P4の短編です。11月頃の話でネタバレ有り注意です。BLはほんのり程度です。アニメ化より前に書いた過去作なので主人公の名前は公式のもの(鳴上悠)ではありません。

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アニメ化より前に書いた過去作なので主人公の名前は公式のもの(鳴上悠)ではありません。


もらい泣き

「―――エブリディ・ヤングライフ♪ジュネス♪」

ぼんやりと眺めていたテレビから、お馴染みのCMが流れる。

反射的に、テーブルの向かいの席を見る。

いつもこのCMの歌を楽しそうに歌っていた菜々子は………いない。

ソファに視線を移す。

堂島の姿も、ない。

二人は今、病院だ。

静かな部屋に聞きなれた声が響くことは無く、ただ、テレビの音が流れるばかり。

「テレビ」という単語が、二人が入院する原因となった嫌な記憶に触れる。

それをかき消すように、リモコンのオフボタンを押しテレビを黙らせた。

「……………」

静まり返った部屋。

―――風呂に入って、もう寝よう…

余計な事を考えてしまう前にそう決めた。

―――PiPiPiPiPi…

ポケットの携帯が鳴った。

開いた携帯の窓に表示されたのは「花村陽介」の名前。

「―――よぅ、相棒。今…暇?忙しい?」

キーを押して耳に当てると、聞きなれた声がそう尋ねてきた。

特に何もしていないので暇だと答えた。

「―――そっか、よかった。今から、お前んち行ってもいいか?」

陽介の言葉に、何となく時計を見てみる。

針は22時をさしていた。

人を訪ねるには遅い時間だ。

何か急ぎの用事だろうか。

兎に角、誰もいないし何もしていないので問題はない。

別に構わないと告げると、

「―――そっか。…って、実はもう玄関の前にいたりするんだけどな?」

少し笑いながら言う陽介。

携帯を持ったまま、玄関へ行き鍵を開けると、右手に携帯、左手にジュネスのビニール袋を持った陽介が立っていた。

「よぅ、相棒」

そう言って笑う陽介。

お互い携帯を切り、陽介を中へ通した。

「お邪魔しまーす。うー夜は更に冷えるよなー」

そう言ってこたつに入り冷えた手を温めている。

コーヒーを淹れて陽介に出してやり、何かあったのか聞いてみた。

「ん?あー、ちょっとな。…あそうだ、これ。来週発売のお菓子なんだけどさ、けっこー旨いの。ほれ、食ってみ?」

ジュネスのビニール袋からスナック菓子を取り出し開けると、俺に勧めてくる。

言われるままに、お菓子を摘んで食べてみる。

…確かに、旨い。

「な?旨いだろ?まだ店に並んでないし、一番乗りだぜ?俺ら♪」

陽介も同じようにお菓子を食べながら笑う。

しばらく、お菓子を食べながら他愛の無い会話をした。

 

 

   ◆

 

 

