転生クー・フーリンは本家クー・フーリンになりたかっただけなのに。 作:texiatto
◆
「————んもうッ! 何なのよ……!」
俺の膝の上でメイヴが荒れてます。……いつもじゃね? とかは言ってはいけない。
メイヴが荒れてる理由は単純で、中々に戦線が動かず、硬直状態にあるからだった。
俺を召喚した時点では、勝ったな風呂食ってくる! と意気揚々と勝利宣言をしていたんだが、そこからサーヴァントらの徹底抗戦に遭い、フリーズしてしまったのだとか。
アメリカ軍は安定の物量で戦線を維持し、此方の僅かな乱れを察知すると、兵力をなだれ込ませて突いてくる。
サーヴァントの数こそ少ないものの、特にエジソンの
メイヴが兵士を無限に製造できるから霞んで見えるが、やってることはまあまあチート。メイヴもそうなんだけども。
レジスタンスは、サーヴァントの数が多いものの軍隊規模の兵力はないため、基本的にゲリラ的な戦法で攻めてくる。これが中々にキツい。
”名も無き戦士たち”は猪突猛進の脳筋スタイルがデフォのため、搦手に弱い。故にゲリラ戦法は正しくウィークポイント。
更に見事なのは引き際の見極めだ。此方側のサーヴァントで対抗しようものなら、向こうは即座に撤退を決め、此方の将が到着した頃には既にもぬけの殻なんてのはよくある。
その逃げっぷりには、感嘆して思わずバクシン教に入信するレベルだ。バクシンバクシーン!
と、まあこんな感じで、我々ケルト勢は攻めあぐねている。
「これじゃあ建国のプランが崩れるわね……早く殲滅しないとクー・フーリンとの新婚生活が始められないじゃない……!」
呟くように唸るメイヴ。いくら小さな声だろうと、俺の膝の上にいるんだから聞こえてんのよ。しかも新婚て……また師匠案件だよ胃が壊れるなぁ。
————そんな慌てんなよ、焦ってると事を仕損じちまうぞ。
「分かってるわよ……でも、折角アナタを呼び出したのに、まだ何もしてあげられてないじゃない」
頬を赤らめながら横目でチラチラと俺を見やるメイヴ。はえー、すっごい(眼福)。
でも、別に俺は何かして欲しいから召喚に応じた訳じゃないのよね。寧ろ、俺が恩返ししたいというか、報いてやりたいというか。
————俺はお前の願いのために呼び出されたんだ。なら、そのために突き進めよ。それが俺のためにもなる。
「……! そう、アリガトね」
そう言いながらメイヴは、破顔して後頭部を俺の胸板に擦り付けてくる。さながら甘える犬や猫の仕草だが、下心丸出しなの分かってるからな。
つーか、こういうボディタッチの域を超えたやつを頻繁にしてくるから、そろそろ俺の理性もヤバみ。
好意を向けられてんだから応えてやれってのは大いに分かるが、仮ににゃんにゃん(死語)してる最中に師匠とかが襲撃して来てみろ、飛ぶぞ(昇天)。
俺が悶々としていると、メイヴは好戦的な笑みを浮かべる。
「決めた、私が前線で直々に陣頭指揮を執ってやるわ!」
あー、確かにそうなるわな。リアタイで指揮を執れれば強いだろう。誰だってそーする、俺だってそーする。
アメリカ軍の動向を報告で知るというタイムラグはなくなり、陣形に開いた穴は随時製造して修復できる。
レジスタンスも発見次第、”名も無き戦士たち”やサーヴァントを差し向けることが叶う。生憎と量も質も此方が勝っているので、パワープレイで対処可能だ。
考えれば考える程に非常に完璧な作戦っすねェ〜……師匠による暗殺・強襲を考慮しねえって点を除けばよォ〜(声だけ迫真)。
まあその場合、師匠と対峙しつつメイヴを護るのは俺の役割なんですけどね。ねえヤダ! 小生ヤダ!
