いつかボク(日本人)が地球をすくう 〜亜宙戦記デミリアン〜 [ラノベ版]   作:多比良栄一

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第54話 ごめん、アスカ。キミの想い出の遊園地、今から戦場になる

 亜獣出現予定の当日は朝から、各部署担当やクルー、ロボットたちで、出撃レーンはあわただしさ一色になっていた。彼らのペースに引っ張られて、調子を崩したくなかったので、レイはセラ・サターンに搭乗し、彼らの邪魔にならない場所で、万布を使いこなすための訓練の最終点検をしていた。

 レイは、万布をセラ・サターンの首にケープのように巻くと、それをすっと引き抜きながら、「盾」と呟いた。布の終端が、首から離れるか離れないか、というタイミングで万布は形を変えた。レイが防御態勢の構えをした時には、すでにレイの手には盾が握られていた。レイが「布」と呟くと、それが手からダラリと垂れ下がり、元の布にもどった。レイは、すぐさま、「ネット」と呟き、形状をネットに変化させた。左右の厚ぼったい部分をもってピンと張ると、柔軟性に富みながらも、強靭な網に変化した。さきほどの盾の倍ほどの面積があり、かがんだ状態ならじゅうぶん全身を隠せるほど大きかった。

「レイ、使いこなせそうか?」

 ヤマトのコックピットの映像がサブモニタに映った。ヤマトはいつの間にかマンゲツに乗り込んでいた。

「えぇ、問題ない」

 レイがそう答えると、画面のむこうのヤマトが安堵したような顔を返してきた。レイがヤマトに声をかけようとすると、サブモニタにアルが割り込んできた。

「ヤマト、調子はどうだい?」

「あぁ、アル。ヴァイタルみてくれよ。鉄分もばっちりだろ」

「あぁ、そうだな」

 モニタのむこうでアルが、ヤマトに対してなにかいい淀んでいるのが感じとれた。

「なぁ、ヤマト、すまねぇな。昨夜、マンゲツが……」

 ヤマトがすぐにつよい口調でアルを制した。

「秘密の特訓だ。あとで正式に詫びるよ」

 アルは複雑な表情をしていたが、やがて「新型のサムライソード、搭載しといたぞ」と声を張った。

 レイにはヤマトの表情が晴れやかになるのが見えた。

「アル、何秒持つ?」

「あ、そうだな。3秒はもつと思う」

「了解」

 ヤマトはそれだけ言うと、アルとの交信を切った。レイには、ヤマトがあわてて打ち切ったように見えた。なにかやましいことでもあるような素振りだ。

「タケル、秘密の特訓って、なに?」

 レイの質問にヤマトは関心なさげな口調で淡々と答えた。

「レイ、秘密だから、秘密の特訓なんだよ」

 ヤマトはなにかをごまかしている……。

 レイは直感的に感じた。昨夜、ふたりっきりで、お互いの秘密を告白しあったというのに、まだこの男は隠すことがあるのだ。

『ほんとうに、この人を、タケルを信用していいの?』

 レイの脳裏に疑念が浮かびかけた。だが、司令室のミライから出撃準備完了の合図が送られてくると、レイはそんなことはどうでもいいことに思えてきた。

 すべてを晒していないのはこちらも同じ。

 

 わたしは、自分ですら知らない秘密をいっぱい抱えているのだ。

 

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 アスカはラウンジのソファーに腰掛けて、目の前に投影された映像を見ていた。ラウンジでは部屋の三面を使って一度に50以上の映像が見ることができるようになっている。

 モニタには亜獣出現に備えて、あわただしさを増している司令室、ヤマトとレイのコックピットの映像、そして亜獣の出現予定地の施設の風景が遠景で映し出されている。

 いまの自分はとても不安定だから出撃はできない。

 それは納得した。だが、せめてレイとヤマトが戦ってるのは見ておくべきだ。

 アスカが各映像をチェックしていると、うしろからひとの気配がして、机の前にすっとドリンクのグラスが差し出された。

 執事の沖田十三だった。

「アスカさん、そんなに気をはらないでください。エル様は心配ありませんよ」

「な、なにもタケルのこと心配なんか……」

 アスカは十三に食ってかかろうと身構えたが、十三はやさしげな笑みを浮かべるとすぐに奥の方へ戻っていった。アスカは精いっぱいの虚勢をはって、ふんと鼻をならしてグラスを口に運んだ。

「おいしい……」

 世辞抜きにおいしいドリンクだった。ほっこりと心が休まる気持ちになった。

『アスカ!、アスカ!』

 うしろから機械的な声が自分を呼んでいる声がしたかと思うと、白いボール状のAI『シロ』が転がりながら、リビングに入ってきた。シロはころころと器用に机の脚をよけながら転がってくると、ソファに座っていたアスカの手元にポーンとジャンプして、彼女の腕のなかに飛び込んできた。

 シロはアスカの腕のなかに収まると「ヤマトから伝言だよ」と言い、上部からホログラフを投影し、メッセージを再生しはじめた。

 ヤマトの顔がそこに現れた。

『アスカ……、キミに謝らなければならないことがある』

 アスカはヤマトのいきなりの謝罪に驚いた。

『キミは、自分には思いだしたくなるような良い想い出なんかないって、怒った時のこと覚えているかな……』

『あのあと、謝りにきたよね』

 アスカは恥じ入るようなそぶりも見せず、映像のヤマトに言い訳をした。

「あったりまえじゃない。わたしだって、そういう時があったって思いだしたんだから」

『よく考えたら、楽しいことがあったって。子供の頃、家族で何度か行った遊園地が、とっても楽しかったって……』

 ホログラフのヤマトが、困ったような顔を見せて、言葉をつまらせた。

『ごめん、アスカ……。キミの想い出の遊園地……』

『今から戦場になる』

 ハッとしてアスカはメインモニタをみた。モニタ画面がアスカの思考を読み取って、ヤマトたちが亜獣を待ち受ける施設の近景に切り替わる。そこには、子供の頃の唯一の楽しい想い出が詰まった、遊園地の風景が広がっていた。

『アスカ……、本当にすまない』

 ホログラフのヤマトはそうもう一度だけ謝ると、シロの上部から消えた。アスカはシロを胸に寄せると、ぎゅっと抱きしめた。

 

「ボカぁ……」

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