ガールズバンドが人気な時代ですが、男も頑張ってみます。   作:怜哉

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タイトルはこの話を書き始めた当時に付けたものですが、どれだけの間書き上げられなかったがよく分かりますね。
このミームがもう1年前ってマ? てか前回の更新が1年半前ってマ???
大変申し訳なく……


エッホエッホ、クラスメイトにバレないようにホワイトデーを遂行しなきゃ!

 

 

 

 ホワイトデー二日目。もとい、三月十五日。

 朝目を覚まし、顔を洗い、朝ごはんを食べ、歯を磨き、着替え、身嗜みを整え、現在時刻は朝七時前。

 昨日は家を出た瞬間にクラスメイトに遭遇して追いかけ回されてしまったが、今日の俺に抜かりは無い。きちんと対策を立てたのだ。

 

「俺ァ同じ轍は踏まない男だぜ? ふふふ...」

 

 お返し達の詰まった荷物を抱え、スマホを取り出して軽く操作し電話をかける。コール音が二回した後、電話の相手が出た。

 

「おはようございます。よろしくお願いします」

 

 それだけ伝え、相手の承諾を聞き届けてから通話を切る。

 そして待つこと三分。インターホンが鳴り、玄関の鍵を開けた。そこにいたのは、三人の女性。スーツを身に纏い、真っ黒のサングラスをかけた、弦巻家の黒服さん達である。

 

「おはようございます、関口様」

「あ、はい。おはようございます」

 

 真ん中に立っていた黒服さんが頭を下げたので、俺もヘコヘコと挨拶を返した。最初は様付けにむず痒さを感じたもんだが、もう慣れたものだ。

 

「それでは失礼して...」

 

 真ん中の黒服さんが俺の荷物を取り、左右の黒服さんが玄関に入ってきて俺を挟むように立つ。

 突然の行動だが、俺は身構えることなく突っ立っていた。これからの事に身を委ねる、心の準備だけを粛々とする。

 

「───三月十五日、午前七時二分、確保!」

 

 瞬間、俺の視界は暗転し、体を浮遊感が襲う。

 

 そう、俺は同じ轍は踏まない。

 クラスメイト(うちのバカ共)は鼻が利く。早朝だろうが何だろうが、きっと俺を見逃さない。であればどうするか? 簡単なことだ、友よ。

 

 

 誘拐を装う。ただ、それだけのこと。

 

 

 今の俺は麻袋を被せられ、黒服さん達にエッホエッホと担がれ運ばれている最中。これを見て「あ! あいつ、ホワイトデーのお返しをしに行くつもりぞ!」と思うだろうか? いや思わない(反語) 。精々が「あー、また拉致られてんだ」くらいなもんだろう。

 

 ビクトリー、完ッ璧だ。今日の俺は何者にも止められない!

 

 

「ふ...ふふふ...ハーッハッハッハッハァ!!」

「ッ!? 静かにしてください。まだマンションは出ていません。早朝です。近所迷惑ですよ」

「アッハイ...」

 

 俺を担いでいる黒服さんが一瞬ビクッとした気がするが、まぁ気の所為だろう。黒服さんはこの程度じゃあビビらない。

 

 

 

 

 ✿ ❀ ✿ ❀ ✿

 

 

 

 

「という風に機転を効かせて、俺は無事、五体満足でこの場に辿り着けたんですよ」

「いや、その、まぁ......うん」

「何を言っているんですか貴方は」

 

 商店街から少し逸れた、どこか寂しい雰囲気の路地に佇む喫茶店にて、俺は自慢げに語っていた。

 それを呆れたように聞くのは、リサさんと紗夜さんだ。

 

「貴方は考えたことがありますか? 行ったことのないお店に朝から呼び出され、待っていたら麻袋を担いだスーツの方々が現れ、その麻袋の中から知人が出てきた時の衝撃と困惑を」

「まぁたまにあるっすね」

「貴方は普段、どのような環境で生きているんですか...?」

 

 いやまぁ、誘拐が日常の生活かなぁ。

 

「でも、それって七時頃の話なんでしょ? 今もう十時回ってるけど、その間はどうしてたの?」

「万全を期して、絶対に誰にも悟られないように空港まで行ってました。ほら、拉致られてるのに飛行機にも乗らないって妙じゃないですか?」

「『妙じゃないですか?』って言われても...」

「普通はそんなことしません」

「うちのバカ共は普通じゃないんですよ」

 

