いつかボク(日本人)が地球をすくう 〜亜宙戦記デミリアン〜 [ラノベ版]   作:多比良栄一

37 / 101
第37話 そこに『父』がいた。落胆を隠せない表情でこちらを見ていた。

 トリガーに指をかけたとき、にわかに空が暗くなったことはわかっていたが、構わず銃を撃った。しかし、その正体が針の雨だとわかった時にはすでに遅かった。無防備状態の背中を無数の矢に突き刺され、リョウマは背骨が折れそうになるほど、弓なりにそっくり返った。軽量をはかるためこの機体には背面のプロテクトは最小限に留められていただけに、その激痛は想像以上のものだった。

 すぐに痛みがひいても吹き出した汗と痛みによるショックで目がかすんだ。

『当たったのか』

 リョウマは最後の攻撃をうけたとはいえ、まちがいなく弾丸は亜獣の頭を粉砕したはずだと確信していた。

「レイ、アスカ、どうなってる?」

 視界がひらけたリョウマの目に、真正面にいる亜獣の姿が映っていた。

 ことばが出なかった。

 亜獣は羽をひろげて飛んでいた。 

 虫型なのだから飛ぶのは当たり前だ、ということを考えてはいた。だが、実際に羽ばたいているのを目の当たりにすると、驚きよりも、恐怖が先にたつ。

「うわぁぁぁぁ」

 おもわずあとずさりし、うしろのビルに尻餅をついた。駐車場になっていた一階部分が潰れて、その上の階はセラ・プルートの尻の大きさ分が崩れ落ちた。

 レイとアスカによる執拗な攻撃で、まるで安物映画のモンスターのようにぐちゃぐちゃになった顔をこちらにむける。おそらくどれかまだ機能している目で、こちらを睨みつけているのだろうが、損傷がひどすぎて、リョウマにはそれがどれかがわからない。それがさらに恐怖をかきたてた。

 しかし、亜獣との至近距離でのにらみ合いは、ほんの一瞬で終わった。みるみるうちに亜獣のからだが透明になりはじめたのだ。

 リョウマは正面頭上にあるカウンターを見た。

 残り3秒。『移行領域』のむこうに戻るまでわずかの時間しかなかった。

『し、しまった』

 セラ・プルートが、亜獣を逃がすまいと、あわてて手を伸ばす。

 あちらに帰してたまるか…。

 が、カウンターの数字が『0』になり、セラ・プルートの手が空を切った。

 その瞬間だった。

 リョウマはボワーンという奇妙な音とともに空気を震わせる衝撃を感じた。それはまちがいなくコックピット内にも届く不思議な振動だった。

「くそう!!」

 思わず、操縦桿を拳でたたいた。

「リョウマ、大丈夫か?」

 ブライトの顔が目の前もメインモニタに投影された。

 心配そうな顔をしている。

 だが、この顔は今回の失態を咎め立てしたいのを押し殺している表情にちがいない。

 リョウマはそう感じた。

「初陣にしてはみんなよくやった」

 アルが横からわってはいってきた。

『みんな?』

 そう、レイやアスカはよくやった。上出来だ。だがボクはどうだ。『みんな』の中にボクは含まれていない。父さんはいつもそういう物言いをしていた。言外に皮肉がこめられているねぎらいという形の責め苦だ。

「リョウマ君、セラ・プルートの被害状況はどうなってるかわかる?」

 春日リンが事務的な口調で様子を訊いてきた。リョウマはそこに、感情を押し殺している心根を感じとった。本当は『あなたはどうなっても構わないけど、デミリアンを破損したら承知しない』、そういう意味合いがこめられている口調だ。

 リョウマには、彼らの底意地が手に取るようにわかる。父さんはいつもそういう含みをもったしゃべり方をしていた。その意味をしっかりと読み取らないと、今度はそんなことも理解できていないのかという目をむけられた。

「まぁ、なによりみんな無事でよかった」

 ブライトが三人の健闘を総括するようにしてねぎらった。

 いや、違う、そういう意味じゃない。君には失望したよ、無事だったことが評価できるだけだよ。リョウマにはそう聞こえた 

 リョウマは口惜しさに思わず歯がみした。また父さんと同じように周りの人々を落胆させてしまった。ぼくはどうすればいい。

 ふと、モニタ画面をみると、避難していた人々がビルのなかから、ばらばらと外へと出てくるのが見えた。

 リョウマはハッとした。

 

 そこに『父』がいた。

 落胆を隠せない表情でこちらを見ていた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。