いつかボク(日本人)が地球をすくう 〜亜宙戦記デミリアン〜 [ラノベ版] 作:多比良栄一
第14話 96・9%[クロックス]と呼ばれる少年少女
『
一節を知れば世界は『憤怒』し…
二節を知れば世界は『恐怖』し…
三節を知れば世界は『絶望』し…
そして最後の一節を知れば ………………… 世界は『発狂』する
その者は、暗闇のなか、その文字列をぶつぶつと呟きながら反芻した。
これが、あの少年だけに、あのラストジャパニーズと呼ばれる少年だけに託された、ということを知っているのは、世界でもほんのひとにぎりの者だけだ。その正体がなんなのかを知るために、各国がひそかにスパイを送り込んでいる、と囁かれていたが、それは間違いなく本当のことだ。
自分もそのなかの一人なのだから。
たった四節を知ることで、易々と世界の覇権を握れるかもしれないのだ。世界中の権力者が血眼になるのに値する情報だ。
だが、それは本当にそれだけの『力』を持つものなのだろうか。
いや、疑義をはさむ余地もない。
本物だ。
数十年前にローマ法王をショック死に至らしめた事実が物語る。
表沙汰にはなっていないが、過去のデミリアンのパイロットの中には、精神を病んでしまった者が少なからずいたとも記録にある。
その者はふと思った。
なぜ皆、パンドラの箱を開けようとするのだろう。その事実を知らなければ、幸せのままでいられるのに。開いてしまったあとに、その箱の底に『希望』が残っている保証はない。
まぁ、それなら、それでいい。
もしそれが避けられないのなら、自分がこの手でそれを行使するだけだ。
自分の出自を考えれば、人類そのものに仕返しをする権利は、自分にだけは、ある。
------------------------------------------------------------
ステーションの係員が駆けよってきて、うやうやしくペーパー端末をさしだしてきた。ミライがその上に手をかざすと、自分が国連軍の「少将」で、月から招聘されたパイロットたちの身元引受人であることを証明するサインが表示された。係員は満足そうな顔で会釈をすると、事務所棟のほうへ引き返していった。
ミライはふーっとため息をつきながら、昨日の自分の初めての実戦でのオペレーションを思いだしていた。まごつくことがなかったとは言えなかったが、自分なりに相応の手応えがあった。被害がでたとはいえ、亜獣を撃退することはできた。「これで残りの亜獣は10体、カウントダウンの始まりだ」と亜獣の専門家のエドが小躍りしていたのだから、任務はつつがなく完了したと自信をもっていいはずだ。
それなのに、なぜかその数分後に事態は急変した。
あらゆる部署にエマージェンシーが発動され、各部署の責任者たちは、あわただしいほどの勢いで組まれた緊急会議やグローバルミーティングに忙殺されはじめた。本来ならそれらを指揮すべきブライト司令官でさえ、みずから奔走する事態になっているのはまったく理解できなかった。
おかげで、月基地から『
新参者とはいえ、階級は「少将」で、副司令官を拝命しているというのにこの扱いだ。
宇宙輸送船が、カーゴエプロンと呼ばれる貨物の積み下ろしスペースへゆっくりと着陸してきた。着陸脚が地面につくと同時に、上空から放たれていた誘導パルスが切断されて、ガシャンと重々しい音とともにぐっと機体が沈み込んだ。
着陸するとすぐに搭乗口のタラップを3人の男女が大声で話しながら降りてくるのが見えた。
「なーんだ。意外に地球の重力ってたいしたことないじゃないのよ」
「アスカ、それはルナベースで1・5Gでの訓練をやらされてたおかげだよ」
「でも、からだが軽く感じて、飛んでいきそうな気分だわ」
「じゃあ、飛んでみせて」
「あんた『ボカ』ぁ、レイ、たとえよ、たとえ!」
「アスカ。『ボカ』ってなに?」
「あんたねー、『ボカ』は『ボカ』よ。最近流行っているでしょ」
かまびすしい少年少女たちだったが、あれでも特別待遇で『中尉』の階級が与えられている将校なのだ。そうそう礼を失するわけにはいかない。
ミライは軽く咳払いをすると、彼らの前に歩みでて敬礼をした。
「クロックスのみなさん、長旅、ご苦労さま」
「わたしは、国連統合軍本部の副司令官、ヤシナミライ少将です」