オサレ腹黒ヨン様忍者   作:パンツ大好きマン

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たまさかの逢瀬

 

 

 

 2年後

 

 

 

 二尾の人柱力の捕獲に成功。藍染は二尾のほとんどを死神に封印し、僅かに残った尾獣は人柱力ごと暁によって回収された。残念ながら到着した時には既に男の姿は足跡一つとして残っていなかった。リーダーであるペインは殺したはずの藍染があと一歩のところで尾獣を集める計画を阻止するところだったと知り事態の深刻さを思い知る。続けざまに大事な暁の戦力である飛段を失う始末。これに焦った暁は急遽スリーマンセルで三尾、四尾、五尾と人柱力の捕獲に専念してそれに成功している。

 

「ペイン。次の人柱力は?」

 

「砂の守鶴だ。デイダラとサソリに向かわせている。……本来より大分遅くなってしまったな」

 

「仕方ないわ。自来也先生が火影になり、同盟国である砂に人柱力の防衛を固めさせたから。本当に二人だけで大丈夫?」

 

 小南の懸念は砂の防備だけでない。藍染等の動きが最近大人しい。あれだけ大胆に行動しておいて、それ以降は目立った活動もしていないようだ。ここ半年は暁の豊富な情報網でも行方すら掴めない。暁を抜けた大蛇丸も影で動いていると聞く。不確定要素の多い現状でツーマンセルは危険だと判断した故のことだ。

 

「念のため鬼鮫にも尾行させている。問題ないだろう」

 

 考えればキリがないのも事実。暁の実力者たちをペインは信用している。残った尾獣も後半分以下だ。不意の事態が起きればリーダーであるペイン自らが出て片を付ければよい。

 

「……そう」

 

 

 藍染の居場所を突き止め次第、必ず息の根を止める。その為に必要な準備は整えた。

 

 

 

 

 

 

 

 木の葉の門。2年前と違い幾分か身長が伸び、尖った金髪の毛先が太陽の光を反射させていた。顔つきも少年とはもはや言えないだろう。少年と青年の間に位置する年頃の男の子。うずまきナルトの姿があった。

 

「カカシ先生! サクラちゃん! 早く行くってばよっ!」

 

「あんたちょっと落ち着きなさいよ」

 

 名前の通り、桜色の髪を額の真ん中で分けた美少女春野サクラ。2年前まではナルトより高かった背も追いつかれ、体つきも師匠の綱手に似て女性らしさを増していた。医療忍術に精通し、緻密なチャクラコントロールによる怪力を活かした体術は班内一だ。

 

「少しは落ち着いたかと思えば……そうでもないみたいね」

 

 口を覆うマスクの下でカカシがぼやいた。藍染の一番の被害者であるカカシが身に纏う雰囲気はそれまでの何処か緩いモノと違っていた。貼り付けたような薄い笑みの下には研ぎ澄まされた刃の鋭さと今にも牙をむこうとする獣の殺意が同居している。

 

 

 

「あんたら遅い……」

 

 

 ナルトより更に早く門前で待ち構える人影。鎖帷子のシャツから覗く豊満な女体が満遍なく鍛えられている。腹筋は割れ目が浮き出て、首までのショートヘアーは背中に長く伸びた髪を纏めてポニーテールになっていた。

 

 第七班の内サスケが抜けた穴を埋める最後の一人はみたらしアンコその人だった。

 

 

 火影の自来也が各地に散らばせておいた情報網がある情報をキャッチした。『暁』が一尾の守鶴を狙って砂へと動き出したと。各国で人柱力が誘拐されてしばらく。ようやく各国の緊張感が良い意味で一体感を生み出し協力関係が構築されつつある。特に同盟国である砂に関しては木の葉も干渉しやすく、今回情報を手に入れて直ぐに第七班の派遣が行われることとなった。

 

 砂隠れの里長である風影はその狙われている守鶴の人柱力でもある。我愛羅はかつてその守鶴の半身を藍染に封印されて、残る半身は今度は『暁』に狙われているという有様だ。同じ人柱力で今は友でもあるナルトにとって今回の襲撃は見過ごしておけなかった。

 

