薄れゆく意識の中で安堵と心配が交互に現れて、それも闇に包まれて…
…次に気づいたときは何もない闇、そして、わずかな光だった
※『闇は集う』と『ドキドキ!プリキュア』のクロスオーバーです。
※「血」や「死」の表現があります。
(2013年、Pixivさまにて初公開)
「なんて強さなの!?」
今日の戦いはいつも以上に苦戦。グーラとリーヴァ、今回もふたり同時に現れてジコチューを出してきた上に直接攻撃もしてきて、私たち4人は押され気味だった。
「きゃぁっ!」
「ハートっ!!」
グーラの太い腕に飛ばされるハート。壁に打ちつけられてけほけほ咳をしている。背中を強く打ちすぎたみたい。ちょっと心配になる。すぐに立ち上がれるといいのだけど。
「いただいたわ、ハートの命!」
その視界の隅、リーヴァがあの鋭利なつばを持つ帽子をハートに投げようとしているのが見えた。
「あぶないっ! ハート!!」
私は相手していたジコチューを蹴り倒して、動けないハートを助けるために急いでそばに向う。他のみんなもあわてて駆け寄ってゆく。
ハートはまだ咳をしていて立ち上がることができない。リーヴァの帽子が近づいているのも気づいていないかもしれない。
間に合うか間に合わないか、ハートの体を押してよけさせるぐらいはできそう。あとは自分が当たらないように気をつければ大丈夫。そう思ったけど、思ったよりも速いリーヴァの帽子。ハートの体を押すことはあきらめて私自身がハートの前に立って帽子を蹴り飛ばす方法に変えるつもりだった。
でも、それすら間に合わないくらいの速さだった。ハートの目の前に立った瞬間に帽子が私の横をかすめる。と思うと、視界の右半分に広がる紅い色、熱を持ち始める首。みんなの動きが止まって、驚きの表情に変わる。
「どう…」
そこまでしか言えなかった。急激に私の意識が薄れはじめて、もう立っていられなかった。
視界がゆっくり横倒しになってゆく。うっすらと見えるのは、顔を覆うロゼッタと驚きの表情のまま変わらずのソード、そして、さっきまでいなかったエースがいつの間にか現れて、ジコチューを浄化しようとしているところ。
倒れる私に降りかかる紅い液体はぬめりと手にまとわりついて、これは血だってすぐにわかった。
大量の血、それで首を斬られたことを知る。自分がもうだめだっていうことも。
それでも、最後のわずかな気力をふりしぼって、ハートが無事かどうか確認しようと首を動かしてみるけど、思ったようには動かなくて。
「ダイヤモンド!」
うっすらと聞こえた慌てるハートの声。地面に倒れ込む寸前、柔らかい、暖かいものに支えられる私の体。
あぁ、よかった、無事だったのね、ハート。あの帽子があたらなくてよかった。でも、あまりくっついたらだめ。血が付いちゃうから。
薄れゆく意識の中で何とか伝えようとするけど、声にならなくて、くちびるがぱくぱく動くだけ。
ハートの瞳が揺れ、涙があふれる。それは私の頬に落ちてきて、あとからあとから降ってきて、とても綺麗。
ハート、泣かないで。プリキュアになった日からこうなることがあるかも、ってずっと覚悟してきたから。それに、ハートを守ることができて、私、とても嬉しいから。
…でも、もうちょっと、マナと一緒にいたかったなぁ。マナのツバメとして、マナのことをたくさん助けてあげたかった。それに、マナをこのまま残してゆくなんて、ちょっとしんぱ―
―そこで視界は真っ暗に。私の世界はここで終りを告げたのだった。
真っ暗な闇の中、気づくと私はそんな所にいた。
ただ、ただ、なにもない、なにも見えない、まっくらやみの世界。
ここがいわゆる死後の世界? 思った以上になにもなくて、なにも見えなくて、それだからか、不安定な感じがする。
私自身、浮いているのか、立っているのかもわからない。ただ、まっくらやみの中に安置されている、そんな感じ。
体を動かしてみると、どうもプリキュアの服は解かれていて、いつもの夏服になっているみたい。ももを、ふわりとしたサマードレスの裾が触れるのを感じる。
首の傷は最初からなかったようにふさがっている。指でなぞってもまったく違和感がない。
私はどうしたらいいかわからなかった。
ただ待っていればいいのか、それともどこかに行く必要があるのか、それとも、ずっと、ずっと、変わらずにこのままなのか。
とりあえず体は動くみたいなので、あたりをゆっくりと見回して、本当に些細なものでもいい、なにかないか探してみた。すると、ちょうどうしろ、かなり遠くからかすかな光が届いているのに気がついた。
