これは正義の敵となることを決めた魔王と正義の在り方を探す勇者が同じ疑問を追求する物語。
はい、でも短編です。連載する予定は今んとこないです

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魔王「正義とはなんぞや?」

「正義とはなんぞや?」

 

 魔王の言葉に、彼に忠誠を誓う魔将四鬼は固まる。

 悪逆無道。この世に悪よ栄えよとばかりに魔物達を先導し、盗賊達に物資を与え世を乱した男が突然正義について尋ねたのだ。誰だって固まる。

 

「魔王様ぁ?何故いきなりそのようなことぉ?」

 

 とろけるような甘ったるい言葉で尋ねるのは魔将四鬼最強の魔法攻撃力を誇るサキュバス『万魔のリリス』。

 何故か妻がいる相手ばかりにモテるという不思議体質のせいで刺されそうになること複数回。魔王に拾われて認識阻害の術をかけてもらっている。

 魔王はうむ、と顎に手を当てる。

 

「いや実はこの前勇者にあって来たんだが──」

「はぁ!?ちょ、魔王様!それ本気ですか!?」

 

 そう叫んだのは全身金属のガーゴイル。魔将四鬼最硬度の防御力を誇る『鋼鉄のディアス』。

 ガーゴイルがその身を形成する金属は魔力を帯び、本来の金属より堅くなる。ディアスはヒヒイロカネと言う希少かつ超硬度の鉱石で出来た体を持つため冒険者に狙われていたところを魔王によって助けられた。脳味噌まで金属だからか頭が固い。

 ちなみに勇者とはここ最近神の加護を受け圧倒的な力を持って魔王軍に抗う人間勢力最強の存在───になると言われている存在だ。魔王曰く強くなって負けても弱い奴が悪い、いちいち殺しに行くとか面倒だからお前等やってろとの事だったが、何の意図があって会いに行ったのだろうか。

 

「まおーさま、へーき?」

 

 と、首を傾げた瞬間落ちそうになった首を慌ててつけ直すのはアンデッド。魔将四鬼最大の殲滅力を誇る『死軍のレギオン』だ。ゴスロリ幼女にしか見えないが実体は動く死体である。

 彼女は元々弱いアンデッド。幼くして病死し父と母の温もりを忘れられず墓から這いだして、両親に殺されそうになったところを魔王に救われた為魔王に懐いている。そんな魔王がいずれ魔王を倒すと予言された勇者に会いに行ったというのだから不安で仕方がない。

 

「平気平気。全然弱そうだし普通にかわいい女の子だったよ。神の呪いでそろそろ自由意志が消えそうだったから話せる内に話しておこうと思ってね。中々いい子だった」

「魔王が『いい子』にあって嬉しそうな顔しないでくださいよ」

 

 と、呆れたように言う青年は下聖騎士にして魔将四鬼最強の武人。『闇騎士のオルグ』だ。元々人間だが魔王の力で魔族へと生まれ変わり魔将四鬼になった若手。

 金を出されれば罪を許し、金や女を寄越さぬ者を異端者として殺す上司を殺して国から追われている所を魔王に拾われた。

 

「まーまー、俺強いから平気だって。でな、その勇者に俺は尋ねたんだ。『正義の味方って楽しいか?』と………そしたらその子は『正義ってなんです?』と問いかけてきてな……で、正義って何だろうなーって」

「なるほど。それで正義って何だ?と質問されたのですね」

「まーな……」

「正義……まあ、それはやっぱり正しいことをすることでは?」

「じゃあ正しい事って?お金積まれて罪を許して天国に行く許可を与えたり、寄付金や女をもらえないと適当な理由で異端者を作る教会か?」

「……………」

 

 オルグは目を細め、自身を使い手と選び自身が魔に堕ちると共に聖剣から魔剣になった愛剣の柄を掴む。

 

「両親に会いたくて、墓から這い出て腐りかけの足で必死に歩いて帰ってきた娘を見て、アンデッドを血族から出したとなれば一族の恥だ。知られる前に殺そう、とする貴族か?」

「……………」

 

 レギオンは俯き魔王から下賜された熊のぬいぐるみをギュッと抱き寄せる。

 

「レア中のレア鉱石がドロップするからと、言葉が通じる相手を集団でなぶり殺そうとして、仲間が殺されれば憤怒の表情で呪詛を放つ冒険者か?」

 

 ディアスは顔をしかめ己の体を焚きしめる。

 

「魅了も誘惑も使わず男にモテて、それがいやで山の奥に隠れ住んでも追ってくる男達や自分に魅力がないのを認めず責任すべてを夫の心が移った相手に押し付けて自分磨きもしない女達か?」

 

 リリスはブルリと身を震わせる。

 

「薬を買う金が無くて、働いて稼ぐ内に妹が死んでしまうからとすりを行った者を張り付け石を投げるのは正義か?」

「ほんの一握りの量の米を祖母に食わせたくて、盗んでしまいそれがばれこれ幸いと口減らしに老い先短い老婆と一人ではとても生きていけない幼子を森に追いやるのは正義か?」

「領主に全てを持って行かれ、他人から盗まなければ生きていけぬ村を盗賊として老若男女問わず殺すのは正義か?領主が代替わりする前は余裕のあったその村から飯を分けてもらっていたくせに自分達が分けてくれと言われると石を投げ追い払う村は正義か?」

「驚くことにな、これ全部正義なんだ」

 

 悪いのは神の使いである教会に金を払わない貴族。金を払う貴族に罪はない。

 アンデッドは穢らわしい存在。滅ぼすべき。

 人間の方が偉いのだから、石の化け物はその身を差し出すべき。

 サキュバスは魔族で自分に魅力がないはずないから彼奴が悪い。

 盗む奴が悪い。家族見捨てておとなしく働け。

 村にいると迷惑。罪を犯したんだから墓を作る手間をとらせぬ為に森で死ね。

 裕福なんだから施すのは当たり前。貧乏になった?なら来るな。

 そんな道理がまかり通る。結局は何奴も此奴も己の事しか優先しておらず、発言権が強く数の多い言葉が正義となる。

 

「故に俺は『()()()()』になる道を選んだ。飢え死にしそうな領民には領主を殺す為の武器を与えよう。村にいると迷惑だからと生きる力がない者を追い出す村は、滅ぼして金と食料を追い出された者に与えよう。悪とされる力なき者に手をさしのべよう………そう生きると決めた。だけどさ、あの勇者は何か今までと違うんだよな。神の呪いで近々他と同じになるだろうけど、歴代はそもそも最初からアレな奴等だったじゃん?」

 

 数世紀に渡る勇者達を思い出しうむむ、と唸る魔王。今世紀もまた軍を編成し魔族を滅ぼすと数をそろえていた人間軍を不意うちしてやり、これまた何時ものように勇者が現れたが、今までとなんか違う。

 

「俺、彼奴気に入ったからさ。彼奴の持ってる疑問、正義ってなんです?に応えてやりたいのよね。と言うわけで魔将四鬼、皆で考えようぜ!」



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