【悲報?】ウチの鎮守府に三下なセントーが来たってよ【朗報?】 作:嵐山之鬼子(KCA)
お待たせ! この
兵装実験軽巡としての
紙装甲? 貧乳? だから何。
──ガスッ!
「なに、
「ぴ、PC用のマウスを投げつけるのは止めてくれ」
自分が(肉体的に)痛いのに加えて、マウスが壊れたら
「……ぅわぁ~」
あ、セントー(偽)がちょっとヒイてる。
俺達──提督である俺と秘書艦ズたちの間では、これくらいは「いつもの
「あ、あら、他にもどなたかいらしたんですか?」
セントーの呟き声で、夕張もどうやらドアから入ったばかりの俺の後ろにいるコイツの存在に気付いたようだ。声色がよそゆきのモノに切り替わっている。
「おぅ、改めておはよう、夕張。コイツはウチの新たに加わる軽空母のセントーだ。
セントー、この子は軽巡洋艦娘の夕張で、俺の第一秘書艦を務めてくれている」
もはや遅きに失した感はあるが、とりあえずは当初の予定通り当たり障りのない紹介をしてみる。
「えっ……もしかして他の鎮守府からの転任ですか? 先週の秘書艦担当だったザミちゃんからは、何も申し送り受けてないんですけど」
ま、普通はそう思うわな。
再三繰り返すが、各地の鎮守府の工廠では、基本艤装“しか”作れない。
大本営に登録されている艦娘志願者名簿の中に、その艤装に適合する者がいた場合、すぐさまその艤装とのマッチングが行われて、新たな艦娘が誕生するわけだ。
逆に名簿に適合する候補者がいなければ、次に見つかるまで順番待ちとなる。
建造なり
「あー、そのセントーだが、な。実は、ついさっき
「…………は?」
「だから、工廠で建造したら、基本艤装一式と一緒に艦娘本体も湧いてでたんだよ」
そんな「可哀想に。とうとうこの提督、暑さで脳をやられたのね」的な目で見るなって。逆の立場だったら、俺も同じようなことを考えたろうから、気持ちはわからなくもないが。
万能伝達言語「カクカクシカジカ」では伝わりそうになかったので、夕張と傍らのセントーのふたりを執務机横の応接セットに座らせ、工廠での出来事を明石とのやりとりも含めて懇切丁寧に説明する。
流石に、俺(と偽セントーの中の人)が“現実”世界の
本来ならいくら夕張がヲタク気質だからって、素直に信じてもらえるような話じゃないんだが、(多少コミュ力が低いことを除けば)真面目で職務熱心な明石が証人だと告げると、半信半疑よりはやや“信”多めくらいまでには信じてもらえたようだ。
* * *
「──と、まぁ、そんな経緯で、コイツをかくまってやりたいと思うワケよ」
「「艤装だけじゃなくて“人”ごと艦娘が建造された」なんてトンデモ話については、未だ完全に信じたわけじゃありませんけど、提督の意図はおおよそわかりました。
でも……」
セントー(偽)の“危険な立場”に一定の理解は示したものの、その対策案については露骨にシブい顔をする夕張。
上喜提督の筆頭秘書艦として、彼に危ない橋を渡って欲しくないのだろう。
(夕張のこういうYES-MANじゃない部分は買ってるんだが、今みたいな状況だと、ちょいと厄介だな)
夕張は、彼が初めて(その基本艤装を)建造した巡洋艦であり、運よくすぐになり手が見つかったため、彼の配下ではかなりの古株と言える。
着任してほどなく、その高い事務処理能力を買われて秘書艦に任命され、以来、出撃時以外は上喜のそばで秘書兼副官としての諸々の役割を担ってきた、彼の右腕とも言える存在だ。
──そこに“私情”が混じっているか否かについては、ここでは伏せよう。
「俺の身を案じてくれるのは有り難いが、曲がりなりにも俺は“提督”だ。
『至誠に
なにより、そんなシャバい真似は……」
「カッコ悪いからイヤだ、ですか?」
上喜提督の言葉を夕張が先回りする。
「よ~く、わかってんじゃな~い、めろんちゅわーーん」
某怪盗三世の下手な物まねみたいなトボけた口調で肯定しつつ、彼はニヤリと笑った。
「めろん、言うなし! ……こほん。仕方ありません。それでは、大本営に提出する報告書と
ほんの一瞬、素の表情を見せたものの、ここにセントー(偽)がいるせいか、すぐに咳払いして、夕張は「デキる女秘書」っぽいペルソナを被り直す。
「うん、超助かる。基本的には、「浜辺で流れ着いた艤装にうっかり触れて覚醒しちゃった元一般人?の天然艦娘」ってことにしといて」
海岸に艦娘用艤装が流れ着くことも、素質のある娘が艤装に触れて不用意に艦娘に覚醒を果たすことも、ごくごく低い確率ながら、あり得ないワケではない(実際、どちらも前例がある)。
が、その両方となると、はたして可能性は“0.(ゼロコンマ)”以下に0が5つ6つ並ぶくらい希少な可能性なのではないだろうか。
「喜べ、
話においてけぼりになっていたセントー(偽)に向かって、ニヤリと“いい笑顔”を浮かべた上喜は、両手を広げた大仰な仕草をしつつ芝居がかった
「ありがとうございま…す? いや、“ようやく”ってほど待たされた記憶はないんスが……。そもそもオレっちの望みってなんなんスか? 別にどこぞのブラウニー少年みたく正義の味方になりたいとか思ってないんスけど!?」
混乱しつつ
「ハッハッハ、
「それは──うん、是が非でもお願いしたい案件っスね」
なにせ、“
「マジ頼んますよ~。実験体07号だとか20号だとかナンバリングされて研究所とかに閉じ込められるのは、勘弁してほしいっス」
「大丈夫だ。問題ない」
「それ、絶対アカンやつぅ~!!」
打てば響くようなやりとりをしているふたりを、夕張は若干うらやましそうな目で見ている。
(むしろ、私の方こそセントーちゃんに「そんな装備で大丈夫か?」って言いたいのよねぇ。なに? ゴツい“弓”自体が
実際、セントーの本来の“出身”たるゲーム『アズールレーン』に於いても彼女の艤装はかなり異色だ。
『アズレン』の空母娘たちも、多くが『艦これ』同様にエンジンを積んだ主機関と飛行甲板を装備している。なかには主機関が見当たらない、もしくはすごく小さい
セントー同様に弓で艦載機を射出するタイプのKAN-SEN「ワスプ」なども、主機関と飛行甲板はしっかり備わっている。
その特殊な出自(第二次大戦が終わってしばらくしてから進水式を迎えた)もあいまって、そもそもセントー自体、ある意味、ワンオフなKAN-SENだと言えるかもしれない。
(まぁ、そういう面も含めて、ある意味、同じくワンオフな夕張と仲良くやってくれるといいんだが……)
とりとめもない雑談をセントーと交わしながら、上喜はそんなことを考えていたりするのだった。
次回はセントーくんちゃんの鎮守府内引き回し兼、他の艦娘(メンバー)の紹介回になる予定。