いつかボク(日本人)が地球をすくう 〜亜宙戦記デミリアン〜 [ラノベ版]   作:多比良栄一

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第27話 君には妹とツガって欲しいんだよ

 ヤマトは土曜日は社員食堂で昼食をとる許可はもらっていたが、セキュリティの関係上で一般の職員がまばらな午後2時頃を指定されていた。おかげで、喧騒のなかでの食事を望んでいたはずなのに、ほぼ人が絶えた広い食堂で、ひとり遅い昼食をとる羽目になった。

「前、いいでしょ」

 というなり、アスカがミールプレートをどんと目の前に荒々しく置いた。

「これだけ空いてるんだから。ほかの席のほうがよくないか?」

「あんた、まったく『ボカ』ね。わたしがあんたに話があるからに決まっているでしょ」

 そう言いながらアスカは、ヤマトから2つ離れたテーブルの横で装備をまとったままこちらを監視している草薙大佐に目をやった。

「こんなとこまでお守り?」

 草薙は微動だにせず、視線だけをアスカのほうにむけた。

「草薙大佐の任務はぼくを守ることだからね」

「は、基地内でだれがあんたを襲うっていうのよ」

「これまでに2回襲われている。これでも、結構、ファンが多くてね」

 ずるずると麺をすすっているヤマトを、アスカはあきれた顔で見た。

「あたしたち専用の居住区域で食事すれば、あの女もあんたに金魚の糞みたいについてまわらなくても済むじゃないのよ」

「ま、ごもっともだけど、たまには人がにぎわう場所で食事したいじゃないか」

 アスカはほとんどひとけが絶えた食堂内をぐるっと見渡した。

「ほとんど人はいないようだけど」

 そう言うとドスンと乱暴に着席した。アスカが目の前のボウルから一口大のフライのようなものをつまみ、ぽんと口の中に放りこみながら言った。

「ねぇ、あんた、あたしとツガいなさいよ」

 顔を伏せていた草薙がうっすらと目を開けた。

「また、それか」

「あったり前じゃないの。あたしもそれが任務」

 アスカは草薙のほうに目をむけて言った。

「あなたみたいに、このくそつまらない男にまる一日ついていなきゃ女には同情するけどね、あたしも似たようなモン。くそつまらない、こんな男とツガわなきゃなんないの」

 自分を名指しされて草薙がやおら口を開いた。

「アスカさん。ヤマトタケル、という男はくそつまらなくはないわ」

「扱いにくい男だけどね」

 アスカはムッとした。言外にあなたみたいな新参ものとは、過ごしている時間が違うのよ、と宣言されたように思えて、なぜか腹がたった。

「あーら、ずいぶん親密だこと」

「まぁ、一日の大半一緒に行動していますから」

 アスカは草薙にもう何発か反撃しようかと、彼女を睨みつけたが、すぐにばかばかしくなったのか、両手をひろげて降参のジェスチャーをした。

「もーー、そんなこと言いに来たんじゃない」

 アスカはヤマトのほうへ向きなおった。ヤマトはふたりの女が目の前で静かな対決を繰り広げていたが、われ関知せずで、ラーメンのスープを飲んでいるところだった。

「ねぇ、放課後、兄貴とリアル・ヴァーチャリティでどこ行ってたの?」

「どこだっていいだろ。男同士の秘密だ」

「は、どうせ、どっかのシティで女の子、ハントしにいってたンでしょ」

「だとしても、それをとやかく言われる筋合いはないと思うけど」

「やっぱりだ。あのエロ兄貴。いっつも逃げてばっかり」

 ヤマトはラーメンを口に入れようとして手をとめた。

「逃げて?」

「そうよ、兄はいつだって現実を直視しようとしない。父そっくり」

 ヤマトは目の前で、兄のことで一人憤っているアスカに、リョウマとのことで気になったことを尋ねてみることにした。

「リョウマは、ずいぶんお父さんのこと、恐れてたけど……」

「そりゃ、厳しかったもの。期待もいっぱいかけられたし」

「まぁ、それはなんとなくぼくも察した」

「でも、それはすべて父自身のためのもの。あたしたち子供のためじゃなかった。だからあたしは、一時期、まったく口をきかなかったこともあった」

 アスカがフライを口に放り込む。

「兄はそのおかげで、あたしの分まで期待をひきうけることになって、必死でいい息子を演じたわ」

「でも、きみたちの父さんは、きみたちを見限った?」

「ええ、そう。3%だけ届かなかったから」