 黒ずくめのローブ姿でクラスメイトを磔にする連中が普通だと? そんなわけが無い。中途半端な作戦はあいつらは見破ってくる。そんな、ある種の信頼すらしている。

 

「まぁそんなことは置いといて、朝からありがとうございます」

「置いておくような内容じゃない気がするけど...」

 

 いいんすよ、俺にとっちゃ日常なんだから。何事も慣れ。

 

「早速ですけど、ホワイトデーのお返しです」

 

 バッグからブツを二つ取り出した。

 リサさんの前には赤く細長い袋を、紗夜さんの前には蒼い長方形の箱を、それぞれ差し出す。

 

「ありがと〜☆ 開けていい?」

「ありがとうございます。私も開けても?」

「どうぞ、遠慮なく」

 

 なんだかんだと流してくれるんだから優しい先輩達だ。

 許可を取ってから、リサさんと紗夜さんか開封する。紙で包装された箱を開ける紗夜さんよりも、ビニール袋を開けるリサさんの方が早く、先に中身を取り出した。

 

「わ、これストラップ*1? あ、薔薇の刺繍が入ってる! それと弦と...スプレー?」

 

 複数入っていたものを一つずつ取り出して机に並べるリサさん。

 ストラップの薔薇は目立つものではなく、端っこに一つだけ入っているものだ。ゴテゴテした柄はRoseliaのゴシックな雰囲気に合わないからな。Roseliaは装飾の飾り気は少なくとも音で場を彩ることができる。素材は布ではなく皮。多少固く最初は使い難いかもしれないが、布よりも見栄えが良く、捻れにくい。

 そんでスプレーの方はといえば。

 

「ベースのメンテ用品ですね。リサさん、ベースのメンテどころか弦交換もしてないでしょ」

「あ、バレてた?」

「そりゃ分かりますよ」

 

 ベースの音もそうだけど、何より普通に弦が錆びてるし。

 

「あえて古い弦を使う手法もあるらしいっすけど、リサさんのはそういうやつじゃないですよね?」

「アハハ、まぁね。弦交換もだけど、整備とかあんま分かんなくて」

「今度教えますよ。基本的にはギターと変わらないと思うんで」

「ホント? 助かる〜! じゃあ、そうだねぇ。来週の土曜、夕方からなら練習もバイトも無いから、その日にお願いしてもいい?」

 

 言われてサッとスマホを操作し、カレンダーを開く。

 来週の土曜の夕方は...うん、大丈夫だな。

 

「俺も空いてますね。大丈夫っす」

「やった☆ それじゃあ土曜の夕方に、アタシの家でもいい?」

「うっす」

 

 リサさんの家かぁ。実は何回か上がったことがある。

 一緒に作詞をする、という名目で集まり、中盤辺りからお喋りが主になり、最後はリサさんの手作りご飯を食べて帰る、などといった、まるでカップルのお家デートのような出来事が三回程あった。その過程でリサさんのご両親とも顔を合わせているんだが、いやはや、そりゃリサさんみたいな優しい娘が産まれるわなといった素敵なご両親で。特に父親が良い。ウチのアホとは大違いだ。

 

「...今井さんの...家...?」

 

 おっと、話題を変えるか(危機察知)

 

「ん"ん"ッッ...あー...っと、紗夜さんへのお返しですけど、ふふ、ちょっと自信ありますよ」

「え? ああ、すぐに開けますね」

 

 よし、上手く話題変更できたな(パーフェクト回避)

 手の止まっていた紗夜さんが、箱の中から出てきた箱を開ける。自分で用意しといてなんだけど、マトリョーシカみたいだな。

 

「エフェクター、ですか?」

 

 箱の中の箱から出てきたのはまたしても青色の箱。しかし箱は箱でも電子機器。楽器の音を変換できる全エレキ楽器プレイヤーの味方、エフェクターだ。

 まぁ人によっちゃエフェクターなんか使わずにアン直*2こそが至高であるって宗教を持ってたりもするんだが、その辺は一旦置いといて。

 

「歪み系のエフェクターっすね」

「Ocean SG...見た事のないメーカーね」

「そりゃそうっすよ。それ、俺のブランドですから」

「は?」

「え!?」

 