「決めたからには迅速に。クー・フーリン、私を護ってくれる?」
……やってやろうじゃねえかこの野郎!(手のひらギガドリルブレイク)
◆
本来の第五特異点にて、メイヴによる陣頭指揮のシーンなんてなかったはずだ。
だってそうだろう。本当なら【オルタ】が敵の戦列を鏖殺しているのだから、敵の徹底抗戦などある訳がない。
つまり、このイベントは限りなくガバ。はいクソ。人生にセーブとロードの機能がないのは致命的な欠陥だと思うんですけど(名推理)。運営に連絡させてもらうね?
それはさておき、この陣頭指揮と酷似した原作シーンといえば、それは恐らくメイヴによるパレードではないだろうか。
時期的に見ればマッチしているし、この推察を後押しする存在は他にもある。
「………………」
褐色肌に白い衣に身を包んだ男性————アルジュナが、俺達の側で沈黙して佇んでいることだ。
彼はメイヴが直々に勧誘したサーヴァントで、ケルト勢に身を置けばカルナと戦えるぞ、と口にしたところ即落ちしたのだそうな。
まあ、原作ではカルナは不意打ちでクー・フーリンに倒されるんですけどね、初見さん(唐突なネタバレ)。
そうなると、俺がカルナを仕留めんのかぁ……え、ムズくね? 勝てんの俺?
悪い、やっぱ辛えわ……(不安)。
そりゃ、辛えでしょ(再確認)。
ちゃんと言えたじゃねえか(現状の把握)。
聞けてよかった(自問自答)。
それでも僕は、アルジュナのクソデカ感情の煮詰まった苦渋の顔も見たい(ブレン並感)。
「おう、クー・フーリンも来たか!」
前線に到着した俺達を豪快な大声で迎えてくれたのは、叔父貴だった。その後ろにはフェルディアもいる。
うろ覚えだが、原作のパレードだと叔父貴ってこの時点で退去してなかったか? 確か、ネロとエリザと合流しに来た藤丸達に敗北して。
……原作崩壊してんじゃねえか!(今更)
ということは、十中八九この陣頭指揮中にレジスタンスの暗殺が決行されるはず。
それを予め知ってる俺とか、相手からしたらマジでチートな地雷で草も生えんわ。
————叔父貴が無事なようで安心したぜ。
「……そうでもない。命令通り遊撃に従事していたんだが、中々に手強い連中と遭遇してな」
おっと、これは……もしかすると、もしかするかもしれませんよ?
「純白の装束に身を包んだ花嫁の如き剣士に、偶像を想起させる衣装を纏った半竜の生娘。……いやはや、あれらもいい女だった」
語られた人物は、紛れもなく嫁ネロとエリザだろう。絶唱で鼓膜破壊してきそう。急に何も聞こえなくなったゾ(鼓膜割れ兄貴)。
記憶に浸りながら笑みを浮かべるフェルグスに代わって、フェルディアが口を開く。
「フェルグス殿と俺とで仕留めようとしたんだが、件のレジスタンスに介入されてな……。流石に多勢に無勢、撤退を余儀なくされた」
レジスタンスに属するサーヴァントはジェロニモ、ラーマ、ロビンフッド、ビリー……だったか。ラーマは現時点では戦力外だが、それはそれ。
これに加えて、藤丸らカルデア勢とナイチンゲールとなれば、もはや過剰戦力。撤退も仕方ない。
「だが、お前が加勢に来たのならば、結果は常勝ッ! クー・フーリンと肩を並べて戦えるは誉だ」
ギラついた笑みで俺に眼光を飛ばしてくるフェルディアにブルっちゃうよぉ……(味方から戦意モロ感)。
コイツをこんなにした俺が言うのもなんだけど、お前アルジュナみてえだな。色々と拗らせてるじゃねえか。
「アメリカ軍も、レジスタンスも! 私の邪魔をするヤツはみんな蹂躙されるがいいわ!」
テンションがハイになって何処ぞの警備隊長のような台詞を吐くメイヴに、何時もより笑顔マシマシなフェルグス、俺に野獣の眼光を向けるフェルディア、無言で佇むアルジュナ、そしてまたしても何も知らされていない大〇洋さん(異物混入)……構図がエグい。何これ。
◆
