いつかボク(日本人)が地球をすくう 〜亜宙戦記デミリアン〜 [ラノベ版]   作:多比良栄一

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第95話 レイ、そのままゲートの方から出撃レーンにむかってくれ

 アスカはぼう然として立ち尽くしていたが、ヤマトは構わず銃を発射した。

 アスカが敵の正体を見てしまうのを止められなかったのは残念だったが、悔やんでいる時間はなかった。やや側面から撃つことになったが、銃弾は見事に敵の顔をとらえた。そう見えた。

 だが、瞬時に敵は腕の形を盾のように変形させて、着弾を防いでいた。弾丸をはじく強固な盾。ヤマトは目を見張った。その変形し、硬化する腕は先ほど兵士が戦っているときに見ていた。だが、その時は鋭い刃だった。今度は平たく硬化し防御の道具に変形している。

「いくつ変形パターンがあるんだ?」

 ヤマトはもう数発、弾丸を送りこんで叫んだ。

「アスカ!。こっちへ来い!」

 だが、アスカは見動きしなかった。まずは彼女を正気に戻す必要があった。ヤマトはアスカの方へ駆けよると彼女の手をとり力強く引張った。

「アスカ、そいつは兄さんじゃない。君の兄さんに化けた刺客だ。逃げるよ」

 ヤマトに引きずられるようにしてアスカはよろよろと歩きはじめた。

「レイ、援護を頼む」

 アスカの手を引きながら、二階にむかう階段に足をかけてヤマトが言った。

「了解」

 その声が聞こえると同時に背後で、銃撃音が響いた。

 ヤマトにはふりむいている余裕はなかった。レイの渾身の援護射撃も、おそらく数秒程度の足止めにしかなっていないのはわかっていた。

「レイ、そのままゲートの方から出撃レーンにむかってくれ」

「タケルは?」

「アスカと一緒に非常用の通路から、出撃レーンにむかう」

「非常用の通路って?」

「こういう事態を想定して作られた脱出ルートさ」

「大丈夫なの?」

 ヤマトはレイの自分を守るという使命感に、あまりに執着してすぎることに、いらだちを覚えた。

「大丈夫さ?」

「わたし、タケルを守れなくなる」

「構わない」

「今は一人でもパイロットが出撃できる状態にいることのほうが重要だ」

 一瞬、レイが返答に困っているような間ができた。だが、すぐに返事があった。

「わかった」

 レイがやっと納得してくれてヤマトは心底ホッとした。

 ヤマトはアスカの手を握りしめたまま、一気に階段をかけあがった。一瞬、足手まといになるのでは、と危惧したが、アスカはヤマトの駆けあがるスピードについてきていた。 階上まであがりきったところで、ヤマトはアスカの方をふりむいた。

 アスカはショックの色を顔のそこかしこに残していたが、それでもしっかりと前をむいていた。あれが兄であっても、そうでなかったとしても、自分たちの命を狙っている『何か』だということは理解している。そんな顔つきだった。

 レイの援護射撃は階下でまだ続いていたが、さらなる数秒分の目くらましにすぎない。そうヤマトは心得ていた。間髪をおかずにあのリョウマに化けた何者かは必ずこちらに追いついてくるはずだ。

 ヤマトは二階の通路を走りながら、壁のつきあたりにむかって大声で「ヤマトタケル、ゲートオープン!」と叫んだ。すぐさま、ヤマトの声に通路に設置されたセンサーが反応して、一斉に稼動しはじめた。廊下の上部にある各センサーがチカチカとまたたく。

 正面の壁の真中が大きく開きはじめた。

 ヤマトは走るスピードをいっときも緩めることなく、通路の突きあたりの壁に突進した。ヤマトはふりむいてアスカを見た。アスカは隠し扉に当惑しているように見えた。重要な脱出経路をまったく聞かされてなかった、ことに戸惑っているのだろう。

 半分ほど開いた入口へ、体を精いっぱいかがみこんで、ふたりはくぐり抜けた。

「ゲート・クローズ!」

 ヤマトはふりむきもせず叫んだ。呼応したシステムがすぐに扉を閉じはじめた。

 ふりむいて敵がどこまで迫っているか確認する必要はなかった。インフォグランズに映っているカメラの映像で位置は把握していたし、たとえここで振り切れたと思っていても、体の一部を硬化できる化物だ。あの通路入口の壁を破壊して、この通路に必ず侵入してくる。

 