 紗夜さんよりも大きな声で、少し前のめりになりながらリサさんがエフェクターと俺を交互に見る。ふへへ、その反応が見たかった。

 

「まぁブランドつっても、別に販売してるわけじゃなくて。ほら、俺たまにパスパレの事務所に拉致られて色々仕事させられてるじゃないですか?」

「『じゃないですか?』じゃないですが?」

「ホント、どんな生き方してたらそんな色んなところから拉致られるの...?」

「まぁまぁまぁまぁ」

 

 そこを気にし始めたら話が一つも前に進まないから一旦スルーで。人生何事も諦めって肝心っすよ。

 

「その過程というかなんというか、スタッフのおっちゃんが大和さんとですら対等に話せるくらいの機材オタクで、その人に報酬用として昔作ってもらったエフェクターがあって」

 

 そう言ってスマホに保存していた写真を見せる。

 エメラルドグリーンの塗装に『Ocean SG』という文字と、Drive、Middle、Volumeとツマミが三つ。今紗夜さんの前にあるエフェクターと色違いのものだ。

 

「コレが俺が作ってもらったやつで、紗夜さんのが追加で作ってもらったやつです。そっちの方が俺のより若干高音(ハイ)が強めですけど、ほぼ同じっすね。姉妹機的な」

 

 具体的にはこんな音で〜、とスマホで収録した音を出す。スマホのスピーカーじゃ音質もたかが知れてるが、参考までに。

 

「...なるほど、聴き覚えのある音ね。普段貴方が使っているものでしょう? 低音が豊かな印象です」

「そうなんすよねー。そのくせ音が篭もりすぎずにスッと前に出るんで重宝してます。こいつのブレイクダウンが最高なんだ!」

「Roseliaでブレイクダウンなんてしませんが」

「やりましょう」

「やりません」

「金は出します」

「やめなさい」

 

 澱みのない目で訴えてみるが失敗に終わる。

 ちぇー。ブレイクダウン、最高なのになー。

 

「まぁブレイクダウンはまた後々だとしても」

「後々...?」

 

 ほらリサさん、小首を傾げない。そういうのに弱いんだから俺は。可愛いなぁその仕草本当に全く好きになるぞ。それはそれとしてブレイクダウンはやってもらいます(やらない)

 

「俺が普段使ってるみたいにゴリゴリに低音効かせる必要は無いかもっすけど、Roseliaのゴシックな雰囲気に合うと思います。シンフォニックメタルだってお手の物」

「そうね。メタルは置いておくとして、普段使いしても良し、ブースターとして使っても良し。ありがとうございます」

「いえいえ。置いておいたメタルを戻してやっぱりシンフォニックメタルとかネオクラ*3はRoseliaの強みを活かすには最適のジャンルだと思っ」

「ところで先程の話ですが、今井さんの家とは────」

「Break Down!!!!」

「勢いで誤魔化さないように」

 

 ちくしょう、俺のパーフェクト回避が通用しない...!?

 面倒事の気配しかしないためどうにかして誤魔化そうと逡巡するが、どの手も紗夜さんに通用する未来が見えない。

 どうする? 別にやましいことは一つもないんだが、リサさんは俺と二人で作詞作業をしていることを今はまだ秘密にしたいと言っていた。であるならば、俺が勝手にバラすわけにもいかない。

 それになにより、今は紗夜さんにこの関係は知られたくないと俺自身が思っている。理由は特にない。というより分からない。ただの勘といったところに近いが、それもまた違う気も────

 

「あはは、そんな取り調べみたいなことしなくたって、紗夜が心配するようなやましいことなんて何もないよ?」

「なっ──べ、別に心配など...!」

「ほんとほんと☆ 恥ずかしくて言えなかったんだけど、最近歌詞を考えててね? でも一人じゃ上手くいかないから、海くんに手伝ってもらってただけ」

 

 いやあんたが話すんかい。

 と思ったが、まぁ冷静に考えればリサさん本人が話す以外に誰が話すんだって話か。

 

「作詞、ですか」

「そ☆ もうちょっとでようやく一曲書き上げられそうだからさ、楽しみにしててよ☆ あっ、でも友希那達にはまだ内緒にしてくれる? 驚かせたくって」

「はぁ...まぁそういうことであれば黙っておきますが」

 

