難産だった。話の順番、めちゃくちゃで申し訳ない。
救われた者が、どんな目をするか空条承太郎は知っている。
かちゃんと、コーヒーのカップを置いて、承太郎は周りを視線だけで見回した。
カフェテラスから見ても、平日の昼も大分過ぎたという微妙な時間帯では人はほとんどいない。強いて言うならば、端の席に老人が一人座っていた。
さやさやと、承太郎の後ろに植えられた樹から木の葉擦れがする。
承太郎は、ちらりと嵌めていた時計に目を向けた。
(もうすぐ時間か。)
承太郎は思案する様に帽子を深くかぶり直した。
監視下に置いていた虹村形兆が消えたという報告は承太郎にすぐに上がって来た。
監視していた財団員曰く、何の気配もなかったというのに誰かに襲われたのだという。そうして、問題の形兆についてもすぐに自ら承太郎の拠点としていたホテルに現れた。
「空条さん。」
おざなりな敬語を下げて、彼はじっと承太郎を見た。
その眼は、救済を得た人間であると、承太郎は理解した。
救済というものを得た人間に、彼は今まで多くあって来た。
それは例えば、自身に向けられたもの、SPW財団にやって来たもの。
そう言った存在は、その瞳は、どこか澄んでいる。
肩の力が抜け、まるで穏やかな日向の中を歩くような、そんな静かな目だ。
そうだ、空条承太郎という男は、そんな目を幾度も見た。
幾度も、幾度も、見た。
そうして、最初にその瞳を見たのは、あの旅でのこと。
砂漠で邂逅した、盲目の男が己が主のことを語る時、そのめしいた目に映った静けさとこの年若い男の目は本当によく似ていた。
「・・・・今までどこにいた。」
その簡潔な問いに、形兆は少しだけ視線を落とし、口を開いた。
「例の矢と弓を探していた女と接触していました。」
それに承太郎はホテルの一室にて、どんな人間でさえも理解できるような威圧感を形兆に向ける。けれど、形兆は揺らぐことも無くじっと承太郎を見返した。
「向こうの要求は、あなたと交渉の場だそうです。」
「・・・お前と接触してきた奴らの特徴は?」
承太郎のそれに、形兆は沈黙を以って無視した。承太郎の、どんな存在でも怯えるか動揺はするだろうその威圧感を前に、形兆はひどく落ち着き払ったような、凪いだ目をする。
そうして、口を開いたかと思えば承太郎の要求とはまったく別物だ。
「取引の場所は、この町のカフェだそうです。」
「おい。」
「・・・・交渉に応じるのならば、石仮面についての情報を渡すそうです。」
石仮面、という単語に承太郎は思わず反応した。
「おい、てめえ・・・・」
「あの人たちについて、俺は話す気はありません。
絶対に。」
その眼を見て、承太郎は確信する。
その眼は、救われた者の眼だ、それは、信奉者といえるものだ。
力ずくではけして口を割らない。それを理解して、承太郎は大きくため息を吐いた。
承太郎が指定されたカフェにやってきたのは、さすがに放置することが得策でないことはわかっていたからだ。何よりも、石仮面という単語には反応せねばならなかった。
石仮面という存在は、祖父のジョゼフから聞いていた。
彼にとっては因縁のあるDioを吸血鬼へと変えたもの。
もちろん、それが他にも存在しているという可能性がなかったわけではない。
SPW財団でもスタンド能力の研究のほかに、石仮面の捜索も行われていたはずだ。
その捜索を逃れたものが存在していた。
何よりも、空条承太郎との交渉材料になりえる価値が石仮面にあると判断できているのだ。
(相手は、石仮面の使い方を理解している。)
そうして、石仮面とのジョースター家の関係を知っている可能性もある。
今のところ、承太郎以上のスタンド使いがいない以上、彼以外は足手まといになる。そのために、彼は一人で相手と会うことにしたのだ。
(ともかくは、接触してくる奴を・・・・)
こつり。
舗装された道を、何かが歩く音がした。承太郎は今まで気づかなかった、自分の後ろに立った存在に振り返る。
「・・・・こんにちは。」
それが、己が会うはずの存在であると承太郎が思い至るには少し時間がかかった。
「約束していたものなんですが・・・・」
「あんたが?」
「はい、形兆君を通じてあなたと約束させていただいたものです。」
目の前で話す、それはあんまりにも平凡でありすぎたからだ。
承太郎は、目の前の存在をじっと見る。
向かい側の席へ、ちょこんと控えめに座ったそれ、女はどこかぼんやりとした目で承太郎を見つめた。
