いつかボク(日本人)が地球をすくう 〜亜宙戦記デミリアン〜 [ラノベ版]   作:多比良栄一

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第91話 これは地球存亡の危機なのだ

 ヤマトたちが、未知の侵入者に襲撃されている、という緊急事態を聞いたブライトは、怒りにたぎっていた。

「君たちは何をやっていたんだ」

 第一報を入れてきた草薙大佐を怒鳴りつけた。

「申し訳ありません」

「君は命を賭してもヤマトを守るのが仕事のはずだ」

 ヤシナミライはブライトの怒りももっともだと思ったが、今やるべきことはヤマトたちの救出だと考え、口をはさんだ。

「ブライト司令。ヤマト君たちへ援軍を」

 ブライトは怒りのたぎった目を、無言のままミライのほうにむけてきた。余計な口出しは許さない、という、ふだんのブライトらしからぬ、強烈なメッセージだった。

『怒りに我を忘れてる……』

 ミライはひとりごちた。だが、ミライにはブライトの怒りがどこまでも根深いものから来ていることを理解していた。出撃のたびに国連事務総長と一緒に草薙大佐に嫌な思いをさせられていることを、日頃から愚知で聞かされているのだ。積年の恨みが吹きだして、自分でも感情をコントロールできないのだろう。

 助けを求めるように、司令室内を見渡してみる。

 リン、エド、アルはブライトのかんしゃくを熟知しているせいか、我感せずとばかり自分の用事を優先していた。いやそういうふりをして逃げていた。ミライもできるならかかわりたくはなかった。

 だが、ゾッとすることに、これは人類の未来がかかった重大事態だった。殴ってでも目を覚まさせねばならない。あれほど隙をみせない草薙という女が、だしぬかれてしまうほどの敵がこの基地内を跋扈(ばっこ)しているのだ。全力を注いで彼らを助けにいかねばならない。

「草薙大佐、今タケル君たちはどこに?」

 ミライがブライトを無視するように、事務的な口調で訊いた。

「今、まだパイロットエリアのラウンジに。バトーには三人とも集めて、非常脱出路から脱出させるように指示しました」

「で、あなたは今どこ?」

「今、富士山麓の樹海から、エアーバイクでそちらへ向かっています」

 その返事を聞いたところで、ミライはちらりとブライトのほうをみた。なにか指示を出したがるのではないか、と思ったが、ブライトはてのひらで目頭を押さえて、どうすればいいのか悩んでいるように見えた。

 

 試行錯誤している余裕はないというのに!。

 

 ミライはブライトを無視して続けた。

「草薙大佐。わたしたちはどうすれば?」

「このままエアーバイクで別館と本館のなかを突っ切っていきたい、と思っています。そのあいだのすべての隔壁扉をオープンしてください。それから……」

 そのことばに、ブライトがハッとして声をあげた。

「なにを言っている。そんなことしたらセキュリティもへったくれもないではないか」

 だが、ミライはそのブライトのことばを、手をつきだして制すると、草薙大佐のことばの続きを促した。

「続けて」

「それから、本館は食堂室の横の通路を突っ切ります。これから30分、いえ、20分間は食堂への入場を禁止し、さらに食堂から誰も通路にでないよう通達してください」

「わかりました」

「それからできるだけ多くの兵士をラウンジのほうへむかわせてください。もちろん、武器を装備して」

「了解しました」

 通信が切れるやいなや、ミライは各部署へ通達するため、中空に投影されたコンソールを操りはじめた。ブライトがなにかをぶちまけそうな顔をむけていたが、ミライは無視して作業に集中した。

 

 これは地球存亡の危機なのだ。いち司令官ごときが私怨をまじえていい状況ではない。

 

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 バットーはトレーニングルームのドアを開くと、通路に待機させていた細面の兵士に、異常がないか確認しようとした。

 しかし、そこに彼の姿はなかった。

「どこにいった?」

 バットーは呆然とした面持ちで通路を見回した。ラウンジ側にも入り口側にも、兵士の姿は見えなかった。が、十メートルほど先に『瞑想室』と表示された部屋を見て、バットーはごくりと唾をのみこんだ。

 瞑想室の扉は開いていた。

「どういうことだ?」

 湧きあがる不安にバットーの口から、思わずことばがついて出た。

 細面の兵士の名前をとっさに思いだせなかったが、バットーはすぐに網膜デバイスに、彼のヴァイタルデータを呼びだした。目の隅にデータが表示される。彼の心拍や脳波などは不自然なまでにギザギザの振幅が刻まれていた。が、ほんの数分前に突然、すべてのデータが途絶えていた。波形がフラットになっているのなら絶命していると説明がつくが、途絶えているとなると、その理由がわからなかった。

 

 バットーは大きく深呼吸をすると、壁を背にしたまま慎重に近づいて、扉の陰からゆっくりと中を覗きこんだ。部屋のなかは真っ暗だった。外光が入り込まない設計になっているのか、通路からの光があっても、奥のほうはなにも見えなかった。