 ぱ、パーフェクトコミュニケーション...(感嘆)

 いやまぁ、単に事実を並べただけなのでリサさんは何も特別なことはしてないし、俺が勝手にあたふたしていただけなんだが、それでも心の中でリサさんに拍手を送る。

「家に通っている」ということから「バンドのために作詞活動をしている」という視点にシフトさせたことは大きい。紗夜さんは完全に納得はしていないのか訝しげな目で俺とリサさんを交互に見ているが、もう突っ込んでもこないだろう。

 もし突っ込んできたとしても冷静に流して、

 

「しかし、海くんは歌詞作りの才能が絶望的では?」

「なんだと!?」

 

 なんだと!?

 

 

 

 

 ✿ ❀ ✿ ❀ ✿

 

 

 

 

「事実でもさぁ、あんな澄んだ目で言わなくてもさぁ」

 

 自覚はあるけどさぁ。

 暗闇の中、そんな愚痴をこぼしながら運ばれる。

 

 あの後、なんだかんだで紗夜さんには納得してもらい、今は次の目的地に向かっている最中だ。

 朝同様、黒服さんに拉致られる形をとっての移動を行っている。この一定のリズムを刻む感覚も慣れてしまえばゆりかごのようだ。別にゆりかごの感覚とか知らねぇけど。

 弦巻家を相手に油断しているとこのまま本当にゆりかごまで面倒を見られる(債務が溜まっての終身雇用)ことになりそうだが、まぁなるようになるだろう。気を付けていれば大丈夫だ。多分。

 

「到着しました」

 

 と、外から黒服さんの声が聞こえる。

 次の目的地────羽沢珈琲店に着いたようだ。

 

「尾行はありませんが、店内に人がいます。関口様のクラスメイトではなく一般客のようですが、このまま入店しますか?」

「あ、いや、ここで大丈夫っす」

「承知致しました」

 

 そう言われた俺は地面に降ろされ、麻袋も取られた。暗闇から突然太陽の下に出たため、一瞬視界が白に染まる。うーん、今日も天気がいいなぁ。

 

「それでは、我々はこれで」

「あ、はい。どうもありがとうございました」

 

 お辞儀をした後、黒服さん達は「散ッ!」という掛け声と同時に消えた。マジでどうなってんだよ、隠れ里の忍者か何かなのか? そのうち螺旋丸とか影分身とか使い始めたりして。ははっ、無いとは言い切れないのが怖ぇ。

 

 若干の恐怖を覚えつつ、このまま突っ立っていると暗部(クラスメイト)に見つかってしまうかもしれないので、そそくさと店内に向かう。

 カランコロン、と入店の鐘が鳴り、サッと扉を閉めて店内に入った。

 軽く店内を見回してみるが、ここで会う約束をした人物達は見当たらない。まだ来ていないようだ。

 スマホを取り出して時間を見ると、時刻は午前十一時半過ぎ。約束していた時間は正午なので、誰もいないのも納得だ。

 

「いらっしゃい、海くん。つぐみ達と待ち合わせかな?」

「あ、こんちゃす。そうですね、この後約束があって」

 

 つぐパパがカウンターの向こうから声をかけてくれたので、それに返す。

 

「まだ誰も来ていないよ。つぐみは奥にいるから、呼んでこよう」

「あ、いや、大丈夫です。約束、十二時からなんで」

「そうかい? それじゃあ、それまで何か食べるかな。いつものコーヒーと、今日はヒレカツと卵のサンドウィッチがオススメだよ」

「あ、じゃあそれお願いします」

「承知しました。いつもの、窓際の席で待っていてね」

 

 柔和な笑みを浮かべるつぐパパに軽く頭を下げ、いつものテーブルに向かう。今は昼時だが、店内はそこまで混雑していない。気兼ねなく使わせてもらおう。

 席に着き、スマホを開く。ひまり達からは特に連絡は来ていない。まぁまだ時間まで二十分以上あるし、皆今向かっている途中なんだろう。

 

 

 多少手持ち無沙汰になったので、他に来ていたおたえや松原さんからの連絡に返信をしつつ、イヤホンを装着し、動画サイトを開いて最近ハマっているフィンランドのメロディックデスメタルバンド『I Am Your G○d』のMVを流す。

