谷仮面でエアマスターな八百万だったら

1 / 1
百仮面

 雄英バトルロイヤル――――。雄英高校3年生最大最後のイベントである。建物一つの中で最後の一人になるまで戦いあうシンプルなルール。参加は自由。元は生徒間で各自に行われていたらしいソレを統制するために形づけられた行事。これといって内申に響くわけでもなく、就職に役に立つわけでもない。それでもこの行事に参加するものは絶えない。

 

 勝利、執着、怨恨、嫉妬、信念、自尊心……参戦する者達の様々な想いを飲み込んだこの舞台は、生徒たちが造り上げた別の一個の世界だった。

 

 

 

――――――これはその一幕

 

「旋回!」

「ツインインパクト!!」

 

 開始の合図と共に戦い始めた二人。入学から卒業まで競い合い、鍛えあげた。遠慮久なく殴り合えるのは、友人以上の信頼があるからこそ。

 

「結局卒業までおデブちゃんだったなぁ。需要ないデブって気付いてたか庄田」

「回原さぁ、自分のことイケメンと思ってるらしいけど実際モブ顔だから。遠回しに言われてたの気付いてた?」

 

 言葉とは裏腹に、楽しそうな笑みは絶えない。こんな風に全力で思いの丈をぶつけられる相手がいることが嬉しくてたまらない。卒業が迫っているからこそそれを噛みしめて二人は戦っていた。

 

 しかしそれは通路から響いた足音を合図に止まる。

 

「……そうか、お前たちは辿り着けたんだな」

 

 圧倒的な存在感をもってやってくるのは、自分たちの世代の最強。

 

「羨ましいよ。オレは、もうどこにも辿り着けない。それが分かってしまった」

 

 その存在は個性を発動していないにも関わらず、彼の冷気と熱気が肌に粘り着く。

 

「オレの個性は強くなりすぎた。きっとこの先、未来永劫手加減して生きていくんだろう。強くなることも許されない。それが分かったことの、虚しさにも似た苦しみが分かるだろうか」

 

 新たな力の象徴とまで謳われる程に成長した彼。勤勉な性格は彼のポテンシャルをこの3年間で十分に引き出し、彼を頂点の世界に連れて行った。

 

「こんなことを口にしてしまうのは、オレの心が弱く情けないからだ。同級生のお前達にならと思ってしまう……。オレが誇りだけを胸にする前に」

 

 そんな強さの象徴とは思えない素顔に、同い年の少年たちは頷いた。

 

「へっ、しゃーねぇなあ」

「うん! 任された!」

 

 運悪く出会ってしまった彼らの最強。その圧力も意に介さず勢いよく返された返事に、最強は心からの笑みを浮かべた。

 

 最強が、その孤独を埋めに動き出す。

 

 

 

 

 

――――――普通の一幕

 

「ギリギリ間に合いましたね。尻尾の筋肉に連動する装甲と新システムは苦労しました」

 

 佇むのは正しくヒーローを形にしたようなスーツを着込んだ少年と、それを見上げる少女。

 

 スーツの装甲がバチンバチンと締まり、少年の体を覆っていく。

 

「”オールメイト2”。学生生活最後のベイビーにして私の夢そのもの……」

 

 我が子の名を呼びかけ、愛しそうに擦る。

 

「これが今の私の全て。私は、これで全部出しきりました。私の夢に付き合ってくれてありがとうございました」

「こちらこそ、あの時誘ってくれてありがとう発目さん」

 

 今日ここに産み出されたヒーローからは穏やかな声がした。しかしそれに異を唱えるもう一人の少女。

 

「違う! こんなの違うよ尾白くん!!」

「いいんだ葉隠さん。オレは空っぽだった。どれだけ抜け出そうとしても、周りからも俺自身も、普通という悪夢から抜け出せなかった。抜け出そうともしなかった」

「……」

「オレはあの日失ったプライドを取り戻す。例え、こんなものを着て、俺自身が本当に空っぽになったとしても、今日この日の最強という称号でちっぽけなプライドを取り戻す!」

 

 ヒーローの”スーツ”とその演者は、最強の称号を求めて動き出す。

 

 

 

――――――爆の一幕

 

 開幕の合図を待つ二人の少年がいた。

 

