やはり私の先生は間違っているようで間違っていない。 作:黒霧Rose
読者の皆様「アフターが早過ぎんだよ!」
こうなると思います。仕方ない。だって、これ書くの楽しいんだもの。一度プロット作っちゃえばもう本当に出る出る。(本当は序盤の方しか組めてないとか言えない)
そんな訳で、アフター始まるよん!
After1 初代を巡る仁義なき幕開け
部室で読書をする。暖かい陽気に当てられたこの部室には穏やかな空気が流れ、その心地よさは何時までも変わらないと、身勝手にもそう思ってしまう。
生徒会の一部組織となる事でその存在を容認されたこの部活は、私で二代目となる。最近、その初代部長はこの学校から本当の意味で去ってしまった。今だってそう。こうやって目を瞑ると、その男がタブレットと書類を手にしながら座って仕事をしているように感じる。
『雪ノ下、最近はどうかね』
そして、頭の中で反響するもう一人の声。奉仕部の創始者にして、初代顧問。平塚先生の、私を呼びかける声を思い出す。その声に振り返ってしまったら、私が見せた答えを否定してしまいそうで、それを行ってしまったらあの背中に応える事が出来なくなりそうで、そのまま本に視線を戻した。
そうだ。振り返るのなんて、何時だって出来る。少なくとも、今ではない。
迷いながらも進み、彷徨いながらも歩んだ私の道。辿ってきた足跡を見る時は、まだ先でいい。今くらいは、前を向いていなければ示しがつかない。
「それでね、雪乃ちゃんったらあの時は大泣きしちゃってね」
「えー!?ゆきのんにもそういう時期がちゃんとあったんですね」
「雪乃先輩・・・それ以上属性増やしてどうするんですか」
さて、ここらで現実逃避を辞めよう。向き合わなくてはいけない時が来てしまったのね。ホントもう、なんなのよ・・・。
放課後になり、私と由比ヶ浜さんは部室でいつも通り過ごしていた。彼女は携帯を弄り、私は本を読む。少ししてから一色さんが来て、由比ヶ浜さんと会話を始める。時折私もそれに答えて、また読書に戻る。
そこまではいつも通りだった。
目の前に居る姉が来るまでは。
『題して、雪乃ちゃんを教えちゃおうのコーナー』とかいう巫山戯るに巫山戯た事を言い放つと、彼女は私の過去を話し始めた。それはもう酷い内容ばかり。私が姉さんに嫌がらせをされたり、意地悪を食らっていたり、そんな内容が延々と語られた。由比ヶ浜さんはそれを聞いて驚いたり笑ったり。一色さんはそれを聞いて笑ったり何故か悔しそうにしたり。
私は恥ずかしかったり憤ったり・・・終いには現実逃避をするレベル。
無理。死ぬ。軽く所ではなく、割とマジで死ぬ。もうおうちかえりたい。
・・・仕方ない。ここは家に帰ったら彼を呼んでサンドバッグになってもらいましょう。ちょっとの罵倒は許してね(ちょっとで終わすつもりはない)。
「・・・そう言えば、結局のところ比企谷先生?比企谷さん?・・・比企谷先生って今何してるんですか?」
一色さんの問いかけに、私と姉さんは少し顔を強ばらせる。離任式の時、彼は教師を退職するということでこの学校を離任すると全校生徒に説明された。その後の事は、私と姉さん、平塚先生以外知らないのだ。
「それあたしも思ってた」
一色さんの言葉に便乗する由比ヶ浜さん。
「ここでやった離任式の時も、それについてだけは口を割りませんでしたもんね」
あの時の一色さんは凄かった。それだけで伝わるでしょ?誰に言ってるのか分からないけど、まぁ・・・うん、途轍もなかったわね、彼女。
「あ、ゆきのんって比企谷先生の連絡先持ってたよね?」
「え、ええ」
あ、やばい。由比ヶ浜さんの前では何回も彼に電話をしていた。さ、流石は由比ヶ浜さんね・・・変な所で鋭いわ。時折、彼女は私の核心を突くような発言をする。所謂『ゆきのんキラー』というやつかしら?違う?違うわね。
「本当ですか?じゃあちょっと連絡入れてみてくださいよ」
「そ、それは、よろしくないと思うの。彼だって社会人なのだから、もし仕事中だったら迷惑になるでしょう?」
今、彼は雪ノ下建設で働いています。こき使われているだの、新人使いが荒いだの、おうち帰りたいだの、働きたくないまであるだの、それはもう最低最悪とも言えるメッセージが昼休みに沢山来ました。教師時代から思っていたのだけれど、そういうのを私に言うってどうなのよ・・・。
ま、まぁ?信頼されてるって言うか?弱音を吐ける相手って言うか?そういう風に思われてるなら、許してあげないこともないけど?