 当初はまだ暁と戦うには早い。それどころかナルトさえ攫われる可能性があるとして七班の出撃は疑問視された。特に強く反発したのが綱手だ。

 

『私が代わりに行こう』

 

『……綱手。お前は万が一風影が誘拐された時のバックアップとして待機しておけ』

 

『――それじゃ間に会わなかった時はどうするんだ!?』

 

『カカシもついとる。今の奴は下手すれば三忍ですら負けてもおかしくないしのォ。それで仕留められない相手なら万全のお前でないと勝率は高くない。分かっとるだろ? それに怪我して帰って来たあいつらを治療するのはお前以外にいない』

 

『……分かってるさ。私たちが育てて来たあいつ等を信じるべきだって……でも儘ならないもんだね』

 

『ワシらも次世代に託す時期が来た。それだけだ』

 

 

 

 第七班の出発は迅速に行われた。道中何回かの休憩を挟んで、互いの情報の共有に努める。カカシやサクラ、ナルト達は元々同班で連携が取れていたがアンコに関しては初めての共同任務ということで戦闘スタイルの確認は綿密に行われた。

 

「私が主に使うのは風遁。遠距離は苦手だけど、体術と忍術を組み合わせた近・中距離は得意よ。何か質問は?」

 

「おいおいアンコ。それじゃ聞き辛いだろう?」

 

 カカシの額に冷汗が滲む。あっけらかんとしたアンコの言い方は聞きようによってはキツく聞こえかねない。付き合いが長い為カカシにとっては

 

「あら? これから命を預ける仲間よ。下手に偽って丁寧にするより、素で対応するのが誠意ってものじゃない?」

 

 理論は理解できるが少々呆れたカカシはよそにサクラとナルトはアンコという人物の歯に衣着せぬ物言いに好感を持った。相手はあの『暁』。互いに遠慮しているようでは一人で小国家程度なら落とすことが出来る強者に敵わないだろう。

 

「はいっ! アンコの姉ちゃんは何でこの任務に志願したんだ?」

 

「暁から情報を手に入れるのに丁度良かったからよ。はい、次サクラ!」

 

「ええぇ!? そんだけっ!?」

 

「じゃあ……カカシ先生との関係はいったい?」

 

 サクラも色恋に興味津々の年頃だ。中忍選抜試験以前より付き合いのある二人は互いに遠慮が無く二人並んでいる姿は美男美女のカップルとしても違和感がない。サスケという初恋相手が里を抜けて、あまりそういった話からは離れていたので身近な人物の恋愛は久しぶりの心浮かす話題だ。

 

「同期の友人っていったところね」

 

「ま、俺のほうが早く出世しちゃって任務を一緒に受けた経験はそう多くないのさ。お前たちとそう変わらないよ」

 

「あら? 嫌味かしら?」

 

「――そう聞こえたなら謝るよ」

 

 結局のところそれ以上の返答は得られなかった。特に誤魔化しのようなものは感じられない。思った以上に華の無い話にサクラも意気消沈する。聞きたかったのはもっと甘酸っぱい話なのだ。出会いは何時で、任務中の危機に深まる絆、芽生える感情。そういったことに憧れていた。

 

 考えればナルトとの関係が恋愛に発展しないのと同様なのかもしれない。すっかりアンコへの質問を諦めて忍具の整備に集中しているナルトとの付き合いも長い。サスケへの想いが恋心だとするのならば、ナルトへ抱く感情は友愛や親愛に近いのだろう。

 

 問題は暁だけではない。藍染達が守鶴の残り半分を狙って再度襲撃してくる可能性もある。結局、ナルトとサクラが藍染の鏡花水月が効かない理由が判明されていないのだ。理由が判明していない以上、対抗策もまだとれていない。二人もこの2年間の厳しい修行によって並みの中忍以上に鍛え上げられたものの、カカシ相手の模擬訓練では勝てた試しがなかった。そのカカシが評価するアンコも鏡花水月の催眠にかかっている。

 

 もし今藍染が現れたとしても下手をすれば味方同士の争いをさせられる危険性が無視できない。鏡花水月のかからない自分たちより強いカカシと歴戦のアンコが潜在的な敵になってしまう。