闇にそのまま飲まれそうな仄かな光、とりあえずそちらに向かってみる。
歩いているのか、泳いでいるのか、わからない感覚で徐々に近づく光の源、それは、
「…扉?」
そう、扉だった。いえ、正確には扉のすきまから忍び出ている光。
「なんでこんなところに扉が?」
その扉は、背の高い木の扉。私の背の倍はあるかもしれない。錆びた真鍮の取っ手がついている。
「ありすの家みたい…」
ふと思い出す、いつも笑顔の親友。ありすの家の中にもこんな感じの扉があった。開けたらありすとセバスチャンさんが出迎えてくれるんじゃないか、一緒にマナやまこぴー、亜久里ちゃんもいてくれたらいいな。そんな夢物語を頭の中で繰り広げていると、中からかすかな物音がしているのに気がついた。
「誰かいるの…?」
おもわず口をついて出る言葉。聞こえるその音は足音。絨毯の上を歩いているのか、やわらかくもリズミカルな音が聞こえてくる。
まさかこんなところに人がいるなんて思ってもみなかった。もしかしたら、人ならざるもの?
扉の前で私はどうしたらいいか迷ってしまった。
でも、他に扉は見当たらない。光が届くこともない。仕方ないのでその扉をノックしてみた。
「こつん…こつん……」
扉の厚さを感じさせる重い音が響く。
「どうぞ、開いていますよ。入っていらっしゃい」
ノックしてすぐに返ってきた声に少し驚いてしまった。その声が私と同じくらいの年の男の子の声だったから。
私と同じくらいの年の子がいる。そのことに少し安心した私はためらいもなく真鍮の取っ手をひねり、扉を引いた。
「ぎぎぃ~っ」
見た目に違わず古風な響きをさせて扉は開いてゆく。
暗闇の世界へ逃げ出す光、まぶしいくらいの部屋の中。私は目がくらんで立ちすくんでしまった。
でも、徐々に慣れてゆく瞳。そこは、かなり広くて立派な洋室だった。
火がくべられている暖炉、至る所に置かれているたくさんの燭台にはろうそくが立てられて炎が揺らめいている。
部屋の中央には小さなテーブルとそれを挟んでふたつのひとり用ソファ。その周りには長いソファが並ぶ。
壁紙は明るい色。高い天井まで同じ壁紙が使われていて、いくつか絵が飾ってある。
ここまでなら普通の洋室。
ただひとつ、この部屋で異質なのは、長いソファのそばに立つ男の子。他に誰もいないところを見ると、さっきの声の主は彼に違いない。
水色の服、襟元には薄い水色のリボン。そして、金色の髪。年齢は私より少し下かな。そこまで見れば普通の男の子。
でも、彼の瞳は紅く、耳は少し長く立っている。彼自身が異質な存在であることを示しているかのように。
彼は何者なのか、この部屋はそもそもなんなのか。まじまじと、その男の子を観察していると、
「急いで入らないと危ないですよ、菱川六花さん」
「え…私の名前…なぜ?」
突然名前を呼ばれてびっくりした。どうして? 今までどこかで会ったことがある? そんなことを思い、彼を眺めながら考えていると、
「ほら、急いで」
言葉とは裏腹に妙に落ち着いた声が響く。と、その時、取っ手を握っていないほうの手首を何かがつかんだ。
なんだろうと思ってそこに目を移すと、茶色と緑色のまだらな模様をしたゴツゴツとした何か。でも、手であることが確かにわかるそれは、私の手首をきっちりつかんで、私を扉から離そうと、暗闇の世界へ再び戻そうと引っ張っている。
私は叫び声をあげることもできず、なんとか引っ張られないようにと部屋に入ろうとする。でも、その手らしきものの力はとても強い。このままではひっぱり戻されてしまう。なんとかしないと。
私は扉の取っ手を思いっきり引いてその何かを追い出そうとした。
「がちゃんっ!」
大きな音がして扉が閉まる直前、私の腕は解放されて何とか助かったみたい。でも、その何かの力が相当強かったからか、私の左腕にはしっかりと握られた痕が紅く残っていて結構痛い。私は恐怖でその場に座り込んでしまった。
「な、なんなの!?」
座ったまま、思わず口にしてしまう。息が荒い。心臓もドキドキしている…
…あれ? 私は自分自身の違和感に気がついた。
「私、生きているの…?」
たしかに私は死んだと思った。だから、暗闇の世界にいつの間にかいたのだと思っていたけど…でも、呼吸もしているし、心臓はドキドキしているし、足もある。では、今ここにいる私は生きているってこと?
