いつかボク(日本人)が地球をすくう 〜亜宙戦記デミリアン〜 [ラノベ版]   作:多比良栄一

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第一章 第四節 誓い
第70話 あなたも次は兄さんを始末して


 意識が胎動していた……。

 

 脳そのものがひとつの感覚器官と化しているような感覚。 

 言葉や映像のような外からの刺激ではない、ニューロンを一本、一本、震わせる音叉のような刺激。脳のなかの神経伝達物質「セロトニン」の粒子ひとつひとつに、なにかが取り憑いていくのが感じられる。受容体がそれを受け取るやいなや、脳内でパレードがはじまる。『英知』の行進、『感覚』の乱舞、『経験』の跳躍。

 脳内に「知」が形成されていくのが、自分で知覚できる。それは本来、DNAに刻まれているはずの本能を、前から知っていたかのように、あとから埋め込まれていく作業。

 白い繭のなかで、リョウマがうっすらと目を開いた。

 リョウマのからだはガタガタと小刻みに震えていた。秒単位でDNAがアップデートされていき、同じスピードで、新たな本能と記憶が脳のなかに積みあがっていく。

 リョウマはまだ心と呼べる自我のなかで、ずっと叫んでいた。

『なぜ、教える……、なぜ、それをぼくに教える……』

『やめろ、やめろ。知りたくない。知っちゃいけないことなんだ……』

『ぼくに、それを教えないでくれ。知ったら、生きることも、死ぬこともできない……』

 リョウマのからだがびくっとすると、それまでの小刻みな震えがとまった。

『こうして……、こうして……もたらされたのか……』

 リョウマはかつて自分と同じように、誰かがこのデミリアンと融合して、言葉を、啓示を、真理を、受け取ったのだと悟った。人類が知るべきではない、この世の理(ことわり)

を四つの詩編として知らされてしまったのだ。

 彼もまた、知ってはならない禁忌を脳にすり込まれてしまった。ことばにも、思いにもしてはならない、人類を絶望と狂気に陥れる四つの真実を。

『だから、純血なのか……、だから日本人なのか……』

 リョウマの目から青い液体が、涙のようにあふれだしていた。

『選ばれた民……なのでは……なかったのだ』

 リョウマの口から嗚咽のような咆哮が漏れ出していた。

『人類をふるいにかけたとき、日本人が種の中の一番の『異物』だったにすぎなかった』

 

『ただ、それだけだったんだ……』

 

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「なぉによ、あんたたちの戦いっぷり!」

 ヤマトとレイが登校してくるなり、アスカは朝っぱらから待ちかまえたように言い放った。ヤマトがやれやれという面倒くさそうな表情、レイはあいかわらず無関心をきめこんだような顔をしていた。結局、アスカが望んだ反応をしたのは、ヤマトの後方に控えていた草薙大佐だけだった。彼女はわずかに口元をゆるめると「元気そうでよかった」と言った。アスカはふんと鼻をならすと、どんと勢いよく椅子に座って、その草薙にぷいっと顔をそむけるようにして、教壇のほうをむいた。

「まぁ、タケルもレイも安心して。次はあたしが仕留めるから」

 アスカはふりむきもせず、ボソリと漏らした。

「そう。でもまだ許可がでてないわ」

「許可ならもらったわ。李子にね」

「本当に?、大丈夫なの」

「レイ、しつこいわ……」

「あなたのところに、わたしの母がお邪魔したって聞いたわ」

 アスカは、はっとして口をつぐんだ。それからゆっくりと時間をかけてレイのほうに向きなおると、「えぇ」とだけ言った。恐怖の色も憐憫の情も、狼狽の片鱗も見せてなるか、と慎重にことばを選んだら、それしか出てこなかった。

 悔しかった。

「母が驚かせて、ごめんなさい」

「別にぃ!。驚きも、怖がりもしてないわよ。バカぁ」

 レイが頭をさげてくるとは思っていなかったので、アスカは強がってみせた。これであの時、自分の足首を掴んだ血まみれの女がアスカの母親だったのだと再確認できた。

「せっかく一度、わたしが殺したのに。あのひとは本当にしつこいの」

 レイはアスカの太ももに手をおいて、真剣なまなざしで言った。

「安心して。次はかならず始末するわ」

 アスカはレイのゆるぎない決意を目のなかにみて、少々気が引けるような気がした。

「あ、あたりまえでしょ。ちゃんと始末しておいてよね」

「えぇ……」

 

「だから、あなたも次は兄さんを始末して」

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