 

「考え事?」

 

 気づけばサクラの隣にアンコが腰をおろしていた。改めてとても綺麗な人だと思った。以前の活発な様子も魅力的だったが、どこか憂いを帯びた現在の方がずっと美しい。裏切り者の藍染と懇意な間柄だったという噂を考えるとサクラの心境は複雑だった。

 

「……ええ。少し」

 

()()()のこと? 別に気にしなくていいわよ。聞きたいことがあるなら遠慮せずに聞きなさい」

 

 少しの逡巡の後、サクラは切り出した。

 

 

「何故私たちは完全催眠が効かないんだろうって――聞き飽きましたよねゴメンなさい!」

 

「謝る必要はないわよ。目下一番の研究対象だしね。私が答えられることは一つ。きっとその真実に一番近いのは()()()よ」

 

「……藍染本人」

 

「自身の弱点になりそうな欠陥を放っておけるほど楽天家ではないのよあの人は。完全催眠の対象となった木ノ葉の忍だけでもかなりの数のデータを収集している。今はきっとそれ以上ね」

 

 きっとアンコの言うことは正しいのだろう。一番サクラ達が鏡花水月の効かない理由を知りたいのは藍染本人に違いないのだ。他国の忍との連携が未だ十全ではない今、木の葉が、そして何よりサクラ本人が知る必要のある秘密。三忍の綱手に鍛えられたとはいえ、木の葉にはサクラ以上の忍が山ほどいる。その秘密を手に入れることさえ出来れば……自身の命など総体的に考えて惜しくはない。

 

 あの中忍選抜試験で多くの民が、忍が傷ついた。サスケもあの事件さえなければ里を抜けることは無かっただろう。そして復旧の様子をサクラ達は目の前で見て来た。傷ついた人々を医療忍術で癒すことは出来ても心の痛みまでは癒せない。

 

(必ず……)

 

 

 

 砂隠れの里はその名の通り砂と乾いた大地に覆われた地だった。入り口は風と雨によって削られた狭い天然の峡谷の間だ。要塞と化したその関門を普段は砂の忍が警戒網を敷いている。しかし、今日に限って姿を現したカカシ達第七班を出迎える影は一切現れなかった。流石に訝しがったカカシが様子を見る為に近くで様子を見ると直ぐに異常に気付く。

 

 

 散らばる血痕。倒れる人影。砂に刺さった忍具。

 

 

「一歩遅かったか……」

 

 

 明らかな襲撃の跡に目を光らせると写輪眼をつかわなくとも見えてくるものがある。

 

 

「……内部犯による手引きね」

 

 

「やっぱりそう思う?」

 

 隣に並んだアンコに問いかけると黙って頷いた。

 

 

 真正面から暁がやって来たのだとしたら五代目から警戒を促された砂の忍が抵抗出来ないはずがない。特殊な潜入術や幻術ならば異変に気付いた者が逃げるなり連絡を取ろうとするのがセオリーだ。――これらの死体はその様子が全くない。全て背後から急所を一突き。幾らサイレントキリングの達人でもこの厳戒体制の中では不可能だ。

 

 つまり内部犯による手引きの線が濃厚。写輪眼でも砂の国からやって来た匂いが警備の死体一つ一つと接触した痕跡が見える。死体の腐敗臭はほとんどなく、襲撃後間もないだろう。

 

 振り返って緊張の表情を浮かべている教え子たちへ改まってカカシは命令を下した。

 

「周囲に警戒しつつ、里へ向かう。暁のメンバーか手引きした忍がまだいる可能性もある。砂の忍が出て来ても油断するなよ」

 

 分かりやすいくらいに緊張して、命懸けの戦闘を予期し暗い面持ちの二人。今まで修行漬けで実戦から離れていたのだから当然だ。

 

「まっ。お前等が鍛えられたのはあの名高き三忍だ。普段通りにやれば大丈夫さ」

 

「――当たり前だってばよっ!」

 

「そう……ですよね。師匠との実戦形式の組手に比べればこのくらい」

 

 その三忍クラスの忍がいる恐れのあるのが『暁』という組織だと、ついぞカカシは言い出すことが出来なかった。

 