なら、こんなところでゆっくりしていないでみんなを助けに行かないと。
私は緋色の絨毯に立って、再び扉に向かう。さっきみたいな怖い思いをするかもしれないけど、プリキュアになれば何とか逃げるぐらいはできそう。そう思った時、再び彼が口を開く。
「どこへ行くのですか?」
「みんなを助けによ。こんな所で油を売っているうちにみんなやられてしまう」
「大丈夫ですよ。この場所は貴女のいた世界の時間の流れと無関係ですから」
先ほどと変わらない表情と、先ほどと同様に落ち着いたままの口調で彼は答える。私はその落ち着きぶりに、少しだけいら立ちを感じる。
「大丈夫じゃないわ。みんなが倒されてしまったら、何もかもおしまいじゃない!」
「いえ、そんな心配も必要ないですよ」
彼は私に近づき、扉との間に立つ。深い紅い瞳が私をしっかりと捕まえる。私はその瞳に魅入られてしまったかのように動くことができない。
その時、彼の後ろの扉がカリカリ音を立て始める。まるで何かが爪を立ててひっかいているような…
すると、彼は扉に向いてこう言い出して、びっくりしてしまった。
「この子は確かにおいしそうだね。でも、まだ。もう少し待って」
慈しむような口調とは裏腹なその内容が心の奥深くつきささった。確かに彼は「おいしそう」そう言った。
私は恐れを感じて、扉から、彼から離れる。カリカリという音は私が離れたことで止んだ。
「さて、菱川六花さん」
彼は扉の前から部屋の中央へと、ゆっくりした動きで戻ってゆく。
「いえ、死んだ時のお名前で呼ぶのであれば、キュアダイヤモンドさん、でしょうか」
「どうしてプリキュアのことまで!?」
私は思わず彼に詰め寄る。でも、彼はぜんぜん気にした風もなく、私をテーブル前のソファに促す。
戸惑いながらも、先にソファに座る彼を見て私はその向かいのソファに腰掛ける。
優しい座り心地のソファは、少し乱れる私の心を落ち着けてくれる。
…あれ? 今、とんでもないことを聞いてしまったような……
「今、死んだ、って…?」
「はい、確かに。菱川六花さん、貴女は一度死にました」
「やっぱりそうだったのね…」
頭の中ではわかっていたけど、改めて宣言されると悲しい気持ちになってきてしまう。
もう、前のような日々には戻れないこととか、マナと一緒にいられないこととか、そういう残念なことがこころに降り積もって。
そんな私のショックを知ってか知らずか、彼は話を続ける。
「普通は死んだ人の魂は成仏して消えてしまいます。でも、たまに、魂が成仏せずにさまよいます。そんな時にたどり着くのが生と死のはざまにあるこの部屋です」
「そんなことが…」
死んだ後の世界。お話とかで聞いたことは何度もあるけど、私はどれも信じたことはなかった…小さい頃は少しは信じていたけど…いつからか、見えないものなんて信じても仕方ない。それに、死ぬなんてずっとずっと先のことだし。そう思って死後の世界なんて考えなくなっていた。
普段だったらこんなお話聞かされても信じていなかったと思う。でも、今の私はかすかに信じていた。暗闇に放り込まれたこと、この扉を見つけたこと、よくわからない恐ろしい何かに闇の世界に引きずり込まれそうになったこと、そんなありえないことがいくつも重なったこと、そして、彼のミステリアスな雰囲気、嘘をついていないってわかるその瞳を見ることで。
「人の一生は道のようなものです。分岐点があったり坂道やカーブがあったりします。でも、その途中で道に迷ってしまうとさまよう魂となってしまいます。
さまよう理由は様々です。やり残したことがあったり、未練があったり。
そこで、さまよった地点が行き止まりか、もしくは、ただ迷っただけで先が続くのか、僕の役目は魂の話を聞いて、そのどちらかを判断することです」
「どちらか…」
「はい。迷っただけであれば元の道へ戻してあげます。でも、さまよった地点が行き止まりだった場合は…」
そこで彼の言葉は止まる。私はその意味に気付いて思わず息を飲む。
彼は表情一つ変えず、
「死」
ただひとことだけを口にする。
私はその言葉を聞いて、改めて彼のことをじっと見る。
