いつかボク(日本人)が地球をすくう 〜亜宙戦記デミリアン〜 [ラノベ版] 作:多比良栄一
マンゲツは、サムライソードを持った左腕で、亜獣の首を一閃した。
右腕に噛みついた亜獣の首が切断され、緑色の血しぶきが飛び散りはじめた。
マンゲツには気の毒だったが、右腕一本を犠牲にすることで、反撃の時間を稼ぐことができた。この程度の傷なら、あの春日リンがなんとかするはずだ。
噛む力を失った首は、名残惜しそうに徐々に力を緩め、ゆっくりとそのまま地面へと落下していく。
それはほんの一瞬の隙だった。
まったくの死角から、亜獣サスライガンの渾身の一撃がマンゲツの身体を強打した。大きな尻尾による攻撃。エドから注意を喚起されていたはずだ。
ガコンと音がしてコックピット部分のガードが大きくへこむ。
気づいた時には、すでにマンゲツの巨体は空中に放りだされていた。
ヤマトはあわてて姿勢を制御しようと試みるが、まったくなにもできない。マンゲツの身体は数十メートル背後の高層ビルに激突した。
耳を覆いたくなるような轟音。
そしてすぐにビルが崩れ落ちる、ズズズ……という重低音が響いて、マンゲツの上からへし折れたビルの上層階が大きな塊のまま落ちてきた。ヤマトの目の前にあったハッチがさらにへこみ、計器類が火花を散らしながらこちら側に迫り出してくる。
『油断した』
右の壁から聞こえてくる音で、デッドマンカウンターが、恐ろしいほどのスピードでめくれていくのが、見ないでもわかった。
亜獣の攻撃に備えようと、ヤマトが身構える。
が、正面の右側面のモニタがすでに使えなくなっていて、なにも見えなかった。
「サーモ!」
辺りのサーモグラフィ画面が眼前に投影された。冷えきったビルなどの青や黒の周辺温度にまじって、おびただしい数の赤い点のような色が映し出された。だが、その赤い点は見る間にどんどんと消えていく。
パタパタと音をたてているカウンターはいまだに止まる気配がない。
ヤマトは目をこらして、赤く揺らめく周辺の火事のサーモ画像の、むこうのほうに大きな赤い影が動いているのを確認した。
まだすこし距離がある。
ヤマトが操縦桿を動かそうとしたとき、ソードを持っている左手が動かないことに気づいた。左側のモニタカメラで確認すると、崩落した大きなビルの塊が左腕を挟み込んでいた。手首しか動かせない。
『まずい』
その状況を察したかのように、赤い影が突然こちらへ突進してきた。
ヤマトはアルの回線に叫んだ。
「アル!。サムライ・ソードは手を離したら何秒持つ?」
「手を?、手を離したらすぐに力を失うぞ」
「だから何秒!」
「すまん、おそらく1〜2秒ってとこだ」
ヤマトは目の前に迫ってくる赤い影を見据えながら、
「上等だ。痛みのスピードよりたっぷり時間がある」
ヤマトは赤い巨体が突進してくる振動を感じながら、タイミングを計っていた。近すぎても遠すぎても駄目だ。ヤマトの目の前のサーモグラフィ画面いっぱいに、巨体の赤い影が広がる。
マンゲツは手首のスナップをきかせて、ソードを空中に放り投げた。刀サイズだった光のサムライソードがすーっと輝きを失いはじめ刀身が短くなっていく。
その空中を舞うソードを右手で受け止めるマンゲツ。
そのままギラリとした歯を剥いて噛みつこうとする。
マンゲツが亜獣の真ん中の首を切りつける。
切断された首が、突進していた勢いそのままにヒュンとかなたに飛んで行く。
首がなくなっても突進の勢いを止められず、亜獣のからだだけがビルに突っ込んだ。
その衝撃でビルの隙間に挟まれていたマンゲツの左手がはずれた。
勢いよく数字を刻んでいたデッドマン・カウンターの音がゆるやかになる。
手が自由になったマンゲツは、サスライガンの
「大丈夫か、ヤマト」
アルの声がモニタから聞こえてきた。
正面と右側面のモニタ画面の映像がいつのまにか回復していた。そこに大半が焼け野原になった仙台市の市街地の映像が映っていた。世界亜獣災害基金から復興費は捻出されるが、通常の状態に戻るまでには相応の年月が費やされるのは間違いない惨状だった。
「ヤマト、帰投します」
ヤマトは司令部へ声をかけた。
「アル、コックピットの修理を頼む」
「それと、リンさん。マンゲツの腕……頼みます」
ヤマトは大きく息を吐いた。
これで98体目。
『
あと十体で終わる……。
その時、絶命したはずのサスライガンの尻尾がピクリと動いた。尻尾の先から、ツルのようなものがヒュるッと吐き出され、マンゲツの首に巻きついた。
その動きにヤマトは瞬時に反応した。
が、ツルとの間に手を差し入れて、首に食い込むのを阻止するまでが限界だった。ツルはまるで生きているかのように、幾重にも首元を回転して巻きついた。
ツルがしなり、強烈な力で引っ張られると、マンゲツはなんの受け身をとれないままうしろに引き倒された。持っていたサムライソードが手から離れ、数十メートル先の地面に跳ね飛ぶ。
そこにいた、赤ん坊を背負い、幼子の手をひいていた若い母親には逃げるすべはなかった。あっという間もなくソードの
パタパタと無情に数字を刻んでいくデッドマンカウンター。
「な!」
背後を映し出すカメラが、ツルを吐きだした亜獣の尻尾を映し出す。亜獣の尻尾の根本部分にうっすらと細い目が開いていくのが見えた。
「こっちが本物の頭かぁ!」