「フフフ、知ってるかい爆豪くん? 勝ち逃げっていうのは最後に勝った人が出来るらしいよ。なんせ学校は今日が最後だからねぇ、学生生活の最後を負けて終えるってどういう気持ちか教えて欲しいなぁ」

 

 爽やかな外見からは想像もつかない嫌味を漏らす少年。その嫌味をぶつけられた少年は粗暴そうな外見とは裏腹に静寂を守っていた。

 

「物間……お前、今日どうしてほしい?」

 

 静かに告げられたその言葉に僅かに後ずさる。

 

「今日はルールが無いのが良い。両腕に、両足爆破いっとくか? そーなったら、お前…ハハ……どんな形になるんだろうな」

 

 普段とは違う。何か狂気的なものを感じた少年は顔を引き攣らせた。

 

「あぁ、今日が最後だ。お前もアイツラも皆変わっちまったな。オレもそうだ。でもなぁ、きっと変わらねぇもんってあるんだよ、頭の奥でさぁ、ジンジン熱がこもってくるんだよ」

「……君大丈夫かい?」

「クソ共が! オレは結局のところ勝ちてぇんだよ。なんもかんも勝ちてぇんだ。そんでその先に見る顔は、デクに、半分野郎に……どいつもこいつも見せつけてやる。誰も否定できない勝利だ」

 

 静かな雰囲気に隠された、狂気の爆熱を感じた少年はこの場にいることの危険をようやく察した。

 

「最後だからな。本当にこれが最後だ。あぁ、スイッチ入りそうだ。何もかんも忘れよう。”目の前の勝利”それだけ覚えて目ぇ閉じよう。開けたらきっと……」

「お、おい……おい! おい!!」

 

 ゆっくりと目を閉じて合図を待つ。合図が鳴れば、目の前のこいつはどうなるのか。どれだけ爆発するのか分からない爆弾が、もう直ぐに必ず爆発することが分かる爆弾が目の前にある。

 

「……戻ってこれねぇかもな。まぁそれもいいか。オレは、今日”オレ”になる」

「目ェッ! 目ェ開けるなぁあああああああ!!!!」

 

 

 勝利の獣が動き出す。

 

 

 

 

 

―――――――夢の一幕

 

「結局のところさ一度でいいからやってみたかったんだよ」

「ふーん」

「いや迷ったね。シルバーエイジは最高だ。でも僕は前期オールマイトもグッときててさ。初期故のヒーローたる思いが強く感じられるんだ。いや勿論オールマイトはいつでもナチュラルボーンなヒーローさ。でもこう初期故の隠し切れない思いがある。あぁ、勿論晩年もいいよね。目の前で出会ったこともあるし、あの大きな手で教わったんだから思い入れも格別さ。いやホント迷ったよ。こんなことならもっと弾ければよかった。ホント根暗な自分を戒めたいよ」

「あ、そうなの」

 

 ウキウキで喋るのは最高のヒーローから力を受け継いだ少年。最後だからと弾けているのか、一方的な言葉が止まらない。ちなみに開始の合図はもうなっている。

 

「最後だから思い切ってやりたいことやってみたけど、憧れの存在になりきってみるのって最高だね。今ならちょっとだけあのヴィランの子の気持ちも分かるかな。3年間で会得したマッスルフォームで体格を、練習を重ねた顔真似で時代に合わせたオールマイトになってるんだけどどうかな? スーツはレプリカだけど製造は本家と一緒でさ、匂いも秋葉で再現度一番高いのを選んできたんだけど違和感とかあったら教えてほしいな」

「まぁなんて言うか……もう始まってるぜ? オールマイト馬鹿」

 

 うんざりした口調と共に電撃が放たれた。かつての自分では信じられない程の出力。全力全開の力は少しの疲労と共に少年に充実と爽快感を味合わせた。

 

「その通り! それが僕だああああッ!!」

 

 超人でもあわやという電撃を受けながら筋肉は叫ぶ。

 

「今ここに! 僕は僕を理解した!! 僕はオールマイトだ!」

「いやお前は緑谷だろ」

「僕がオールマイトだ!!」

「お前はデクだよ!!」

「オールマイトが僕だ!!!!」

 

 電撃を諸共せず、雄たけびが響き渡る。

 

「クソッ! 誰だよこの馬鹿に馬鹿やらせたのは!!」

 

 彼の師が「学生生活最後なんだから、学生らしくやりたいことやりなさい」というアドバイスをして、弟子が真面目に受け取った結果であった。

 

”SMASH!!!”