メイヴの指揮下、俺達は順調に領土を拡大していく。
彼女の有するスキル”カリスマB”のおかげか、それとも軍隊指揮に秀でた才を宿していたからか、或いは両方か。
報告を受けていたような徹底抗戦は容易に崩壊し、一方的にケルト側が攻め立てる様相へと変貌していた。
”名も無き戦士たち”は指示しなくとも勝手に敵陣に突っ込み、死ぬまで暴れ散らかしてくれるが、メイヴのリアルタイム指揮によって統率力が生まれ、個ではなく群として動くようになった。
おかげで先程までは拮抗していたアメリカ軍は戦線が壊滅状態にあり、名実ともに質も量も此方が勝っていた。
また、フェルグス、フェルディアというコノート二大巨頭を遊撃に宛てがい、敵陣を撹乱・殲滅。
抵抗が強い部分があれば、フィンとディルムッドの胃痛タッグを差し向けて処理。抜かりない配置と役割。
問題はレジスタンス側の動向なのだが、そのために俺とアルジュナがいる。
遮蔽物のない丘の上から戦況を俯瞰するメイヴに魔の手が迫らぬよう、側で護衛に務める。
誇張も慢心も抜きに、レジスタンスから見れば俺だけでもオーバーパワーな気がしないでもないが、特にアルジュナは遠方からでも視認されないよう、姿を消しておけとメイヴが指示する徹底ぶり。
……と、こんな感じ。この戦況の感想は「つまらん、メイヴを戦場に出しては一方的に勝つに決まっている(モナーク並感)」に尽きた。
メイヴが陣頭指揮に赴いただけで、戦況が激変し過ぎである。殺人的な加速だ! 甥の木村、加速します。
「私にかかればこんなもんよね、だって私だもの!」
————なんつーか、容赦ねえな。
「当ったり前じゃない! 障害はあらゆる策謀を張り巡らせて突破する。今回は真正面から叩き潰すのがベストなだけ。容赦なんて、するだけ損だわ」
メイヴはムフーっと可愛らしく胸を張り、俺に身体を預けてくる。
彼女の言うことはその通りに過ぎる。障害を突破するためなら、如何に狡い手段ですら選択すべきだ。
————その通りだ。だからこそ、だよなッ!
俺はメイヴを抱き込み、
「っ、クー・フーリン……!」
————ああ、
即座に展開される、赤と金を貴重とした劇場————『
すると、場内にジェロニモを筆頭に、嫁ネロ、ビリー、ロビンフッド————レジスタンス暗殺班が姿を晒した。俺の記憶と一致する面々で助かる。
「慣れる前に仕掛けるぞッ……!」
親の仇を見るような目で俺達を射抜き、吠えるジェロニモ。彼の号令を合図に、暗殺班のサーヴァント達が殺気立って剣を、銃口を此方に向ける。
そう、これはメイヴの暗殺を企んだ襲撃。やはり、この陣頭指揮がパレードに該当していたようだ。
そして俺は、生ネロやロビンフッドらとの邂逅に感動するワケにもいかず、割とマジな生殺し状態で敵対しなきゃいけない。地獄か?
————暗殺か。まあ、理には適ってるな。
「随分と余裕がありそうではないか!」
爛々とした炎に盛る剣技こと告白剣で、メイヴ諸共切り裂く一閃を繰り出す嫁ネロ。
やべえ! 生の『
『劇場』によってデバフがかかったせいか身体は重いが、それでも十二分に回避は可能。
メイヴを腕の内に強く抱き、身体をバネのようにしならせて飛び退く。
そこへ、待ってましたと言わんばかりにロビンフッドが右腕————弓矢で此方を狙う。
加えて瞳孔ガン開き状態のビリーのマグナムも差し向けられ、更にジェロニモも魔術を編んで飛ばしてくる。
クロスファイアなんてレベルじゃねえぞ! ま、待ってくれい……!(梟並感)
「食らえ……!」
「————『
「————ファイアッ!」
迫る魔術、毒矢、弾丸。これはオワタンコブ・パンツァー(?)。オイオイオイ、死ぬわオレ。来週からは機動戦士アーマード・コアが放送されるぞ! お楽しみに!(ヤケクソ)
……とでも、言うと思ったかい? この程度、想定の範囲内だよォ!