纏っている黒いスーツは一目で上等なものであると分かる。それも、女の体を測ってわざわざ作られたものであるらしかった、けれど、何と言うのだろうか。女の貧相な体形のせいか、着せられているという感覚は否めない。
そうして、その纏った衣装以外に特徴といえる特徴も無い。
腰まで伸びた黒い髪に、あまり日に当たっていないであろう青白い肌。どこか優し気であるとしか表現の出来ない顔立ち。唯一、特徴といえるのは、その朝焼けのような赤い瞳であった。
(・・・・どこにでも、いそうな。)
それこそ、街角でふとすれ違う様な平凡さだ。
こう言っては何だが、拍子抜けではあった。承太郎は、形兆の様子に無意識にあの吸血鬼のような人物を思い浮かべていた。
もちろん、目の前の存在がただのメッセンジャーである可能性もあったが。
「すいません、なにか支障がなければお話をさせていただきたいんですが。」
「・・・ああ。」
正直な話をすれば、承太郎は反応に困っていた。
もちろん、警戒は解いていない。だが、何と言うのだろうか。
「ああ、そうだ。何か頼まれますか?ここのは美味しいそうで。甘いものもなかなかだそうですし。」
「結構だ。」
「そうですか。」
警戒を抱くには、女は平凡すぎる。
こう言っては何だが、女には隙がありすぎる。承太郎が本気になれば、ほんの数分で殺せる様な無防備さだ。
だからこそ、考えていた武力行使というものも戸惑われる。それに加えて、一応は敵といえる承太郎を前にしても女の中に警戒といえるものが一つも見えない。
どこか、小動物を前にしたような心境に至る。
いや、それ以外に承太郎には引っかかることがあった。
何故だろうか、その女に、奇妙な懐かしさを感じていた。
(何故だ?)
彼は脳内の記録をひっくり返す勢いで探る。けれど、女と似通った誰かなど記憶の中には存在しない。ならば、この懐かしさはなんなのか。
奇妙な、親しみ、懐かしさ。
それに承太郎の中で、ざわざわと騒ぎ立てる。
(・・・・まさか、スタンド能力か?)
女は暢気に店員にココアを頼む。
そうして、承太郎に幼子のようなあどけない笑みを向けた。
「・・・・ところで、今日は来ていただきありがとうございます。」
来ざるをえない事情を作ったのはそっちだろうに。
何だろうか、女の場違いな穏やかさが承太郎との間に決定的な食い違いを生み出している。
承太郎のそんな内心を見透かしたように、女は苦笑する。
「すいません。一応、名乗っておきますが。私のことは、ポリプスとお呼びください。さて、空条承太郎さん、話を始めましょうか。」
その言葉に承太郎は意識を集中させる。いつでもスタンドを出せる様にと身構えた。
石仮面、そんなものを持ち出してまで相手が望む交渉とは何なのか。
「ああ、そうだ。あなたの目当ての物を私たちが持っている証拠です。」
そう言ってスーツの内から取り出したのは、一枚の写真だ。差し出されたそれを承太郎は受け取り、目を通す。
「どうかされました?」
「いや・・・・」
承太郎は、思わずそんな顔をされるほど何とも形容しがたい顔をした。
受け取った写真には、確かに資料にあったとおりの石仮面が映っていた。そうして、その石仮面を持って笑う女の姿も。
(・・・・・なんだろうか。)
石仮面の危険度は知っている。それ故に、この写真の重要性は理解できた。が、一緒に写っている暢気に笑っている女の姿を見ると観光か何かでとった記念写真のように見えて来る。
その姿になんだか力が抜けそうになる。
「ええっと、石仮面についてはそれでよろしかったでしょうか?」
「まさか、これだけか?」
「いえ、これはあくまでこちらに石仮面があるという証拠です。もしも、こちらの条件というか、交渉に応じてくれるのならお渡ししますよ。」
「条件?」
さっそく振られた、その条件に承太郎はじっと女を見つめる。
「条件は、簡単です。二年後、私があなたに連絡したとき指定された場所に来て、指定されたことに協力していただきたいんです。」
「・・・・なんだと?」
それは、あまりにも不確定な部分が多すぎる。承太郎の眉間に皺が寄ったのを見て、ポリプスはまた苦笑をする。
「すいません。あまり、こちらの情報を渡せないのでどうしても不確定な事が多くなってしまいます。」
「それを了承しろと?」
「はい・・・・」
「無理だ。」
承太郎の即答に、ポリプスはそうだろうと頷いた。断られても、女の表情に変化はない。
「ですが、条件を飲んでいただけるのならば石仮面はお渡しします。あれが、他人の元にあるのはさすがにまずいでしょう?」
