いつの間にかボスになってた。組織は滅んだけど   作:コズミック変質者

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今回短め


どう転ぼうが構わない。目的は一つなのだから

「私は結構優しいと思うんだよ。何せ信頼を裏切って後ろから刺したわけじゃないんだから。端から信用してないだろうし、こうなることもある程度は想定していたことだろう。それにきちんと求めるものが確かにあると、死際に教えてやったんだからさ」

 

 

「だから喜んで死んでくれるだろうさ」

 

 

 テレビから聞こえてくる悲劇を背に澄み渡る青空を眺めながら、彼女はただ優しく微笑んでいた。

 

 

 

 

 

 

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 たった一瞬、気を緩めただけだった。

 

 ステインを拘束し、各所に散らばっていたプロヒーロー達が集い始める。緑谷のインターン先であるグラントリノや、No.2であるエンデヴァーの姿は見えないが、しかし緑谷達学生組も含めれば十名程のヒーローがいる。

 

 ステインは捕らえた。脳無も次々と撃破されている。事は収束へと向かっている。だからだろう。気が緩んだのは至極当然の事だった。

 

 屑になる体を撒き散らしながら翼の生えた青ざめた巨体が、空からピンボールのように彼らを蹴散らす。気が緩んだ時に襲った命を懸けた無謀な奇襲は、本来の標的には当たらなかったものの、しかし障害物は取り除けた。

 

 襲ってきたのは最後に残った死柄木弔からの命令を受け取った脳無。彼は最後に下されたステインの殺害という至上命令を果たすべく、旋回しながら今度こそ突撃を仕掛ける。

 態々握りつぶす必要も殴る必要もない。自身の身体が、突進がステインへと当たる。それだけで一人の男の命が無惨に散ることを理解している。故に小細工は不要。力技で押し通す。

 

「させない・・・!」

 

 誰よりも何よりも、再起が早かったのは緑谷だった。元よりそこまでダメージがなかったこと、そして運良く飛ばされた先でフルカウルが発動出来たこと。

 敵は脳無。USJとは別個体とはいえ、現状のオールマイトの100%の連撃を受け止めた怪物。腕が壊れてもいいという覚悟で、緑谷は自身でも扱いきれない最大の力を発揮するべく拳を握ろうとするが。

 

「加速、間に合わ――」

 

 計算違いがあるとすれば、脳無は今この瞬間に命を燃やし続けていることでこれから先を考えずに行動出来る。即ち死ぬ事が決まっているためどのような無茶でも可能な状態だったということ。元より脳無とは兵器であり、そうあるべく造られているのだが、死柄木からの命令がそれをより一層加速させた。

 

 自壊しながらの飛行は限界以上の速度を出した。緑谷の拳の振りが間に合わない位置で衝突する。そうなればどうなるか。緑谷は自身の肉体がどれだけ耐えられるのかは分からないが、あれだけの速度と巨体がぶつかるのならば、少年一人の肉体などすぐ様ミンチになるだろう。

 

 迎撃の為に咄嗟に跳び上がった。現在の場所は空中で、更なる移動は一度何かに足をつけなければ不可能だ。反射的な行動は致命的な経験不足を引き出した。よって、先にあるのは死。

 

 そのはずだった。

 

 糸が切れたかのように脳無の身体が急に落下する。大地を割りながら転げ回る脳無に、鮮血を撒き散らしながら飛びかかる影が一つ。

 

「どうして、拘束が・・・!?」

 

 何故自由になっているのかは分からない。ただ何故だか先程までよりも確実に負傷が増えている。オマケに破損が少なかったボディアーマーがまるで内側から弾けたかのように壊れている。

 

 疑問は置き去りに。解放され、脳無へ飛びかかったステインが無抵抗な脳無の頭をいつの間にか持っていた刀で貫く。容赦のない一刺しは一撃で脳無の神経中枢を破壊した。神経中枢を破壊されればいかに脳無と言えども上位の治癒系の個性がなければ再起は不可能。いとも容易く機能停止へ陥らせた。

 最後の一体になるまでエンデヴァーやイレイザーヘッドから逃げ延びた脳無の末路は、非常に呆気ないものだった。

 

「おい、こっちに一体来て――あの男は……焦凍、まさか」

 

「ああ、アイツがヒーロー殺しだ」

 

