いつかボク(日本人)が地球をすくう 〜亜宙戦記デミリアン〜 [ラノベ版]   作:多比良栄一

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第49話 あなたのかけるべきは愛情だったはずでしょう!。かけたさ、お金という愛情をね

 ブライトにはその男が人間的に欠陥がある、傲慢ごうまんな男だとわかっていた。

 自分本位で、他人の痛みなどわかろうとうもしないクズ人間。すなわち、かつての自分の父とおなじ種類にカテゴライズされる男だ。それは承知はしていたが、責務として連絡をとらないわけにはいかなかった。 

 その成果が今、目の前に空中に浮かんでいる『SOUND ONLY』の文字だった。

 相手の男はリョウマとアスカの父親の龍氏だった。

「ーーですが、お父さん。あなたの息子さんと娘さんなんですよ」

 思わずブライトが声を荒げた。

「ふん、私には息子も娘もいないと何度も言わせるつもりかね」

「あなたが、お子さんたちと離縁されたのは重々承知しております。ですが、血縁上はあなたは父親なのですよ」

「逆に言えば、法律上は他人なのだよ、ブライト司令官。私は情愛が法律を越えることがあるなどと思ったことがないのでね」

 ブライトは、やりづらい、と感じた。この男は自分と似たタイプだ。人の意見を聞かない頑迷げんめいさを持ちながら、詭弁きべんまがいの理論武装で相手をねじ伏せようとする。言っていることに筋は通っているが、それは自分に有利な結論ありきで論点を構築しているにすぎない。そしてそれに対して反駁するものがあれば、排除するか、聞く耳を持たないようにする。

「息子さんが死ぬかもしれないんですよ」

「もしそうだとしたら、キミにはわたしたちの家名を汚さないように、はからってもらいたいな」

「それでなくとも、すでに各メディアは今回の戦いで、若きパイロットが暴れて4000人もの人々を殺したことをまくしたててるんだ」

「あなたの一番の心配はそれなんですか?」

「あぁ、もちろんだとも。あいつが未成年でいてくれてよかったよ」

 ブライトはその物言いに腹がたった。自分の采配の不手際に一因があるということはわかっている。わずかだが責任も感じてもいる。だから、親族に嘆き悲しまれたり、なじられたりすることは覚悟したうえでコンタクトをとったのだ。だが、命がけで戦地に赴おもむいた息子や娘に対する無神経な反応は、罵倒されるよりも腹立たしかった。

「お父さん。あなたが、あなたがそんなんだから……」

「他人の君になにも言われたくないね」

「私は赤ん坊の頃からどれほど二人に期待をかけてきたか、わかるかね。それを裏切られたのだよ」

「あなたのかけるべきは期待ではなく、愛情だったはずでしょう!」

「かけたさ、お金という愛情をね」

「それはあなたのプライドを保つための投資にすぎない!」

 ブライトはいつのまにか、自分が大きな声をあげていることに気づいた。それほどまでに自分が激高している。自己欺瞞じこぎまんに満ちたこの親の元で、あのふたりがどれほど窮屈な生き方を強いられてきたのだろうか。

 自分も父に厳しく育てられ、一条家の名を汚さぬよう教育されてきたが、これほどまで冷徹で残酷な仕打ちは感じなかった。父は自分が失敗することを笑って許してくれた時もあった。ただ、自分がそんな自分を許せなかっただけだ。

 だが、本当にそうだったのだろうか。ふと、不安が心のなかにもたげた。

 今回の件で、もし司令官の職を辞することになったとしたら、父は本当に心から許してくれるだろうか。家名に泥を塗るような事態になったとき、父はリョウマの父親とはちがう反応をしてくれるだろうか。

 ブライトは突然、胃がきりきりっと痛むのを感じた。からだに埋め込まれた『生体チップ』が異変を感知し、すぐさまAIドクターに診断を要求するレベルにまで達しているほど強いものに思えた。だが、どんな診断をくだされても、25世紀の医療ごときでは、この痛みは根治できるとは到底思えなかった。

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