いつかボク(日本人)が地球をすくう 〜亜宙戦記デミリアン〜 [ラノベ版] 作:多比良栄一
「なに、この懐古趣味は?」
ミライに引率されて案内された、国連軍パイロットの宿舎を見た第一声は、アスカのものだった。そこには20世紀頃隆盛だった『別荘』と呼ばれたような建造物が建っていた。歴史の教科書で、富裕層が所有していたと教えられたことがある。
「なかなかクラシックな感じがして落ち着くでしょう」
異議などが生じるはずはないとばかりに、ミライがポジティブな感想を述べた。
アスカにはこれを『クラシック』で済ませる感覚が理解できなかった。過剰な装飾や、華やかな見た目などは、生活するうえでの雑音のようなもの、と考えているアスカにとっては、機能性を無視したお洒落な建物という概念が飲み込めない。しかも外観だけでなく、豪奢な調度品が置かれ、手の込んだ内装がほどこされた部屋を見せられては、さらにその違和感がつのるばかりだった。おそれいったことに、外気や天気や温度も操れる時代だというのに、リビングには『暖炉」が
レイもそれに気づいたらしい。
「これ、暖炉。はじめて見た」
「いいでしょ。それ」
ミライが誉めそやす声をあげた。
「でも25世紀には、こんなもの絶対に使わない」
「インテリアですよ。インテリア」
「雰囲気がすごくいいですよね。落ち着くような気がします」
兄のリョウマが場の雰囲気をも良くしようとしたのか、追従するような意見を言った。アスカにはそんな兄のそういうところが嫌だった。あえて不満を口にした。
「ちょっと、ミライ」
「ヤシナ副司令」
ミライが事務的な口調でアスカの軽口をたしなめたが、アスカは気にせず続けた。
「ここに来るまで、あたしたち、結構大層なセキュリティくぐってきたわよね」
「えぇ。関係者以外は侵入できないようにするのが当然でしょう」
「で、住むところがこれなの?」
「25世紀よ。もっと機能性重視の飾り気のない……、なんかそういうのが普通でしょ」
ミライはアスカをみてニコリとした。
へったクソな作り笑い。
アスカは、『この子、面倒くさいって、顔に書いているわよ』と言いそうになったが、ちらりと兄の方をみて、口をつぐむことした。
「ここでは、戦いに疲れたからだを休められるよう、アナログ感を重視しています。共同生活を通じて、あなたたちには協調性を強くして欲しいという願いもこもっているんです」
「こんなに古めかしいんじゃあ、部屋のほうはカビが生えてそうね」
アスカは精一杯の抵抗を試みた。
だが、屋敷全体の作りに反して、各自の個室は相応に近代的な作りになっていた。ほこりや汚れで部屋だけでなく、空気が一瞬でも汚れないような効果が施された『アルティメット抗菌』仕様に、室内の人のヴァイタル・データをリアルタイムで読取り、絶対的満足がいく空調や温度に秒単位で調整する『サティスファイ・コントロール』等、体調管理、室内管理は万全だった。
「司令部や各部署と緊密に連携がとれるよう、同時に100chを超える部署との同時接続が可能なラインが用意されてますし、室内に『ゴースト』を飛ばして、人を招き入れることも可能です」
ミライが得意げにそう説明したので、アスカは鼻をならした。
「ふん、『ゴースト』でも、自分の部屋に他人をいれるなんて、まっぴらごめんだわ」
しかし、ミライはアスカの言動になれたのか、まったくとりあうことなく、ベッド脇の壁に手をかざした。壁の一部が開いて、なかに用意された何本もの各種飲料水が見えた。
「保存庫には、飲み物が十数種類常備されていて、自動で補充されるようになっています」
「食べ物はないの?」
レイがさりげなく疑問を挟んだ。アスカは食い意地がはった女だと一瞬思ったが、ミライが困ったような顔をしたのをみて、すこしレイを見直した。
「ごめんなさいね……」
「食べ物は自由に与えられないことになってるの」
「なぜ?」
「ほら、あなたたち、『フローラ処理』受けてないでしょ」
「太るからだめってこと?」
「えぇ、まぁ、わたしたちは『フローラ処理』が済んでいるから、なにをいくら食べても太らないけど……」
「あなたたちは……」
「いいわ、わかった」
あまりにもあっさりと引き下がったレイに拍子抜けして、アスカが声を荒げた。
「じゃあ、食事のほうはさぞやおいしくて、栄養バランスとれているんですよね」