 手遅れとなった追撃組がやってきた。エンデヴァー、グラントリノ、イレイザーヘッドをはじめとした脳無の撃退に当たっていたヒーロー達が漸く本来の目的であるステインと相対した。

 脳無という尽きかけていたとはいえ命を一つ容赦なく消した男は、訳の分からぬ負傷を抱えながら声の方向、エンデヴァーの方へとゆっくりと振り向く。その幽鬼の如き動作に誰もが身構える。

 

「イレイザー」

 

「消してます。ですが――」

 

「分かっている。奴の本領は個性ではなく併用している技術だ。一瞬で仕留める」

 

 互いのコンディションや数の差などで有利なのは間違いなくヒーロー側だ。個性を抹消する個性に、No.2になれるほどの火力に誰よりも老齢ながら誰よりも熟練した老人。他にも他にも――。

 数は多い。質もある。実際これから戦闘が始まれば一人の犠牲を出すことなく捕縛することが可能だろう。しかし誰もが動けない。先手を取ることが出来ず、なすがままにステインの歩みをただ見ている。

 

「エンデヴァー・・・はァ・・・ヒーロー。そうだ・・・誰かが、正さねば・・・問わなければ・・・」

 

 口から溢れ出る涎と血を拭くことも無い。垂れ流される血に気を止めることも無い。ただ己がやらなければと定めた至上命題に対して、自らの使命を果たすべく執念によってここまで生きてきた。たかだが内臓がイカれた。骨が折れた。その程度で止まるような生き方はしていない。

 

 何故なら自分は知っている。ヒーローとは何か、ヒーローとはどうあるべきか。尊く美しく素晴らしく。当たり前に日常を過ごす人々のための心の拠り所。個性黎明期、数多の(ヴィラン)が己の力を誇示し、望むままに暴力を広げる中で誰かを守るべく立ち上がった守護者達。

 彼らの煌めきを穢してならない、残さなければならない。しかし気付けば社会に飽和したのは本質とは致命的にズレている贋作達。

 

 過程(ヒーロー科)は何も教えなかった。教えるとしてもそれはヒーロー活動をするために必要な知識だけで、その芯に対して触れることさえもしなかったのだ。贋作が見過ごされて数十年、砂場に沈んだ宝石のように、本物のヒーローは埋もれていた。

 

英雄(ヒーロー)を取り戻さねば・・・!」

 

 悲しいことに世には偽物が多すぎる。しかし誰もそれに気づかない。ヒーローを名乗る贋作が、甘ったるい制度によって軽々しく量産されている。だから自分が指し示す。ヒーローとはどうあるべきか、誰がヒーローなのかを。

 

 たった一つの思いを胸に生きてきた男に、誰もが気圧される。あのエンデヴァーでさえもが無意識に足が退がっている。プロも学生も関係ない。たとえ次の瞬間には捕えられるのだとしても、この場はステインによって支配された。

 滾る妄念に際限はなく、ステインはどこまでも進み続ける。

 

「来い、来てみろ贋作共。自らがヒーローだと言うのなら、この俺を殺して証明してみせろ……!! 本物なのだと叫んでみろ!! 俺を超え、真に残った本物で――」

 

 ――極大の悪を裁いてみせろ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『クラッシュ』は既にお前に喰らい付いている、ってな。あばよクソ野郎、地獄に落ちな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごっ――ごぉぉぉぉぉぉぉっっ!?」

 

 グチャリ、バキリ。ステインの言葉を遮る余りにも軽い二つの音。音の発生源はステインからで、より詳しくいえばステインの喉だった。 この場にいる全ての者達に見せつけるように、ステインの喉が捻じ切られて砕かれる。溢れ出る血潮は確実に首の脈が切断されていると分かってしまうほど大量だ。

 

 ヒーロー達が硬直から解放され、駆けつけた時にはもう遅く。血の軌跡を描きながら仰向けに倒れるステイン。No.2すらも圧倒していた男、真のヒーローを求めた故に贋作を駆逐し続けたヒーロー殺しの末路は、誰にも何が起きたのかを理解されない、救いようのない余りにも呆気ないものだった。

 

「ヒーロー殺しが、ステインが、死んだ・・・?」

 

 理解できないかのように、緑谷の隣に立っていた飯田が呆然とした声を出す。確かに飯田はステインへの復讐を望んでいた。殺してやるとさえ思っていた。間違っていると指摘され、実際自分でもその間違いを理解したが、しかし根本から殺意が無くなったというわけではない。

