【悲報?】ウチの鎮守府に三下なセントーが来たってよ【朗報?】   作:嵐山之鬼子(KCA)

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【Phase01.“She”is Centaur】

  雲一つない晴天の下、気持ちの良い微風に煽られながら、6“隻”からなる“艦隊”が、海上を航行していた。

 ──いや、果たしてそれを“艦隊”と呼んでよいものなのだろうか。

 なぜなら、背後に白い航跡を残して海の上を進むその(シルエット)達は、明らかに人型、それも年若い(あるいは年端もいかない)女性の姿をしていたからだ。

 少女の姿をしながら船、それも軍艦としての能力を併せ持った存在──艦娘。

 とある事情から前世紀末に登場し、現在は世界各国でその存在を受け入れられた彼女達が、ここにいるということは……。

 

 「偵察機より入電! 2時の方向に敵影4確認。駆逐イ級3、軽巡ホ級1っス!!」

 他の5人に護衛されるかのように囲まれて進むひとり──鮮やかな金髪をなびかせた少女が、“敵”の姿を補足したことを仲間、そして無線機越しに司令官に報告する。

 『了解。艦載機による先制攻撃の後、輪形陣を保ったまま接敵、交戦せよ』

 無線から聞こえて来た司令官の指示は、ごく常識的(まっとう)で手堅いものだった。

 「了解っス! じゃあ、センパイ方、オレっちからいかせてもらうっスよ」

 極上の美少女と言って良いルックスの割に、なんだか奇妙なしゃべり方をする“彼女”は、左手に持ったメカニカルな印象の弓を引き絞り、矢を放つ動作をする。

 不可視の矢が放たれた……と見えた次の瞬間、空中にミニチュアサイズの飛行機(正確には艦上攻撃機)が複数現れ、“敵”がいると思しき方向へ向かって飛び立っていった。

 数分後、先制攻撃は無事に成功し、敵深海棲艦のうち、駆逐イ級は3隻とも轟沈、残る軽巡ホ級も大破状態だ……との連絡が届いた。

 攻撃機は“妖精”と通称される小さな知的存在が搭乗して操縦しており、パイロット妖精からのテレパシーのようなものを発艦元の艦娘は受信できるのだ。

 「残るはホ級だけみたいっス。このまま突入……でいいんスかね?」

 「こらこら、そこは自信もって言い切りなさいよ。今はアンタが旗艦なんだから」

 微妙に疑問形になった金髪少女に対して、青紫色の髪をサイドポニーの形に結わえた年少の少女がツッコミを入れる。

 「ぅぅ~正直、オレっちに旗艦(リーダー)なんて向いてないんでヤンスよ……」

 「年長者のクセに情けないこと言わないの!」

 金髪少女の外見が17、8歳くらいなのに対して、紫髪の子は12、3歳。その他の4人も似たような年齢で、確かにこの中なら彼女がまとめ役になるのが自然に見えた──が、本人は自信なさそうだ。

 「ぷっぷくぷぅ~! だいじょーぶ、センちゃんはさっきもちゃんと旗艦やれてたから、がんばるぴょん!」

 4人のひとり、紺色のセーラー服を着た赤毛の艦娘が金髪さんを励ます。

 「わ、わかったっス。卯月センパイに、そう言ってもらえるなら勇気100倍っス!」

 見た目小学6年生くらいのチビっ子たちに叱られたり、力づけられたりする女子高生のお姉さんという構図は、いかがなものだろうか。

 とは言え、まがりなりにもここは“戦場”だ。悠長なおしゃべりをしている暇はない。

 「敵・軽巡艦の射程範囲に入るまであと5秒です。各自、臨戦態勢に入るべきだと、不知火は進言します」

 旗艦の子以外では一番年かさに見える、ピンク髪の少女が警告を発し、他の子たちの顔つきも緊張を取り戻す。

 弱音を漏らしていた金髪娘も、しゃんと背筋を伸ばし、ややぎこちないながらも左手の弓を構えた。

 「センパイがたと一緒なら、オレっちも頑張るっス!!」

 