「・・・・・力ずくで、といったらどうする?」
承太郎は、ゆらりと後ろに己がスタンドを現した。
青い、美しい巨人。
最強と、そんな呼び名さえある彼のスタンド、スター・プラチナ。
女の視線は確かにスター・プラチナに注がれていた。
それに承太郎は目の前の女がスタンド使いであることを確認する。何かしらの行動を予想し、彼は能力の発動のために身構えた。
「わあ。」
けれど、女は承太郎の予想に反してやはり幼子のような声音を出した。女は、何の躊躇も無くスター・プラチナに手を伸ばす。手は、届かない。
それに、承太郎も、そうしてわずかにではあったがスター・プラチナさえもその動作に驚いていた。
「すごいなあ。」
ああ、その声よ。その、その、あまりにも拙い声音よ。
何故だろうか、その声に置いてきたはずの娘を思い出す。その純粋に、ヒーローを目の前にした幼子のような声に。
自分を見つめる、自分に駆け寄る、娘のことを思い出す。
承太郎は思わず、ぐらぐらとする頭を抱えそうになる。
警戒しなくてはいけない、女の目的を、どこに所属しているのか、それを探らなくてはいけない。
けれど、女を前にして、関われば関わるほどに女へ親しみを覚えていく。懐かしい、なんて、そんなことを思ってしまう。
警戒しなくてはいけないという危機感と、女へ湧いてくる奇妙な懐かしさが、女への感覚を狂わせる。
「すごい・・・・」
女は、まるで星を仰ぎ見る様にスター・プラチナを見つめる。
そこで女は自分を見る承太郎に気づいたのか、照れるように笑って手を引っ込めた。
「すいません、不躾でした。」
「・・・・てめえには、警戒心ってものがないのか?」
それは本当に素直な疑問であった。女は、それにやはりあどけない仕草で首を傾げた。
「だって、あなたは正しいですから。」
「は?」
「あなたは正しいから、私を、少なくとも今の所悪人ではない私を殺したり、痛いことなんてしないでしょう?」
何を言っているんだと思った。
まるで、この世の絶対的なルールを話すような口調であった。
もちろん、空条承太郎とは善性であるだろう。
邪悪というものを赦さず、弱者を守るだろう。
けれど、けれど、だ。
目の前の女に、そこまでの信頼を置かれる理由なぞあるのだろうか。
女は、ポリプスは確かに今の所は敵ではないだろう。けれど、それと同時に味方でもない。
承太郎は、女の違和感に何とも言えない顔をする。
判断がつかないのだと。
確かに怪しくはある。だからといって、敵対するような存在なのかといわれれば戸惑われる。
承太郎もさすがにあんまりにも平凡な女に力づくというのは躊躇われた。
「・・・・てめえもスタンド使いなんだな?」
「はい。」
「見せてみろ。」
「はい、どうぞ。」
一応とした要求に、女はニコニコと笑って了承した。
それと同時に、ふわりと彼らのいる席の近くにある木陰に人影が現れる。承太郎はそれに目を走らせた。
そこには、黒いマントで体を覆った、道化師のようなスタンドが佇んでいた。そうして、どこからかくすくすと軽やかな笑い声がする。
「ブラック・サバス、というんです。良い子ですよ。」
その口調は、まるで己のきょうだいを語るようであった。スタンドに向けられるには深すぎる親しみだ。
「能力は、まあああやって影の中に潜ることができるんです。便利ですよ。」
それが正しいかどうかはわからない。ただ、その様子からしてさほど的外れな事ではないと察する。
そうして、スタンドを出してもポリプスから動きはない。ニコニコと、彼女は笑ったまま承太郎を見つめるだけだ。
「・・・・・どうして俺に協力を求める?」
「あなたの力が必要だからです。」
簡潔で、けれどあやふやな答えに承太郎はさてと考える。
承太郎の予想として、自分にわざわざ繋ぎを求めるのならば荒事関係であった。
目の前の女は、空条承太郎がどんな存在であるかを知っているようだった。
「・・・・・すいません。本当ならば、誰も巻き込みたくはないんですけど。」
掠れた様な震え声で、ポリプスは視線を下げた。
「ですが、どうしても私たちだけでは無理で。せめて、あなたの力だけでも借りられないかと。」
女の台詞に、承太郎は口を開いた。
「てめえは信用できねえ。」
「はい、そうですね。」
女にはやはり、動揺は見えない。承太郎は視線を厳しくしながら、被っていた帽子の角度を整える。
「・・・・てめえは、何故虹村形兆を巻き込んだ?」