「大丈夫ですよ。何も電話してくださいって言ってるんじゃないですから。メッセージを入れておけば、仕事が終わった後くらいに返信が来るはずです」
待ちなさい。それはダメよ。絶対に無理ね。考えてもみなさい。という事は、このメッセージルームが彼女達に見られるかもしれないということなのよ?それはさっきまでやっていた姉さんの話の内容よりキツイわ。その、人には見せたく、ない、し。
「そ、それでも。会議中や商談中だったら」
「携帯の電源切ってますって。なんだかんだでそういう人じゃないですか、あの人」
全くもって間違っているわね。あの男、気を抜くとただの面倒くさがりのどこか抜けた男になるわよ。気を抜いていれば、の話だけど。
「はいはーい!私も彼の連絡先持ってるよ!なんたって、私は八幡先輩の後輩だからね!!」
姉さん・・・。あなた、さっき顔を強ばらせていたじゃない。どうして私が狼狽えているとそっち側に行ってしまうのよ。と言うか、教育実習生なのだから職員室で勉強しなさい。
「え!?はるさん先生って比企谷先生の後輩だったんですか!?」
「よくぞ訊いてくれたね一色生徒会長ちゃん!その通り、八幡先輩が三年生でここの部長だった頃、私もここに通っていたのだよ!」
「えええ!!!比企谷先生がここの部長だった事にも驚きです!!!」
「ふっふっふ。彼の事なら大体知ってるのがはるさん先生なのだよ」
確かに、一色さんは知らなかったわね。そのはるさん先生とかいうこんがらがった呼び名は姉さん公認なのか。もう少しどうにかならなかったのかしら。
「ちなみに、八幡先輩の淹れるコーヒーはかなり美味しい」
それは私も知らなかったわ。そう、そうなのね。では、今度の勉強会の時にお手並みを拝見しましょうじゃない。
「ま、それは置いといて。そうだねぇ・・・あ、じゃあこうしようか」
面白がるように笑う姉さんを一発殴った方がいいのではないだろうか。真剣にこんな事を考え始めた辺り、私がアウトなのか姉さんがアウトなのか・・・殴れば分かることよね。い、いけない。暴力はダメよ、絶対。ここはなるべく隠密に、陰湿に、表面にダメージを入れるのではなく内面から削っていけば・・・どれだけ焦ってるのよ私。
「私の出すクイズに正解した方と彼を繋げてあげよう」
なん、です・・・って?どうして彼が姉さんのものであるかのような発言をしてるのかしら?いえ、まぁ彼は『雪ノ下』に人生を捧げたのだから広義的に捉えれば姉さんのものとも言えない訳ではないのかもしれないけれど・・・でも、彼は、その・・・私の、だから。もっと言えば、私が・・・彼の、だから。
「ね、姉さん」
「うんうん。雪乃ちゃんの発言は、このはるさん先生が許しません」
立場を逆手に取るなんて、流石姉さん。卑怯で汚いわ。
「それで二人はいいかな?」
「はい!」
「オッケーです!」
元気よく手を挙げる由比ヶ浜さんと、あざとく敬礼をする一色さん。そして、楽しそうに、愉しそうに笑う姉さん。なるほど、これが混ぜるな危険というやつなのね。お願いだから注意書き位は最初に見せてもらいたいわ。事後報告は世間では良くない事なのよ!彼も言っていたじゃない!
「よぉし!じゃあクイズ!『比企谷八幡について』の開催だ!」
もう私の事は眼中に無いのねそうなのね。では、ステルスゆきのんでこの場を眺める事にしよう。
きっと、彼がこの場に居たらそうしていたのかもしれないわね。
そんなこんなで、私の青春はもう少しだけ続くようだ。