いつかボク(日本人)が地球をすくう 〜亜宙戦記デミリアン〜 [ラノベ版]   作:多比良栄一

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第33話 経験したこともないほどの激痛がからだ中に走った

 聞きたくもないネガティブな情報をしこたま送り込まれて、アスカはうんざりとしていた。

 頼るべき大人など、しょせんこんなものなのだ。ここは子供である自分がしっかりとしなければならない、と改めて思った。

 アスカは中腰を保った低姿勢のまま、ビルの陰に隠れながら、すでに亜獣の数百メートル手前まで近づいていた。衛星や上空、地上等あらゆる場所から送られてくる映像で、自分が相手に気づかれないギリギリの前線まで来ている。

 だが、そこから先が問題だった。

 亜獣が精神攻撃をする武器を有していると指摘されては、次の一手は司令部の判断に委ねるしかない。

 アスカはこの地域でひときわ高い高層ビルの壁に背中を預けながら、レイの合流を待つことにした。

 セラ・ヴィーナスを壁側にむけると、全面ガラス張りのビルの大きな窓ガラスに顔を近づけて、中をのぞき込む。

 7〜8階ほどの高さの階層には、サッカーコートほどの広いフロアが広がっていた。

 最新のクリア素材の柱の使用により、パーテーションや壁等もないため、100メートルほどむこうの反対側の窓まで見通すことができた。

 フロア内をのぞき見ると広い空間のところどころに、『スペクトル紗幕』が張られていることに気づいた。アスカには信じられない思いだったが、亜獣接近の警報が発せられている状況で、まだオフィスに残って仕事をしている人たちがいたのだ。

 個室サイズに張られた『スペクトル紗幕』のひとつがフッと消えて、体格の良い男性の姿が現れた。男性が大げさなアクションで指をパチンと鳴らすと、そこに設えられていたデスクとチェアが、床にすーっと沈みはじめて収納されていく。よほど仕事がはかどったらしく、鼻歌まじりに収納されていく様子をみていたが、ふいにこちらのほうを振り向いた。

 アスカにはその男性がパニックになる様子が手に取るようにわかった。

 高層ビルに貼り付いて自分を睨みつけている、異形のバケモノに遭遇したのだ。

 彼は顔をこわばらせ、悲鳴をあげ、震える足で駆け出し、つまづき、壁に設置された警報器を殴るようにして押し、そのまま壁際にへたりこみ、そして壁の陰に身を寄せて必死に隠れようとした。

 室内に鳴り響いた警報音に驚いて、各所に点在していた『スペクトル紗幕』が消失し、個室から何人もの人々が姿をみせはじめた。全部で20人ほどはいるだろうか。混血が当たり前になったとはいえ、日本人の勤勉な血は確実に受け継がれているらしい。

 命よりも大事な仕事を抱えている人のなんと多いことか。

 

 アスカにはまったく理解できなかった。

 最前線で戦う自分たちですら『死なないのが仕事』なのだから。

 

 その時、悲鳴ともとれる叫び声がコックピット内に響いた。

「アスカ、そこを離れろ!!」

 アスカは反射的にフロアの反対側の窓に目をやった。ガラスのむこうからなにか黒いものが近づいてくる。

 と、思うまもなく、亜獣が放った無数の針が窓ガラスを突き破って、フロアを横断して飛んできた。アスカはあわててセラ・ヴィーナスの両手を交差させて顔をかばった。

 経験したこともないほどの激痛がからだ中に走る。

 

 アスカは生まれてはじめて、悲鳴をあげた。

 

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