今更だが、俺は原作崩壊を進んでやろうとは思っていない。だからこそ、メイヴは何がなんでも守り抜かねばならない。
ここで俺は、原作チートという初めて転生モノの常套手段を用いた。そう、この陣頭指揮中に暗殺が決行されるという確信に近い予測だ。
要するに、対策を講じる時間など余りあったということに他ならない。
虚を衝く襲撃、『劇場』によるデバフ、宝具を絡めた同時攻撃————暗殺には明らかにオーバーなそれらを前にして、俺はジェロニモ達の視界から
「「「「なッ……!?」」」」
所変わって、彼らの頭上。種明かしをすれば、予め仕込んでおいた転移のルーンを起動し、そして空中にルーン文字を固定して足場を確保しただけである。
直ぐに居場所はバレるものの、相手の初手————いや、この場合は決め手だったか————を一方的に潰せるのだから、有用だ。
ホントにルーン様々だね。やっててよかった苦悶式(スパルタ的な意)。
抱えていたメイヴを降ろしたところで、彼女は俺の腕を引きながら声を漏らす。
「……帰って来てよね?」
————了解した。
固定したルーン文字をそのままに、俺はジェロニモ達の前に降り立つ。対サーヴァント戦、お巫山戯はナシだ。
————さて、お前らには悪いが、ここで倒れろ。
「ッ、我らの役目を果たすまで、倒れるつもりはない!」
————そりゃ結構なことで。だが、できねえことをあんま口にするモンじゃねえよ。
「そっちこそ、弱体化を受けながら、たった一人で僕らをまとめて相手しようっていうの?」
————隠し球って、知ってるか?
俺は努めてヴィラン的な暗黒微笑をつくり、メイヴがここぞとばかりに隠し球ことアルジュナを呼び出す。
俺の隣に姿を晒す彼を確認し、ジェロニモ達は「戦力計算を見誤ったか……!」と絶望に染まった。はいここジルポイント。
————アルジュナ、お前さんはそこの三体をやれ。俺はこの剣士とやる。
原作では、【オルタ】が殺戮の狂王として暴虐を体現し、そんな王など認められないと嫁ネロが憤怒する。
そうして【オルタ】と嫁ネロが一騎打ちを行うが、聖杯によって強化された【オルタ】を前に嫁ネロは屈してしまう。
……あ〜れれ〜? おっかしいぞぉ〜? 俺、聖杯で強化なんて施されてねえぞ! フツーに『劇場』でデバフかけられてるじゃん! やっぱり原作が壊れてるじゃないか……(ブチギレ)。
「うむ、一騎打ちとは願ったり叶ったりだ」
一層覚悟が決まった顔付きで純白の剣を構える嫁ネロ。彼女からすれば、ターゲットの一人を殺るチャンスが巡って来たワケで。
「しかし良いのか? 我が『劇場』で身体が思うように動かないだろうに……余程の自信家か、或いは蛮勇か?」
————そんなんじゃねえよ。ただ、俺の勝利を望む女がいる。それだけだ。
「……益々、理解に苦しむ。貴様、何故そちらに居ることを良しとする?」
整った顔を疑問に歪ませる嫁ネロ。
その理由は分からんでもない。歴史に名を残すという大罪を犯した俺だが、その残した内容のせいで先難後獲の象徴というイメージを持たれてしまっている。
要するに俺は、絶対に闇堕ちするはずのないコスモスの戦士的な扱いらしい。中身はこんななのにね(白目)。
そんなヤツが、侵略だの殺戮だのを平気で行う勢力に加担しているのが、心底解せないようだ。
————敵に教える筋合いはねえな。
「なら、力ずくでその口をこじ開けてみせようか!」
嫁ネロに呼応して原初の火が赤熱し、轟々とした火炎を纏わす。
やっぱカッコイイなァ! 俺もゲイ・ボルクに火でも纏わせようかな。光ん力だアアアああ! とか言って。
俺も得物を構え、嫁ネロと対峙する。互いに視線を交錯させ、一挙手一投足を注視する。
三秒、五秒と経っても俺は動かず。否、正確には相手に付け入る隙を見出せなかったため、動けなかった。
流石はネロ・クラウディウス、経験も剣技もスキルも優秀な英霊だ。無闇矢鱈に先制攻撃を仕掛ける愚は犯さず、如何なる有利な状況下でも常に負け筋を思考の片隅に置いている。
そのことを彼女の立ち振る舞いが雄弁に語っている。だからこそ、俺は嫁ネロの隙を見出せなかった。
増して、固有結界でデバフを受けている身だ。此方から攻めるというのは、少々リスクが伴う。
————どうした、こじ開けてくれるんだろ?