「わたしたちが検査を受けて、999(スリーナイン)ではなかったって聞いて、父の興味はわたしたちから無くなったの」

「そんな。きみたちの責任じゃない。むしろ親の遺伝の問題だろ」

「父はまず、それを母のせいにして母を追い出した。そして、そのあと、わたしたちをロンドンの寄宿学校に送り込んだ」

「あぁ、そこでリンさんと知りあったのか」

「むこうは小遣い稼ぎの、ただのパートタイムの講師だったんだけどね」

 あの時、あれだけ親密度をアピールして、場の空気を支配していながら、ここではあっさりと種明かしをすることに、ヤマトは驚いた。このアスカという娘は、その場、その場でもっとも優位にたてるシチュエーションを嗅ぎ取り、瞬時にそれにふさわしい人間を演じているのかもしれない。

 

 だとしたら、たいした役者だ。

 

 アスカが詰め寄るように顔をよせヤマトに訊いた。

「兄さん、どんな様子だった?」

「あぁ……。なんかすごくはじけてたな。リョウマにあんな一面があるなんて……」

 そこまでしゃべって、アスカがいつの間にか、こちらを(さげす)むような視線をむけていることに気づいた。

「あー、そうなんだ。やっぱりね。あのエロ兄貴」

「いや、彼なりのストレス……」

「で、あんたも一緒にお楽しみだったのね」

「ち、ちがうよ」

 ヤマトはいつの間にか抗弁させられていることに気づいて、とまどった。なにもやましいことも、隠しだてもないのに、なぜぼくは弁解している?。 

 アスカが突然、ドンと机の上に手をついて、からだを乗り出しヤマトに顔を近づけた。ヤマトがちらりの草薙のほうへ視線をむけたが、アスカはすでにもう一方の手を草薙のほうへむけて突き出し、制止の合図を送っていた。

 草薙もすぐにはうごくつもりがないらしい。

 アスカがまつげ同士が触れそうなほどまで近づき、まじまじとヤマトの目をのぞき込んできた。まるで網膜に隠しているものを読み取ろうとしているかのようだった。

 アスカが嘆息した。吐息がヤマトの頬をくすぐる。

 

「で、あんた、きのうの夜中、レイと抜け駆けして、なにしていたの?」

 

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 レイの肢体が空中で大きく弓なりにしなったかと思うと、ぎゅうっと手足をまえにふりぬき、砂面(すなも)の砂をはねあげて着地した。着地点の近くに立っている記録判定ロボットが上空に「12・03m」の記録を表示する。

 レイとアスカの身体能力の高さを見せつけられて、ヤマトはおもわず首を横にふった。すでにここまで走り高跳びと走り幅跳びでは、ふたりの成績はヤマトに肉薄している。高校生の男女の体力差を考慮すれば、むしろ負けていると言っていい。今の三段跳びをみるかぎり、しなやなかな身体をうまく使って、ながい滞空時間をうみだす技術は、専門のアスリート顔負けだ。

 アスカが走り出す準備にはいる。一回屈伸して、からだをうしろにぐっと引くと、その反動で一気に勢いをつけて駆け出した。

「アスカ、胸、大きいだろ」

 横に座っていたリョウマがひじでヤマトの胸を突きながら言った。

「自分の妹だろ。そんなこと言ってると、またエロ兄貴って……」

 アスカが3ステップ目を踏んで跳躍すると、その反動でバストが上に持ち上げられた。1ミリでも遠くへ飛ぼうと空をかき、前傾姿勢で見事に着地した。今度はその衝撃でバストが下方へ揺れる。

「ほらね」

「だから……」

「君にはアスカとツガって欲しいんだよ」

「勘弁してくれ。どうせ親父さんへの意趣返しかなんかが目的なんだろ」

「まぁ、それもないとは言わないよ」

 リョウマが立ちあがりながら言った。

「でも兄として、妹の幸せを願っているっていうのにも嘘はない」

 

 リョウマに抗議をしようとしてヤマトが立ちあがった時、亜獣出現を告げるサイレンの音がグラウンドに響き渡った。先ほどまで記録を表示していたロボットの頭上には、すでに「亜獣出現」の警報が点滅している。

「亜獣が現れた?」

 その声はこころなしか震えているように聞こえた。だが、そんなことはおかまいなしにヤマトは奮い起つように声を弾ませた。

 

「30日ぶりだ。さて、ひと暴れするかな」

 

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