 

 

 

 里に着くと土と砂とで塗り固められた特徴的な建物が木の葉の忍びを出迎えた。案内をしてくれた砂の忍が言うには既に暁による襲撃後で人柱力の風影が誘拐されてしまったとのことだった。義憤に逸るナルトを抑えて情報収集に徹する。カカシとアンコは風影と暁との戦闘を見た忍に詳しい戦闘の様子、敵の攻撃手段を聞いて回り、ナルトはサクラと共に今回の戦闘で負傷した風影の兄の治療に向かうことになった。

 

 

「急いでくれ。こっちだ」

 

「――はい」

 

 

 傀儡操者のカンクロウは誘拐された風影を追った先に同じ傀儡操者である暁『赤砂のサソリ』が待ち構えていたのには運命染みたものを感じさせた。カンクロウも砂の忍の中ではトップクラスの操者だが相手はあのサソリ。小国を落とす傀儡の操作技術に特殊な毒を併用することで止む無く返り討ちにあってしまった。即効性ではないものの命に係わる毒で、解毒も困難だという。

 

 サクラはカンクロウの姉であるテマリに三忍の綱手直々の医療忍術を期待されて砂の病院内へと案内される運びとなった。直ぐにサクラは掌仙術でカンクロウの傷口から毒を抜き取る。しかし幾ら医療忍術だろうと既に体内に回ってしまった残りの毒は術の範囲外だ。早急に解毒薬を配合し、残った毒を対処しないと命に係わる。さすが暁のメンバー。毒物にもかなり通じている。

 

 それでもサクラの頭は冷静だった。師である綱手につけられた修行は極限の精神状態でも平静で治療する精神力を鍛えるのに重点をおいていた。医療忍者が必要とされているのは設備の整った施設とは限らない。むしろ戦場で安全の確保されていない状況であることが多々ある。安全な場所で落ち着いて医療忍術が使えても、現場の緊張感で些細なミスも許されない状況でのチャクラコントロールの調整ミスはそのまま患者の命に直結する。実戦で通用しない医療忍者など存在しないに等しい。

 

 サクラが課された目標は忍界大戦でも最前線に立ち戦えるほどの医療忍者。それこそ遅効性の劇毒を盛られて、時間内に解毒しないと死んでしまいかねない状況での薬草の選別、配合の修行では何度死を覚悟したことだろう。それだけのことをすれば嫌でも度胸と技術は身に着く。

 

 

「これで平気な筈です。後は安静にしておけば直に毒も抜けるでしょう」

 

「……感謝するぜ」

 

 即死毒ではなかったせいか患者であるカンクロウの意識も戻った。ずっと心配していた姉のテマリも一息ついて胸をなでおろしている。しかしここで安心する訳にもいかない。まだ風影本人の行方が分かっていないのだ。

 

「これを……」

 

 情報が途絶えて途方に暮れかけていたナルト達にカンクロウが差し出したのは交戦時に紛れて入手した赤砂のサソリの衣服の一部だった。

 

 

 

 直ぐに合流して追跡を開始することに。しかしカカシ達は周辺の地域の土地勘も無く、砂も風影を誘拐されて黙っている訳にもいかない。両者の意志を尊重した結果、

 

「ゲハ」

 

 砂のかつての上役であるチヨ婆とバキという名の上忍が紹介された。バキは顔の左側を布で覆った中年の男といった風貌でかつて風影の担当上忍であったエリートであり、この人選については特に異論はない。問題はチヨ婆だ。現役を退いて久しい老婆にしか見えないその姿にナルトとサクラは果たしてまともに戦えるかと不安に思えた。ひょっとして砂の協力とは口だけで厄介払いでもするつもりなのかとさえ。

 

「――とでも考えておるのじゃろうが、年寄りを舐めると火傷では済まんぞ」

 

実際、風影誘拐の際に現在里で動かせる即戦力が暁の手にかかっている。チヨ婆とバキの人選は砂隠れにとって最大限考慮された結果である。

 

「その通り。この御方の実力は引退して尚砂の上から数えたほうが早い程だ」

 