 だがそれでも。憎んでいた相手が眼前で死ぬということにどう思えばいいのか分からなくて。

 

「どうなってやがる・・・」

 

 ショックから解放された轟はヒーローに囲まれているステインを、正確にはステインの死因である喉を怪しむように見る。轟は誰よりも長くステインと一対一で戦った。いいや、殺しあった。禁じ手を幾つも解放し、より確実にヒーロー殺しを終わらせる選択をとった。

 しかし全てが実らなかった。あらゆる技はそのどれもがいなされ砕かれた。まるで未来でも見ているかのように、綱渡りのような賭けに出る必要性が感じられなかった。

 轟も詳しいわけではないし、感覚的なものなので根拠があるわけではないが、ステインは殺気や攻撃の気配といったものを読んでいたのではないだろうか。数多のヒーローと戦うことで鍛えられた戦闘感覚は、その執念に呼応して高まったというのなら。あの不可思議な喉への攻撃は、事前に避けられた、もしくは何らかの動作を見せたのではないのだろうか?

 

(どうして誰も見えなかったんだ!?どうして僕には見えたんだ!?)

 

 そして緑谷はヒーロー達の上げる声から、自らの認識した現実との食い違いを考え込んでいた。ヒーロー達は口々に何が起きたのか分からない、空間系や風力系等、ステインの急な死因に様々な予測を並べながら状況をどうにかするべく動いている。

 

 だが緑谷だけは違った。緑谷には見えていた。魚のような形をした何かがステインの喉に食いついていたのを。骨が折れるほど噛み付いていたのを。そしてステインが倒れると喉から跳ね上がり、血溜まりに飛び込んで姿を消したことを。

 なのに誰も見えていなかった。誰もそこにいると認識していなかった。

 

 そして――

 

(あの喉の傷・・・同じだ・・・イタリアで殺された犯罪者達と。やはり、ステインはパッショーネと何らかの形で接触していた可能性が高い)

 

 

 

 

 

 

 

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「スキューロ、私です。ご命令通りステインは始末しました。証拠隠滅の為にスーツは事前に自壊させたため脈拍などを計測できているわけではありませんが、周囲のヒーロー達の動きから死亡しているのは間違いないかと。更なる確証が必要なら追加で動きますが?」

 

「だが安心していいぜ、心配無用だ。『クラッシュ』はステインの首半分を確実に潰した。食込みや感触からしても間違いねぇ。アイツは間違いなく死んでいる」

 

 この日この時の為だけに借用していた保須市内の幾つもの部屋の一つ。水道しか通っていない部屋で、白いカーテンの隙間から双眼鏡を片手にティッツァーノがインカムで報告を行っている。傍らには相方のスクアーロが、水の入ったグラスを零さぬように回している。

 

 彼らがいるマンションはステインの倒れている場所からそう遠くはない。寧ろ近所と言える程だ。何せステインの死体からこの場所までの距離は、たったの40m(・・・)しかない。

 その40mは今回の仕事で使用した幽波紋(スタンド)の射程距離最大。即ち40mこそがスクアーロの『クラッシュ』の射程距離。

 

『クラッシュ』。鮫型のこの幽波紋(スタンド)は液体から液体へと移動する遠距離操作型。液体であればスプーン一杯程度であっても移動を可能にするこの幽波紋(スタンド)は、パワーは移動した液体にサイズと共に依存する為そこまで高くはないものの、その特殊な性能からの屈指の暗殺性能は、ボス曰くスキューロの保有する幽波紋(スタンド)にも引けを取らない。

 何せ『クラッシュ』は液体であればなんであっても移動できる。スープもワインも関係ない。そして幽波紋(スタンド)故に、その存在を誰も視認することは出来ない。

 液体という人間にとっては必要不可欠なものを摂取すると同時に、クラッシュは楽々と対象の体内へと潜り込める。ならば後は低いパワーも関係ない。外側からなら急所を狙う必要があるものの、しかし人間の体内は急所だらけだ。臓物を喰い破るなどは朝飯前。

 

「しかしまぁ毎度の事だが、スキューロはどこであんなもん調達してきやがるんだ?」

 

「やはり気になりますか?」

 