「…おーい、矢上?」

名前を呼ばれ、はっと我に返る。

話を聞いているうちに、ぼんやりとしてしまっていたようだ。

「途中から聞いてなかっただろー?オチ聞き逃すってどーなの?」

不満そうな陽介に、素直に謝った。

「…はぁ」

陽介が、小さくため息をついた。

怒らせてしまっただろうか。

「…お前さ、あんま無理すんなよ?…お前が今辛い事は俺達みんな知ってるし、何も隠さなくっていいんだからさ」

怒らせたかと思った陽介から出た言葉は、逆に俺を気遣うものだった。

「ほれ、言いたいこととか、言ってみ?俺がぜーんぶ聞いてやっから」

陽介が顔を覗き込んでくる。

どうやら今日尋ねてきたのは、俺を心配しての事のようだ。

心配をかけ済まないと思い、俺は大丈夫だと笑って伝える。

「………」

陽介が、もう一つため息をついた。

「………このやろっ」

「!」

むすっとした陽介が突然、俺の頭をがしがしと乱暴に撫でた。

思いがけない陽介の攻撃(?)を、防ごうと必死になる。

髪を乱す手から逃れようと仰け反った瞬間、後ろに倒れそうになった。

陽介の腕がのびてきて俺の服を掴み、転倒を免れた。

が、そのまま強く引っ張られて、今度は前のめりになる。

そのまま陽介の胸に突っ込み、抱きとめられた。

慌てて身体を起こそうとするが、陽介の腕がそれを許さない。

「…お前、我慢しすぎ」

陽介が、ぽつりと呟く。

「そんな…、そんな無理した笑顔作らせる為に来たんじゃねぇんだよ俺はっ」

少し強い口調…でも怒りではなく思いやりを感じる声音で続ける。

「お前は確かに強いよ、すげぇよ。俺達の頼れるリーダーだよ。…でもお前だって、俺達と同じ様に、思ってる事や悩んでる事とか沢山あるはずだ。普段口数少ない方だから忘れそうになるけどさ…。たまにはさ……いいんじゃねぇの?言いたいこと、全部ぶちまけても。初っ端から自分の汚い部分とか曝け出す羽目になって、お前の前で大泣きして、殴り合いまでして、お前に色々見られてもう恥ずかしいことなんか何も無い!って感じの俺になら、少しくらい……本音、聞かせてくれるだろ…?」

陽介の優しい声が、胸に染み込んでいく。

隅に追いやって、考えない様に、見ない様にしていたものが、溢れてきた。

「……花村、俺…」

絞り出した声は、掠れていた。

「俺……菜々子ちゃんを…堂島さんを…巻き込ん…っ」

言葉にした途端、涙がぽろぽろと零れた。

「全部……俺……所為…で……」

嗚咽ばかりがもれ、上手く言葉にならない。

 

この事件を解決する為に、一生懸命やってきたつもりだった。

上手くやれていると、そう思っていた。

でも、二人がいないこの家に帰る度に、思い知らされた。

傲慢だったと。

思い上がりだったと。

その事実を目の当たりにしてもなお、進まなくてはならない毎日。

急激に擦り減ってゆく心。

 

知らなかった。

目を背けていた胸の傷は、いつしかこんなに広がっていて、こんなにも酷く痛む。

涙は、その傷から流れ出す血の様に、止まらない。

「…ずっと…ずっとそうやって、自分責めてたのか…。馬鹿だな…誰もお前の所為だなんて、思ってないのに…」

陽介の声が、少し涙声になっている。

背中に回された腕に力が入り、強く抱きしめられた。

「前のお返しだ。しばらく胸、貸しといてやる」

そう言って、子供にする様に、頭をぽふぽふと撫でられる。

陽介の優しさがくすぐったい。

でも、今はただ、その優しさに甘えて泣き続けた。

 

 

   ◆

 

 

「…少し冷たい」

やっと涙が引き陽介の腕から開放され、冷めたコーヒーを淹れ直して来た俺に、陽介がぼそっと言った。

どうやら涙で服を濡らしてしまったようだ。

花村が泣いた時俺もそうだった、と言うと、

「はは、お互い様ってことか」

そう言って笑う。

つられて笑顔になる。

無理に作った笑顔ではなく、自然に零れた笑顔だ。

コーヒーを置いてこたつに入る。

ふと、視線を感じて陽介の方を見ると、じーっとこちらを見ている陽介と目が合った。

「………目が赤いな。泣き腫らした顔のお前って、けっこーレアなんじゃね?」

先程顔を洗ってきたが赤みは簡単には引かなかった。

泣きすぎて目の下が少しヒリヒリする。

まじまじとこちらを見てくる陽介に少し気恥ずかしくなって、花村の目だって赤いと指摘してごまかす。

「ん、あー、なんか…見てたらもらい泣き?しちゃってさ…」

照れ笑いを浮かべる。

もらい泣きするのは優しい証拠だ、と言うと、

「お、やっぱ分かる?分かっちゃう?さっすが俺の相棒♪…でも、そんな素直に言われちゃうと、ちょっと照れるっつーか…。あそーだ、今度そういうこと言うときは、クマのモノマネでもしながら言うってのはどうよ。ヨースケは優しさでできてるクマね~、とかなんとか」

陽介は本気で照れているらしく、少し赤い頬で茶化している。

クマの声色まで真似る陽介に、思わず声を出して笑った。

「…でもまぁ…、なんだ。………ちょっと元気出たみたいで、ほっとした」

笑みを浮かべる陽介に、話を聞きに来てくれてありがとう、とお礼を言った。

「ああ。……絶対、事件解決させような…相棒」

そう言って差し延べられた陽介の手を、強く握って頷いた。

決意の夜が、更けていく。

 

 

 

END

 



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