いつかボク(日本人)が地球をすくう 〜亜宙戦記デミリアン〜 [ラノベ版]   作:多比良栄一

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第23話 わたしは次に出現するヤツが弱いと期待するほど楽天家ではない

 ブライトがシミュレーションエリアまで、わざわざ足を運んで直接戦闘訓練を見に来ていることに、ヤマトは違和感と興味を覚えていた。

 自分の訓練の時は直接見に来ないし、リアルタイムで映像をモニタリングすることもない。もちろん報告書には目を通すくらいはしてくれているだろうが、それ以上でも以下でもない関心の示しようが常だった。

「ブライトさん、珍しいですね」

「あぁ、彼らには、おまえ抜きで戦ってもらわねばならんのだ」

「ぼくはマンゲツでなくても乗れるけど……」

「それでなにかあった時、わたしにはとるべき責任の方法がわからん」

「へー、ぼくのこと大事に思ってくれてるんだ」

 ブライトの目だけがギョロリとこちらにむけられた。

「いいや、まったく」

「わたしの仕事は『おまえを死なせない』。それだけだ」

 これは一本とられた、とヤマトは思った。

 常日頃から自分が言っている口癖を、見事に切り返された。

 

『死なないことがぼくの使命だ』

 

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 誘導電磁パルスレーンの電磁波に導かれて上空からデミリアンがゆっくりと降下してきた。八冉未来(やしな・みらい)はブライトたちよりやや後方の席から、それを見あげていた。

 この三体を見るのははじめてだった。

 もちろん訓練学校でも3Dモデルや実物大の素体を使った授業で、いろいろ教えられたので今さら驚くことはない。だが、本物がもつ凄みや重厚感は既知であったとしても、未知のなにかを感じさせた。

 

 まず、リョウマが搭乗するセラ・プルートが着地した。

 ミライの第一印象は、なにやらおどけた顔、というものだった。セラ・ムーンは顔をプロテクタで覆われても、悪魔を想起させる邪悪な顔付きだったが、セラ・プルートはまるで歌舞伎の隈取りのようにも、ピエロのようにも見えた。頭を守る防具からは「連獅子」を想起させる真っ赤な長い髪の毛のようなものが腰まで伸びている。

 

『あれ、2470年の流行色だわ』

 セラ・プルート身にまとう甲冑が、淡い青と緑の中間の色合いで絶妙に配色されているのを見て、ミライはなぜか嬉しくなった。先日、色を自在に調整できる大きな庇の帽子を買って、この色にカスタマイズしたばかりだ。今のところそれを被って出かける機会には、恵まれていないことが残念だった。

 

 

 次に降りたったのは、レイのセラ・サターンだった。ちょっと濃すぎるのではないかという青い機体だった。ブルーというよりネイヴィーに近いかもしれない。サターンの顔を覆うプロテクタはなにをモチーフにしているか、すぐにはミライにはわからなかった。

 ただ、どこかの古都でみかけた気がしてそれを念じた。ニューロンストリーマが、あっという間にAIネットワークにアクセスし、思い浮かべた記憶と目の前のデミリアンを、ものすごいスピードで照合、該当のものを絞り込んでいく。

 ミライが似ていると思ったのは、「阿修羅像(あしゅらぞう)」と『仁王像」だった。静と動の真逆な顔立ちだが、そのどちらをも想起させた。

 

 最後に降りたったのは、アスカのセラ・ヴィーナス。

 ヴィーナスという名前にインスパイアされたのか、この機体だけ女性を意識させる丸みを帯びたフォルムだった。そもそもデミリアンに雌雄の区別があるか不明だと言われている。

 が、この女性を印象づけるプロテクタや色使いは、設計者の思いが色濃く反映しているのだろう。全体の色調はピンクに近い色合いだが、そのまわりを同系色で彩られ華やかさを強固に印象づけている。顔を覆うプロテクタも女性の化粧のような効果をほどこされ、どこかしら穏やかさを感じさせる。

 だが、その奥に隠された目がかいまみえると印象は一変した。燃えあがる炎のようを模したデザインに見えた頭上の前立(まえだて)が、のたくる蛇を頭に抱いたメドゥーサに見えてくる。

 

 ミライは各機に体格差や体力差、能力などの個体差があるかはよく知らなかった。

 が、異様であるという点では三体とも旗艦機であるセラ・ムーンにひけをとらないな、という印象をつよくした。

 

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 目の前の風景が動き始めた。

 広いエリアの各所の地下からビル群に見立てた白い建造物がせりあがってきた。ビルの形の素体。高層、低層のビルサイズ素体が所狭しとひしめき合うように屹立しはじめる。

 ヤマトは一目みただけで、それがどこの街かすぐにわかった。

「戦闘シーンは、シブヤか」

 ビルが街を形作りはじめると同時に、その表面に質感がマッピングされていく。ビルの形状、色合い、材質感覚、光沢、立体感が、まるで本物とみまごう精度で変貌していった。またたく間に、ただの広いだけのエリアに、シブヤの街が出現していた。

 空のうえから電磁パルスで持ちあげられた大きな白い塊がゆっくりと下降してきた。

「さて、どの亜獣をシミュレートするのかな」

 ヤマトはちらりとブライトのほうをみたが、彼は微動だにせずエリアを見ていて、ヤマトの呟きはまったく無視していた。

 ビル数階分の大きさの白い『素体』に、表面にスキンが投影されはじめ、目まぐるしく色や表情を変えていく。しばらくして素体が着地したときには、亜獣の姿に変身していた。

「バンガスター」

 ヤマトは嘆息するようにブライトに言った。

「あれ、S級だけど大丈夫?」

 

「わたしは次に出現するヤツが弱いと期待するほど楽天家ではない」

 

 目線をエリアにむけたまま、ブライトが言った。ヤマトはその態度に、おまえに頼らなくてもいいようにしてやる、という気持ちをくみ取った。

「んじゃあ、お手並み拝見といきましょう」

 

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