いつかボク(日本人)が地球をすくう 〜亜宙戦記デミリアン〜 [ラノベ版]   作:多比良栄一

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第93話 タケル、アスカ、レイ!!。今すぐそこから逃げて!!

 非常事態だった。

 ヤマトもラウンジが揺れるのを感じていた。さほど大きな揺れではなかったが、通路内にある三つの部屋のどれかで爆発があった、と考えるべきだった。この基地内に刺客を侵入させただけでも大問題なのに、いままさに何者かが自分を殺そうとしにきている。ヤマトは今までにない危機感を覚えた。

 デミリアンに乗って亜獣と戦っているときの自分は無敵だという自覚は、常に抱いていた。それが、思いあがりだろうが、なんだろうが、自分にはそう思えた。

 だが、ひとりのヤマトタケルという少年に戻ってしまった時はどうだろう。

 くそ生意気な口を叩くくらいしかとりえのない、ただの高校生にしかすぎない。地球の救世主ともてはやされようと、最終兵器「四解文書」を知る人類の破戒者と(そし)られようとも、こうやって身の丈だけになってしまっては、ただの『要警護者』でしかない。

 それでも警護できる人材が、傍らにいてくれれば、の話だ。

 彼らは、ぼくを守ることができるだろうか?。

 バットーが出ていったあと、部屋の入口に目をむけたまま、動こうとしない兵士たちを、うしろからながめながらそう思った。

 ヤマトはレイとアスカに連絡をとるため耳元に装置したイヤリングを指でつまんだ。これを使えば、思い浮べた相手に直接思念をとばすことができる、体内埋込み型テレパスラインの代替品。ヤマトは両方同時に語りかけたが、レイだけが即座に反応した。

「タケル、今、隣の部屋が揺れたわ」

「レイ、今どこだ?」

「トレーニングルーム」

 ヤマトはレイのことばから、爆発があったのが瞑想室であると特定した。

「レイ、そこの入口にカギをかけて動かないで」

「そうはいかない。わたし、あなたを守らないといけないもの」

「レイ、無理だ。できやしない」

「できるわ。バットーから銃を受けとったもの」

 ヤマトは思いもよらない返答に驚いて、思わず甲高い声をあげた。

「バットーから銃を?」

「えぇ。気持ちよく貸してくれたわ。だから、これであなたを守ってみせるわ」

 レイにはめずらしく高揚していた。ヤマトは自分たちにニューロンストリーマのような思考が共有できるデバイスが埋め込まれていなくて良かったと感じた。もしそんなものがあったら、レイの高揚感が伝播して、こちらも心を乱されていたかもしれない。

「今、一人?。アスカは一緒にいる?」

「今は二人、護衛の兵隊さんと一緒。アスカは知らない」

 ヤマトは額に手をやり、アスカがこの時間にどこにいるのか思い出そうとした。もう一度、心で念じてアスカを呼びだす。

『アスカ。応えろ。アスカ!』

 しかし、応答がない。このエリアにいるのは間違いないはずだ。もしかしたら通信装置をはずしているのかもしれない

『くそ、時間までアスカを呼び続けるしかない……』

 ヤマトはそう呟いて、はたと考えた。

 時間まで?。

 なんの時間だ?。何の時間まで、と自分は、今思ったのだろう。

 ヤマトは混乱した。

 

 だが、ひとつだけ、間違いないことがある。

 なんの時間かはわからないが、その時間はそれほど残されていない。

 

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 アスカは湯舟につかったまま、浴室の天井を仰ぎ見た。天井には各チャンネルのニュース映像が映しだされている。どのチャンネルの映像も、数時間後に予定されている亜戦との戦いについての報道で埋め尽くされていた。

 戦場になると想定される場所の人々の、避難の様子。

 殺到するスカイモービルで混雑するパルスレーン。昔ながらに地面を車やバスで移動している人々。おどろいたことに徒歩で逃げている者も混じっていた。誰もがすこしでも現場から離れようとしており、みなパニックになっていた。

 何人かの避難者たちがインタビュアーに促されて、なにかしらの意見を述べている。アスカは音声も字幕もオフにしていたので聞こえなかったが、その顔つきや、身ぶり手ぶりの感じから、国連軍へのネガティブな意見だというのはすぐに感じとれた。すくなくとも、、これから命がけで戦おうという国連軍へ、彼らからは感謝や応援の気持ちはみじんも伝わってこない。

「あったりまえよね」

 アスカは呟いた。

 三十メートル級の巨体が自分の家の近くで暴れまわるのだ。たとえ命が助かったと喜んでも、前の生活に戻れる保証はないのだ。

 アスカはなんとはなしに、すうーっと自分の乳房に手をはわせた。

「また大きくなってる……」

 兄は女としての魅力が増してる、と、いやらしげな感情抜きに心の底から喜んでくれたが、アスカは嫌だった。パイロットとしてヤマトをこえてみせるという目標の前には、この重量の増加は可動域を狭め、パイロットとしての可能性を縮小していく。

「もう嫌!」

 アスカは大きな声をあげた。浴室内に声が響く。

 その時、階下でくぐもった音がして、浴室がわずかに揺れたような気がした。

「何?。いまの?」

 階下には、何人もの兵士たちが詰めていたはずだ。

 彼らが何かをしたのだろうか?

 いや……、それとも何かをされたのだろうか?

