いつかボク(日本人)が地球をすくう 〜亜宙戦記デミリアン〜 [ラノベ版] 作:多比良栄一
「大丈夫?」
レイのセラ・サターンがすっと手を差しだすと、ためらいがちにアスカのセラ・ヴィーナスが手をのばした。ビルの合間にはまりこんで、自力で立ち上がるのに苦労しているくせにアスカは、助けられてやっているんだ、というような態度をとっていた。
レイに引き揚げられて起ちあがったアスカは、すぐさま兄の元へ向おうとした。
「あわてなくていいわ。お兄さんは無事よ」
自分の行動を見透かされた気がして、アスカは反射的にレイのことばを否定した。
「な、なにも兄さんを心配していたわけじゃないわよ」
「亜獣はもういない。逃げられた」
アスカは大きく嘆息して言った。
「初戦は引き分けってことかぁ」
「たぶん、あともうすこしだった。でも私たちに油断があったのは確か」
「あ、あたしは油断なんかしてなかったからね」
アスカが声を張りあげて否定したが、ブライトからのねぎらいの声がそれを打ち消した。
「レイ、アスカ、ご苦労だった。早く帰投を」
リンからはすこし皮肉めいた口調のことばが投げかけられた。
「両機の損傷具合が気になるわ。とくにアスカのほう」
「ちょっとぉ、メイ。なんであたし?」
「毒がまわっているかもしれないでしょ」
「んもう」
アスカは自分のはいた
「メイ、兄さんは?」
「あら、聞いてなかった?。大丈夫よ」
「兄弟仲良く、たっぷり針に刺されたようだけど」
アスカとリンのやりとりを聞きながら、レイは自分だけ痛い思いをしなくて済んだことに安堵していた。
と、突然、リョウマのいる方角でなにか異変が起きていることに気づいて、ハッとした。ビルの合間から粉塵とともになにかが舞いあがっているのが見えた。
舞いあがっているのは……、人間だった。
「まるで人がゴミのよう……。どうして?」
レイは自分の目を疑った。低層ビル群の屋上よりも高い10メートル以上もの上空に、人間が舞いあがる理由がわからない。
レイは指を中空で動かして、その場所の映像に切り替えた。目の前に上空からの映像が飛び込んできた。
その映像の中心にいるのはリョウマだった。リョウマのセラ・プルートが逃げまどう人々を踏みつけている姿がそこにあった。
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リョウマの目に父の姿が映っていた。紛れもなくそれは父だった。
あの日、自分と妹にゴミでも見るような視線で、自分たちに出ていくように言った父は、いまも息子への落胆と侮蔑が入り交じった目でこちらを見つめていた。
『父さん!』
リョウマの心の声がまるで届いたように、自分の足元にいた父が一斉にふりむいた。大きな父、小さな父、太めの父、華奢な父…、そして、女の格好をした父。みんなこちらに、あの目をむけていた。
突然、父たちが蜘蛛の子を散らすように、逃げまどいはじめた。どの父もこの場所から一刻もはやく逃れようと急いでいた。リョウマは父親に突き放された時に感じた、胸の痛みを思いだした。
あんな思いは二度とごめんだ。
セラ・ブルートは持っていた銃をひっくり返し、長い銃身のほうを両手に持ちかえると、台尻を下にむけて地面すれすれをなぎ払った。
たった一撃で父たちはおもしろいように空中に舞い、はじけ飛んでいった。何人かの父たちは近くのビルの壁に激突し、びちゃびちゃと赤い花を咲かせる。
コックピット内でデッドマン・カウンターが、猛烈な勢いで数字を重ねていく音が聞こえる。リョウマにはそれが天使の歌う賛美歌のようで、気持ちがよかった。
リョウマは鼻歌をうたいながら、地面に残っている父をどすどすと踏みつけていった。
虫を足で踏みつぶして遊んでいた時の、子供の頃の気分に次第に戻っていく。その時とちがうのは、足の裏に伝わってくるぶにょっとした感触だけだった。はだしで果実を踏みつけているような感覚。力をこめるたび、なにかが足の裏ではじけて、中身が吹き出しているのがわかる、なんとも言えない気持ちよさ。
この感触は甘美なる福音だった。
リョウマは廃虚ビルの屋上の陰に隠れている父を発見した。何人も寄り添い、息を殺しながらも震えている父たち。
父は根絶やしにしなければならない。
そういう