いつかボク(日本人)が地球をすくう 〜亜宙戦記デミリアン〜 [ラノベ版] 作:多比良栄一
マンゲツは空中に張り巡らされている『流動電磁パルスレーン』の道筋に沿って、マッハに迫るスピードで飛んでいた。
飛行コースは軍専用の特別レーンを最優先で使うことで、何にも邪魔されることもなく最短距離で飛行できるように設定されている。数百メートル下には、民間向けのスカイモービル用のパルスレーンが光のグリッドラインとなって縦横無尽に伸びている。民間用は自分が飛んでいる軍専用とはちがい、空中のレーンの各所で渋滞が起きていた。
あれだけ警告しているにもかかわらず、誰もがスカイモービルを使って逃げようとしているので、こんな事態になっているのだろう。センサーの反応では、空だけでなく、地上の道でも車が渋滞しているようだった。
この様子をみて、ヤマトはそろそろだなと準備をはじめた。
地上の様子を知らせる監視カメラの映像を呼びだしすと、各所で破壊された建物からあがる火や煙が見えた。
上陸してきた亜獣の痕跡ーー。
すでに亜獣の通り道になった村や街はなすすべもなく、焦土と化しているといってよかった。しかし、それでも防衛軍はなにかしらの抵抗を試みてくれていた。亜獣を市街地に近づけるのを一分、一秒でも遅らせるために戦ったと思われる『重戦機甲兵』と呼ばれる人型戦闘兵器や、最新鋭の重戦車が見る影もないほどに破壊されて、農地や山の斜面などあちらこちらに散らばっている。その近くには兵士とおぼしき服装をした死体も転がっていた。
ヤマトは自分たちの兵器ではまったく歯が立たないとわかっていながら、わずかでも亜獣の進行を食い止めるためだけに、命をかけた軍人たちに気持ちをはせた。
「まぁ、よくがんばったよ」
ヤマトの顔が決意に満ちたものに変わった。
「あとは、ボクがなんとかする」
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仙台の市街地が見える距離まで近づいてくると、遠めにも亜獣が暴れている位置がわかった。もうもうと燃え盛る
近くには逃げまどう人々の姿。
時間を稼いでもらったのに、まだ逃げ遅れた人々がいる。
ヤマトは亜獣のうしろに回り込んで攻撃をしかけることにした。ビルの合間を縫うようにマンゲツの高度を落としてゆくと、亜獣の進行方向とは逆の位置に降りたった。
ゆっくりうまく着地したつもりだったが、想像以上に大きな地響きが響いてしまった。マンゲツの巨体ではどだい、静かに降りるのは無理なのだ。
異変を感知したのか、がむしゃらに進行していた亜獣がぴたりと動きをとめた。
亜獣サスライガンはうしろをむいたままで、三本の首のうちの左右の二本を、ゆるりとこちらへむけた。爬虫類のような縦長の細い瞳孔をさらに細くしてマンゲツを見すえる。
気づかれた。
三本目の真ん中の首が自分の背中越しに、かま首をもたげるようにして顔をこちらにむけてきた。三本の顔、6つの目がこちらを睨みつけている。
先に動いたのは亜獣のほうだった。大きな咆哮をあげたかと思うと、マンゲツにむかってものすごい勢いで突進してきた。そのスピードは鈍重そうにみえた巨体から想像できないほど速かったが、ヤマトは亜獣の左と右の首をぐっと押さえて、まずはスピードを殺すことに成功した。が、亜獣はスピードだけではなくパワーもひときわ強く、マンゲツは押さえつけているにもかかわらず、うしろに押されはじめた。
マンゲツが足を踏ん張る。
が、渾身の力にもかかわらず、からだがズルズルとうしろへ押しやられはじめた。マンゲツの足元付近で逃げまどっていた人々が踏みつけられ、押し潰されていった。
引きずられた赤い血の帯が道路にべったりと刻まれていく。
『チッ、何人か踏んづけた』
ヤマトは操縦席の右側の壁にとりつけられた機器にチラリと視線をむけた。そこには設置されたパネルはパタパタとめくれるタイプのかなり旧式のカウンター。6桁の数字がカウントできるような設定になっている。
通称、デッドマン・カウンター。
そのカウンターのパネルがパタパタとめくれて、『5』の数字が表示される。
『うぇっ、裸足で芋虫を踏んづけたみたいだ』
ヤマトは出撃ごとに何度も味わってきたはずなのに、気色の悪いこの感触には絶対に馴れそうもなかった。いらついて大声で叫ぶ。
「アル!。センサーがデリケートすぎる!」
アルの映像が目の前に投影されると、彼は本当に申し訳なさそうに言った。
「タケル、すまねぇな。ちぃとばかり我慢してくれや。それ以上センサーの精度、下げちまうわけにはいかねーんだよ」
それを聞いて軽く舌打ちをすると、ヤマトは目の前にぐいぐいと迫ってくる亜獣の顔をぐっと睨みつけた。
「おまえかぁ、おまえのせいか」
マンゲツは踏ん張っていた足をずらして亜獣の勢いをわきに反らすと、そのまま身体をくるりと回転させた。猛進する亜獣の勢いをそのまま借りて、亜獣を背負い投げする。
亜獣の巨体が宙を舞う。
亜獣が飛んできた方角にいた人々は、まさかの状況に驚愕の表情であわてて逃げだそうとするが、しょせん間にあうはずもなかった。
ドォォーンと轟音とともに高層ビルが何棟も崩れ落ち、さらに低位のビルをなぎ倒した。
ヤマトの右壁のコックピットのカウンターパネルが、パラパラともの凄い勢いでめくれていく。
『88』
ヤマトはその数字をチラリと見ると、驚くほど静かな声で言った。
「サーモ」
そのコマンドで、目の前に、周辺のサーモグラフィーが浮かびあがった。
燃え上がる炎が赤く、崩れ落ちたビルや道路は青や黒っぽく表示されるが、そのところどころに、オレンジ色の点が数多く点在するのが見てとれる。
「ブライトさん。避難どうなんってんの!」
「こっちだって何度も強制アラートを発信してる!」
「どうせ、こいつら、リアル・ヴァーチャリティで別世界で楽しくやってるか、ヴァーチャルドラッグでフルトランスぶっこいてんだろ」
「強制遮断くらいしないと……」
と、その瞬間、ものすごい衝撃にコックピットが揺れた。
ヤマトは予想より早くおきあがった亜獣の突進をもろに受けたと、瞬時に判断した。うしろに突き飛ばされたマンゲツは、轟音を響かせて、古いつくりのタワーマンションにからだをめり込ませた。
衝撃でビルの上層部の4階分が、ボキッと折れて崩れおちていく。