いつかボク(日本人)が地球をすくう 〜亜宙戦記デミリアン〜 [ラノベ版]   作:多比良栄一

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第11話 どんなに過小評価したとしても、これは最悪な事態だ

 ブライトは、思わぬ亜獣の反撃にぼう然としていた。

 尻尾だと思っていたものが、実は頭部そのものであったという驚愕の事実。固定観念でみていた自分たちのミスであることは明らかだった。

 しかし、その口から吐き出された舌とも触手ともつかない細いツルごときに、あのマンゲツが完全に自由を奪われていることには我慢ならない。

「ヤマト、なんとかならないのか」

 ブライトが苛立ちを隠しきれない怒気を含んだ言葉を投げかけた。

 だが、その声を無視するように、ヤマトは無言で操縦桿をやみくもに動かし続けていた。歯を食いしばるその姿をみる限り、そのツルから逃れるのはこちらが思うほど容易ではないということだった。

 と、突然、亜獣が四つんばいでバタバタと足を動かし、ものすごいスピードで走りだした。マンゲツは仰向けの姿勢のまま、勢いよく引きずられていく。首を締めあげられないように、両手をつるから離せないマンゲツにはなす術がなかった。

 デッドマンカウンターがパタパタと数字を刻んでいく。

 ガタガタと揺れるコックピットで悪戦苦闘しているヤマトの下では、ひと揺れするたびに、建物や施設に避難していた人々を押し潰しているに違いない。

「ブライトさん、ボクは今どちらに向ってる!」

 眼前に浮かんでいるブライトの映像にむかって言った。

 ブライトは目の前に投影された大型地図に目をやりながらも、ミライにむけて叫ぶ。

「マンゲツの進行方向は?」

 ミライが答える。

「松島湾方向にむかっています」

「そこにはなにがある?」

「なにが……って?。なにもありません。海だけです」

「海……」

「ブライト、いえ、ブライト司令、まずいわ」

 リンが口を挟む。声のトーンがおどろくほどうわずっていた。

「なにがまずい?」

「このまま海を進んでいった先には……」

「日本海溝がある」

 それを聞いても、ブライトは微動だにしなかった。眼前に大きく投影された、太平洋プレートに横たわる日本海溝の立体地図をじっと見つめているだけだった。

 ブライトの脳がその事実から導きだされる可能性を本能的に拒否していた。だから動けなかった。もし身体を動かしたら、その瞬間、脳がこれから想定される最悪の事態を具体的に構築しはじめるに違いない。

 

 自分はその瞬間に、正気でいられるだろうか。

 

「ブライト司令!」

 耳元で大きく叫ぶ声に、金縛りが解けたようにハッとするブライト。

 リンが下唇をぎゅっと噛んで、こちらに厳しい目をむけていた。リンの前歯にかすかにだが赤い色が付着しているのが目にはいる。

 

 あれは、口紅なのか、それとも血、なのだろうか。

 

 一瞬、そんな疑問が頭をかすめたが、それほどまでに切羽詰まっている事態であることは間違いない。自分の知る春日リンは平常時ならそのような姿態をみせることは考えられないからだ。

「ミライ……、国防隊に協力要請を」

「でも通常兵器しかないんですよ」

「亜獣を倒せと言っているんじゃない。デミリアンの救出を要請しているんだ」

「了解しました。要請します」

 連絡をいれようとアクションをおこしはじめたミライにリンが叫ぶ。

「一個大隊、いやそれ以上、一個旅団を。緊急招集を要請して!」

「そんな無茶な」

「やるの!」

 

「でないと、あの子が死んじゃう」

 

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 ヤマトはコックピット内で、自分の状態を把握しようと悪戦苦闘していた。

 中空でセンサーを操作しながら、地上や空中、人工衛星などのライブカメラ映像をスイッチングしていくと、目の前の映像が、またたくような速さで切り替わっていった。

 投影映像に、亜獣が港を突っ切り倉庫をなぎ倒していく映像がヒットした。そのうしろに引きずられているマンゲツの姿が見え隠れする。

「まずい!」

 ヤマトは思わず叫んだ。

 その瞬間、ドーンと大きな音とともに、仰向けのままマンゲツの身体が、おおきく地面から浮きあがった。ヤマトは衝撃に備えて身構えた。が、来るべき衝撃はなく、そのままなにかに包み込まれたような感覚を感じてハッとした。

 

 海に引きずり込まれた!

 

「タケル、あわてるな」

 状況を察してか、アルが司令室に飛び込んでくる映像が目に映った。走ってきたせいで息は乱れている感じはあったが、いつものアルらしく落ち着いた声色で、ヤマトの不安を和らげようとしてくれていた。

「コックピットは1000メートルの水圧に耐えられる設計だ」

「アル、そんなに持たない。コックピットが破損している」

「いや、すまん、たぶん、なんとかなるはず……」

「アル、気休めはいらない!」

 ヤマトはここにいたっても、へりくだったようなアルの口調にいらだった。

「コックピットがもっても、セラ・ムーン本体がもたないわ!」

 リンが彼らの心配などおかまいなしに割って入ってきた。

「亜獣の本体は別の空間にいるけど、マンゲツはこっちにいるの」

「その子は水圧に耐えられない」

 

 リンさん、ありがとう。おかげで取り組まねばならない課題が二つに増えた。

 

「ブライトさん!、こちらでやれること……」

 ヤマトが司令室の面々にむかって、渾身の苛立ちをぶつけようと叫んだ瞬間、突然、コックピット内の計器が一斉に沈黙した。投影されていた各部署の映像も、計器類のシグナル、室内の電灯も消え、狭い小部屋が真っ暗になった。

 だが、突然のブラックアウトに、ヤマトは慌てることはなかった。今までの戦いで何回か経験している。

 コックピット内に予備電源による淡い光がともると、ヤマトはすぐに操縦桿を引き絞った。が、なんの反応もない。ヤマトは次に目の前に迫り出してきている計器類に顔を近づけた。制御機器の動作をモニタリングするメーターやシグナルパネルは、信号や電力が通じていないことを示していた。

 ヤマトはかなりのトラブルやピンチを乗り越えてきた自負があった。だが、今のこの状況はどうだろうかと思案した。

 コックピットにダメージをくらっている、相手に完全に動きを封じられている、海の中に引きずり込まれている、そしてマンゲツに操縦を伝えるすべを失っている……。

 

 どんなに過小評価したとしても……………… 最悪だった。

 

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