 いやぁ、あんまり人気があるってわけじゃないんだけど、2018年デビューとかいう若手でこのハイクオリティなメロデスが聴けるなんてなぁ。もっと有名になれ、来日しろ(願望)

 

 そういや若宮さんのお母さんってフィンランド人なんだっけ。いいよなぁ、フィンランド。北欧は本当にいい。メタルの聖都だ。もしかして若宮さんのお母さんもメタラーだったりするのかな? 今度若宮さんに聞いてみようかな。

 つーか若宮さんにももしかしてメタラーの才能があるのでは...? 今度布教してみるか。シンフォニックメタル辺りから攻めてみよう。

 

 

 

 

 ✿ ❀ ✿ ❀ ✿

 

 

 

 

 海くんがまた袋に詰められてどこかに行ってしまった後、アタシ達はカフェを出て、ショッピングモールに向かっていた。

 目的は楽器店とフードコート。時間も微妙だし、今日はRoseliaの練習もないから、楽器店を覗いて、お昼を食べてから解散しようってことになった。

 

 まだまだ寒い日が続くけど、川沿いに植えられた桜は蕾を付けていて、小さいけれど春の訪れを感じる。

 

「もうすぐアタシ達も高校三年生か〜。なんだか実感湧かないなぁ」

 

 なんとなく、そう言ってみる。

 特に意味なんてない雑談の切り出し。無言で歩くっていうのもなんだし、何か話題が欲しいと思って口にした。

 

「そうね。最高学年として、下級生の見本になる、節度ある行動を心掛けましょう」

「固い固いっ、固いって紗夜〜」

 

 隣を歩くバンドメンバーの顔を覗き込むように言う。

 ほんと、紗夜は真面目だ。多分、アタシが同じ学校に通っていたら何かと目を付けられたんじゃないだろうか。今でこそしてないけど、昔はネイルとかもバチバチしてたし。

 

「学校の話だけじゃないわ。バンドとして、Roseliaとして、もっと高みへ行かなくてはいけない。その為には日常生活から気を引き締めて、」

「だから固いって! いや、そーゆーのが大事なのは分かるよ? 日頃の生活態度が大事な本番に出る〜ってやつでしょ?」

「分かっているなら尚更よ」

 

 まぁ、こんなところも紗夜の良いところかな。

 そんな風に思って、桜の蕾を見る。

 そういえば、こういう何気ないところから歌詞を作るのも良いって海くん言ってたっけ。

 あんなファンタジーな歌詞ばっかり書くのに、着目点はこんな日常の隙間なんだから変なの。でも海くんらしいなって考えて、思わず笑う。

 

「...何?」

 

 口元が弛んでいたのがバレたみたいで、紗夜が訝しげにアタシを見る。ちょっと焦って、両手を胸の辺りで振った。

 

「なんでもないよ、ちょっと考え事してて」

「歌詞のこと?」

「んー、当たらずとも遠からず、ってとこかな?」

「そう」

 

 さっき作詞の話を紗夜にしたのは、そうしないと海くんがアタフタして変な誤解が生まれそうだったから、それを止めるため。

 そして、「作詞を手伝ってもらってただけ」なんて中途半端な嘘をついたのも、紗夜に誤解を与えないため。

 

 本当はご飯を作ってあげて一緒に食べたり、歌詞のヒントを得ようって名目で恋愛映画を観てキスシーンやちょっとえっちなシーンでドキドキしたり、お父さんが海くんのこと気に入ってお泊まりしたり、なんて。そんなことを紗夜に言えるはずがない。

 

 アタシは紗夜の気持ちを知っている。

 別に直接言われたわけじゃないけど、見てれば分かる。だって、“同じ”だから。女の子だから。

 

 いつから、なんて覚えてない。

 気が付いたらアタシはその人を見ていて、友達も同じ人を見ていた。

 でも多分、アタシよりも紗夜の方が強い気持ちを持っている。なんとなく、そう感じる。

 

 だからアタシは、アタシだけの思い出をそっとしまう。

 大事に大事に、壊れないよう、色褪せないよう。友希那やアタシ達の居場所にヒビが入らないように、宝箱に鍵をかけて、そっとしまう。

 

 

 

 ✿ ❀ ✿ ❀ ✿

 

 

 

 