 バットーはこめかみに指をあて、暗視ゴーグル機能のスイッチをオンにした。

 正面に三つのドアが見えた。自分がいまいる場所は実は前室で、その奥にあるドアの向こうに三部屋の瞑想室があることがわかった。同時に三人が瞑想することができるつくりだ。

 バットーはハッとした。

 

 中央の部屋の上部にランプが灯っていた。

 生きているかどうかは別として、その部屋にあの兵士がいることは間違いない。兵士の生体データが、突然途絶えたことに説明もつく。すべての電波や電磁波などを外部からも内部からも遮断する構造。25世紀の現代においては、何者にも管理されず、誰とも連絡をせずにすむ、真にたったひとりになれる唯一の場所だった。

 バットーはドアを正面に見据えながら、中央の部屋へ腰をかがめてゆっくりと近づいた。が、ドアを開けようとして、ドアノブがないことに気づいた。掌紋認証か虹彩認証装置でしか開かない、高セキュリティ仕様のつくりだった。

『くそぅ』

 バットーは心の中でそう呟くやいなや、正面のドアにむけて銃をかまえた。が、トリガーにかけた指を、あわてて緩めた。この『瞑想室』は、外部からのすべての情報を遮断して、『無』になるための空間。そのドアが銃弾ごときで破壊できる造りになっているはずはない。

 バットーはそっとのドアの表面に、てのひらを這わせた。

『あぶない。ダイヤモンドより硬い、ロンズデーライト合金製……』

 迂闊に銃弾を放っていたら、跳弾がこの狭い前室を縦横無尽に跳ね回っていただろう。

 バトーはドアに目を釘付けにしたまま、防弾ジャケットをまさぐり、一枚の名刺サイズの板状の機器をとりだした。脇にあるスイッチを押してから床にそっと置く。

 リニア・プレートと呼ばれる旧型の空間浮遊装置。

 

『このサイズのリニア・プレートじゃあ、天井までが限界だろうな……』

 バットーは腰のベルトのスイッチをいれ、床においたプレートの上に、覆いかぶさるように前のめりに体を傾けた。するとバトーの体がふわっと宙に浮いた。床のプレートとベルト側のプレートの『超電導リニア電極』の反発しあう力で浮遊する仕組みだ。

 バットーのからだが、伏臥して銃を構える姿勢をとったまま、ゆっくりと天井にむけて舞いあがっていく。やがて天井に背中がぺたりと接すると、バットーはそのままの姿勢でドアの入り口をしっかりと狙い定めた。

 

『さあでてこい』 

 その声がまるで合図になったように、ふいにカチりと音がした。

 中央の部屋のドアがゆるゆると開いていく。

 と、突然、勢いよくドアが全開すると、同時にものすごい勢いで、通路側になにかが飛んでいくのが見えた。バットーはそれがなにか確認できなかったが、反射的に三発弾丸を放った。あまりのスピードに弾丸はヒットしなかったが、飛んでいったものは、通路側に開け放していた入り口のドアをくぐり抜け、向い側の壁にドンという鈍重な音をさせて、ぶつかったのがわかった。

 バットーはその方向に目をむけようとしなかった。あれは囮だ。もしくは、こちらがドアの前に立っていることを想定して放たれた攻撃だ。もしそこに立って待ちかまえていたら、間違いなく巻き添えを喰らっていたはずだ。

 中央の瞑想室のドアから不用意に顔をだして、前室の様子を伺う女性らしき顔がみえた。見知らぬ顔だった。バットーは天井からその女にむけて、立て続けに三発を撃ち込んだ。

 何の躊躇(ちゅうちょ)もしなかった。

 入口を警備していた手だれの兵士たちが、いとも簡単に餌食になったのだ。油断する何かがあったはずだ。

 無用心そうな女性の姿は、その油断する何かに値する最右翼の一つだ。

 

 バットーの中に一分の迷いはなく、狙いをはずすことはないはずだった。だが、放たれた弾丸はすべて外れていた。いや、外されていた、が正しい。

 女性はとっさに両手でつきだし、顔の前にかざして弾丸を避けようとした。が、そのかざした手のひらは、一瞬にして大きく広がり、まるで鋼鉄のように硬化したかと思うと、盾となって弾丸をはじき返した。それでも、女は上からの襲撃を想定していなかったのだろう。あわてたような表情を見せたかと思うと、人間離れした跳鰡力で通路の方へ、一気に跳ね飛んだ。

 バットーはその背中にむけて銃弾を浴びせかける。

 だが女はその弾が着弾するより速く、通路側の開け放たれたドアから外へ飛びだしていた。バットーはすぐさまベルトのリニア・プレートのスイッチを切った。反発力が消えて、バットーのからだは、紐が切れたようにストンと床に落ちた。バットーは着地するやいなや、通路にむけて銃をかまえた。

 

 暗い部屋に射し込んでくる光の中に、何者かの姿が影をさした。

 

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