ので、向こうから来てもらいます。フェルディアの真似ではないが、カウンターに徹すれば最小限の動きで済む。
もちろん、それに反応できるかだったり、瞬時に正答を導き出せるかだったりが必須のため、簡単ではないが……無理というのはですね、嘘吐きの言葉なんです(ブラック)。
「行くぞッ……!」
俺に動く気がないと見るや、嫁ネロは弾かれたように地を蹴った。
縮地とまではいかないが、たった一歩の踏み込みで距離を詰め、間合いに入った俺へ逆袈裟で一閃。
これを槍でパリィの如く受け止め、弾き、いなす。猛る炎に僅かに焼かれるが、心頭滅却すれば何とやら。
嫁ネロの攻撃動作の終わりに刺突を見舞うが、これを予測していたのか、彼女は踊るように躱し、続け様に原初の火で横薙ぐ。
これを、ステップを踏むことで間合いから逃れるものの、やはり炎の分だけリーチが伸びており、応じて回避距離も余分に取らされる。
俺が間合いから離れたのを見計らい、嫁ネロはスカした攻撃の勢いをそのままに腕を振り抜き、独楽の如き回転による連撃を繰り出す。
紅白の軌跡が空間に刻まれ、その剣閃が容赦なく俺に襲い掛かる。
一撃目を槍で弾くが、それのみで腕が猛烈な痺れを訴える。故に、体勢を崩して足元に潜り込み、ゲイ・ボルクで軸を薙ぎ払う。
「甘いッ!」
緋色の線を跳躍することで回避した嫁ネロは、空中から原初の火を振り下ろす。
両断せんと迫るソレに槍の太刀打ちを宛てがい、刀身を槍に滑らせて流す。そして仕切り直し。
「光の御子ともあろう貴様が防戦一方とはな!」
仰る通りで。何と言うか、カウンターに徹するのは俺の戦闘スタイルに合わない。
感覚的には、長距離適性Gなのに有馬記念を走る感じ。ハルウララである。
————アイツの真似事はムリだわな。
割とキツいけど、ガンガンいこうぜのスタイルでやるとしますか。
————俺は俺らしくやらせてもらうぜ、精々抗ってみせろよ。
防戦一方からの一転攻勢は主人公の証。ということで、師範お手製の『鎧』に魔力を流し、展開。
黒々とした装甲が身体を覆い、海獣クリードの骨や牙などが結合された棘が形成される。
肩部と背部に縫合されたコインヘンの冒涜的で艶やかな触手は、無風にも関わらず怪しげにたなびく。
『鎧』の全身に巡る赤い線が脈動すると同時にゲイ・ボルクもまたその影響を受け、金属音と共に至る箇所から刃が突き出る。
最後に、全身から赤黒い瘴気が噴出し、『劇場』内部の地面をそれが覆い隠した。
「…………! 何という禍々しさかッ!」
『
つまり、『劇場』のデバフを軽減してくれる。これだけでだいぶ楽になる。
————突っ立ってていいのか?