「じゃーねー、紗夜! バイバイ☆」

「ええ、また」

 

 手を振って改札を抜ける今井さんを見届けて、私は駅を出た。

 家はここから歩いて十五分程度。バスを使うという手段もあるけれど、今は歩きたい気分だ。

 

 少し歩くと、じんわりと首元に不快感か出てきた。軽い運動、食事後、そしてお昼の時間帯は既に春の陽気を見せていること。つまり少し暑かったから、汗が出てきてしまっている。

 今朝はとても寒かったのに、と思いながらマフラーを首から外し、鞄にしまおうと鞄の口を開けた。ふとそこで、鞄の中に入れていた、海くんから貰ったエフェクターの箱が目に入る。

 

「...この世にたった二機。私と、海くんだけの...」

 

 口元が弛む。

 想像していたようなお返しではなかったが、十二分に喜ばしいモノを貰った。

 二人だけの特別なモノ。彼との繋がりを得られるモノ。

 多分、彼は深くは考えていないだろう。ただ、知り合いのギタリストにエフェクターをプレゼントしただけ。決して安い物ではないが、その程度の認識だと思う。

 それでも、私は嬉しかった。彼の特別を貰えた気がして。

 

「姉の私が妹機で、弟の海くんが姉機というのは、少し面白いわね」

 

 ふふ、と少し声がもれる。

 

 ...本音の部分で言えば、私の気持ちに気付け朴念仁、いつもは怖いくらいに察しがいいクセに、少しは意識しろ、というかホワイトデーに女の子二人を同時に呼び出すなんてどうかしている等、多々思うところがあるが、まぁそれは欲が過ぎるというものか。正式に告白もしていないのに察せというのは、少しばかり我儘な願望かもしれない。文句を口にするのなら、勇気を出して愛の告白の一つくらいしてからだろう。

 

 

 

 だが、まぁ。

 

「今井さんの家に行き、それを隠そうとするなんて」

 

 このくらいの不満は許されるのではなかろうか。

 ふと思い出し、少しだけ腹が立って、もやもやが募っていく。ちょっと乱暴に、エフェクターを隠すようにマフラーをしまってしまったのも仕方のないことだ。

 別に、今井さんと遊ぶななどというつもりもなければ、私に口を出す権利もない。ただ、隠すのは違うだろうと、そう思う。何か私に言えないような、やましい事があったのではと勘繰り胸が絞められる。

 

 そういえば、と昔上原さんが言っていたことを思い出す。

 

『海は年上の、包容力があるお姉さんが好きだもんねっ!』

 

 前後の流れは知らないが、まぁ海くんが何かしたのだろう。彼に向けられた、少し怒気を含んだ上原さんの声が耳に入ってしまっただけ。当時は恋心なんて芽生えておらず、ただ「そうなんだ」と軽く思った程度だった。

 

 年上、という点ではクリアしている。

 だが、包容力はどうだろう?

 そう考えた時、私にはないという結論が出る。姉なのに余裕がなくて、妹に負けることを恐れて独りで意地を張って、生真面目に小言を言う。包容力なんて欠片もない。逆に包んでもらう側だと、自己を分析する。

 

 対して今井さんは、彼のタイプど真ん中と言えるのではないだろうか。

 年上で、包容力があり、家事もこなせて、器量良し。私と違って明るく、海くんも今井さんと話している時は笑顔が多いように思う。

 

 そんな今井さんを相手にして、かつ私に対して隠し事をしようとしていた。勘繰るな、という方が無理な話だ。

 

「...ダメね、必要のないことを考えてしまっては」

 

 今井さんは「やましいことは何もない」と言っていた。ただ作詞の手伝いをしてもらっていただけだ、と。

 それが真実だとしても、虚偽だとしても、私にできることは変わらない。

 

 

 少し、考えすぎてしまっているのかもしれない。

 帰ってギターを弾こう。難しいことは考えず、彼に貰ったエフェクターを繋げて、彼との話題をたくさん作ろう。

 それが今、私にできる唯一のことなのだから。

*1
ギターやベースを肩にかける際に必要な道具

*2
間にエフェクターを挟まず、ギターとアンプを直接繋ぐこと。

*3
ネオクラシカルメタル。クラシックの要素を取り込んだスピードメタルやスラッシュメタルの派生ジャンル

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