られようが痛めつけられようが一切抵抗しません。
ただし自ら英雄を求めることは恥ずかしく、
あくまで誘い受けを徹底。

なお、彼女は身分・種族違いの愛にも深く理解を示します。
理由は語るまでもなく。

これもある意味、英雄の毒かもしれません。

そして作中出てくる吟遊詩人の詩。
大衆向けだから当然、英雄と聖女は――。
そしてそれを否定しない聖女とフェリクス家。
いや、放置しててもデメリットがないだけですって。

ちなみに今作、ネタをかなり深く盛り込んでいます。
人名は特に、調べてしまうとネタバレの嵐ですのでご注意ください!

それでは、読了ありがとうございました!

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

踏み台が己を自覚した結果ww【二次創作】(作者:エイ)(原作:踏み台が己を自覚した結果ww)

https://syosetu.org/novel/130752/の「踏み台が己を自覚した結果ww」二次創作です。▼書き手の方に多大な感謝を。▼追記:原作の後書きの、「誰か代わりに書いてくれてもいい~」という一文を根拠に二次創作しています。何かあればご連絡ください。▼追記2:作者様からの許可を頂きました。▼追記3:3話までは原作が1話の時代に作られています。…


総合評価:10016/評価:8.61/短編:3話/更新日時:2020年06月12日(金) 23:42 小説情報

踏み台が己を自覚した結果ww(作者:ぽんぽこ太郎)(原作:オリジナル作品)

▼ーー何人足りとも踏めない場所を、人は頂点と呼んだ▼この小説は"小説を読もう"様にも投稿しております


総合評価:23313/評価:8.73/短編:3話/更新日時:2020年06月19日(金) 22:16 小説情報

異能を使った凶悪犯罪ランキング作ったwww(作者:鳥野ケイ)(オリジナル現代/ホラー)

1999年7月、突如として人類に新たな能力”異能”が宿った。異能の力は人によって違い、一つとして同じものはない。▼それから20年以上が経ち、異能が日常となった時代の匿名掲示板に一つのスレッドが投稿された。▼=====▼掲示板物がやりたくてやった。▼掲示板特有の悪乗りや不快なやり取りがあるので、お気を付けください。


総合評価:30586/評価:9.06/完結:12話/更新日時:2025年07月11日(金) 22:00 小説情報

人の生き様大好き系上位存在が蔓延る世界に生まれ落ちた生存本能極振り転生者(作者:せぞんのう)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

その世界には人間の輝きが大好きな悪魔が無数にいた。▼死を経験したことで生存本能に意識を極振りした転生者のルセラは、悪魔を利用してでも生き残ることを画策する。▼しかしその姿は悪魔たちにとって、性癖ど真ん中をぶち抜く行為だった。▼しかも生き残るためにあらゆることをやってのけるこの異常者の行動は悪魔の想像の遥か斜め上を行く所業ばかり。▼やがて、生存本能極振り転生者…


総合評価:8347/評価:8.85/連載:10話/更新日時:2026年05月08日(金) 07:05 小説情報

TS転生美少女だけど世界救ったからアイドル始めた、仲間達が曇った(作者:サイボーグアイドル)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

世界を救ったのは今や昔。▼今の自分は完全無欠のアイドルサイボーグなのだー!▼なお、それを見た仲間達の反応()


総合評価:1898/評価:8.71/連載:3話/更新日時:2026年02月16日(月) 20:01 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>