 酷く真面目な表情でその実力を後押しするバキに冷ややかな視線をチヨ婆は向けた。

 

「……最近の若い者がだらしないからの」

 

「面目次第もありません」

 

 縮こまるバキの姿に明確な上下関係を見出したナルトとサクラもひとまずは納得した。カカシとアンコに至ってはチヨ婆が傀儡使いだと聞いてある程度以上の実力者だと想像がついていたのであまり実力を疑っていない。

 

 傀儡使いの数は少ない。砂が発祥の地とされているがその砂でさえ使う人物はごく限られた人物だけだ。なにせ単純に操作が難しい。チャクラを糸状にして人形の関節に繋ぐというだけでも治療忍術のように生まれ持っての才能が必要とされる。加えて傀儡を忍の身体能力と同等以上まで巧みに動かして操り、術者自身も戦闘時では動きながらそれらの動作を並行に行う必要がある。それだけのことをしてまで忍一人を優に超える戦闘技術を持ち合わせていなければ、傀儡を使うメリットはほとんどないのだ。

 

 つまり現存する傀儡使いはそれだけの戦闘能力を有しているということを表す。チャクラコントロール等の技術的な面においては老化によるチャクラの衰えによる影響も少ない。

 

 

 チヨ婆はそれぞれ木の葉の部隊員を見定めるように眺めて最後にカカシのほうへ視線をやった。直ぐに重そうな瞼が僅かに見開かれる。

 

「……木の葉の白い牙!? ――いや、流石にあの頃と同じ姿というのは……」

 

「それは父のことだと……私は息子のはたけカカシです。――やっぱり似てますかね?」

 

「……憎らしい程にの。本来ならば亡き息子の仇討ちと行きたいところじゃが、今回は急を要する上に今の火影には色々と恩もある」

 

 自来也が各国に暁や藍染の脅威を訴えて地道な援助や交流を続けてきたその成果が芽生えていた。それはかつて大蛇丸と組んで木の葉を落とそうとしていた砂とて例外ではない。むしろその弱みを握られている分、不平等な条件を持ちかけられるかと危惧していた砂に自来也は通常より多くの援助をした。元々国力に乏しい砂にとってそれがどれほどの恩かは言うまでもない。

 

 直ぐに追跡チームが組まれた。

 

 ナルト、サクラ、アンコに小隊長のカカシを合わせた四人一組(フォーマンセル)はバランスが良いが、そこに砂の二人が増え六人一組となると少々話が変わる。追跡に関しては六人でも問題はない。しかしいざ追いついて戦闘に移行するとなると誘拐犯二人に対して戦力を分散する必要がある。まだ相手が二人だけとも限らないのだ。

 

 話し合いの結果、戦闘時は三人一組のチームを二つに分けて状況に対応することになった。

 

 単純に一人を相手にする場合、連携のとれない急造のチームでは術や攻撃の範囲の巻き沿いになってしまう可能性が高い。数の有利を活かし尚且つ個人の実力を発揮するこの出来る上限が三人ということだ。

 

 互いの攻撃手段や攻撃範囲。暗号を予め決めておいて追跡は開始された。

 

 

 

 

 

「全員止まれ」

 

 

 追跡して三日ほどだろうか。サソリの匂いを追っていたカカシが突然部隊を制止させた。部隊員の顔に緊張の色が浮かぶ。顔の下半分を覆う布越しにカカシの鼻が小さく何かの匂いを捉えた。

 

「……サソリの匂いに血の匂いが混じっている。恐らく戦闘したのだろう」

 

 サソリが別の何者かを傷つけた際に返り血を浴びたようだ。それでも全くの無傷で勝利という訳でもなかったらしい。空気に僅かに漂っている匂いから移動速度が明らかに落ちているのが分かる。誘拐犯がわざわざ追跡者との距離を詰めることを良しとするだろうか? 考えるまでもなかった。

 

「罠……というには妙ですね。こちらを油断させるにしては()()過ぎな気も」

 

「あたしもそう思うわ」

 

 サクラに続いてアンコも事態は誘拐犯にとって思わぬ方向に動いているのだろうと推測できた。

 

「もう一人はどうじゃ?」

 