「なッ————!?」
嫁ネロの足元に満ちる瘴気を魔槍に変質させ、彼女を強引に動かす。そして、動いた先に照準を合わせ、コインヘンの力を応用して生成した空間の歪みから複製した魔槍を射出していく。
やってることは師匠や金ピカのそれと類似しているものの、俺の複製する魔槍はどう足掻いても劣化コピーに過ぎないため、耐久性に乏しい。
だとしても、攻撃性は原典同様に有しているので、単純に数を揃えられるのは強味だ。
「くッ……!」
気を抜けば『
そんな立体的な戦法に振り回される嫁ネロを後目に、俺は鷹揚とした歩調で距離を詰めていく。ゆっくりとした歩き方は強キャラの特権(確信)。
反撃を許さぬ苛烈な攻め、しかしその渦中にあっても、嫁ネロは僅かな隙間を縫って一太刀を此方に浴びせてくる。
流石は歴戦の英霊、その対応の速さには感服せざるを得ない。いやホントに早杉。
けれど、けれどね(悪夢の主並感)、近接自信ニキにそれは不注意ってモンだろう。
俺に向かう一太刀を、俺は避けるでも受けるでもなく————力技で潰す。
『噛み砕く死牙の獣』によって強化された筋力に物を言わせ、極限まで力を込めた膂力でゲイ・ボルクを振り抜く。
「ぬぅッ……!?」
不意に繰り出した俺の攻撃の重さに耐え切れず、嫁ネロは吹き飛ばされ『劇場』の壁に打ち付けられた。
数秒の後、土煙から姿を見せた嫁ネロは頭から流血しており、脳震盪でも起きているのか、足取りが不安定だった。
「……聞いていた以上だ。余ともあろう者が、こうも容易に遊ばれるとは」
苦痛を噛み殺しながら笑みを湛える嫁ネロ。やっぱすげえよ……ネロは。
————たった一撃でそのザマか。
正直、嫁ネロはもう仕留めることは可能だ。あの調子のままに俺と近接戦闘を行うのは難しいだろう。
よって、俺が常に距離を詰めることで間合いから逃がさないスタイルを貫けば、自ずと勝敗は喫する。
それでも遠方に逃げようとするのなら、『抉り穿つ鏖殺の槍』を放ってやればオワオワリ。
嫁ネロを倒すのは非常に心苦しいが……これも葦名のため(違)。
視線を移せば、既にアルジュナの方も勝負が決まっていた。
未だジェロニモらは倒されていないが、彼らの牙が何一つとしてアルジュナに届いていないのが良い証拠だ。
俺かメイヴのGOサインが出れば、即刻ジェロニモらに終止符を打つことだろう。
「さっすが、クー・フーリン! 私の王様に相応しい立ち振る舞いね!」
空中に固定されたルーンの上から、ソシャゲでツモった時さながらにメイヴが跳ねる。
「……ほう、王と来たか。ならば、皇帝として問わねばならない。汝は如何なる手段で政を采配する気だ?」
時間稼ぎのため……いや、人の上に立つ為政者としての側面のためか。嫁ネロは俺へと王の理想像を問い質す。
無視する程の内容でもないため、ここはしっかりと返答することにしよう。
でもなぁ、俺は別に王様になりたいワケでもないんだよなぁ。だから当然、高尚な理想なんて持ち合わせていない。
————俺にゃ、政だの采配だのってのはてんで分かんねえよ。
嫁ネロと、後は何故かメイヴも俺の発する一言一句を逃さんばかりに傾聴する。
————だが、王ってのは独りでやるモンじゃねえ。周囲の支持やら助力やら信頼やらがあって初めて王足り得る。
これはマジ。某メシマズ大国の腹ペコ王がいい例。彼女の理想は誉れ高く、それを実現するだけの力とカリスマもあった。それでも崩壊の一途を辿ったのは、偏に周囲との人間関係だったと思う。
部下が自分の奥さんをNTRからの駆け落ちをかまし、別の部下は離反からの仲間殺し、その裏では王座を狙った謀略が巡らされ、エトセトラ……割とマジで人間関係の最底辺を煮込んだのが、当時のブリテンだと思ってる。
別に、崩壊の原因はそれだと声高々に喧伝する意図はない。けれども、そういう要因があったのは否定できないだろう。
要するに、上に立つ者がどんなに優秀でも、周囲がそれに着いて行けない、否、着いて行かないのなら、もうクソゲーってこと。
————だから俺は、皆が俺を支持する限り王にでも何でもなってやる。後はやりながら覚えていくしかねえわな。何であれ、俺はそうと望まれるなら、そうあるのみだ。
私は自分自身を器と規定している。皆がそう望むのなら、私は王になろう(フル・フロンタル)。
なりたくないけど、俺が召喚に応じたのは生前の恩を返すため。俺に王になってほしいヤツがいるのなら、それを叶えてやるってのが筋ってもんさね。
————質問には答えてやった。これで冥土の土産はできただろ。
此方を睨み続ける嫁ネロへ魔槍を振り上げ、その穂先を差し向ける。
「やっちゃいなさい! 私のクー・フーリンは誰より強いんだから!」
「————”私の”?」
唐突に発せられたソレは、現界してから感じた中で最も濃厚な殺意に満ちていた。
瞬間的に背筋が凍った錯覚に陥り、冷や汗が頬を伝う。
————ッ……!!