 アスカは今になって、自分がなにも身に着けてないことに気づいた。服だけではない。、外部と連絡をとるためのデバイスを何も身につけてないのだ。

 

 

 アスカは、こんなに無防備な気分になるのははじめてだった。

 

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 その時、室内に緊張がはりつめるのをヤマトは感じた。

 先ほどまで入口をじっと見つめていた兵士たちは、テラス側に投影されているカメラ映像に目を奪われていた。ヤマトははっとして彼らの視線の先にある物を見た。

 そこには今まさに、この部屋へのドアを開けようとしている侵入者の姿だった。

 ヤマトはその姿を認めるなり、キリッと歯噛みした。体中の毛穴から汗がどっと吹き出す。まったく予想していなかったわけではない。だが、それは次の瞬間に、一笑にふせるほどバカバカしい可能性だ、と思っていた。

 

 だが今、目の前にそのありえないものが『死』を(たずさ)えて、入口のドアをこじあけようとしていた。

 

 

 シャワールームから出たアスカは、下着を身に着けると、薄いベール風の服を上から羽織った。窮屈なコンバットスーツを着るぎりぎりまで、ゆったりとした服装でリラックスしていたかった。

 アスカは鏡を見ながら、自分の髪の毛の上に手を這わせた、指にはめたリングがチカチカと光ったかと思うと、広がった髪の毛をすーっとうしろにまとめ、引っ詰めていく。ものの数秒で髪の毛は、ポニーテールのように束ねられていた。

 続けて、耳に会話用デバイスのイヤリング型の『リングフォン』を、カチッという音ともに耳たぶに装着した。

 続けて、テーブルの上のインフォグラシズに手を伸ばした。

 が、その時、部屋がぐらっと揺れた。

 油断すると、その場に座り込んでしまいそうなほどの振動。

 また揺れた?。

 揺れはすぐさまに収まったが、アスカはとるものもとりあえず、部屋から飛び出すと階下のラウンジへむかった。

 だが、階段を降りている途中で、アスカはラウンジがただならない状況になっていることに気づいた。柱や壁の各所は穴があき、ヒビがはいっており、カーテンは破れ、窓ガラスはいたるところが割れていた。

 だが、階下まで降りる頃には、これは地震が原因ではないことに気づいていた。壁の穴やヒビは、銃弾によるけずれ傷や弾痕だった。だが、それだけではない。床や壁に血とおぼしき赤い点が飛び散っており、床には赤く染まってみえる場所もあった。

 

 ただごとではない。

 まごうことなき戦場の光景が目の前にあった。アスカはぼう然とした。いったい何があったのだ。自分が二階の自室にいる間に、ここで何があったのだ。

 ラウンジには誰もいなかった。沖田十三は勤務外なのはわかっている。もしかしたら、ヤマトやレイはまだ部屋にいるのかもしれない。だが、今日は屈強な護衛の兵士たちが、この場所に数人待機していたはずだ。しかも、草薙大佐の右腕と呼ばれるバットー副隊長の姿もみえない。彼らが何の連絡もなしに勝手に持ち場を離れるわけがない。

 彼らはどこに消えたの?。

 その時、ラウンジの中空から突然、いくつもの映像モニタの映像が同時にふりそそいできた。それらは監視カメラの映像だった。このパイロットエリアの周辺や、内部を様々な角度で映しだしていた。

 突然、アスカの頭の中に草薙大佐のひっ迫した声が飛びこんできた。

「タケル、アスカ、レイ!!。バットーと連絡が取れなくなった」

 

「今すぐそこから逃げて!!」

 

 アスカは瞬時に今自分が命の危機が迫っていることを理解した。ラウンジ内のいたるところから吊りさがるように投影されているカメラ映像に目を走らせる。

「どこ?。敵はどこなの」

 アスカのすばやく走らせる視線がとらえた最初の異常は、パイロットエリアのゲート前の光景だった。

 四人の兵士が血だまりの中に倒れていた。

 モニタの下部に表示された彼らのヴァイタルデータは、横真一文字になっており、すでに彼らの命がなくなっていることを示唆していた。アスカは一瞬、ほんの一瞬だけ。彼らのことを思い、胸が痛みそうな感じを覚えたが、今生きている自分に、モニタのむこう側の兵士と同じ末路が迫っていることを思いだし、すぐに我にかえった。

 

『敵はどこ!』

 集中しろ。アスカ!

 アスカは心の中でおのれを叱咤した。

 次に見つけた異常は自分がいるこの部屋。ラウンジの内部の映像だった。部屋の隅にある暖炉の周りに血溜まりがあり、中から脚だけがでていた。そこは、すこし身体をずらせば、直接自分の目で確認できる位置だったが、アスカは動けなかった。

 あの暖炉はダミーだ、なかにひとひとりの上半身がはいるスペースなどない。

 あそこに見えている下半身は……。

 下半身だけ……。上半身はどこか別なところにある。

 

 だが、あとふたりか三人はいたはず。どこに消えたの?。

 アスカは慎重に周りを見回した。おそらくここから先は監視カメラの映像に頼らなくても肉眼で見れるはずだ。足が震えてもおかしくない状況の中でも、アスカは冷静に今の自分を分祈した。

『アスカ——』

 耳元でリングフォンを通じてヤマトの囁くような声がした。

 アスカはほっと胸をなでおろした。

 少なくともタケルはまだ生きている。

 アスカは自分を鼓舞するように、声を発して言った。

『タケル、どこにいる……』

「静かに」

 アスカは安堵のあまり、集中を切らせかけたことに自分でも驚いた。

 素直に口をつぐんだ。

 ヤマトは静かに、的確に、そして残酷なことを伝えてきた。

「アスカ、よく聞いて。敵は君の真上にいる」

「真上……って」

 

「天井に張りついている」

 

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