 ──もっとも、残敵は大破状態のホ級が1隻なのに対して、こちらは無傷の艦娘が6人、しかもそれなりの練度に達した駆逐艦5に加えて、新米とは言えフル装備の軽空母がいるのだ。

 仮に相手がeliteクラスであっても、そうそう負けることはないだろう。

 実際、会敵後の戦闘は、紫髪娘・曙と赤毛娘・卯月の主砲の一斉射でアッサリとホ級が沈み、即座に終了となった。

 

 「敵・軽巡の撃沈を確認。セントーさん?」

 焦茶色の髪をポニーテイルに結ったおとなしそうな子──綾波から物問いだけな視線を向けられて、一瞬はてな顔になった金髪少女だったが、すぐに自らの旗艦としての役割を思い出す。

 

 「あ! も、申し訳ないっス。えーと……パイセン、無事に敵艦隊を撃破できたっスけど、どうしやしょう?」

 『まだ余力はありそうだが……ま、初実戦にしては上出来か。臨時第二船隊、帰投せよ! それから、せめて作戦中だけでも“提督”と呼ぶように』

 無線の向こうから聞こえてくる声は、呆れ半分苦笑半分といったところか。

 「あぁっ、申し訳ありやせん!」

 音声無線なので向こうから見えないとわかっているはずなのに、旗艦の子はペコペコ頭を下げている。

 

 臨時とは言え、いささか頼りない旗艦(リーダー)の姿に、曙と不知火は溜息を飲み込み、卯月と綾波は生温かい視線を送り、残るひとりは……。

 「…眠い。早く、帰りたい」

 相変わらずの初雪クォリティだった。

 

  * * * 

 

 “深海事変”が起こり、深海棲艦(それ)に対する最高のアンチユニットととしての艦娘が登場した直後、人間社会においては主にふたつの派閥が覇を競い合っていた。

 あえて平易な言い方をすると、ひとつは「艦娘は兵器だよ」派、もうひとつは「艦娘だって人間だもんげ」派、だ。

 このふたつは激しく対立し、血みどろの抗争を繰り広げる……ことは(少なくとも日本では)なく、それなりに互いを尊重しつつ、歩み寄りを模索していた。

 というのも、どちらの派閥も相手の言うことにも一理あることは認めており、それを踏まえたうえで、現実に即したのは自分達側の主張であると考えていたからだ。

 艦娘を完全に人間と同じ存在と認めることは難しいが、同時に単なる物品扱いすることも妥当ではない。多少なりとも道理のわかる人間なら、そこまでは誰でも思いつく話なのだ。

 

 そこで、日本政府が打ち出した施策は、「艦娘は人ではないが人に準じる存在で、戦時中は一部制限されるものの、基本的人権があることを認める」というものだった。

 そう、「人ではない者」に「人と同様の権利」を認めることを是としたのだ。

 八百万の神への信仰や付喪神という考え方が、未だ完全に廃れずに残っている日本という国だからこその結論かもしれない。

 結果的に言えば、政府のこの方針は、世論の大多数の賛成をもって受け入れられ、「海の妖しと戦う勇敢なる乙女と、それを全面的にバックアップする海軍」という形で、日本は“深海事変”に立ち向かうこととなる。

 後知恵の理屈になるが、他国と比べた限りでは、結局この形が軍人・艦娘両方の被害をもっとも少なくしつつ、人類側を勝利へと導く最適解だったのだろう。そのことは他国も理解し、多くの国もこの制度に倣うことで一定以上の戦果を得るようになっていく。

 

 ともあれ、2004年に世界規模で実施された第二次深海大戦──通称“大反攻”の結果、主要20ヵ国において「領海内の一定の安全が確保された」として、2005年初頭に戦時体制が解除された。

 もっともあくまで“一定の安全”であり、そらにそう断言できるのは前述の20ヵ国(いくつか怪しい国もあるが)だけなので、「世界的に平和が訪れた」とはとうてい言い難い状況なのだが。