ぱっと見た感じは普通の男の子なのに、人の生死を司ることができる、らしい。私の運命は彼の手にゆだねられていると思うと、ますます怖い存在に思えてきた。
「では六花さん、はじめましょうか」
その言葉と同時に、部屋中の燭台の火が消える。テーブルに置かれたものをのぞいて。ろうそくが消える時の、あの独特のにおいが私を包む。
私の向いに座る彼の瞳だけがろうそくに揺れて、その瞳が嘘を見抜くような気がして、私のすべてを見通してしまうような気がして、私は最初の言葉を迷ってしまう。
「えっと…」
何から話したらいいか…死んだ直接の死因を言うだけなら簡単だけど、それで彼は納得しないと思う。思案顔がとれない。言葉が続かない。
そんな私の心の状態が顔や態度に現れてしまっていたのか、
「大丈夫ですよ。飾らず、思ったまま、お話していただいて問題ないですよ」
彼は優しい声でそう言ってくれる。
「え、ええ…」
彼の言葉に私は深呼吸をして、とりあえず、プリキュアになった時からのことを話してみることにした。
「あなたがさっき言ったとおり、私はプリキュア。キュアダイヤモンドとして戦ってきたの」
思い浮かべるのは初めてプリキュアになった日のこと。1年も経っていないのに、もうずっと長いこと戦ってきたような気がして、あの日のことは懐かしさすら漂う。
「親友のマナを助けるために、だった」
そう、私はマナのために戦うことを決めた。マナがプリキュアになったことで背負った使命は、それまでのどのお手伝いをも超える大変さなのはすぐわかった。私はその使命を分け合って、マナの負担を軽くしてあげたかった。だから。
「マナさん…?」
彼の口からふと漏れる疑問、マナのこと。
「ええ、マナ。相田マナ。私の幼なじみ」
私はマナとの出逢いから今までの事を話した。どれだけ大切か、ということも含めて。
そして、私がプリキュアになったすぐそのあとにありすがプリキュアになったこと。まこぴーという仲間ができたこと。
いくつもの戦いを続けてゆくうちに亜久里ちゃんと出逢い、試練を受けてパワーアップしたこと。
つらかったこともあったし、苦しいこともあった。命の危機なんて何度もあった。
そんな、つらいことが続くと、どうしてプリキュアになったのだろう。そんな言葉が心の片隅に出てくることもあった。
「そこまで思っても、プリキュアを辞めないのですね」
感心したように、呆れたように、彼は言う。
「ええ、辞めないわ。何があってもね」
私はそんな彼に、その瞳をじっと見つめて伝える。自分でも少し驚くぐらい、強い口調で。
「何が貴女にそこまでさせるのですか?」
「マナへの想いよ」
幼いころに仲良くなってから、ずっとそばにいてくれたマナ。
小さいころ、家でひとりきりの寂しい時、マナは必ず遊びに来てくれて、そのまま一緒に眠ってくれた。
また、いつの間に見つけたのか、街の素敵な場所に連れて行ってくれたり、宝物のような風景を見せてくれたりして、私の世界を拡げてくれた。
日々、一緒に過ごすうちに、マナの存在は私にとってかけがえのないものになっていった。
マナは、私だけでなく、沢山の人のために動きまわっている子だった。でも、マナのために動きまわってくれる人はいない。だから私がマナのために動きまわろう。マナのためだったら私は何でもできる。プリキュアになる決意を持ったのもそれが理由だった。
「幼い頃からずっと一緒にいてくれたマナ。そのマナを守るためにプリキュアになるって決めたの。マナを守り、戦うって。それがどんな困難な道かはわかってる。でも、私は絶対にその決意を変えない。私のこの決意は、マナへの想いは、ダイヤモンドのように固く、壊れることはないわ」
「…たとえどんな困難にあっても?」
「ええ。絶対に」
私の決意をはっきりと伝えると彼は考え始めた。
私も今の言葉を繰り返し頭の中でつぶやく。
マナのためならどんな困難だって決意は変わらない。その気持は本当。マナのためなら何だってできる。たとえ命を捨てることになっても。
でも、まだすべてが終っていないのに死んでしまった。もうマナを守ってゆくことができない。
そんなのは嫌。私が私を許せなくなってしまう。
それに、この先マナを助けてゆくのは誰? ありす? まこぴー? 亜久里ちゃん?