「ああ。あの野郎がなんでも出来るってのは知ってるよ。だからボスの側近として隣に立つことが出来ている。それは否定出来ねぇさ。実際アイツが持ってきたこいつのお陰で、今回は楽に仕事が出来たんだからな」

 

 通信の切れたインカムをグラスの中に落とす。スクアーロが見るのは持っているグラスの中の液体。その中では悠々と『クラッシュ』が泳いでいる。

 

「濡れない液体ってのがあるのは知ってるさ。少しって言っていいのかは分からねぇが話題として耳に入ったしな。原理としては同じようなもんだとは聞いたが・・・」

 

「問題は液体をどうやってステインの喉へと付着させたのか。彼はステインに渡した装備の各所に仕込んでいたと言っていましたが、それだけでは説明がつかない。何せあの装備は逆反応装甲。ステインの肉体を砕くためのもの。強引に考えれば機能が果たされたその時に内部に仕込まれていた液体がステインへと付着したと考えるのが妥当ですが……」

 

 ボスもまた謎の多い人物だが、側近であるスキューロも大概だ。経歴を言うには何の変哲もないスラムの屑がボスに拾われた、という大して面白みもないストーリーだ。しかしスキューロに関してわかっていることは本当にそれだけだ。

 

「そろそろ行きましょう。騒動が収まって街に人が戻り始めています」

 

「そうだな。車もさっさと処分しねぇとだしな」

 

 スキューロの過去の詮索などに興味はない。余計なことをして虎の尾を踏む趣味などない。ただでさえ過酷な世界に生きているのだから。それに二人の命は彼らのものでは無い。髪の毛一本から薄皮一枚まで、ボスの所有物なのだから。

 

 

 

 

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「ボス、今回のステインと緑谷出久近辺の動向を纏めた」

 

「今見る」

 

『ホワイトスネイク』を使って十枚ほどの用紙を受け取る。本題は今しがたスキューロが言った通りなので、一枚目から本文が目に入る。ご丁寧に画像付きだ。まぁ漫画のコマのように作者特有の癖みたいな描き方とかがあるわけではない。当たり前だが現実で、写真である。

 

 予め保須にある路地裏で、ステインが狙いやすいであろう箇所に監視カメラを仕掛けさせておいた。このために用意された監視カメラはスキューロのコネで何とかとかいう所から受け取ってきた試作品らしい。漫画の知識なんか部分的過ぎて当てにならないから、相当な数を仕掛けさせた。

 

 私自身が『ホワイトスネイク』の射程距離を弄って、何時ものように超長距離からの視界共有をすればもっと楽に済んだのかもしれないが、生憎私はこの手はもうあまり使わないと決めたのだ。既に一度、AFOという厄災を引っ張ってきたのだ。本格的に始動したこの世界で不用意な手段はいただけない。

 AFOを打ち倒す、その過程で敵が何人いるかは想像がつかない。漫画の世界の一年なんて言うのは大抵信用ならないものだ。月一で災厄が防がれていても驚かない。

 

「変化は・・・ないわけじゃない。数だけじゃない。脳無の動向がやはり派手になっている。それにこの最後の奴、行動的に緑谷を狙っていなかったな」

 

 私の知る限り、ステインを捕らえた緑谷達を最後の脳無が襲撃、死柄木の大嫌いな緑谷を連れ去ろうとしてステインに葬られるはずだった。しかしそれは起きていない。実際にあったのは自爆紛いの特攻。見れば画像の脳無の身体は所々が欠け、翼にも穴が空いている。

 これも知らぬ現象で、しかし幾らかの予想はつく。

 

「はっ、アレの使い方を真似でもしたのか。成程、そりゃあ強くなるわけだ」

 

 備考としてこの脳無、どうやらグラントリノにエンデヴァー、加えて相澤にまで追われていたらしい。No.2にAFOと戦える化物ジジイ、そして躊躇を無くし枷を外せばAFOを封殺して一方的にぶち殺すことさえも可能な奴まで参戦している。

 にも関わらずこの脳無、どうやらこの三人からかなりの時間逃げ回っていたらしい。脳無は複合個性や改造があるとはいえ、そもそも視界に入っただけで詰まされる相手から逃げ続けられるのは脳無ながらも尊敬に値する。

 

「だが脅威ではない」

 

 どこまで行っても脳無という脅威はヒーロー達側のもので、私に影響を及ぼすものではない。何せDISCは脳無では防げない。

 