 罠ではないにしても、もう一人が周囲を警戒している可能性は更に高くなったということだ。チヨ婆からしてみればやり口を知っているサソリよりも余計に対処を検討しなければならない相手。風影を連れ去った張本人でもある。

 

「……奴は飛行物体に乗って移動しているようで匂いが把握し辛いんですよね」

 

「むぅ。仕方あるまい。……ここからはより慎重に行動する必要があるの」

 

 

 追跡道中には木の葉の植生とは違った木が茂っている。シダのような植物が多く、木の葉のように針葉樹や広葉樹の大木が連なっている森とのイメージの差異に改めてナルトは驚いた。木々は細く雑草等が腰の辺りまで乱雑に生えて視界は良くない。追跡の歩みも警戒の為遅くなっているので焦燥感と暑さで額からダラダラと汗が流れ落ちる。我愛羅はまだ無事なのだろうか。こうしている間にも……

 

 人柱力という同じ境遇の友人にかける思い。誰よりも理解しているからこそ焦りも強かった。隊列を崩して突出するナルトに後方より声がかかる。

 

「――ちょっと!? ナルト!」

 

「――でもっサクラちゃん! 我愛羅がっ!?」

 

「……いいから少し落ち着けナルト」

 

「……カカシ先生も心配じゃないのかってばよ!?」

 

 カカシは片方の真剣な眼でナルトとしばらく見つめあう。その瞳の奥に潜んだ熱意の輝きを見出し、しばらくしてナルトは項垂れた。

 

「お前だけが心配してる訳じゃないってのは良く分かっているはずだろう? 元担当上忍のバキさんだってチヨ婆さんだって一緒さ」

 

 同意を求めた視線に二人も深く頷いた。以前までは里にとっての武器として扱っていた二人だが、現在は風影として深く敬っている。それには訳があった。

 

 まずかつて我愛羅を苛んでいた守鶴が藍染に半分封印された影響で不眠症の気も緩和された。そして何より共通の敵を持った守鶴は人柱力である我愛羅に協力的になった。そこからは深くお互いの考えを共有し理解の道に至ったのだ。

 

 ナルトとの戦闘を通じて、身近な人間に絆を感じるようになったのが大きい。今まで未熟な己を助けてくれた兄姉への感謝。決して周囲に良い対応をしてきたわけではなかったのだが、だからこそ行動を改めた時の差異を周囲は大きく感じて少しずつ認めてくれるようになってきた。それを実感出来ると更にやりがいと達成感が我愛羅のモチベーションを高めた。

 

 守鶴も言ってしまえば生まれて直ぐからの長い付き合いだ。同じ()を見て来たからこそ共感も得やすい。友と呼び合うまでにかかる時間もそう長くはかからなかった。大事なものが増えると、大事なものを守るために自分が出来ることは何だろうと自然と考えるようになった。

 

 そしていつの日にか里の者が認める風影になったのだ。

 

 

「ん? ……カカシ、ここから10時の方向確認出来る?」

 

 場の空気を変えるようにアンコが呟いた。ナルトに優しい目を向けていたカカシも気分を引き締める。写輪眼を隠していた額あてをずらしてチャクラを流し込む。

 

「……誰かいるな。二人組だ」

 

「えっ!? 先生それって――」

 

「――暁の二人組じゃないな」

 

「な~~~んだぁっ」

 

「だが、サソリに付着した血と同じ匂いがする」

 

 暁と戦闘して生きているということはかなりの腕利きなのだろう。問題はその彼らが味方がどうかということだ。現状で暁の打倒という目的は同じだが、善悪の如何によっては新たな敵勢力になる可能性もある。

 

「話だけでも聞いてみたらどうじゃ?」

 

「協力を申し込めば受け入れて貰える可能性もあるのではないかカカシ上忍?」

 

 砂の二人も接触に肯定的な様子だ。現状は少しでも情報が欲しい。

 

「――いや、どうやら戦闘を避けるのは難しそうですね」

 

「ほ? 何故じゃ?」

 

 カカシの視界の先にはガイ班達が遭遇した藍染の配下の特徴によく似た僧侶服姿の二人組が休んでいた。

 

 

 

 


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