他の誰でも助けられるのはわかっている。でも、いちばんは私、これだけは譲れない。
10年一緒にいた私でなければマナを、マナのすべてを守ることなんてできるわけない。
だから、運命に背いてでも、なんとしても元の世界に戻ってマナを守りにいかないと。
「どこへ行くのですか?」
燭台ひとつの薄暗い部屋の中、ソファから立ち上がると軽くきしんで音が響く。
「やっぱり私、運命がどうであろうと戻るわ。マナを助けないと」
蝋燭に煌めく彼の瞳、そこに映る私の表情は険しい。けど、自信にあふれた瞳をしているのがわかった。
「ここから抜け出すことはできませんよ」
「それは、やってみなくちゃわからない」
彼の言葉は本当だと思う。無理矢理運命に逆らおうとしているのだからそもそも無理な話。
わかっているけど、マナのためだったら私はその運命も無理矢理ねじ曲げたいって思ってしまう。
「フフッ」
突然、彼は小さく笑いだした。いたずらっぽい瞳にいたずらっぽい笑い声。
「なにがおかしいの?」
私の決意が笑われたような気がして、思わず声が大きくなってしまう。
「いえ、今までこれほど生に執着したさまよう魂はなかったものですから」
物珍しいものを見るように彼の瞳が私をなぞる。
「菱川六花さん」
「は、はい」
かしこまった口調に変わった彼は先ほどの笑顔はなく、真剣な表情。私も真剣な表情になってしまう。
「マナさんを守るというその固い決意、よくわかりました。その決意を全うしていない貴女はここに来るのには早すぎたようです」
彼の右手が私に向けられる。
「お戻りなさい。運命がねじまがった地点まで」
彼のその言葉とともに私の意識が一気に消えて―
―気が付くと、目の前にリーヴァの帽子が近づいてきていた。
危ない、このままでは私の首が斬られてしまう。でも、よければハートが斬られてしまう。
とっさの判断でそれを蹴りあげようとした時、体が無理矢理倒される感覚。そして、体に重なる暖かくて柔らかい感触…
「あぶないよ、ダイヤモンド…」
気づくとハートが私の上に重なっていた。と同時に、エースの攻撃で浄化されたジコチューの断末魔が響き渡る。顔を横に向けるとロゼッタとソードがそれぞれリーヴァとグーラに向かっているところだった。
「今度こそやったと思ったのに…おぼえてなさい」
でも、ジコチューを浄化されてしまったふたりはそのまま逃げるように消えてしまった。
世界があたたかい光に包まれて、壊されてしまったすべてが元に戻る。
「終った…のね」
小さくつぶやく私はハートの顔がとても近くにあるのに気がついてドキドキしてしまう。
「よかった、よかったよ…ダイヤモンド」
それどころか、その顔を私の胸に押しつけて、少し泣きそうな声でそんなことを言うので、もっとドキドキしてしまう。
「大げさね、どうしたの?」
変身を解いてハートの背中をやさしくなでてあげる。ハートも変身を解くと、ふたたび私の胸にその頬をこすりつけてきた。
あたたかいマナの体温。聞こえる、マナの小さな嗚咽。その暖かさで私は生き返ったことをやっと実感できた。
ありすやまこぴー、亜久里ちゃんも変身を解いて私のそばにきていた。
「だって、六花…六花が…!」
マナの言葉はとぎれとぎれ。
「落ち着いて。どうしたっていうの?」
マナの背中を軽く抱いて、頭を撫でてあげる。
「さっき、すごい嫌な光景が頭に浮かんだの。あの帽子が飛んでくる途中で」
震える声のマナ。その言葉にありすとまこぴー、亜久里ちゃんも驚いた声を上げる。
「私も…浮かびました。同じ時です」
あのありすが少し震えた声。よっぽど怖い光景を見たんだと思う。
「私もよ。あの光景は…思い出したくもない」
そう言い捨てるまこぴーは、いつものりりしさは消えて、恐怖感が顔を覆っている
「わたくしも見ましたわ。本当に、びっくりしました」