 だから自分たちにできることは、さらに遠くへ逃げ続けることしかない。

 

 

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 草薙はエアーバイクのアクセルをやや緩めた。スピードが落ちていく。

 ひと気の少ない別館だったとはいえ、エリアを隔てる隔壁扉が十基近くも行く手を阻んでいたのだから、スムーズに通り抜けられたことに、少なからずホッとした。

 しかし、これからが試練だった。ここまではうまく抜けられたが、本館をくぐると、こんどはドアだけでなく、人が行く手を邪魔してくる可能性が高い。

 草薙は司令部に再確認をいれた。

「司令部、こちらの導線にあたる部署全部に部屋から出ないように通達してもらえた?」「ええ。通達しました」 

 ミライが応答した。

 草薙の予想通りだった。これだけの手際のよさは、副官のヤシナ・ミライの手配によるものだったのだ。このあとも心配なさそうだ。

「草薙大佐、ただ、どうしても連絡が行きとどかなかった人員がいるの」

「それはどこです?」

「食堂。だから食堂は注意して」

 草薙は「了解」とひと言だけ言った。が、あまり猶予はなかった。今走っている通路の角を曲ったところが、まさに食堂だった。正面に左矢印で『食堂』とナビゲーションサインアニメーションが動いている。草薙はテレパスラインの共有モードを使って近くにいる人々に思念で叫んだ。

「本館五階、B5通路、食堂前を、いまからエアーバイクが通り抜ける。そこにいる奴らはみなふせろ」

 出撃時には軍の規約で、テレパスラインは誰にでも伝わるよう共有モードにしておく決まりなっている。厳密に守られているとはいえなかったが、それで半経十メートル内の人々には聞こえていてくれれば、なんとかなるはずだ。

 食堂へ抜けるコーナーにさしかかった。

 草薙がぐっとブレーキを引き絞ると、きゅっとハンドルを曲げてバイクを横倒しにした。

 バイクのスピードが減速される。が、惰性で壁のほうにむかって車体がすべっていく。

 そのまま行けばバイクの横っ腹が壁にぶつかるというところで、草薙は思いっきり、超流動斥力波をふかした。ぐんと車体が前に飛び出す。

 車体は壁ギリギリのところで接触を免れ、左側の通路に方向転換した。

 

 が、草薙が曲芸じみたターンをした、その先の通路には人々があふれていた。

 瞬時に視認できただけでも二〜三十人はいるだろうか。

 誰も伏せている者はいなかった。

 きさまら、軍規違反だぞ、と叫びたかったが、そんな余裕はなかった。

 

 余裕がないのは通路にいた職員たちも一緒だった。通路の角からエアーバイクが飛び込んできたのだ。あわてふためいて、皆反射的にからだを伏せた。

 が、この食堂の通路の天井は思いのほか低く、この大型バイクの車体では、中途半端な中腰でかがみこんでいる者を、ソリのプレート部分でひっかける可能性があった。

 草薙は思いきりハンドルを切ると、ふたたびバイクを横倒しにした。

 ソリのプレート部から発せられる超流動斥力波が、食堂室側の窓に向けられる。

 窓ガラスがパンパンと音をたてて砕け散っていく。

 そのせいで不安定な流動が生じて、バイクの車体がふらふらっと揺れはじめた。

『ちっ。やっかいな』

 草薙はバイクを横になったまま走らせながら、揺れる車体をなんとか安定させようとして、計器類に一瞬目をやった。

 その時、ひときわ大きな男が、ふいに食堂の出入り口から通路のほうへ飛び出してきた。

割れるガラスに、なにごとかと思ったのだろうか。到底回避できない位置で、自分のほうに飛んでくるエアーバイクに驚き、通路の真ん中で立ち尽くしていた。

『こんの、バカがぁがぁ』

 草薙がハンドルを大きく右に切った。バイクを45度さらに傾ける。バイクの車体は逆さまの状態になり、天井にソリのプレート部分が軽く接触する。

 通路で棒立ちになっている大男の顔のすぐそばを、逆さまになった状態の草薙の顔がすり抜けた。もう十数センチずれたら『死のキッス』をする間一髪のタイミングだった。

『あぶない……』

 草薙はさきほどのシミュレーションエリアに続いて、こんなところでもサーカスじみた運転を強いられるとは思わなかった。

 本当はすぐにでも戻って、一発殴ってでもやりたいところだった。

 

 残念ながら今はそんな暇はない。

 

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