半ば反射的に、俺は嫁ネロを捨て置いてメイヴの元へ跳び、即座に抱きかかえ————彼女を殺して余り有る
直後、空中に固定されていたルーン文字は、硝子が砕け散るように容易く破壊され、それでも勢いの止まぬ魔弾は着弾と同時に『劇場』を半壊させ、解除に追い込んだ。
この攻撃……見覚えがある。これはそう、確か生前に……!
「やぁぁあっと見つけました……私の、クー」
ヒエッ(トラウマがフラッシュバックする音)。この声……は、まさか……!
ルーンで新たに足場を作り、声の主を探す。と、俺達を見下ろすように天空に浮遊する人影を視認した。
その人物は、深紅のロングスリットドレスの上に白銀のライトアーマーを身に付けており、黒くたなびく長髪と整った顔立ちを有していた。
記憶の中にある生前の知人と相違ない容姿をしていたが、圧倒的に異なる部分があった。それは————
◆
◆補足
Q.嫁ネロが簡単に倒され過ぎでは?
A.それは思う(おい)。原作では終始【オルタ】に押されてて、でもその描写もなく。せめて本作では激戦を繰り広げようとも思ってたけれど、嫁ネロのスキルの効果がイマイチよく分からんくて諦めた(素直)。
Q.『噛み砕く死牙の獣』が結構変わってる。
A.そやで。(偽)ニキと師範の悪ノリで魔改造されているので、原作のそれよりも何割増しか凶悪な性能になってます。
Q.結局、師匠とか来なかったね?
A.”まだ”ね(暗黒微笑)。
Q.最後のアレって……?
A.説明は次回か次次回で(投稿未定)。
↓ここから雑談↓
はい、texiattoです。連投お疲れ様でした(自愛)。新入社員研修の休憩時間とかに合間縫って書いてるんですけど、結構疲れますねコレ。働きながら継続的に投稿できてる人はマジで凄いと思う。ホントニアコガレテル。
さて、今回は久しぶりに(偽)ニキ視点でお送りしました。ネタを書き出す際に、その時にハマってるモノのネタを仕込もうと思案しているのですが、今回はウマ娘をどこかにねじ込もうと躍起になってました←。それはそれとして、今回はメイヴ暗殺計画がメインとなっていました。が、原作と異なり、最後に乱入者がありました。誰なんやろなぁ(白目)。続きは分割しましたが、何となくこうしたい、みたいなイメージはあるので、また頑張って書いていきます。
書いてて思ったけど、ジェロニモ達視点からの(偽)ニキやばくない?気配殺しての遠距離攻撃を当然のように弾いて、電撃的に『劇場』に引きずり込んだのに顔色ひとつ変えず、総攻撃したら息を吐くようにルーン魔術で回避。白兵戦◎で魔術◎とかチートかな?(白目)これは警戒レベルがクッソ引き上がりますね間違いない。
次回更新はまだ未定ですが、亀進行ながらも頑張って書いていくので、どうか長いお付き合いをお願いします。では!
ワイ「初任給入ったンゴ!衝動的に使わず計画的に使おうね!」
>生活費!
>魔剤購入!
>5C調整!
>ナリタタイシン!
>エウルア!
ワイ「ああああああああああああああ!!」