亜久里ちゃんまで。私以外のみんなが見ている恐ろしい光景。
「マナは何を見たの?」
私はマナに尋ねる。けど、マナは戸惑うようにくちびるをわなわな震わせている。
言えないマナの代わりに亜久里ちゃんが口を開く。
「六花、あなたがリーヴァの帽子で倒される光景ですわ」
さすが亜久里ちゃん。口調はいつも通り。でも、手が震えている。
「六花ちゃんはあの帽子で首を斬られて…」
ありすはそこまで言うと口をつぐんでしまい、瞳を伏せてしまう。
「倒れる六花を抱きとめたんだけど…六花の血が降りかかる様子とか、手にまとわりつくのとかすごいリアルで…」
マナの言葉まで聞いて私はわかった。みんなが見た光景は、あの、不思議な部屋へ行く前の出来事だったことに。
私はちょっと考えて、マナを抱きしめたままみんなに笑顔を向けた。大丈夫。元気だよ、ってことをアピールしたくて。
「もう、みんな大げさよ。私がそんなドジなやられかたするわけないでしょう?」
本当は、そのドジなやられ方をしたんだけど…そのことも含めて、私に本当に起こったことをみんなに伝えようか迷ったけど、今は黙っていることにした。
言ったところで信じてもらえなさそうだし、マナなんて余計な心配して次から私をかばいながら戦いそうだし。
「それに…」
じっとマナのことを見つめる。マナはまだ濡れたまつげをきらきらさせて、その瞳を私にむける。
「マナをおいて死ぬなんて、そんな怖いことできません」
「え…」
私の言葉にマナは本当にどうしてって顔をしている。
私は瞳を少し細めてマナのことをじっと見つめながら、
「私がいても暴走しまくりなのに、私がいなかったらどうなっちゃうか…考えたら死ぬことなんてできないわ」
「あぅ」
マナはちょっとだけ申し訳なさそうな顔になる。
「それは冗談だけど、本当に大丈夫よ、みんな」
私はそこで一呼吸おいて、
「心配してくれて、本当にありがとう!」
私を失くすかもしれない恐怖感だけでここまで心配してくれるみんなに、心を込めて伝えた。
マナとふたりの帰り道。マナはずっと私の手を握って離さない。
それは、私がちゃんと生きているっていうことを確かめるように、しっかりと、指まで絡めて。ちょっと痛いかも。
「大丈夫だよね、六花。もう死なないよね?」
「そもそも死んでないって。大丈夫よ」
「そうは言ったって…」
そういえば、マナは身近な人を失うことに対してかなりの恐怖を持つ子だった。レジーナのこと、そして、レジーナを失った時のマナを思い出す。
「大丈夫よ、マナ」
立ち止り、マナの瞳をじっと見つめて伝える言葉。マナの瞳はまだ軽くゆらめいている。
「マナを残していなくなるなんてこと、絶対にしない」
その言葉を聞くと、マナの頬がちょっとだけふくれっ面になった。
「どうせ…暴走しちゃうと止める人がいないからでしょ」
私はその言葉を聞いて、さっきはちょっと言い過ぎたかなって思った。
私はマナにわかってほしくて、私の手を握るマナの手を両手で握りなおして自分の胸元に持ってゆく。
「いいえ、マナ」
マナの手の暖かさをしっかりと感じて私は心からの想いをこめて、
「私はマナのことを想ってプリキュアになったの。マナの助けになりたくて、マナのことを守りたくて」
あの、闇の中の大きな部屋、彼の前で誓った言葉に嘘はない。今度はマナの前で誓う。
「だから、マナを置いて死んだりしない、絶対に」
胸元に寄せたマナの手をぎゅっと握る。私の意思を感じてもらえるように。
「絶対に…?」
でも、ちょっとだけ心配そうなマナの瞳。
「ええ、絶対に。私の心に誓って」
私の誓いにマナの瞳が明るさを取り戻し、笑顔が戻ってくる。この笑顔を守るためにも、私は自分の心に問いかける。
ダイヤモンドのように固い決意、その覚悟のほどを。