その言葉に初めて、ポリプスから動揺が感じられた。
承太郎はそれにようやく女がどんな存在かを知るための手がかりを掴めるかと考えた。
女が、誰の使いであるかのか、それともその後ろに誰もいないとしても、交渉の場にやって来た存在が誰か、知っておかねばならないと。
「てめえなら、いや俺がこの町にいると知っていたのならあいつにわざわざ伝言を託す必要はなかっただろう。てめえは、誰も巻き込みたくはないと言った。それは、あいつも含まれているはずだ。」
何故、あいつに疑いが向くようにことを進めた。
ポリプスから微笑みが消えた。視線を下に向けたまま、青白い顔色を、さらに悪くさせていた。
その顔に、明らかな罪悪感といえるものを感じて承太郎はそれ故に疑問を膨らませる。
「・・・・あいつは悪党だ。てめえのために他人を犠牲にした、悪人だ。だがな、どうしようもなかったやつだ。」
あいつは罪を背負うだろう。己が為に積み上げた、誰かの死のために。
「だがな、だからといっててめえの身勝手のために使っていいわけじゃねえ。」
淡々とした静かな声だ。承太郎は、女の罪悪感に疑問を持つ。
その女は承太郎の問いに明らかに動揺している。だからこそ、何故わざわざ形兆をメッセンジャーに選んだか分からなかった。
女の立場も分かっていない今、判断材料は少ないが形兆を巻き込む理由はなかったはずだ。石仮面という強力な交渉材料があるならばなおさらに。
承太郎は帽子を目深にかぶった。
「・・・・てめえにどんな意図があったにせよ、あいつを余計なことに巻き込むな。これ以上、あいつを利用して罪を重ねさせるようなことをするな。」
「そんな、ことは。」
動揺のにじみでる女に、承太郎は徐助たちから聞いた弓と矢を狙っていたという存在との関わりについてを考える。
「あいつに何を吹き込んだかは知らねえ。ただ、てめえも弓と矢を狙っているなら。あれを使って、何を企んでるのかは知らねえが。諦めろ、俺がそれを止める。」
断言するような、脅しのようなそれ。
「・・・・なら。」
呟くような声であったが、確かに承太郎には理解できた。
「なら、あなたは救ってくれますか?」
朝日のような、穏やかな目が。
その、ぼんやりとして色合いを放っていたそれが。
まるで、燃え盛る炎の様に揺らめいていた。
反対はされた。
何故、わざわざポルポが承太郎と直接話す必要があるのかと。
もちろん、危険ではあるのだろう。
けれど、ポルポには確信があった。危険はないと。
彼女は、空条承太郎の高潔さと誇り高さ、そうして正義漢であるという事実を知っている。
逃げるのならば得意だ。時を止められたとしても、一発殴られるぐらいはリスクとして考えていた。情報を欲しがるのならば殺されることはない。吹っ飛ばされた瞬間、ブラック・サバスに影の中に引きずり込んでもらえればそれで手出しは出来なくなる。
近くには、プロシュートやリゾットもいる。
逃げるのならばなんとかなるだろう。
何よりも、ポルポは単純に承太郎という男がポルポを傷つける理由が思い浮かばなかったということもある。
敵対する気もない、悪意を持つ気もない。
石仮面でもつれないというなら、危険な賭けではあるがジョルノ以外のDioの息子について情報を出してもいい。
分かっていた。
形兆をわざわざメッセンジャーにする必要はなかっただろう。彼と直接接触が取れなかったわけではなかった。
それでも、彼女が形兆と接触を取り、承太郎へのメッセンジャーに選んだのは簡単な話だ。
形兆という青年が、一時的に消える理由を作る為だ。
形兆という青年と、どうしても話がしたかった。彼にとって救いになりえる方法を教えたかった。
形兆への監視がどれほどなのかは分からない。ならば、自分たちにとっての安全圏に引き込んで話がしたかったのだ。
父親を殺すということに関して、承太郎という存在がどれほど是とするか分からないからこそその話題は知られたくなかった。
承太郎へのメッセンジャーとして使えば、少なくとも彼がいなくなった理由も出来ると。
承太郎という存在を刺激するつもりはなかった。そんな理由もなかった。だというのに。
「あなたが、あの子にいったい何をしてくれるんですか?」
ぐらぐらと、頭の中が燃える様に、沸騰する様に揺れていた。
落ち着け、落ち着くんだ。
「あの子を、巻き込むな。そんなの、巻き込みたくなかったに決まっている・・・・!」
怒りなんて向けて、どうするっていうんだ?何が出来るっていうんだ?