「その脳無をステインが惨殺。その後『クラッシュ』によるステインの殺害」

 

 この情報は実際に映像としてSNSにまで上がっていた。野次馬根性逞しい自称無力な一般人が態々危険地へ赴いて、スマホのカメラとは思えない距離と精度の撮影だ。テレビ局も混じっていそうだが、こちらはモラルの問題もあったのだろう。

 しかし一般人はその限りではない。瞬く間に映像は拡散された。その死に際も執念も全てが世界に広まった。反応を見れば予想通りで、ステインの批判派と擁護派に分かれている。この辺りの展開も問題ない、というかどうでもいい。

 

「そしてこの位置ならば、見えているはずだろうな」

 

 本来であれば緑谷出久はステインの人質のような扱いだったが、しかし実際は違う。脳無は緑谷を連れ去らなかったことで、緑谷はヒーロー側にグラントリノに庇われるように立っている。そして位置を計算すれば絶対に見えている筈だろう。

 

「そう、見えないなんてありえないし、そんな可能性は考えない」

 

 絶対に見えるはずだ。AFOでも見ることが出来たのだ。ならば対極の存在であり、且つ『矢』を持つ緑谷ならば見えることこそが普通だろう。だから今回、態々目の前で、人目が多大にある場所で幽波紋(スタンド)を使用して殺させたのだ。これだけの為に、ステインに手を出したのだ。

 個性という超常が当たり前に存在する世界で、易々と別の異能の存在など考えつかない。AFOと同じだ。いいや、寧ろ緑谷はそれ以上だ。無個性として生まれ落ち、無個性というだけで蔑まれ、夢を目指すことさえ出来なかった。それだけに個性に対する思い入れは強いはずだ。

 

 そしてAFOの時のように――と言ってもあれは私自身だが、答えを教えてくれる存在はいないし、もしいるのだとすればそれはそれで良であり悪である。幽波紋(スタンド)という真実を知ることになった契機、単なる思いつきや仮定に仮定を重ねた上で真相に近づくのならば構わない。それは行動に伴うリスクとしては想定内だ。しかしもし第三者の何者かが、仮定や予測を通り越して断定を教えたのであれば、ソイツもまた私やアイツと同じということ。即ち殺すべき敵の証明。

 

「逃れられないんだよ、私もお前も。立場に力に生い立ちがある限り、運命の車輪になるのは避けられない」

 

 ならばこれは明らかな失敗だったと。緑谷だけに見えるとはいえ見せる必要などなかったのではと。いいや否、見せるべきだ。全ては脳裏に焼き付け心を掻き立てる為に。緑谷出久にしか見えない、緑谷出久しか戦えない、緑谷出久以外では邪魔になる、緑谷出久でなければ殺される。

 特別故に緑谷出久は必ず動く。汗水垂らし、命を懸けて、誰かの命を守るために。

 

「でも支えはあるだろう。彼らから見れば良い奴だということは理解出来る。他人の為に善意のみの粉骨砕身で、ましてや命を懸けて動いているのだから当然だろう。よって必ず緑谷出久の味方は出来る。個か集団かは定かではないが。まぁ不明に対しての証言には世迷言でも必死に訴えかければそれなりに信じてもらえるだろう。本質の真偽の判別には困らない」

 

 だから、後は語るまでもなく。元より手段を選ぶ余裕はない故に。

 

「心が壊れるまで抱え込み続けさせる。何度でも幽波紋(スタンド)を使ってやろう。そうだな、スキューロ。警察へと探りを入れておけ。対象はステインの殺害に対する目撃証言を集めた刑事。 緑谷出久近辺は特にな。必要なら追加で出してやる。シーラも使って構わない。

 

 

 ――さて、蝙蝠は上手く飛んでいるかな」

 

 

 

 

 

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「遅くにどうもすみません。私、ヴラディミール・コカキと申します。どうぞコカキとお呼びください。数日後に隣室へ越させていただく為、こうしてご挨拶にお伺いさせてもらいました。どうかよろしくお願いいたします」




兄にはオールマイトや緑谷達と会わせてあげる。
ステインにはちゃんと英雄の後継者はいるんだよと教えてあげる。

主人公は聖人かなにかですね、きっと。

この主人公ならエリちゃんのことも苦しみから救ってくれるでしょう。
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