魔王に命じられ、さらったはいい。そこまではいい。あとは命令通り勇者が来るのを見張るだけ。そう思っていた自分をぶん殴りたい。
洞窟引きこもり(監禁)生活が続いたらこうなると予想はついたろ? 食生活も不安定になるし、運動もほとんどできない。
つまり何が言いたいかというと。
……姫が太りすぎてつらい(早く助けに来い勇者)。
某RPGでもこうなる可能性だってあったかもしれない。そう考えて生まれました。
こんにちは。見張り番のドラゴン♂です。
今日も私は、魔王様の命令通り、さらってきた姫の監視をしています。
魔王様いわく、勇者とお姫様をくっつけるため、王国と協力してるだとか。
まったくご冗談を。
やられるこっちの身にもなってほしい。
さすがに魔族のトップ種族であるドラゴンが人間に殺されはしない。
万が一の保険として、生命保険(魔族協会)に加入しているから、仮に死んでも生き返る。
ゆえに、私の仕事は姫を取り戻しにくる勇者を待つことだ。あと、倒された後に見ることになる姫様と勇者のラブラブイベント見届け人。
……クソだ。
「ねぇ、ドラゴン。いつになったら勇者様はくるの?」
この会話も何百回もした。
母親に『昼飯まだ?』と聞いてくるぐらいの頻度でしてくるので心内ウンザリしている。
「……さぁ。明日とかかもしれませんね」
「えー」
もう適当に答えをはぐらかすのにも飽きてきた。早く来いよ勇者。
──まぁ、勇者が来ない以上にもんだいなのは、
「もー。クッキーなくなちゃったじゃない。新しいの買ってきて」
姫様が太ってきた。
「ねぇドラゴン。また手下に頼んで買ってきてよ」
いけません。
「ねぇお願い……もうひきこもり生活も一年近くなるのよ……」
そう、その一年の生活。外に出ない。運動しない。食ってばかりの3拍子の不健康生活。
そのせいで姫は太った。限りなく。
魔族の私から見ても、もうドン引きするぐらいのレベルで。
「聞いてるの?」
はっきり言って今の姫の体は超ヤバイ。
ドレスはパツンパツン。顔はボールのように丸いし、腹も出てる。
いい加減気づけ。食べるのやめろ。
もし自分が勇者だったら、必死の思いで助けに行ったはずの美少女が残念デブだったら、『詐欺だ!!!』と言って王国を滅ぼしにかかる。
絶対そうする。
「さっきから何か言いたそうだけど……なに?」
気づけ!!
……だが、女性の向かって『太った?』と聞くと、スラッジハンマーで殴り殺されると同僚が言っていた記憶がある。
それくらい女性に体重や見た目のことについて直接言うのは禁則事項タブーなのだろう。
ここは遠回しに言って姫自身に気づいてもらう他ない。
「姫」
「?」
まず最初にジェスチャー。両手でお腹の周りに大きな丸を描き『重い重い』と姫に訴える。
これなら一発でわかるだろう。いかにあなたが太ったかということに。
「……!! 大変!!」
よし、気がついたようだ。
これならすぐに減量に励んで……
「ちょっとガーゴイルさん!! 早く医者を呼んで!!」
……へ?
「ドラゴンさん……知らなかったわ……なのに私のせいで無理させちゃって……!」
んんんんん????
なんだか様子がおかしいぞ? なんで姫のことなのに私がなんかあるみたくなってるの?
何を知らなかったの?
「ドラゴンさん…………きっと大丈夫よ。きっと上手くいくわ。がんばって」
何を!?!?
「知らなかったわ……ドラゴンさん」
姫は顔を真っ赤にして言った。
「ドラゴンさんの腹の中に子供がいるなんて……」
「────私はオスじゃぁぁぁぁぁい!!!」
***
どうやらうまく伝わらなかったみたいだ。
他にいい手を考えなければ。
「えっとねー姫さま」
プランB。
ここは説教じみた話……もとい、豆知識とか『太り』に関する話題で気づかせよう。
「限りなく太った人って馬車に乗れないらしいですよ」
「そう」
「トランス脂肪酸って恐ろしいですよね」
「そう」
「あ、これこの本見てください! 一日十分やるだけで痩せるエクササイズですって!」
「あとで読むね」
「肉とか野菜とか食生活面でのバランスは精神面にも影響するらしいですよ。量とかにも注意ですって」
ハッと姫は深刻そうな表情を見せる。
やっとお気づきいただけましたか? 自分がいかに太ったかということに。
「──そうなの。やっぱりバランスは大事よね。今度から野菜もたっぷり食べなくちゃ」
そう言って姫は残ったクッキーを全部平らげた。
────私の意図に気づけオラァァァァァッ!!!!!
***
「……はぁ、はぁ……オラオラオラオラオラァァァッ!!」
「どうしたの、急にサンドバックを取り出してオラオラ殴りつけるなんて……ここジムじゃないわよ?」
あなたがジムに行きなさい。
いい加減にしないと腹パンしますよ? たるみにたるんだ腹に。
「いい加減に気がついてくださいよ!!!」
バンと机を殴りつけてかち割る。
「姫様のこの顔で!! 勇者が助け出そうと思いますか!? 鏡をよく見てください!!」
「!!」
ドラゴンが取り出した鏡を見て、姫は声をあげて泣き出してしまった。もうみっともなくわんわんと枕を濡らして。
「……姫。一緒にがんばりましょう。今から食生活とか色々部下に言って管理させますから。私も出来る範囲で協力しますから……」
姫は拗ねて完全に見向きもしない。
……やっぱり、直に言うのはマズかったか。
「どうせブスなんて……助けに来ないもん……」
────痩せろゆうとるんじゃいワレェェェェェェェェェェェェェェェェェ!!
姫よ。腹を見ろ。
ここまで読んでくれてありがとうございます!