 

 一人の少年の学生生活最後にして最大の黒歴史が始まった。

 

 

 

 

 

――――――烈の一幕

 

 

 開始の合図と共に非日常的な声や音が響き出す。そんな世界を悠々と歩く一人の少女がいた。仮面を被ったその少女は、待ち構える様に立つもう一人の少女を見つけると嬉しそうに話しかけた。

 

「拳藤さん。会いたかったですわ」

「……こっちはその千倍会いたかったよ八百万」

 

 お互いに綻んだ笑顔と共に、体が隙の無い構えへと変わっていく。

 

「初めて会った時、実はこう思ったんだ。個性も、力も成績も、それにビジュアルも、こんな人間ずるいって」

「は、恥ずかしいですね……」

「まぁ直ぐにそうでもないって分かったけど」

 

 お互いに笑うのは、二人が大切な想いと時間を育んだ証拠である。

 

「それでも目指したのが八百万でよかったと思う。負けたくないって思える相手が八百万じゃなきゃ、ここまで強くなれなかった」

「拳藤さん。貴方は、凄い人です」

 

 「私なんかより」はつけなかった。例え心からそう思っていたとしても。

 

「申し訳ありません、1秒です」

 

 その瞬間何かが途切れた。二人の間の何かが途切れた。

 

「もうし…わけない?」

 

 いや、途切れたのではない。弾けたのだろう。

 

「もうしわけない!? 何を言って…まだ、そんな……それを、それを言うなら!!」

 

 少女の表情が変わる。ここに来るまでの凛とした顔から、どこまでも余裕のない必死な形相へと。

 

「1秒だって言えよっ! ”申し訳ない”はいらねェ!!!!」

 

 こみ上げる激情。それを理解したのはまだ一人だけだ。

 

「なにキョトンとしてんだよ! 軽くいってみたか!? 申し訳ないって!!」

「な、なにを……」

「こ、ここまできて……わた、し…哀……」

「あ、あの拳藤さん。私なにかッ」

「私を! この拳藤一佳を! 下に見てんじゃねぇ!!」

 

 激情をそのままに、目の前の少女は想いをぶつけた。

 

「”申し訳ない”は哀れみだ! わかってんのか!? 無視ってことだよ! お前哀れんでんじゃねぇッ! 私を…私を!!」

「わた…そんな、つもりじゃ……」

「私はようやく私になったんだ!! この3年間! お前に分かって欲しくて!! 私にとって八百万百はでっかいよ! お前の胸よりずっとずっとでっかいのが私の胸にいるんだよ!!!」

「む、胸…?」

「お前は私の中にがっつりいるのに! 私はお前にとってそんなに小さな存在なのか!? お前が嫉妬する程バカ強いのは知ってるよ! それでももう私はちゃんとお前の前に立ってられるのに! ふざけんなよお前!! 私も! 私もお前の中に居させろよ!!!」

「あ、う……」

「おまえだけに分かってもらう為に! 強くなったんだ!!」

 

 涙を流しながら少女は再び構えた。そこに込める想いの熱は先程までとはまるで違う。触れれば焼けそうになる程に、彼女の大拳が握りしめられる。

 

「拳藤一佳は 命をかけて お前に 拳藤一佳を わからせてやる!」

 

 焼け付いた涙の跡をそのままに、睨み合う二人。

 

「1秒です」

 

 この先、どれだけ道を間違えても、目の前の少女がいるのなら自分は自分でいられるのだろう。

 

 少女は自らの仮面を外した。仮面が手から滑り落ち、床に落ちると同時、二人は動き出した。

 

 

 

 

 

 ――――学校という小さな箱庭。彼らの夢は小さな世界の最強。それは、少年が、少女が、彼らが彼等でいられる最後の時間。一瞬で過ぎ去る烈の瞬の様な時間――――

 

 




リハビリ練習とヒロアカとブルーストライカーというエアマス2の布教の為に。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。