戦いたくなんてなかったんや   作:魚介(改)貧弱卿

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ハウリングロア

交差する拳、

床と相手の間を往復する脚

素早く巡る頭

全てを動員して競り合う技師と医務官

 

そう、()()()()()()である

 

断じて艦娘でも深海棲艦でもない

怪物でも超人でも…多分無い

未だ魔法使いに到達してもいない

 

そんな一般人であるはずの二人が

神速の拳撃と蹴技を駆使して高速で格闘戦を行なっているのだ

 

「はぁ…すっ!」

深呼吸のタイミングを合わせて

跳躍、さほど高くない天井を蹴って

反転し、蒼羅が繰り出す技は

『回転踵落とし』(ギルスヒールクロウ)

 

同時に

里見は声を断ち、拳を弓なりに引いて全身の力を収束させて…

 

「でぇえぃ!」

『昇竜拳』を発動する

 

 

ごぎゃぁっ!という派手な音が響き

二人の手足が激突する

 

弾かれたのは、

技の都合上踏ん張りの効かない蒼羅

 

体勢が上に逸れた瞬間に、

里見は追撃のために跳躍し

「せやぁっ!」

 

竜巻旋風脚の如く足を振るが

「そんな見え見えの連携!」

 

空中から同方向に回転した蒼羅は勢いを受け流す

 

「止まってください!」

「だれがとまるかぁっ!」

落下中に発生する一瞬のブレイクタイムを利用した会話、そしてついに

 

「ええい!」

「なにいっ!」

 

取り出されたのは、白と紫に彩られた歪な銃

「…無痛型高圧注射器です!」

「どう見ても銃だぞ!」

 

言い訳がましい反論を出してくる里見君だが

流石にそれは銃にしか見えないと言わせてもらおう

 

「これは医療行為ですっ!」

「医療行為に銃を取り出す医者がいるかぁっ!」

 

銃を正確にこちらへ向けてくる里見君に

反論しながらこちらもステンレス角材を拾う

…盾がわりにするには細すぎるが

棒として扱うなら強度は十分だろう

 

「よし!」

 

「ふっ!」

 

これまた正確な射撃で俺の首筋に針が飛んでくる

…本当に弾は出てないな、()()

 

その殺意に満ちた針は俺の首筋に迫り

同時にステンレス材に叩き破られる

「おぉぉっ!」

 

ゆっくりと息を吐き、

角材を片手に握り直して、

ドラゴンロッドのように構える

 

………

 

一瞬の静寂と共に

急激な接近する二つの影

言うまでもなく技師と医務官である

 

「確実にぃぃっ止める!」

「絶対に…押し通る!」

 

共に右手を振りかぶり、大きく振って

全く同じ機能を描いて衝突する

 

そして

「…自力の差…ですか」

「あぁ、そして、俺の勝ちだ」

 

俺は倒れた里見君を超えて戦場へと赴き

「…川内…」

「了解…川内、水雷戦隊、出撃します」

 

姿を溶かして、川内へと入れ替わる

いままでの、以前の俺がひっくり返り

川内へと染まっていく感覚

 

それはなによりも狂気的で、

今の俺には効果的だった

 

「いくよ、川内、三水戦 出撃します!」

ドン!と海面を蹴りたてながら

加速する

 

川内は自らの艤装を避難艇やアイヴィのような

操作している感覚ではなく、肉体の一部のように器用に扱う

 

素晴らしいまでの技量である

 

「魚雷…再装填が遅い!ていとくっ!」

[俺に言うな!エネルギー不足だ!]

 

身のこなしそのものは素晴らしいものの

やはり火力不足は否めない

そもそも川内型に突出した火力があるわけでもないのだ、強力な武装もスペックの上昇処置も無い状態では

 

戦闘継続自体に無理が出てくると言うものだ、…そこは命中率補正で全力対応

全弾クリティカルにして威力を底上げし

敵を一撃轟沈する事でなんとか寄せ付けずに対応することに成功している

 

「…でも!それでも!」

[龍田を助ける!]

[行くわよ!提督、川内!]

 

[「りょうかい!]」

 

加速、攻撃、回避

同時に行われるべき操作体系を分担する事で

本来は不可能な動きをなさしめる

 

「ぜえぇああっ!」

「ギュガァガァアッ!」

 

川内の前に立ちはだかっては

次々に爆死して行く深海棲艦達

 

[龍田!]

 

そんな絶望的な進み方を続けた果てに

ついに見つけたその背中は

すでに焼きつく寸前のエンジンのように

動きは緩慢になり

 

一目で限界を超えたとわかるような

ガクガクした動きをしていた

 

魚雷を投擲、砲撃を浴びせて

敵の前で魚雷と砲撃のエネルギーを面攻撃として拡散する

名付けて…

 

[エクスプロード コンフューズ!]

完全に英名だが、爆発の衝撃と熱を急激に拡散する面攻撃…という意味で溢れたネーミングである

 

龍田の周囲の深海棲艦に対しても

そこそこ程度の衝撃はあったようで

攻撃を止めることに成功した

 

「龍田さん!」

[龍田!]

 

川内は龍田に駆け寄り

助け起こそうとするが

 

「邪魔よ!」

差し伸べた手は、冷たく弾かれる

 

「私は…私自身の力を…証明してみせる!」

差し伸べられた手を無視して

自身の力で立ち上がる、その龍田の声はあまりにも悲壮でしかし、決して揺るがない決意を湛えた

真っ直ぐな声だった

 

600話記念番外編は

  • 過去編軍学校
  • 過去編深海勢
  • 裏山とかの話を
  • テンプレ転生者(ヘイト)
  • ストーリーを進めよう
  • 戦争が終わった後の話を!
  • しぐ……しぐ……

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