「でも、あのままじゃあ、あの子は。あの子は、どこに行けるっていうんだ?」
いや、その前に私は何を怒っているというんだ?不合理だ、無意味だ。こんなこと。
「あなたはあの子を罪人とした。ええ、そうでしょう、あの子は裁かれねばならぬでしょう。」
ずっと、ずっと、虹村形兆という青年に色んな誰かを重ねていた。
ギャングになるしかなかった、落ちることしか出来なかった、いつかの子どもたち。
自分が、引きずり込んだ愛しい、誰か。
そうして、落ちることしか出来なかった、あの。
「あなたは、あの子に何もしてはくれなかった。ただ、監視を付けて。話を聞いてもいなくて。あなたは、あの子が人を殺したという事実しか、見ていない・・・・!」
本当に?
必死に頭を巡らせる。冷静にならねばと、どうして、自分がこんなに怒り狂っているのかと考える。
冷静になるには、理由を見つけなくては。この感情の出所を。
空条承太郎を、求め続けた、星の一族を見る。
ずっと、会いたかった。
ずっと、話がしたかった。
ずっと、求めていた。
だって、彼らは、主人公で、たくさんの誰かを、助けて、彼らは正しさで。
悪党を、邪悪を、倒す、光で。
(・・・・私を、殺す。)
ぐらぐらと、それに揺れる頭が、言葉を吐き出す。
「誰が、誰が!あんなものを求めるものか!あんな、あんな力なんて、なくなってしまえばいい!どの口が、あの、矢と弓を求めてるなんて!!」
そうだ、弓と矢を求めたのは壊したかったからだ、木っ端みじんに、この世から消し去りたかったからだ。
あんなもの、さえ、なければ。
「君たちに、お前たちに、何が分かる!私たちの、何かが!」
だから、そんなことが言えるんだ。こんな力を求めていなかった者たちの気持ちなんて分からないから。
正義の味方である、君たちに、星の一族にそんなことを分かるはずもないだろうけれど。
それを、利用しようとする誰かなんて、そんな奴らから守ってもらえた、お前たちに。
揺れる、揺れる、思考が揺れる。
がたがたと、何かが揺れる音がする。
「堕ちる選択肢しか、与えられなかった私たちの気持ちが!」
ああ、そうだ。そうか、分かった。
私は、ずっと求めていた。
彼らが、私を
悪を、正義が殺すのは、正しいから。
だから、だから、ずっと、私は怒っていた。
君たちは、悪を倒しても。悪を、救ってはくれないから。
己が選んだことだろう?
ああ、そうかもしれない。そうだろう、けれど、ねじれて、歪んだ世界の中でまともな願いなんて持てるものか。
だって、だって、私たちだって、すくわれたい!
「
ああ、なんて笑えるような八つ当たりだろうか。
書いてて、ポルポさんが理不尽すぎるかと不安になりつつ。
というか、ディオさんと、ポルポさんたちを同列に語っていいのだろうか。
誰にも、与えられなかった。踏み外したそれを引き起こしてくれる人は誰もいない。
次回、一応戦闘ですがめちゃくちゃ苦手なんであっさり終わらせたいです。アドバイスあれば、嬉しいです。