いつかボク(日本人)が地球をすくう 〜亜宙戦記デミリアン〜 [ラノベ版]   作:多比良栄一

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第4話 おまえなんか、この世の終わりまでどこかをさまよっていたらよかったんだよ

 それはロボットと呼ぶにはあまりにも肉感的な部位がむきだしで、生物そのものを隠そうともしていないかった。

 

 はじめて見るものは、誰もが必ず一瞬息を呑む。

 

 40メートルもの巨体を下から見あげるため、顔ははっきりと見ることできない。だが、それでもそこに異形の禍々(まがまが)しさをかいま見ることができた。

 顔のフォルムはまさに髑髏(どくろ)そのもの。

 

 その頭を覆う兜には戦国武将のような立派な「前立(まえだて)」が(しつら)えられ、その中心には、名前を体現するかのように「満月」に見たてた大きな円形の装飾があった。身体につけられた、おびただしいまでの装飾は、その姿を中途半端に飾り立てることで、むしろ、その違和感を増幅している。武将の甲冑とも、僧侶の法衣とも、花魁《おいらん》の打掛ともとれる、厳めしさと、荘厳さと、絢爛(けんらん)な彩りが同居しているようでもある。

 通称『マンゲツ』ーーー

 

 そう呼ばれるデミリアンにむかって、ヤマトが大声をあげた。

「マンゲツ!。2ヶ月ぶりの出撃だ!」

「どうだ。嬉しいだろ」

 マンゲツの落ちくぼんだ眼窩(がんか)の奥で切れ長の目がうっすらと開く。爬虫類のまぶた『瞬膜』に似たものが目を一瞬白濁させ、まばたきをしたかと思うと、むき出しの歯が並ぶ顎をいびつにゆがませた。

 それは、明らかに、ヤマトの言葉に反応したとしか思えない反応だった。

 おそらくそれが、それにとっての「笑み」なのだろう。

 

「は、笑ってやがる」

「おまえなんか、この世の終わりまでどこかをさまよっていたらよかったんだよ」

 

 ヤマトは昇降機に乗るとコックピットへむかった。

 ウィーンという高音と共に、いたるところから同時にいくつものプロテクタが動きだし、マンゲツの顔をおおいはじめた。まるで気味の悪い顔を隠すかのようだ。

 それと同時に、マンゲツの胸に装着されたコックピットのハッチが、両側に開きはじめていく。

 およそ洗練されているとは言いがたい武骨な機器がごっちゃりと詰めこまれている小さな空間。操縦席は一人が搭乗できるギリギリの高さと奥行きしかない。

 昇降機がマンゲツの胸の部分で止まると、ヤマトはコックピット内に半身乗り入れながら、下から見あげているクルーに声をかけた。

「じゃあ、アル、エド、リンさん、サポートよろしく」

 下から三人三様の返事が聞こえてきた。

 すぐにコックピット内に目をむけたヤマトは、目の前のモニタからブライト司令官がこちらを睨みつけていることに気づいて、あわてて付け加えた。

「あ、ブライトさんも」

 モニタ映像のむこうで、ついでに呼ばれたブライトが苦虫をかみつぶしたような表情をしているのがみてとれた。

 

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 八冉未来(やしなみらい)はついにきた実戦本番に、どうしても興奮と緊張が抑えきれなかった。

 希望してやまなかった国連軍の仕事、それも最前線の日本支部の副司令官を拝命して、一カ月あまり。当初は、ブライト司令官の秘書まがいの仕事が続いていたが、やっと人類を救う戦いの末席に加わることができるのだ。

 

 彼女は深呼吸をすると目の前にあるマイクのスイッチをいれた。

 この位置へ長足のスピードで就けたのは、世界的に名だたる八冉財閥の名を借りたおかげ……。そう仲間内で囁かれていたことはもちろん知っていたが、彼女は意に介さなかった。

 財力を利用した割り込み……。みんなが快く思わないのも理解できた。

 

 だが、才能を持って生れてきた人間が、己の才能を駆使して一足飛びに駆けあがることがどうして悪いのか。スポーツや芸術の世界ではあたりまえのことではないか。

 

 自分の場合は単に、金持ち、という才能に恵まれただけだ。

 

「セラ・ムーンをパルスレーンへ移動します」

 第一声はつっかえることなく言えた。上々の滑り出しだ。

 と、突然、目の前にコックピットのパイロット、ヤマトタケルの映像がうかびあがった。「ミライ副司令、こいつはマンゲツだよ」

「セラ・なんとか、とかいう名前なんてやめてくださいよ」

 ミライはムッとした。

「ヤマト少尉。その機体、あなたの乗っているそれは、『セラ・ムーン』号で間違いないですよ」

「通称、マンゲツかもしれませんが、マニュアル通りに進めさせていただきます」

「ーったく、初めての本番だからって、力はいりすぎだよ」

 いくら百戦錬磨の戦士と聞かされてはいても、目の前に映しだされているのは自分よりもかなり年下の少年。ミライは新人扱いされたことにカチンときた。

「出撃マニュアルには、『セラ・ムーン』と書かれてます。『Selah(セラ) 』は旧約聖書の詩編に出てくるヘブライ語が語源で……」

「わかった、わかった」

「それ、前の担当者にも聞いたよ。セラ・何とかでいいよ……」

 相手が意外にもあっさり折れたことで、ミライはすこし拍子抜けした気分だった。

「でも、ボクのことをヤマト少尉とか、正式名称で呼ぶの禁止ね。タケルでいい」

「あー、まぁ、いいわ」

「よかった」

「ミライさん、ちょっとは肩の力が抜けたみたいだし」

 目の前に映し出されたヤマトのタケルがしたり顔で言ってきた。ミライはそこではじめて、自分が手玉にとられていたことがわかった。

 だが、おかげで緊張がすっかりほぐれていた。彼なりの気遣いなのだろう。

 ミライは小さく嘆息した。これから最前線にむかうというのに、他人の状態にまで気を配る余裕があるというのは、腹立たしくはあるが、さすが唯一無二のエースパイロットだ。

 いさぎよく降参するしかない。

 

 格納庫内に、気負いが解けたミライの軽やかな声が響きわたる。

 

『セラ・ムーンを流動電磁パルスレーンへ移動します』

 

 マンゲツの肩部分から上空に誘導パルスが放たれ、パチパチと電流が立ちのぼった。それを呼び水のようにして上空からパルスが走り、マンゲツの身体に帯電する。

 

 マンゲツの足がゆっくりと地面から浮きあがりはじめた。

 

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