 地球面積の7割を占める大海原のうち、どこの国にも属さない公海(排他的経済水域も含む)には、まだまだ深海棲艦の残党……というにはかなり大きな勢力が残っており、公海域のみならず各国領海にも「そんなの知らん」とばかりに散発的に侵入し、人類側の船舶や艦娘、時には沿岸に攻撃を仕掛けてくる。

 故に現在の(最盛時に比べるとおおよそ3分の1程度に人員削減された)艦娘&その提督たちの使命は、「1に沿岸、2に輸送航路、3・4がなくて5に領海内の安全と平和を守ること」だったりするのだ。

 

 “深海事変”中に比べれば格段に殉職率は減ったものの、それでも0ではなく、入渠すれば直るとはいえ負傷/損傷率も決して低くはない。

 さらに、提督や艦娘になれる人材そのものが希少で、給与その他でそれなりに好待遇を用意しているにも関わらず慢性的に人材不足に悩まされるのが、日本海軍の宿痾とも言えた。

 そして皮肉なことに、「全人口中の艦娘になれる人間の比率」がもっとも高いのも、また日本だったりするのだ(と言っても、10代前半~20代半ばの女性の1%あまりに過ぎないが)。

 

 ま、要するに、何が言いたいかと言えば、だ。

 「我々は、キミの着任を歓迎するってこった──たとえ、少々その素性が怪しくてもな」

 この舞鶴鎮守府で「提督」なんて因果な職業(しょうばい)やってる俺は、目の前の“コスプレまがいな武装(カッコ)した少女”に向かって、ニカッと笑って見せる。

 

 見事な金髪碧眼かつ「シ●イニング」シリーズあたりのファンタジーゲームに出てきそうな服装で、あまつさえ“笹の葉みたいな長い耳”をピコピコさせた、「おまえ、どっから見てもエルフだろ!?」というルックスの人間離れした美少女(ただし、手にした弓は妙にメカニカルだが)は、ちょっと戸惑ったような表情で、こう聞いてきた。

 

 「ぅえ!? い、いいんスか? そりゃ、オレっちとしては、放り出されても行き場がないんで、助かりやすが……」

 

 ──なまじ『ラブラ●ブ』の南こ●りっぽい可憐なスイートボイスだけに、三下めいたしゃべり方との違和感が激しいが、「事情を理解している身としては」、ここはスルーしてあげよう。

 

 「ああ、構わん。ようこそ、舞鶴鎮守府、そして我が上喜艦隊へ。ウチの艦隊に軽空母の着任は、まだふたり目だから、お世辞抜きで助かるよ」

 「! こ、こちらこそ、よろしくっス!!」

 

 俺が差し出した右手を恐る恐る握り、やがて安堵したのか一転明るい表情になって上下に激しくシェイクしてくる。

 右手の動きに伴って、その(ラノベというよりエロゲちっくに)豊かな胸の膨らみがぽよぽよと激しく揺れる様は、眼福と言えなくもないが、一応は上司になる身としては、その……反応に困る。

 

 「あー、コホン! その、“事情”は知ってるから無理ないとは思うが、“今のキミ”は女の子だから動作とか仕草は多少なりとも気にするようにな」

 「? よくわかんないけど、了解っス!」

 

 アカン。これ、全然わかってないヤツや。

 (ちょーっと早まったかなぁ。でも、せっかく巡り合えた“同郷人”を放り出して軍のモルモットにするのも気が引けるしなぁ)

 これから背負うことになるだろう気苦労を予想して心の中で溜息をつきつつ、俺は“彼女”──かつてイギリス海軍に存在した空母“セントー”の名前を冠した艦娘を部下たちに紹介するため、司令室を出た。

 もっとも、厳密にはこの子は「艦娘」じゃない。本来、ここ『艦隊これくしょん』の世界ではなく、別のゲーム『アズールレーン』の世界で“ロイヤル”と呼ばれる英国を模した陣営に生まれ落ちるはずの存在だったりするんだが。

 

 ああ、今の言い方で予想はつくかもしれないが、俺自身もある意味“同類”だ。俺、上喜 仁(かみき・じん)中佐もまた、“現実”から“艦これの世界”へとやって来た転生者(?)なのだ。

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