いつかボク(日本人)が地球をすくう 〜亜宙戦記デミリアン〜 [ラノベ版] 作:多比良栄一
『全員、足をとめて!』
交差点の中腹まで来た時、草薙大佐の声がとびこんできた。ヤマトを含めて全員がぴたりと足をとめた。先頭を歩いている草薙はその場に足をとめたまま、通信を受けている。ヤマトは自分の真うしろを警護していた兵士のほうを見た。彼は残念そうに肩をすくめた。
残念だったな。今日はここまでだ……ということだ。
草薙が顔をあげると、ヤマトのほうへ顔をむけた。ヤマトは先に口を開いた。
「出撃……だよね」
「宮崎県沖で捕捉された亜獣が……」
「行きたくない」
即答したヤマトの態度に、草薙の顔色が曇った。
「あそこは、もう……日本じゃない」
そう、あそこは太平洋進出を狙っていた『かの国』に、250年ほど前に攻められ占領されたのだ。大震災からの復興中を狙われたとはいえ、人口が半減した日本人では守り切れなかった……。
2237年……『にいさんなぶられ、九州占領』
そう日本史の授業で憶えさせられた。
草薙が不機嫌さを隠そうともせず厳しい口調で続けた。
「宮崎県沖で捕捉したはずの亜獣が、今さっき仙台市に上陸したの!。すでに日本国防軍の大隊が足止めにあたってるわ」
「通常兵器で?」
「一時間は踏ん張ってもらうつもり」
「草薙大佐、ずいぶん楽観的な……」
「だから急ぐの!」
空を見あげると、上空で待機していたスカイモービルが、ゆっくりと降りてきているのが見えた。
『人気のスイーツ店に『イチゴンゴーラ』食べにきただけなのになぁ……』
最初の一撃は今から78年前……
どこからか突如現われた怪物は、一日足らずでシドニーの半分を壊滅させた。
なんの前触れも予兆もなかった。
亜空間から出現したとしか考えられないその怪物は『亜獣』と名づけられ、世界中の人々を恐怖に陥れた。亜獣はいつどこから現れるかが予測不能で、いったん出現すると街をことごとく破壊し、数万人もの犠牲者をうみだした。
人類は『国際連邦軍』を組織し対抗したが、あらゆる兵器が『亜獣』には無力だった。
核兵器はもちろん、2250年にノーベル賞に輝いた『ポジトロン・レーザー素粒子』でも、その50年後発見され、国際条例で使用が禁止されたほど強力な『反動パルス・ニホニウム爆弾』でもまったく歯が立たなかった。
25世紀の最先端科学をもってもなす術がないこの怪物に、国際的な研究機関は『この生体は地球上のあらゆる物体で触れることができない。そこに存在するようにみえても、目には見えない薄いベールのようなもので被われ、本体はこの次元とは異なる別の空間にある』と結論づけた。
だが、人類はこの未曾有の脅威に対抗する手段を、どこからか手に入れた。
それは亜獣をつつむベールを引き裂き、亜空間のむこうに力を及ぼすことができる能力をもつ謎の生命体。
その生命体は誰が、いつ、どこで、どのようにして、手にしたものか、出自はまったく不明だった。だが、その生命体だけが怪物に対抗しうる唯一の方法だった。
人類は安堵した。
その正体がなんであったとしても、怪物を撃退できる武器を手に入れられた、と。
その謎の生命体は、亜空間にまで影響を与えられる宇宙人の意味で、『亜宙人 =デミリアン』と呼称された。